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閑話2話 怖がりな少女 3話~5話 ギルベルト視点
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昼休みの件ののち、ベッケンシュタイン嬢にさきほど逃げ出した令嬢を明日の放課後呼び出すように頼み、自らの教室に戻った。
マリー・コースフェルト。コースフェルト伯爵家というものが確かに存在したな。辺境ながらも広大な大地を持ち、かといって中途半端に国境でもないからさほど重要な役割もない。
特に目立つ要素のない伯爵家だ。良い噂こそないが、悪い噂はもっと聞かない。
まさかそんなところに年の近い令嬢ががいたとは知りもしなかった。
「明日か」
柄にもなく明日の放課後のことばかり考えている。興味が湧いたのは事実だが、女性のことをここまで考えたのは初めてかもしれない。
翌日の放課後。ベッケンシュタイン嬢がちゃんと俺の約束を守ってくれたのなら、彼女がここに来るはずだ。
しばらく本に目を通していると、おどおどとした声で彼女がやってきた。
「しちゅれいしま…………」
「…………」
噛んだ。いきなり彼女は噛んだ。ただ、恥ずかしさで赤面するのではなく、顔色はどんどん青白くなっている。大丈夫だろうか?
「し、しれぇしまーしゅ…………」
「座れ」
「はひ」
もはや緊張か何かまともに喋れていない彼女に座れと指示をすると、当然のように対面に座った。そう。それが普通だ。間違っても俺の隣にぴったりくっつくどこかの令嬢たちとは違う。
「昨日のことをもう一度質問していいか?」
「いえ」
「あ?」
拒否するというのか!? 言えないような理由で逃げ出したと言うのだろうか。そんな奴には見えなかったのだが。
しかし、彼女も発言を間違えたことに自覚をしているようで想像以上に慌てふためいている。
「違います! えと! その! 条件反射で! あ、これも違います! えと、えとあのごめんなさい! あの、えと、ごめんなさい」
「名前、マリー・コースフェルトで間違いないな? コースフェルト伯爵家の」
「は、はひ」
何故、このような事実確認だけで、ここまで時間がかかるのだろうか。
「質問させてもらおうか」
「はい」
彼女は返事をしたものの、俺が声をかける前に突然奇声を上げる。
「ごめんなさい! 我が家だけは! 我が家だけは! 私が全責任を負いますから!!!!!」
「何を言っているんだお前は」
「うわああああああああああああああん!! ごめんなさいお父様ぁあああああ!!!」
よくわからないが、俺がコースフェルト伯爵家かどうか確認したことを、家の取り潰しの為と勘違いしているようだ。そこまで非道なつもりはないし、そもそもいくら公爵家でも嫡男程度ではそのような権限はない。
とりあえず話を聞いてもらおうか。
俺は、両手を胸の前に合わせ、パンと音を鳴らすと、彼女は何事かと思い俺の方を見つめる。これで少しは話を聞いてくれるだろう。
「まずは質問をさせろ。昨日、お前が俺から逃げ出した理由はなんだ。言ってみろ」
「あのあのあのあののの。えと。大きな男性がその怖くて」
「それだけか?」
「はひ。あの、正直に答えましたので、我が家だけは手を出さないでもらえますでしょうか?」
大きくて怖いからか。そんな時、ふと幼い頃にあった少女のことを思い出す。
初等部の頃だっただろうか。泣きながら大人たちに誘拐されそうな少女がいて、俺が近くの大人たちに声をかけ、数時間の捜索ののち発見された。彼女は自力で何とか逃げ出していたようだ。
しかし、保護された彼女は大人の男性を見てビクビクしていて、その場にいた唯一の子供だった俺に飛びついて泣き出した。
彼女は元気だろうか。
マリー・コースフェルト。コースフェルト伯爵家というものが確かに存在したな。辺境ながらも広大な大地を持ち、かといって中途半端に国境でもないからさほど重要な役割もない。
特に目立つ要素のない伯爵家だ。良い噂こそないが、悪い噂はもっと聞かない。
まさかそんなところに年の近い令嬢ががいたとは知りもしなかった。
「明日か」
柄にもなく明日の放課後のことばかり考えている。興味が湧いたのは事実だが、女性のことをここまで考えたのは初めてかもしれない。
翌日の放課後。ベッケンシュタイン嬢がちゃんと俺の約束を守ってくれたのなら、彼女がここに来るはずだ。
しばらく本に目を通していると、おどおどとした声で彼女がやってきた。
「しちゅれいしま…………」
「…………」
噛んだ。いきなり彼女は噛んだ。ただ、恥ずかしさで赤面するのではなく、顔色はどんどん青白くなっている。大丈夫だろうか?
「し、しれぇしまーしゅ…………」
「座れ」
「はひ」
もはや緊張か何かまともに喋れていない彼女に座れと指示をすると、当然のように対面に座った。そう。それが普通だ。間違っても俺の隣にぴったりくっつくどこかの令嬢たちとは違う。
「昨日のことをもう一度質問していいか?」
「いえ」
「あ?」
拒否するというのか!? 言えないような理由で逃げ出したと言うのだろうか。そんな奴には見えなかったのだが。
しかし、彼女も発言を間違えたことに自覚をしているようで想像以上に慌てふためいている。
「違います! えと! その! 条件反射で! あ、これも違います! えと、えとあのごめんなさい! あの、えと、ごめんなさい」
「名前、マリー・コースフェルトで間違いないな? コースフェルト伯爵家の」
「は、はひ」
何故、このような事実確認だけで、ここまで時間がかかるのだろうか。
「質問させてもらおうか」
「はい」
彼女は返事をしたものの、俺が声をかける前に突然奇声を上げる。
「ごめんなさい! 我が家だけは! 我が家だけは! 私が全責任を負いますから!!!!!」
「何を言っているんだお前は」
「うわああああああああああああああん!! ごめんなさいお父様ぁあああああ!!!」
よくわからないが、俺がコースフェルト伯爵家かどうか確認したことを、家の取り潰しの為と勘違いしているようだ。そこまで非道なつもりはないし、そもそもいくら公爵家でも嫡男程度ではそのような権限はない。
とりあえず話を聞いてもらおうか。
俺は、両手を胸の前に合わせ、パンと音を鳴らすと、彼女は何事かと思い俺の方を見つめる。これで少しは話を聞いてくれるだろう。
「まずは質問をさせろ。昨日、お前が俺から逃げ出した理由はなんだ。言ってみろ」
「あのあのあのあののの。えと。大きな男性がその怖くて」
「それだけか?」
「はひ。あの、正直に答えましたので、我が家だけは手を出さないでもらえますでしょうか?」
大きくて怖いからか。そんな時、ふと幼い頃にあった少女のことを思い出す。
初等部の頃だっただろうか。泣きながら大人たちに誘拐されそうな少女がいて、俺が近くの大人たちに声をかけ、数時間の捜索ののち発見された。彼女は自力で何とか逃げ出していたようだ。
しかし、保護された彼女は大人の男性を見てビクビクしていて、その場にいた唯一の子供だった俺に飛びついて泣き出した。
彼女は元気だろうか。
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