11 / 80
9話 私の意思じゃないんだけどなぁ
しおりを挟む
ミシェーラ様が徐々に近づいてきます。小さなお体ですが、私には何倍も大きく感じました。
「マリー・コースフェルト?」
「はひ」
「マリー・コースフェルト?」
「は、はひ」
「マ・リ・イ・コ・オ・ス・フェ・ル・ト?」
なんといえば助かるか全然わかりません。怒っていることも原因も存じています。
しかし、それは私ではコントロールできないことでして。つまり、私が責められても何も好転しない事実なのです。
ただ、それを真正面から指摘したら、なおさら不敬なのではと思いますと、今はミシェーラ様が本当に求めているであろうお言葉を考えなくてはなりません。
「えと…………」
「良い? 貴女が今構われているのは、その貴女が小動物みたいだからであって。女として構われているんじゃないわ! いわば今朝の登校は犬の散歩よ!」
「あー! さすがです! ミシェーラ様!!」
動物の散歩!
そこに気付かれるとはさすが公爵令嬢です!
バルツァー様が私の手をつないで登校するだなんて…………いえ、貴族令嬢が一人で登下校することは危険だからと仰っていましたね。
でも、よく考えれば日中は心配になるようなことなどないのではないでしょうか?
散歩。確かに腕は掴まれて連れていかれている感じはしました。
「マリー・コースフェルト? あの、そう真っすぐ納得しましたと言うリアクションをされますと…………? 貴女馬鹿なの?」
「馬鹿!?」
えええ!? そんな変な発言をしてしまったのでしょうか。なぜかミシェーラ様は空回りしたかのような呆れた表情で私を見ています。しかし、先ほどまでのお怒りモードを回避できたことは間違いないでしょう。
「それでそれでそれで? なーぜお二人で登校されてきたかご説明できますでしょうか?」
「え? あー? 散歩?」
「嘘仰い!!!」
「ひぃ!?」
ミシェーラ様の声が頭の中で反響しています。確かに嘘ですごめんなさい。でも、本当のことを知っているのはバルツァー様自身だと思うんですよね。
私にはあの人をコントロールすることも、権限もございませんのに。
「えと、あのその今朝我が家にバルツァー様が訪れまして…………えとえと、腕を掴まれて連行されました」
嘘…………ではありません。しかし、これがもし好きな男性が別の女性の家までお出迎えし、二人で登校してきましたとお伝えして、大丈夫だったのでしょうか?
これ、ミシェーラ様に「バルツァー様でしたら私のことをお選びになり、今朝自らの足で私を迎えに来て、手を繋いで登校させて頂きました。オーホッホッホッホ!」と、伝わっていないでしょうか。
目を合わせるのが恐ろしく、先ほどからどこか顔の向きをそむけたり、視線を泳がしていますが、よくよく考えればこれは嘘をつく人間の仕草にも類似していますね。
「貴女がどのようにギルベルト様をたぶらかしたか知りませんが、あの方はすぐにお目覚めになりますわ!」
仮に私がたぶらかしたとしても、五年間フラれ続けているミシェーラ様の方に振り向くとは思えませんけどね。あ、これ言ったら本当に不敬罪になりそうですね。
しかし、バルツァー様はミシェーラ様のどこが不満でお断りしているのでしょうか。確かに私から見て怖い方ですけど、バルツァー様から見て怖い方ではないはずです。
「マリー・コースフェルト。今日放課後はお暇ですよね? まさか断るだなんて…………」
「放課後? あ、バルツァー様からお呼び出しを受けて…………」
ミシェーラ様の表情が、さきほど以上のお怒りモードに突入しました。顔は笑顔なのですが、目が笑っていません。
ええ、わかっています。墓穴を掘ったのは私です。不用心でした。いくら予定があるとはいえ、バルツァー様のお名前を出すタイミングではありませんでした。
ミシェーラ様の瞳は、信じられないものを見つめる時の人間の瞳そっくりです。
「あの? そろそろ? 教室? 戻りませんか?」
なんとかして声を出しましたが、ミシェーラ様はただ頭部を縦に振る以外のことをしませんし、私が歩きだしても彼女はその場から動かずに空を眺めたまま。
どうしましょう。めちゃくちゃ置いていきやいですけど、この状態のミシェーラ様を放置するのはあとが怖い。残るべきか教室まで連れていくべきか。
エミリア様に怒られるのは嫌ですので、仕方ありません。
「ミシェーラ様、ほら教室行きますよ?」
私はミシェーラ様の手を取ります。
ただただ意気消沈したまま私についてくるミシェーラ様を連れ、教室に入室しました。
「マリー・コースフェルト?」
「はひ」
「マリー・コースフェルト?」
「は、はひ」
「マ・リ・イ・コ・オ・ス・フェ・ル・ト?」
なんといえば助かるか全然わかりません。怒っていることも原因も存じています。
しかし、それは私ではコントロールできないことでして。つまり、私が責められても何も好転しない事実なのです。
ただ、それを真正面から指摘したら、なおさら不敬なのではと思いますと、今はミシェーラ様が本当に求めているであろうお言葉を考えなくてはなりません。
「えと…………」
「良い? 貴女が今構われているのは、その貴女が小動物みたいだからであって。女として構われているんじゃないわ! いわば今朝の登校は犬の散歩よ!」
「あー! さすがです! ミシェーラ様!!」
動物の散歩!
そこに気付かれるとはさすが公爵令嬢です!
バルツァー様が私の手をつないで登校するだなんて…………いえ、貴族令嬢が一人で登下校することは危険だからと仰っていましたね。
でも、よく考えれば日中は心配になるようなことなどないのではないでしょうか?
散歩。確かに腕は掴まれて連れていかれている感じはしました。
「マリー・コースフェルト? あの、そう真っすぐ納得しましたと言うリアクションをされますと…………? 貴女馬鹿なの?」
「馬鹿!?」
えええ!? そんな変な発言をしてしまったのでしょうか。なぜかミシェーラ様は空回りしたかのような呆れた表情で私を見ています。しかし、先ほどまでのお怒りモードを回避できたことは間違いないでしょう。
「それでそれでそれで? なーぜお二人で登校されてきたかご説明できますでしょうか?」
「え? あー? 散歩?」
「嘘仰い!!!」
「ひぃ!?」
ミシェーラ様の声が頭の中で反響しています。確かに嘘ですごめんなさい。でも、本当のことを知っているのはバルツァー様自身だと思うんですよね。
私にはあの人をコントロールすることも、権限もございませんのに。
「えと、あのその今朝我が家にバルツァー様が訪れまして…………えとえと、腕を掴まれて連行されました」
嘘…………ではありません。しかし、これがもし好きな男性が別の女性の家までお出迎えし、二人で登校してきましたとお伝えして、大丈夫だったのでしょうか?
これ、ミシェーラ様に「バルツァー様でしたら私のことをお選びになり、今朝自らの足で私を迎えに来て、手を繋いで登校させて頂きました。オーホッホッホッホ!」と、伝わっていないでしょうか。
目を合わせるのが恐ろしく、先ほどからどこか顔の向きをそむけたり、視線を泳がしていますが、よくよく考えればこれは嘘をつく人間の仕草にも類似していますね。
「貴女がどのようにギルベルト様をたぶらかしたか知りませんが、あの方はすぐにお目覚めになりますわ!」
仮に私がたぶらかしたとしても、五年間フラれ続けているミシェーラ様の方に振り向くとは思えませんけどね。あ、これ言ったら本当に不敬罪になりそうですね。
しかし、バルツァー様はミシェーラ様のどこが不満でお断りしているのでしょうか。確かに私から見て怖い方ですけど、バルツァー様から見て怖い方ではないはずです。
「マリー・コースフェルト。今日放課後はお暇ですよね? まさか断るだなんて…………」
「放課後? あ、バルツァー様からお呼び出しを受けて…………」
ミシェーラ様の表情が、さきほど以上のお怒りモードに突入しました。顔は笑顔なのですが、目が笑っていません。
ええ、わかっています。墓穴を掘ったのは私です。不用心でした。いくら予定があるとはいえ、バルツァー様のお名前を出すタイミングではありませんでした。
ミシェーラ様の瞳は、信じられないものを見つめる時の人間の瞳そっくりです。
「あの? そろそろ? 教室? 戻りませんか?」
なんとかして声を出しましたが、ミシェーラ様はただ頭部を縦に振る以外のことをしませんし、私が歩きだしても彼女はその場から動かずに空を眺めたまま。
どうしましょう。めちゃくちゃ置いていきやいですけど、この状態のミシェーラ様を放置するのはあとが怖い。残るべきか教室まで連れていくべきか。
エミリア様に怒られるのは嫌ですので、仕方ありません。
「ミシェーラ様、ほら教室行きますよ?」
私はミシェーラ様の手を取ります。
ただただ意気消沈したまま私についてくるミシェーラ様を連れ、教室に入室しました。
0
あなたにおすすめの小説
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。
前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。
外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。
もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。
そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは…
どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。
カクヨムでも同時連載してます。
よろしくお願いします。
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた
鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。
幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。
焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。
このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。
エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。
「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」
「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」
「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」
ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。
※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。
※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。
前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!
ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。
前世では犬の獣人だった私。
私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。
そんな時、とある出来事で命を落とした私。
彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さくら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる