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32話 明日も無事に過ぎればいいんだけどなぁ
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その日は夕食の手前くらいまでミシェーラ様と一緒に午後を過ごし、しばらくしてからベッケンシュタイン家までリアが迎えにやってきました。
「リア、お疲れ様です」
「いえいえ、お気になさらずにお嬢様。ベッケンシュタイン家はどうでしたか?」
どうと言われましても、煌びやかで大きくて使用人さんが多いし、隠し通路まである。とにかく世界が違いました。
「異次元ですね」
「そうですか。それは良かったです」
いえ、何がいいのかわかりませんよね。確かにとても楽しかったことに違いありませんけど。
やはり公爵家のお屋敷は珍しいのでしょう。リアは、左右を見渡す様に首を動かしています。
「リア。珍しいからとはいえ、あまりキョロキョロするのは、失礼ですよ」
「え!? ええ、申し訳ございません」
普段なら歩いて帰りたいところですが、ベッケンシュタイン家はコースフェルト家のお屋敷から遠い為、馬車を走らせてもらいました。
貴族街に向かう近道となる湖の脇を走り、その景色を眺めていたら、リアが小さくなっていくベッケンシュタイン家のお屋敷を眺めていました。
「どうかしたのですか?」
「別に隠しているわけではありませんが、私は以前ベッケンシュタイン家に特例で働かせて頂いたことがあるんですよ」
「へ? 全く知りませんでした」
では、物珍しくてきょろきょろしていたのではなく、懐かしくてきょろきょろしていたのですね。
以前となると、十年ほど前ですよね。だって私が幼い頃にはもう我が家にリアはいらっしゃましたし。
「なるほど、リアのメイドスキルはベッケンシュタイン家で学んだのですね」
「あー、ちょっと違いますね。メイドとして働いていた訳ではありませんので」
十年も一緒にいたリアの経歴ってよく知らなかったんですよね。ずっとコースフェルト家にいたかと思っていました。
「どうしてベッケンシュタイン家をお止めになられたのですか?」
「特例としての任務が完了しましたので、その後の経緯はエミリア様よりメイドをやってみませんかと声をかけられたのがきっかけでコースフェルト家で働くようになりました」
そういえば聞いたことがあります。十年前の戦争時に、戦場となったコースフェルト領では大幅の人手不足により、元々コースフェルト家で働いていた使用人の半分以上がご実家に帰られたのですよね。
その時の人手不足で入ったのですね。そういえばリアとエミリア様は時々お話をされていましたし、旧知の仲だったのですね。
ん? 特例? 任務? リアって一体過去はどんな…………そういえばメイドとして働いていないとも言っていましたし、まさか諜報員とかですか?
考えすぎですね。
「まさか諜報員とか?」
「それはフリーデリケさんですね」
これ以上聞くのはやめましょう。知らない内に、危ない扉を開いてしまうような気がします。
気がつけば我が家の前まで馬車が進んでいました。
「リア、明日は使用人として夜会にいらっしゃるのですよね?」
「そのつもりです」
「頼りにしてます」
いくらルビー様方でも、公爵家の夜会で問題を起こすなんてきっとあり得ない。けど、ルビー様方を一切警戒しない訳にはいかない。そんな気がしました。
怖い。逃げも隠れもしたい。いいや、逃げも隠れもします。それは脅威からであって、バルツァー様のパートナーという立場からは、決して逃げたりはしません。
「それはバルツァー様に言ってください」
「…………それはその、一々頼るような私に、バルツァー様は失望されてしまわれないでしょうか?」
私がそう聞くと、リアはなぜか急に笑い出しました。私は真剣に考えているのに、リアにとっては子供の可愛い悩みにしか聞こえなかったみたいです。
「お嬢様は不要なことまで怖がりすぎです。さきほど私に頼りますと言った時のお嬢様は、まるでこれから戦場に向かう人間の顔でしたのに」
「戦場に向かうってどんな表情ですか」
「普段は嫌なことから逃げることを優先する方なのに、譲れないモノの為になると急にスイッチが入るような感じです」
いまいちピンときませんが、リアが私を誰かと重ねていることだけはなんとなくわかりました。その誰かが誰なのかは、知りませんけど。リアのご友人とかでしょう。
「さ、明日に備えて今日は夕食と湯浴みを済ませて寝てしまいましょう」
そしてその夜、私は明日のことが気になりすぎて中々眠りにつくことができませんでした。
「リア、お疲れ様です」
「いえいえ、お気になさらずにお嬢様。ベッケンシュタイン家はどうでしたか?」
どうと言われましても、煌びやかで大きくて使用人さんが多いし、隠し通路まである。とにかく世界が違いました。
「異次元ですね」
「そうですか。それは良かったです」
いえ、何がいいのかわかりませんよね。確かにとても楽しかったことに違いありませんけど。
やはり公爵家のお屋敷は珍しいのでしょう。リアは、左右を見渡す様に首を動かしています。
「リア。珍しいからとはいえ、あまりキョロキョロするのは、失礼ですよ」
「え!? ええ、申し訳ございません」
普段なら歩いて帰りたいところですが、ベッケンシュタイン家はコースフェルト家のお屋敷から遠い為、馬車を走らせてもらいました。
貴族街に向かう近道となる湖の脇を走り、その景色を眺めていたら、リアが小さくなっていくベッケンシュタイン家のお屋敷を眺めていました。
「どうかしたのですか?」
「別に隠しているわけではありませんが、私は以前ベッケンシュタイン家に特例で働かせて頂いたことがあるんですよ」
「へ? 全く知りませんでした」
では、物珍しくてきょろきょろしていたのではなく、懐かしくてきょろきょろしていたのですね。
以前となると、十年ほど前ですよね。だって私が幼い頃にはもう我が家にリアはいらっしゃましたし。
「なるほど、リアのメイドスキルはベッケンシュタイン家で学んだのですね」
「あー、ちょっと違いますね。メイドとして働いていた訳ではありませんので」
十年も一緒にいたリアの経歴ってよく知らなかったんですよね。ずっとコースフェルト家にいたかと思っていました。
「どうしてベッケンシュタイン家をお止めになられたのですか?」
「特例としての任務が完了しましたので、その後の経緯はエミリア様よりメイドをやってみませんかと声をかけられたのがきっかけでコースフェルト家で働くようになりました」
そういえば聞いたことがあります。十年前の戦争時に、戦場となったコースフェルト領では大幅の人手不足により、元々コースフェルト家で働いていた使用人の半分以上がご実家に帰られたのですよね。
その時の人手不足で入ったのですね。そういえばリアとエミリア様は時々お話をされていましたし、旧知の仲だったのですね。
ん? 特例? 任務? リアって一体過去はどんな…………そういえばメイドとして働いていないとも言っていましたし、まさか諜報員とかですか?
考えすぎですね。
「まさか諜報員とか?」
「それはフリーデリケさんですね」
これ以上聞くのはやめましょう。知らない内に、危ない扉を開いてしまうような気がします。
気がつけば我が家の前まで馬車が進んでいました。
「リア、明日は使用人として夜会にいらっしゃるのですよね?」
「そのつもりです」
「頼りにしてます」
いくらルビー様方でも、公爵家の夜会で問題を起こすなんてきっとあり得ない。けど、ルビー様方を一切警戒しない訳にはいかない。そんな気がしました。
怖い。逃げも隠れもしたい。いいや、逃げも隠れもします。それは脅威からであって、バルツァー様のパートナーという立場からは、決して逃げたりはしません。
「それはバルツァー様に言ってください」
「…………それはその、一々頼るような私に、バルツァー様は失望されてしまわれないでしょうか?」
私がそう聞くと、リアはなぜか急に笑い出しました。私は真剣に考えているのに、リアにとっては子供の可愛い悩みにしか聞こえなかったみたいです。
「お嬢様は不要なことまで怖がりすぎです。さきほど私に頼りますと言った時のお嬢様は、まるでこれから戦場に向かう人間の顔でしたのに」
「戦場に向かうってどんな表情ですか」
「普段は嫌なことから逃げることを優先する方なのに、譲れないモノの為になると急にスイッチが入るような感じです」
いまいちピンときませんが、リアが私を誰かと重ねていることだけはなんとなくわかりました。その誰かが誰なのかは、知りませんけど。リアのご友人とかでしょう。
「さ、明日に備えて今日は夕食と湯浴みを済ませて寝てしまいましょう」
そしてその夜、私は明日のことが気になりすぎて中々眠りにつくことができませんでした。
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