怖がり伯爵令嬢は逃げも隠れもしますので構わないでください!

大鳳葵生

文字の大きさ
37 / 80

33話 夜会前なのに心臓が持たないんだけどなぁ

しおりを挟む
 夜会当日、私は絶賛準備中となっています。髪にドレスにメイク。普段とは無縁な恰好ですが、本来の貴族令嬢なら当然なのでしょう。

 ドレスはこないだエミリア様から頂いた水色のドレスを着ています。

 公爵夫人から頂いただけあり、私が着るにはもったいない物でしたが、これならバルツァー様のお隣に立てそうです。

「大丈夫ですよお嬢様のことを最高に綺麗にできるのは私だけです」

「勿論信頼していますよリア」

 私がソワソワしていたため、リアは不安がっていると勘違いされたのでしょう。ええ、いつもの私ならそうです。

 でも、今はどこまで綺麗になれるのだろうかとソワソワしていました。

 最初の頃は、バルツァー様をあんなにも怖いと感じていたのですが、今はちょっとした仕草すら見落とすのが惜しいと感じています。

 あの人は接しているうちに安心して会話できると感じ始めました。

 必要以上の警戒心で、逃げていたため、本当はもっと早く安心できる方とは出会えていたのかもしれません。ですが、逃げて隠れる私が良いと歩み寄ってくださったのはあの人だけでした。

「リア、私がもしバルツァー様のことをギルベルト様とお呼びしたら、あの人はお喜びになってくださるでしょうか?」

 私がそう質問すると、リアが目を丸くして驚いた後に、ぎゅっと私を抱きしめました。

「リ、リア!?」

「申し訳ありません。あまりにも可愛らしい生き物がいらっしゃいましたので」

 それは私のことでしょうか。可愛らしい。バルツァー様もそう思ってくださるでしょうか。思ってくださるなら、お名前でお呼びしたい。

 あれやこれやと考えていますと、そろそろバルツァー様が私をお迎えに来る時間のはずです。

 私はソワソワしながらエントランスの方を無駄に行き来していたため、リアに注意され、サロンに閉じ込められました。

「バルツァー様がいらっしゃいましたらお呼びしますね」

「はい、すみません」

 そしてリラックスしながら待ちます。姿勢も背もたれに体重をかけながら座るというだらしなさ。

 しばらくすると、ノックの音。私が声をかけると、男性の声で失礼すると聞こえ、私は一気に背筋を伸ばしました。

「お待ちしておりました!」

「あ、ああ…………」

 バルツァー様は私のことを上から下まで見ると、何故か硬直されてしまいました。やはり私なんかがこんな綺麗なドレスを着るのは変だったと言うことでしょうか!

「あ! あの! 変なら変と言ってください! すぐに直して貰いますから!!」

 私がそう言いますと、バルツァー様はいつものように私の頭に手のひらを載せます。

「違う。大丈夫だ変じゃない。むしろ君のこういう一面を知れてよかったと思っている」

 良かった? 何がでしょうか? でも、その変ではないと言うことですね。安心しました。

「行こうかマリー」

 名前を呼ばれました! 今です。言わないと!

 ギルベルト様って呼ぼう!

「え、あっ。あっ……はい! ギ、ギル!」

 んんん!?

 途中で躊躇して愛称みたいになってしまいました!

 しかし、バルツァー様はそう呼ばれたのがお嫌ではなかったのでしょう。私の手を引いて一緒に馬車に乗り込みました。

 普段なら少し離れた位置に座るところ、今日はお互いの肩が触れ合う距離にいます。

「近すぎたか?」

「いえ、そういうことではなくその……ギルベルト様とお呼びしても宜しいでしょうか?」

 私がそう尋ねると、バルツァー様は少しだけ悩みながらこうつぶやきました。

「さっきの呼び方の方が良いな。今後はギルと呼んでくれないか?」

「ふえ!? あ、あれはそう呼ぼうとしたのではなく! その噛んでしまいまして! あの…………」

 私が慌てふためくと、彼はやはり私の頭の上に手のひらを置きます。これがものすごく落ち着き、彼も私がこれをされると落ち着くとわかっているんじゃないかと疑います。

「はい、ではギル。もっとくっついても良いですか?」

「遠慮することはない」

 そう言われ、身体をぐいっと引き寄せられました。抵抗する気もありませんが、やはり男の人は力強い。それとも私が軽すぎるのでしょうか。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!

ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。 前世では犬の獣人だった私。 私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。 そんな時、とある出来事で命を落とした私。 彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

処理中です...