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54話 そういうわかりにくいところが似ているんだけどなぁ
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「座って頂戴」
「はい」
ギルのお母さんに促され、彼女の対面にあたる椅子に座ります。沈黙が続きやっと彼女が口を開きました。
「貴女、お行儀が良くて気が利いていて、特に目立った欠点はないものの、重要なことは何もわかっていないわ」
確かにそうなのかもしれません。私はギルのお母さんが私の何を試しているか見当もつきません。それはきっと、彼女が言う重要なことがわかっていれば理解できたことなのでしょう。
「コースフェルト家は中立派でしたし、貴女のご両親は革新派に近い思想でしたが、バルツァー家の派閥はご存じかしら?」
「え? えと…………」
何も考えていませんでした。もしかして、そういうこともちゃんと把握していないといけないのでしょうか。結婚なんてお父さんとお母さんが決めるんだくらいにしか思っていなかったので、結婚後のことなんて何も考えていません。
「保守派…………でしょうか?」
「ええそうよ。特に女性に決定権のないほどに古くからの貴族社会の風習を重んじているわ」
女性に決定権がない?
「あっ!」
「そういうこと。私が貴女を認めても、認めなくてもすべては現公爵である主人の裁量よ。貴女はバルツァー家に嫁ぐというのなら、認めさせる相手はギルベルトでも私でもないわ。主人ただ一人。逆にいえばあの人が決めてしまえば私やギルベルトが反対しても決定になるわ。貴女が嫁ごうとしている家はそういう家よ」
当然、ギルも知っていたはず。でもギルは答えを直接教えてくださりませんでした。何故なのでしょうか。
私がそう考えていると、ギルのお母さんは私を見て優しく微笑みました。
その時、ギルのお母さんからは、どことなくギルっぽさを感じました。不安そうにしている私を見ると、大丈夫だよって言葉を口にできないけど、態度で示すギルに似ている。
「もしかして? あの時の不合格ってお言葉を言った時には…………認めてくださっていたのですか?」
口に出した瞬間にしまったと思いました。格上の人間に対して、心中を察するような真似は、無礼でしかない。
「何故、そう考えたのかしら?」
ギルのお母さんが、私のことを睨みます。これは怒っている表情に見えますが、こういう時のギルの表情は、自分のことを知って欲しい時です。
「バルツァー公爵夫人が、ギル……ベルト様にそっくりでしたので。もしかしたら、あの時はっきり言ってこなかったと言うことは、私とまた会話する為なのかなと? ギル、ッベルト様って興味のない相手にはなんでもかんでもはっきり言って会話を終わらせようとしますから」
私がそう言いますと、ギルのお母さんは口元を手で隠してから笑い、その温かさになんだか心地よさを感じました。
「貴女、普段はギルって呼んでいるのね。いいわ。私と会話する時もそう言いなさい。呼びにくいのでしょう?」
そして何故ギルが、バルツァー公爵家の方針をはっきりと言わなかったかわかりました。私と一緒にいるために、わざと家に招く口実を作ったのです。
全く、そんなことで私を不安にさせないでください。いつも無駄に強引なんですから、無理やりでも私は断らないのになぁ。
「私はもう用がないでしょう? あの子を呼ぶわ」
「ありがとうございます。それから、またお話してくださりますか?」
私がそう声をかけますと、バルツァー公爵夫人はコクリと頷いてから退室されました。まもなくしてギルが部屋に入ってきては、私はさきほど気付いた不満をぶつけつつ、ギルにめいっぱい甘えることにしました。
「今度から好きに連れまわすとしよう」
「怖いところはダメです」
「善処しよう」
本当はギルと一緒でしたら、どこも怖くなんてない。そう思いました。ただし、残すはギルのお父さん。その人に認められるかどうかです。
それに近いうちにルアさんにお願いした作戦も実行します。私が歩いている道は舗装の行き届いた綺麗な道ではありませんが、その先にある道に向かって歩かなければいけません。
ギルのお父さんとお会いするのはまだしばらく先となれば、お次はルアさんとの作戦ですね。なんとしてもオリーブ様の同伴者を暴かなければ。
「はい」
ギルのお母さんに促され、彼女の対面にあたる椅子に座ります。沈黙が続きやっと彼女が口を開きました。
「貴女、お行儀が良くて気が利いていて、特に目立った欠点はないものの、重要なことは何もわかっていないわ」
確かにそうなのかもしれません。私はギルのお母さんが私の何を試しているか見当もつきません。それはきっと、彼女が言う重要なことがわかっていれば理解できたことなのでしょう。
「コースフェルト家は中立派でしたし、貴女のご両親は革新派に近い思想でしたが、バルツァー家の派閥はご存じかしら?」
「え? えと…………」
何も考えていませんでした。もしかして、そういうこともちゃんと把握していないといけないのでしょうか。結婚なんてお父さんとお母さんが決めるんだくらいにしか思っていなかったので、結婚後のことなんて何も考えていません。
「保守派…………でしょうか?」
「ええそうよ。特に女性に決定権のないほどに古くからの貴族社会の風習を重んじているわ」
女性に決定権がない?
「あっ!」
「そういうこと。私が貴女を認めても、認めなくてもすべては現公爵である主人の裁量よ。貴女はバルツァー家に嫁ぐというのなら、認めさせる相手はギルベルトでも私でもないわ。主人ただ一人。逆にいえばあの人が決めてしまえば私やギルベルトが反対しても決定になるわ。貴女が嫁ごうとしている家はそういう家よ」
当然、ギルも知っていたはず。でもギルは答えを直接教えてくださりませんでした。何故なのでしょうか。
私がそう考えていると、ギルのお母さんは私を見て優しく微笑みました。
その時、ギルのお母さんからは、どことなくギルっぽさを感じました。不安そうにしている私を見ると、大丈夫だよって言葉を口にできないけど、態度で示すギルに似ている。
「もしかして? あの時の不合格ってお言葉を言った時には…………認めてくださっていたのですか?」
口に出した瞬間にしまったと思いました。格上の人間に対して、心中を察するような真似は、無礼でしかない。
「何故、そう考えたのかしら?」
ギルのお母さんが、私のことを睨みます。これは怒っている表情に見えますが、こういう時のギルの表情は、自分のことを知って欲しい時です。
「バルツァー公爵夫人が、ギル……ベルト様にそっくりでしたので。もしかしたら、あの時はっきり言ってこなかったと言うことは、私とまた会話する為なのかなと? ギル、ッベルト様って興味のない相手にはなんでもかんでもはっきり言って会話を終わらせようとしますから」
私がそう言いますと、ギルのお母さんは口元を手で隠してから笑い、その温かさになんだか心地よさを感じました。
「貴女、普段はギルって呼んでいるのね。いいわ。私と会話する時もそう言いなさい。呼びにくいのでしょう?」
そして何故ギルが、バルツァー公爵家の方針をはっきりと言わなかったかわかりました。私と一緒にいるために、わざと家に招く口実を作ったのです。
全く、そんなことで私を不安にさせないでください。いつも無駄に強引なんですから、無理やりでも私は断らないのになぁ。
「私はもう用がないでしょう? あの子を呼ぶわ」
「ありがとうございます。それから、またお話してくださりますか?」
私がそう声をかけますと、バルツァー公爵夫人はコクリと頷いてから退室されました。まもなくしてギルが部屋に入ってきては、私はさきほど気付いた不満をぶつけつつ、ギルにめいっぱい甘えることにしました。
「今度から好きに連れまわすとしよう」
「怖いところはダメです」
「善処しよう」
本当はギルと一緒でしたら、どこも怖くなんてない。そう思いました。ただし、残すはギルのお父さん。その人に認められるかどうかです。
それに近いうちにルアさんにお願いした作戦も実行します。私が歩いている道は舗装の行き届いた綺麗な道ではありませんが、その先にある道に向かって歩かなければいけません。
ギルのお父さんとお会いするのはまだしばらく先となれば、お次はルアさんとの作戦ですね。なんとしてもオリーブ様の同伴者を暴かなければ。
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