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58話 あの日と同じ
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あまり楽しめる状況ではありませんが、私とギルは二人で夜会を回ります。
一応、前回と同じ参加者であることは確認が取れているため、オリーブ様が来た後に訪れた方々の顔を確認し、前回の男がいないかチェックします。
男性の顔をじろじろ見るのは、目が合うと怖いので避けてきましたが、今はそうは言っていられません。
ルアさんも中央で様々な方と挨拶をし、一緒に探してくれているそうです。ちなみにあの人は一番最後に到着しましたので、約束していたエントランスの張り込みは遅刻です。
でも誰も責められません。だって公妃様ですから。
周囲を確認していますが、やはりそれらしき男性はいません。となると、今いない男性。ボイド辺境伯とオリーブ様の同伴者。ボイド辺境伯ではありませんので、必然的に最後の一人はオリーブ様の同伴者で間違いなさそうです。
会場中をすべて回ったわけでも、ありませんし、入れ違いになった可能性もありますので、絶対にそうとは言い切れません。
ですが、さきほどのオリーブ様の証言と照らし合わせ、少なくともルビー様方視点では、フリン侯爵が用意した三人組をそれぞれ同伴者にしたという認識で間違いなさそうです。
「マリー、少し風にあたろう」
「……はい」
ギルが私の手を引いて、テラスまで足を運びます。人目がなくなった瞬間。緊張の糸がプツリと切れてしまいました。
クラっとした私の体を、ギルはいつものように優しく支えてくださります。
そうしてくれるとわかっていたから、目の前でわざとよろけたとか言ったら、ギルはなんて返すのでしょうか。
まあ、私はそんな高等なテクニックを使いこなせるほど器用じゃないんですけどね。普通によろけましたよ。そもそも、この人に余計な駆け引きは不要です。
「大丈夫かマリー」
「……はい、なんとか」
それでも彼が抱きしめてくれたのなら、全力で抱き着きます。
何度同じことをしても飽きない。何度繰り返してもやめられない。何度だってこの人でドキドキするんだ。
「ギル、私怖いです。未だに人身売買が行われていることも、そういうことをしていた人たちに、安全だと思っていた場所で襲われたことも。いつまた別の人に襲われるかも」
「…………」
私がそう言い、ギルは私の言葉を黙って聞いてくれました。この感じがなんだか懐かしくて、そのまま幼い頃の話まで出てきます。
「昔、貴族街を一人で歩いていたことがあります」
思い出したのは、怖かった記憶と安心した瞬間の時の記憶。
「昔、私は人さらいに襲われたことがあるんです」
私がそういうと、ギルは驚いたのか、何かに気付いたのか小さな声で呟きます。
「それはどのくらい前だ?」
「…………幼い頃としか。初等部には入学していました」
「そうか、続きを聞こうか」
その後、私はギルに昔の記憶を話しました。初等部に入学して間もない頃にあった誘拐事件。結果的にいえば私の体が細かったことと、縛り上げられた縄が子供相手だから緩めだったことが幸いし、抜け出すことに成功しました。
その後も逃げたり隠れたりとして大人の男性がすべて敵に見えました。
気がつけば知っている道まで逃げ延びたのですが、その頃には周囲の大人が全員が敵に見えて、大きな男性が怖くてふと目についた少年にとびついたのです。
金髪に青い瞳の少年。眉間にしわがなくても、目つきの鋭い少年。今も面影がある少年。
「ギル、もしかしてあの時」
「……ああ、やはりあれは君だったか。実は高等部で君にあった日。ふと、あの時の少女のことを思い出したんだ。泣き虫で怖がりでそれでいて逃げることが得意な少女」
「それ褒めてますか?」
「褒めているさ。マリーが逃げるのが得意だったから、今俺に捕まっているんだろう?」
「それは逃げれたとは言えませんね。逃げませんけど」
そうか、この人に抱きしめられて感じた安心感は、あの時怖かった私の心を救った安心感だったんだ。
周囲が大きい大人だらけだった中、一人だけ混じっていた子供。怖くて怖くて仕方なくて飛びついた彼。抱きしめられた瞬間に感じた安心感。
全部、鮮明に思い出せる。だって今、同じ人に同じように抱きしめられているから。
一応、前回と同じ参加者であることは確認が取れているため、オリーブ様が来た後に訪れた方々の顔を確認し、前回の男がいないかチェックします。
男性の顔をじろじろ見るのは、目が合うと怖いので避けてきましたが、今はそうは言っていられません。
ルアさんも中央で様々な方と挨拶をし、一緒に探してくれているそうです。ちなみにあの人は一番最後に到着しましたので、約束していたエントランスの張り込みは遅刻です。
でも誰も責められません。だって公妃様ですから。
周囲を確認していますが、やはりそれらしき男性はいません。となると、今いない男性。ボイド辺境伯とオリーブ様の同伴者。ボイド辺境伯ではありませんので、必然的に最後の一人はオリーブ様の同伴者で間違いなさそうです。
会場中をすべて回ったわけでも、ありませんし、入れ違いになった可能性もありますので、絶対にそうとは言い切れません。
ですが、さきほどのオリーブ様の証言と照らし合わせ、少なくともルビー様方視点では、フリン侯爵が用意した三人組をそれぞれ同伴者にしたという認識で間違いなさそうです。
「マリー、少し風にあたろう」
「……はい」
ギルが私の手を引いて、テラスまで足を運びます。人目がなくなった瞬間。緊張の糸がプツリと切れてしまいました。
クラっとした私の体を、ギルはいつものように優しく支えてくださります。
そうしてくれるとわかっていたから、目の前でわざとよろけたとか言ったら、ギルはなんて返すのでしょうか。
まあ、私はそんな高等なテクニックを使いこなせるほど器用じゃないんですけどね。普通によろけましたよ。そもそも、この人に余計な駆け引きは不要です。
「大丈夫かマリー」
「……はい、なんとか」
それでも彼が抱きしめてくれたのなら、全力で抱き着きます。
何度同じことをしても飽きない。何度繰り返してもやめられない。何度だってこの人でドキドキするんだ。
「ギル、私怖いです。未だに人身売買が行われていることも、そういうことをしていた人たちに、安全だと思っていた場所で襲われたことも。いつまた別の人に襲われるかも」
「…………」
私がそう言い、ギルは私の言葉を黙って聞いてくれました。この感じがなんだか懐かしくて、そのまま幼い頃の話まで出てきます。
「昔、貴族街を一人で歩いていたことがあります」
思い出したのは、怖かった記憶と安心した瞬間の時の記憶。
「昔、私は人さらいに襲われたことがあるんです」
私がそういうと、ギルは驚いたのか、何かに気付いたのか小さな声で呟きます。
「それはどのくらい前だ?」
「…………幼い頃としか。初等部には入学していました」
「そうか、続きを聞こうか」
その後、私はギルに昔の記憶を話しました。初等部に入学して間もない頃にあった誘拐事件。結果的にいえば私の体が細かったことと、縛り上げられた縄が子供相手だから緩めだったことが幸いし、抜け出すことに成功しました。
その後も逃げたり隠れたりとして大人の男性がすべて敵に見えました。
気がつけば知っている道まで逃げ延びたのですが、その頃には周囲の大人が全員が敵に見えて、大きな男性が怖くてふと目についた少年にとびついたのです。
金髪に青い瞳の少年。眉間にしわがなくても、目つきの鋭い少年。今も面影がある少年。
「ギル、もしかしてあの時」
「……ああ、やはりあれは君だったか。実は高等部で君にあった日。ふと、あの時の少女のことを思い出したんだ。泣き虫で怖がりでそれでいて逃げることが得意な少女」
「それ褒めてますか?」
「褒めているさ。マリーが逃げるのが得意だったから、今俺に捕まっているんだろう?」
「それは逃げれたとは言えませんね。逃げませんけど」
そうか、この人に抱きしめられて感じた安心感は、あの時怖かった私の心を救った安心感だったんだ。
周囲が大きい大人だらけだった中、一人だけ混じっていた子供。怖くて怖くて仕方なくて飛びついた彼。抱きしめられた瞬間に感じた安心感。
全部、鮮明に思い出せる。だって今、同じ人に同じように抱きしめられているから。
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