怖がり伯爵令嬢は逃げも隠れもしますので構わないでください!

大鳳葵生

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62話 再結成、とある英雄の旅団 ギルベルト視点

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 とある夜。後はもう眠るだけだという時にその報せは届いた。

「どうした?」

 慌てて俺の部屋に駆け込んできたのは執事長のマルク。

 彼はもうすぐ孫が産まれてくるくらいの年齢だ。

「ギルベルト様! マリー・コースフェルト様とそのメイドが何者かに連れ去られてしまいました!!」

「なんだとっ!?」

 俺は早急に着替えて執事長に案内されたエントランスに向かう。そこには、普段は貴族街に来るはずのない人間がいた。

「来たわねギルベルト」

「イザベラ」

 イザベラは普段、城下町の食堂で働いているはずだ。それにこんな時間に起きていることも珍しい。

 しかし、確かにマリーが疾走して我が家に連絡が来るには早すぎると思った。だが、イザベラは、一度だけデートの時にマリーと逢っている。だから彼女は、マリーの知り合いを俺しか知らない。彼女の疾走を伝えるあてもなく俺の所に来たのも納得できる。

「とにかくもう一度最初から話すわよ」

 イザベラの話はこうだ。彼女は何日かに一度、貴族街の方を見に行くことがあるらしい。元貴族であることから未練か何かだろう。

 そして貴族街からの帰り道。取り押さえられ、馬車に乗せられたマリーとメイドを目撃し、すぐさま走り去ってしまったことからどうしていいかわからずに俺の所に来たらしい。

「私の仕事は終わり。念のため、彼女を連れ去ろうとした男の顔とか馬車とかの特徴は既にそこの執事に話しているわ」

「ありがとうイザベラ」

 俺がそう声をかけたが、彼女は振り返ることなくエントランスまで歩いていった。

「マルク。送ってやれ」

「畏まりました」

 他の使用人に確認したところ、既にコースフェルト家には連絡が入っているようだ。しばらく考えた結果、俺はベッケンシュタイン家とリンナンコスキ家にも連絡を入れるように伝えた。

 そしてその日の夜のうちに、我が家には錚々たるメンバーが集められた。

 コースフェルト伯爵夫妻にベッケンシュタイン公爵夫人とミシェーラ。リンナンコスキ公爵夫人になぜか連絡していないのに現れた公妃だ。

 それから公妃が数名の騎士を引き連れてやってきた。

 その中には、第一騎士団長の東方人の男もいる。

「さて、ギルベルト。ここにはどんな苦難も乗り越えて必ず目的を果たした英雄たちが集まったわ。忙しくて欠席のものもいますけどね」

 公妃がそう言い、もう一度全員の顔を見ると、普段知っている顔とは違う人も多い。

 特にリンナンコスキ公爵夫人は、おっとりとした落ち着いた表情の人という印象だった。が、こんなに真剣な顔をする人だとは思わなかった。

 ベッケンシュタイン公爵夫人もそうだ。あの人もいつもニコニコとした朗らかな印象が強いが、口角があがっていないところを初めてみたかもしれない。

「ギルベルト様? 一応言っておくけど、私は違うわよ?」

 ミシェーラが小声で耳打ちしてくる。大丈夫、一目見ればお前が場違いなことくらいわかっている。

 だがしかし、ミシェーラやコースフェルト伯爵夫妻以外の全員は、夫人やメイドも含め、落ち着きつつ、内心の怒りをあらわにしない様に今後の捜索について話し合っている。

「安心なさいギルベルト。貴女の大切な人は必ず戻ってくる。ここにいる面々は、私の我儘についてきて英雄になった人間よ。エミリアさん、オルガお義姉様、エレナ、ジェスカ、ユーハン、メルヒオール、バルトローメス、ルイーセ、ハナさん。忙しくていない大公とお兄様、それからエディータも、この場にいれば力を貸してくれる。教科書にも載った英雄の旅団? そんな大層な名前じゃないわ。ルクレシア旅団再結成よ!」

 そんな中、応接室の扉をノックする音。入れと声をかけると、青い髪をしたメイド服の女性が入ってきた。

「ただいま戻りましたよみなさぁん?」

 不意に現れたのは、ボイド辺境伯のことを調べていたフリーデリケ・ケストナだった。彼女が来たと言うことは、何か進展があったのだろうか。そもそも、何故真っ先に我が家に来たのだろうか。

「ボイド辺境伯はここから北東にあるボイド領に向かっていますね。関所は通らない非公式のルートを発見しましたここ最近の馬車が通った跡も残っていましたし、間違いないでしょう。それから帰りにもう一台馬車とすれ違ったのですが…………」

 フリーデリケさんがそう呟くと、全員が反応する。イザベラの話では、マリーたちは馬車に乗せられたのだ。ボイド領に向かう非公式のルート。

「フリーデリケさん。その馬車の特徴や色をなどを教えてくれ」

 そしてその馬車の特徴は、イザベラが執事長のマルクに話した通りの特徴だった。フリーデリケさんにも事情を話し、俺たちはフリーデリケさんの案内でその現場に向かうのであった。

「まあ、人身売買組織に行くのであれば命は無事でしょう。けど、売られる前に」

「そうですね、取り戻します。お力をお借りします」

 俺は全員に向かって頭を下げる。

「マリーちゃんの為であれば、誰の頼みでなくても私は行きますよ」

 「僕もなんだかんだ行って仲良くなったしね。それに人身売買は看過できない」

 二人の公爵夫人に続き、賛同の声。そして最後にあの人が叫ぶ。

「それでは、マリーちゃん救出の奇襲を開始よ! 作戦なんて不要! そうでしょみんな!」

 すると、全員が即座に行動し始める。俺たちは、ボイド領に通じる秘密の抜け道に向かって馬を走らせた。

 馬車であれば一日二日ではボイド領にはつかない。馬で追いつく。無事でいてくれマリー。
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