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61話 喜んでくれるといいんだけどなぁ

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 ごたごたしたプレゼント会議の翌日。私はリアと二人で城下町を散歩しています。ギルが最大限喜ぶものはなんとか満場一致の合格を得たのですが、問題はそれの入手。

 そのために私は今城下町を歩いているのです。

「いい天気ですねお嬢様」

「はい、何のしがらみもない清々しい天気です」

「昨日はお疲れ様です」

 昨日は、参加こそしませんでしたが、リアなど皆様の執事やメイドが後ろに控えていました。

 しいて言うなら、ミシェーラ様の後ろにいたのはフリーデリケさんではなく、東方人の方でしたが。

 フリーデリケさん。ボイド辺境伯の件で忙しいのでしょうか。ルシアさんと二人で捜索しているとお聞きしていますが。

 私は、以前ギルと二人で来たガラス工房に足を運びました。

「すみませーん?」

「あん?」

 私が呼びかけますと、奥から以前お話した工房の親方さんが汗をだらだら垂らしながら出てきます。近くにあった布切れで軽く汗を拭ってからこちらに近づきます。

「おう。こないだの嬢ちゃんかい。どうした?」

「わ、私にガラス細工を教えてください!」

「あん?」

 私は事情を話すと、親方さんは笑いながら了承してくださりました。

 それからしばらく親方さんや他の工房のお弟子さんに教えて貰いながらガラス細工を作ります。

 熱している最中など、途中何度も汗を流しましたが、リアが定期的に拭いてくれます。

「うーむ」

「何を作られているのですか?」

「いえ、皆様から私が作った物にしようと言われたので頑張っているのですが……まずは練習として小さな置物から……のつもりでしたが失敗作だらけになりました」

「どれも綺麗ですよ。それにまだ始めたばかりですからそんな簡単に良いものはできませんよ」

「そうですね。少しずつですが上達している気がしなくもありませんので続けようと思います」

 その後も何度か挑戦し、そのたびに歪な失敗作を作り上げました。上手にいったと思ったらぐにゃりと歪み、慎重にやりすぎたものも失敗。

 悪戦苦闘を繰り広げ、何とか小さなウサギさんの置物が一つだけ完成しました。

「これじゃダメです。もっとギルが喜ぶものにしないと」

 その後、私は何とか綺麗に見えるものまで作り上げることができました。

 しかし、形は少し歪で、間違っても良いものではありませんでした。

「うう、ダメですね」

「いえ、これにしましょう」

「だめですよ! こんな歪で素人作品全開のもの!」

 私がそういうと、リアは笑いながら返事をします。

「だから良いんです。この歪さはお嬢様がバルツァー様の為に頑張りましたという証拠です。誰かに作らせたものではなく、貴女が作った何よりの証拠です」

 リアがそういうと、なんだか気恥ずかしくなりましたが、もしそれでギルが喜んでくれるというのなら、私はこれを渡そうかな。そう思いました。

 なんだか打算も入ってしまった少し歪なウサギさんのガラス細工。私がギルからもらった綺麗なものとは違います。

 そして私たちは帰路に向かいます。二人で歩くのはなんだか久しぶりな感じがしました。思えばここ最近は常にギルが一緒だったり、ミシェーラ様などが一緒だったりでなんだか充実しているような気がします。

 だから、私達は今、傍から見ればメイドと令嬢の二人組。リアが何かに気付いて私を隠すように前に立ちます。

 前方からぞろぞろ現れる見知らぬ顔の男たち。道はちょうど貴族街と平民の多い城下町の境目。店もなければ民家もない。

 人通りの少ない場所でした。

「失礼、そこを通して頂けますでしょうか?」

 リアがメイド服のスカートの中から、短槍を取り出します。元第一騎士団の女騎士にして、かつての戦争の英雄。

 ですが、ここ数年はずっと私の元でメイドとして働いていただけの女の人。いくらリアが昔はすごくても、助からない。それはリアも承知しているはずだ。

「おーこわ」「こいつ構えが素人じゃねーぞ」「へえちゃんとした護衛だったんか」

「お嬢様、走って逃げてください」

 リアから逃走の指示。やはり、リアもしのぎ切れるとは思っていないようです。ここで逃げなければ私もリアも捕まる。

「どなたのさしがねでしょうか?」

「答えるとでも?」

「検討はついています。お嬢様走って!!」

 私は逃げたい。この場からいなくなりたい。でもそれは、リアを置いて逃げると言うことではありません。

「何とかしなきゃ」
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