怖がり伯爵令嬢は逃げも隠れもしますので構わないでください!

大鳳葵生

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64話 なるべく真剣な表情で

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 リアの考えを信じると決め、彼女が動き出すまで大人しく縛られたフリを続けます。

 夜道の為、外に何があるかわかりませんが、リアは馬車がどこかにつくタイミングを待っているように見えました。

「もうしばらくお待ちください」

 そして道が森に入ってしばらくしたタイミングでした。音だけですが、流れの速い川が近くにあるようです。

 そしてリアが突然立ち上がり、それに気付いた見張りたちがお酒が回った赤い顔をこちらに向けます。

「お嬢様、も立ってください!」

「はい!」

 リアは近くにあったものを酔っ払いの見張りたちに投げつけてから、私を抱えて走行中の馬車から飛び降りました。

 着地の瞬間、リアが苦痛の声を漏らしましたが、そのまま立ち上がり私を降ろします。

「森に潜みます。ここはどうやらボイド領に続いている道。そしてお嬢様もご存じ、コースフェルト領です」

「あっ…………」

 暗闇の中、少し先でやっと馬車が止まり、何人かがこちらに向かって走ってきました。とにかく隠れないと。

 暗闇の中、走行中であったため、彼らは私達がどの辺に堕ちたかまでは曖昧で、茂みに隠れながら移動をして少しでも道から離れます。

 私は逃げ隠れなんていつもしてきたことですので、得意ですが、リアも元騎士の経験なのか、隠密行動が得意みたいです。

 少しずつ少しずつ森の中を進み、大きな木の根元で少し休憩することにしました。流れの遅い小さな小川もあります。

「リア、これを足に」

 私は小川の水で冷やしたハンカチを、リアの足に当てます。

「ありがとうございますお嬢様」

 少しだけ休憩を取るつもりでしたが、向こうから捜索している男たちの声が聞こえ始めました。私とリアは顔を見合わせ、小川の中に入り、向こう岸まで移動しました。

 そしてなるべく近くの茂みに入ります。そしてまたリアの後ろについていきました。この山がボイド領に続く道があるコースフェルト領と言うことは、近くには村があるはずです。おそらくそこを目指しているのでしょう。

 暗闇の中でも迷わずに進むリア。私はただそれについていくだけ。しかし、こんなコースフェルト領のはずれの山。リアは詳しいですね。

 私はここに山があることくらいしか知りませんでしたよ。

 しばらく歩いたところでまた休憩。私がつかれたという建前の元、リアの足の腫れが徐々にひどくなっていることがわかる。

 暗くて見えないですが、リアが少しずつ苦痛を隠すのが下手になってきているのです。これ以上は苦しそう。

 そう判断したらすぐさま、疲れましたと言い休憩を取ります。それを繰り返すことで、少しでもリアの足の負担を減らそうとしましたが、どうなんでしょうか。私は詳しくありませんので正しい判断かわかりません。

 とにかく休む時はなるべく川の近く。そしてそのたびに冷やしたハンカチをリアにお渡しします。

 リアは隠していた刃物を取り出すために靴底も壊れているため歩きにくいはずなのに、その足で私を逃がすために一緒に来てくれています。

 私がリアを置いていく気がないことくらい、リアはもう理解しているみたいです。

「もう少し歩けばハルシフィア村に到着するはずです。それまで頑張りましょう」

 ハルシフィア村。養蜂や農業が盛んな村で、コースフェルト領の財源の一つです。

 あそこの村でしたら、朝早くから起きて活動している人たちがいるはずです。場合によってはもう少しすれば起き始めているいるかもしれません。

 あれからどれほど時間が経過したかなんて考えられませんが、無駄に広いコースフェルト領の端っこまでたどり着いたのです。かなり進んだはずに違いありません。

 コースフェルト領に入ってボイド領に入るまでも何日もかかるほど、コースフェルト領は広い。しかし、そのほとんどが農地と人が住めない山。

 そしてここから最寄りのハルシフィア村もかなり遠いはず。

 到着する頃には早朝の可能性も十分あります。しかし、私達がハルシフィア村に到着するよりも先に、私達の追手である三人の男たちがたどり着きました。

「おいおいもう逃がさないぜ?」

「お嬢様、貴女だけでも逃げてくださいって言いましたら?」

 リアがふざけた質問をしてきましたので、私は彼女をなるべく怒っているだろうということが伝わるように眉間にしわを寄せて言いました。

「馬鹿言わないでください。二人で助かります」

「あの……こんな時に申し訳ありませんが、眉間のシワは手で寄せるものではありません」

「…………あれ?」
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