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最終話 逃げも隠れも
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ギルの両親の待つ応接室に両親と並んで入ります。
緊張しながら入室すると、そこにはギルよりもさらに顔の怖い中年の男性が背筋を伸ばして座っていました。うちの父と違い威厳を感じ、私はその人を見て一瞬で身体がビクッと震えました。髪の色や瞳の色はギルと同じで金髪碧眼みたいですね。
当然、バルツァー公爵にもその動作はしっかりと視られてしまいました。もしかしていきなり評価下げられてしまったのでしょうか。
とにかく気を取り直して私はギルの向かいの位置に座ります。
「さて、お嬢さんがマリー・コースフェルトで間違いないね。私はアレクサンダー・ファン・バルツァー。察していると思うが、バルツァー公爵だ」
「は、はい。コースフェルト伯爵家息女。マリー・コースフェルトです」
なんとか最初の挨拶が終わりました。両親は面識があるらしく、会釈をして軽い挨拶をしています。
「さて、君は我が息子と交際をしていると聞いた上で、今日の挨拶の意味は分かっているね」
「はい、その正式に婚約をしたく公爵様にお願いをしに来ました」
「私としてはギルベルトにはちゃんとした令嬢を見繕うつもりだったのだが、君はあまり社交的でない上に、ここ最近事件に巻き込まれることが多いみたいだね。こういっては何だが、今後も似たようなことが起きないとは言い切れないだろう。バルツァー公爵家に泥を塗るのではないかと少しでも思うなら、君から身を引きたまえ」
反論する材料がありません。今回の件、私はギルと一緒にいるのにふさわしくないと思ったルビー様方の行動から起きたことです。私はまだ周囲にギルに相応しい女性だと思われているかと言われると首を縦に触れません。でしたら、今回のようなことが二度と起きないと保証はできません。
それでも、ここで引きたくない。きっとこれはバルツァー公爵からすればやんわりと断っているつもりなのでしょう。私には結構ダメージ来ましたけど。
こんな大事な時に逃げられない。今までは逃げた先の方が幸せで安全で居心地が良かった。でも、今逃げた先にあるものは、ギルと逢えなくなる時間でしかありません。
「お願いします。ご子息との婚約を認めてください」
「父上、俺からもお願いします。マリー・コースフェルトを妻にしたいんです!」
ギルがガタっと椅子の音を立てて急に立ち上がります。しかし、バルツァー公爵は眉間にしわを寄せてギルを睨みつけます。
「お前の意見などどうでもいいわ!」
「よくない訳あるか!」
「ギル!?」
突然のギルの叫び声に、私は身体をビクッとさせてしまいました。しかし、それはこの場にいたバルツァー公爵以外の全員が似たような反応をしています。
「ギルベルト、親に向かってなんだその態度は!!」
「はっきり言わせて貰います父上。社交も確かに大事ですが、そんなものはこれから学べます。俺が妻に求めるものは、公爵家を資金源としか見ない上辺だけの付き合いで集める令嬢ではなく、俺が例え平民になっても寄り添ってくれる女性です!! もしあなたがマリーとの婚約を認めないというのであれば、俺はこの家を出ていきます」
「なんだと? マリー君。ギルベルトはこのように言っているが、君はどうするのかね」
簡単な質問である。ギルが平民になったら私の行動は一つだ。
「ついていきます。ギルの進む道が私の進む道です。貧乏平民生活上等です。ギルと過ごすことが、私の幸せなのです」
「ほう…………」
しばらく沈黙が続き、バルツァー公爵は何か書類を書き始めました。そして私のお父さんに差し出すと、父は晴れやかな表情になり、私に向かってニコリと笑いました。
私は立ち上がり、バルツァー公爵に頭を下げます。
「認めていただきありがとうございます」
「構わん、君は夫であるギルベルトを第一に考える妻の理想像のようだ。よくよく考えれば最近の令嬢はワガママ娘ばかりだし、これでギルベルトが年老いてまで未婚のままだとバルツァー公爵家に泥を塗ってしまうからな」
そう言ってバルツァー公爵は少し機嫌が悪そうにみせるようにしてから部屋を出ていきました。しかし、退室後、バルツァー公爵夫人がニコリと笑って言いました。
「あの人、珍しく上機嫌ね。息子と親子喧嘩できたのが嬉しかったのかしら?」
「母上、父上はそんな幼稚では」
「あら、どうかしらね。私も退室するわ」
「では我々も」
バルツァー公爵夫人に続き、両親も退室してしまい、部屋にはギルと私だけになりました。ギルが私の方を見つめ、珍しくニコリと笑う。眉間にしわがない。
「変な顔ですね」
「マリーが笑ってくれるなら、どんな顔でもしよう」
「はいはい、ありがとうございます」
そしてギルが立ち上がり、一歩ずつこちらに近寄ってきます。どうしよう、改めて私達は恋人からさらに婚約者になってしまいました。
婚約、ギルと婚約してしまったのですね。なんというか今までと変わったはずなのに、ギルと私のこれからはあまり変わりないような気がします。
だって付き合い始めてからこの人は私を喜ばせることばかり考えていて、私は彼に喜んで貰いたくて笑う。
もうどちらがどちらの為に行動しているのかわからなくなるくらい、お互いの感情をぶつけ合っているのですから。
そう思いながら、いつものように彼の胸に飛びつくと、なぜか彼は私を抱きしめてくれません。不思議に思い彼の顔を覗き込んだ瞬間でした。
視界いっぱいにギルの顔。唇に触れる少しかさついた熱と力強さを感じる感触。
急なことで私は何も考えられなくなり、ああ、もう何も考えなくてもいいや。これからは逃げることも隠れることも必要ない。彼の腕の中は一番目立つけど、一番落ち着く場所だ。
ここは逃げることも隠れることもしなくていい。こんなに幸せな場所は他にないのですから。
一瞬か数刻か、時間の感覚のわからなくなるほどの接触を終えたころ、ギルの顔は紅潮し、息遣いが荒くなっていました。
「無理しすぎです。時間はたっぷりあるんですよ。これからも一緒に歩んでくださいね愛していますギル」
「すまない、どうしても君に印象的な日にしたかったんだ」
「…………大丈夫ですよ。貴方と逢う日はすべては印象的な日として刻まれていますから」
【怖がり伯爵令嬢は逃げも隠れもしますので構わないでください!】 Fin.
緊張しながら入室すると、そこにはギルよりもさらに顔の怖い中年の男性が背筋を伸ばして座っていました。うちの父と違い威厳を感じ、私はその人を見て一瞬で身体がビクッと震えました。髪の色や瞳の色はギルと同じで金髪碧眼みたいですね。
当然、バルツァー公爵にもその動作はしっかりと視られてしまいました。もしかしていきなり評価下げられてしまったのでしょうか。
とにかく気を取り直して私はギルの向かいの位置に座ります。
「さて、お嬢さんがマリー・コースフェルトで間違いないね。私はアレクサンダー・ファン・バルツァー。察していると思うが、バルツァー公爵だ」
「は、はい。コースフェルト伯爵家息女。マリー・コースフェルトです」
なんとか最初の挨拶が終わりました。両親は面識があるらしく、会釈をして軽い挨拶をしています。
「さて、君は我が息子と交際をしていると聞いた上で、今日の挨拶の意味は分かっているね」
「はい、その正式に婚約をしたく公爵様にお願いをしに来ました」
「私としてはギルベルトにはちゃんとした令嬢を見繕うつもりだったのだが、君はあまり社交的でない上に、ここ最近事件に巻き込まれることが多いみたいだね。こういっては何だが、今後も似たようなことが起きないとは言い切れないだろう。バルツァー公爵家に泥を塗るのではないかと少しでも思うなら、君から身を引きたまえ」
反論する材料がありません。今回の件、私はギルと一緒にいるのにふさわしくないと思ったルビー様方の行動から起きたことです。私はまだ周囲にギルに相応しい女性だと思われているかと言われると首を縦に触れません。でしたら、今回のようなことが二度と起きないと保証はできません。
それでも、ここで引きたくない。きっとこれはバルツァー公爵からすればやんわりと断っているつもりなのでしょう。私には結構ダメージ来ましたけど。
こんな大事な時に逃げられない。今までは逃げた先の方が幸せで安全で居心地が良かった。でも、今逃げた先にあるものは、ギルと逢えなくなる時間でしかありません。
「お願いします。ご子息との婚約を認めてください」
「父上、俺からもお願いします。マリー・コースフェルトを妻にしたいんです!」
ギルがガタっと椅子の音を立てて急に立ち上がります。しかし、バルツァー公爵は眉間にしわを寄せてギルを睨みつけます。
「お前の意見などどうでもいいわ!」
「よくない訳あるか!」
「ギル!?」
突然のギルの叫び声に、私は身体をビクッとさせてしまいました。しかし、それはこの場にいたバルツァー公爵以外の全員が似たような反応をしています。
「ギルベルト、親に向かってなんだその態度は!!」
「はっきり言わせて貰います父上。社交も確かに大事ですが、そんなものはこれから学べます。俺が妻に求めるものは、公爵家を資金源としか見ない上辺だけの付き合いで集める令嬢ではなく、俺が例え平民になっても寄り添ってくれる女性です!! もしあなたがマリーとの婚約を認めないというのであれば、俺はこの家を出ていきます」
「なんだと? マリー君。ギルベルトはこのように言っているが、君はどうするのかね」
簡単な質問である。ギルが平民になったら私の行動は一つだ。
「ついていきます。ギルの進む道が私の進む道です。貧乏平民生活上等です。ギルと過ごすことが、私の幸せなのです」
「ほう…………」
しばらく沈黙が続き、バルツァー公爵は何か書類を書き始めました。そして私のお父さんに差し出すと、父は晴れやかな表情になり、私に向かってニコリと笑いました。
私は立ち上がり、バルツァー公爵に頭を下げます。
「認めていただきありがとうございます」
「構わん、君は夫であるギルベルトを第一に考える妻の理想像のようだ。よくよく考えれば最近の令嬢はワガママ娘ばかりだし、これでギルベルトが年老いてまで未婚のままだとバルツァー公爵家に泥を塗ってしまうからな」
そう言ってバルツァー公爵は少し機嫌が悪そうにみせるようにしてから部屋を出ていきました。しかし、退室後、バルツァー公爵夫人がニコリと笑って言いました。
「あの人、珍しく上機嫌ね。息子と親子喧嘩できたのが嬉しかったのかしら?」
「母上、父上はそんな幼稚では」
「あら、どうかしらね。私も退室するわ」
「では我々も」
バルツァー公爵夫人に続き、両親も退室してしまい、部屋にはギルと私だけになりました。ギルが私の方を見つめ、珍しくニコリと笑う。眉間にしわがない。
「変な顔ですね」
「マリーが笑ってくれるなら、どんな顔でもしよう」
「はいはい、ありがとうございます」
そしてギルが立ち上がり、一歩ずつこちらに近寄ってきます。どうしよう、改めて私達は恋人からさらに婚約者になってしまいました。
婚約、ギルと婚約してしまったのですね。なんというか今までと変わったはずなのに、ギルと私のこれからはあまり変わりないような気がします。
だって付き合い始めてからこの人は私を喜ばせることばかり考えていて、私は彼に喜んで貰いたくて笑う。
もうどちらがどちらの為に行動しているのかわからなくなるくらい、お互いの感情をぶつけ合っているのですから。
そう思いながら、いつものように彼の胸に飛びつくと、なぜか彼は私を抱きしめてくれません。不思議に思い彼の顔を覗き込んだ瞬間でした。
視界いっぱいにギルの顔。唇に触れる少しかさついた熱と力強さを感じる感触。
急なことで私は何も考えられなくなり、ああ、もう何も考えなくてもいいや。これからは逃げることも隠れることも必要ない。彼の腕の中は一番目立つけど、一番落ち着く場所だ。
ここは逃げることも隠れることもしなくていい。こんなに幸せな場所は他にないのですから。
一瞬か数刻か、時間の感覚のわからなくなるほどの接触を終えたころ、ギルの顔は紅潮し、息遣いが荒くなっていました。
「無理しすぎです。時間はたっぷりあるんですよ。これからも一緒に歩んでくださいね愛していますギル」
「すまない、どうしても君に印象的な日にしたかったんだ」
「…………大丈夫ですよ。貴方と逢う日はすべては印象的な日として刻まれていますから」
【怖がり伯爵令嬢は逃げも隠れもしますので構わないでください!】 Fin.
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