怖がり伯爵令嬢は逃げも隠れもしますので構わないでください!

大鳳葵生

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69話 リアの手紙

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 あれから数日後。休暇の為バルツァー家のお屋敷に呼ばれた私は、急いで支度をします。

 もうじき始まる社交シーズン。なんと本日はギルのお父様。つまり、バルツァー公爵がご在宅という話です。

 普段は王都にいることはなく、バルツァー領にいらっしゃる方ですので、お会いするのは初めてになります。

 私、社交会もちゃんと出ていればお顔くらいは拝見していたかもしれませんのに。そもそも伯爵令嬢なのに、つい最近まで公妃様の顔を知らないくらい世間知らずでした。

 とにかく急ぎましょう。こういう時はリアが頼りになります。

「リア! あっそっか」

「お嬢様、リアさんは…………」「ごめんなさい。私達で我慢してください」

 私の髪をセットしていたのは屋敷にいるよく知ったメイド達。でもそれはリアではない。

 彼女たちは、申し訳なさそうに私を見つめます、

「いえ、その申し訳ありません。気にせず続けてください」

 実は事件の後からリアの姿をちゃんと見ていません。ボイド元辺境伯が連れ込まれたあの部屋に、リアもいたような気がしたくらいですが、代わりのメイドたちが私の身なりを整えます。

 ただ、彼女が消息不明という訳ではありません。彼女から手紙を頂いています。そう、お別れの手紙を。

 私は髪をセットしてもらっている間、彼女から頂いた手紙をもう一度だけ手に取りたく、メイドにお願いして机の上からとって貰いました。

 白く綺麗な便せんに、彼女の綺麗な文字がしみ込んでいます。

『親愛なるマリーお嬢様。
 私はお嬢様に使えることができ、この九年間本当に幸せでした。
 最初はお嬢様と名前が似ていることから、私を愛称で呼ぶことになり、私にとって特別な呼び名を貴女に呼んでもらうことになりました。リア、という呼び名は十一年前になくなった私の婚約者が、私を呼ぶときに使う呼び名でした。
 彼は婚約者である私以上に妹を愛していたシスコンでした。しかしある日妹さんが消息不明になり、後日、悲惨な姿で発見されました。そして彼は人生に絶望し、後を追いました。
 今回、捕らえられたボイド元辺境伯の売買履歴に彼の妹の名前と、彼の妹を殺した相手の購入履歴が見つかりました。
 彼の妹を殺した相手は、数年前に捕まりましたが、牢獄で命を絶ち、詳細不明のまま事件は終わりました。
 今回、その報せを受けた私は、踏ん切りがつき、一度諦めた幸せな結婚生活を、もう一度目指してみようと思います。その為に、一度旅をしようと思います。お嬢様の元を離れる無礼をお許しください。
 貴女の従者、マリア・アハティサーリより』

 リア。いいえ、マリアさん。どうか幸せになってください。

 準備が済み、私は両親と共に馬車に乗り込みます。本日は両親込みでのご挨拶。ギルは既にバルツァー公爵に大まかな話は済んでいるようで、後は直接お会いすることで、全ての命運が決まります。

「お父さん、お母さん」

「マリー、公爵の前ではお父様お母様と呼びなさい」

「ふぇ!? あ、ごめんなさいお父様」

「いい子だ。お前なら大丈夫だ。安心しろ」

「ええ、私達のマリーが不合格を貰うなんて公爵相手でもひっぱたいてやるんだから。主人が」

「ええ!? 私がかい?」

 大丈夫。大丈夫。きっと大丈夫。ギルのお父様がどんな人だとしても、認めて貰う。

 マリアさんの手紙には追伸もあった。だからまずは私が幸せにならないと。

『追伸、私はお嬢様以上に幸せになるつもりです。ですので、乗り越えるべき壁を低くしないでください。ちゃんとバルツァー公爵夫人として、私の元にその名を轟かせてください。愛しています。マリー』

 全く、急な告白までつけてびっくりしましたよ。いえ、そういう意味ではないでしょうけど。

 マリアさん、いつかお互い幸せになってもう一度私の髪をセットしてください。
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