ポンコツ公爵令嬢は変人たちから愛されている

大鳳葵生

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第2章 公爵令嬢でもできること

9話 本当は君は水浸しだろうと可愛いと言ってあげるんだけどね

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 朝です。珍しく目が覚めても目の前に誰もいません。いえ、目が覚めたら誰かがいることの方が珍しいのですわ。

 ですが、ここ最近なんとなく、目覚めたらすぐ近くに変質者がいるような瞬間に立ちあっているような気がしてならないのです。その割合も少ないはずなのですが、こう、私が朝と感じ取る瞬間には、高確率でいらっしゃる印象なのです。

 呼び鈴を鳴らし、エレナが入室してきましたわ。朝の支度を済ませ、エレナにサロンに向かうようにと声をかけられましたわ。どうせグレイ様かヨハンネスのどちらかまたは両方がいるのでしょう。いえ、ヨハンネスの場合はサロン待機なんてしませんね。

 おそらく待っていると考えられる人物が王子とわかれば、本来緊張しながら入るものなのでしょうね。ですが、私から見たグレイ様は、幼馴染! 悪友! 悪戯っ子! 鬼畜! 変態! 以上! 閉店!! そんな感じなのですわ。

 はあ、王子様と出会うドキドキは、他国に期待するしかないのでしょうね。デークルーガ帝国には一応ユリエ様以外にもご兄弟がいらっしゃいます。従兄ですので出会うドキドキもあまり感じませんが、まあ良いでしょう。もう一つの隣国ジバジデオ王国は姫のみ。遠くの国の王子にでも思いをはせましょう。

 他にアルデマグラ公国近辺には、小さな国々はございますが、王子達は年が離れすぎていますのよね。若々しいことは良いことなのですが、私が嫁ぐには無理がありますね。

 無駄なことを考えていますと、サロンの扉の前にたどり着いてしまいましたわ。

「お待たせしました」

 相手は王族。悪友だろうが、変態だろうが礼儀は大事。公爵令嬢なのだからそれくらいはわきまえていますわ。

「待っていたよルー。僕の膝の上で良かったかな?」

「そこに花瓶がありますね。あの花瓶の中の水は、王子にかけるものですか?」

「いいえ、失敗してドレスを濡らすための水です」

 私が必ず失敗すると考えていますね。そこまで言われてしまったならば、やってあげましょう。本当に失敗するか良く見ておくことです。

 私は着替えるために一度サロンを退室しましたわ。

「ただいま戻りました」

「おかえり。花は大事にするものだよ? 今回は僕がちゃんと片付けておいたからね」

「王子殿下にこのようなことをさせてしまい、誠に申し訳ありません」

 さすがの私も、今回は自分が悪いって自覚しています。花瓶はもう一度きれいに飾られていましたわ。それグレイ様が飾られたのですか?

 ちょっとセンスください。

「じゃあ、お詫びにデートか婚約でもしてもらおうかな」

「デートでお願いします」

「もっと悩んでもいいんだけどな」

 婚約したらデートさせるでしょ貴方。わかっているのですよ。それにデートくらい何度でもして差し上げますわ。ですが、噂にならないようにしておきたいですわね。グレイ様とデートしているところなんて見られれば最後、それこそ私と婚約してくださる貴族がいなくなってしまいますわ。

「でもルーって中々出会いがないよね。いや、ない訳ではないけど、君が納得いく相手が現れないといえば良いのかな? とにかくルーは男運が悪い」

「そうですわね。さすがに我がベッケンシュタイン家とリンナンコスキ家では対立していますし婚約は難しいでしょう。他にはこちらから一方的に婚約することは簡単なのですが、どうも優良物件はすべて抑えられているような気がするのですよね。やはり他国に嫁ぐしかないのでしょうか」

「他国に行ってもいいけど、時間はほとんどないからね」

 そうでしたわ。あと百九十三日。多く見えなくもありませんがなんだかんだ言って婚活以外に面倒ごとが降りかかってきています。イサアークの件をカウントしてもここ数日間でできた婚活は一日だけ。このペースで上手くいくと考えるのは高望みですわね。もっと婚活できる日にちの頻度を増やさなければいけません。

 それとグレイ様。私って女は、女運も悪い自信がありますわ。

「それと一晩悩んだけど、君には騎士二人を王宮から派遣することにした。マルッティ・ガルータとマリア・アハティサーリ。マルッティは近衛騎士団の中でもベテランの凄腕騎士だ。ちなみに既婚者だ。マリアは女性騎士の中で君に一番年の近い女性だ。話も合うだろう」

「ありがとうございます」

 こればっかりは感謝しかありませんね。さり気無く既婚者の騎士を寄こしてきたことに対する文句は、心の中だけで留めておきましょう。

「二人が来るまでは僕が君を守るよ」

 グレイ様は真っすぐ私の瞳を見つめながらそう言ってきましたわ。本当に綺麗な顔をしている王子ですわ。私も綺麗な顔をしている公爵令嬢なので羨ましくもありませんが。

 どうやらマルッティの方は現在北方にある実家に休暇を取っているそうですわ。マリアの方は、ジバジデオ王国との国境警備に行っているそうですわ。忙しいのですね。

 二人に連絡がいくのと、二人がこちらに向かうまで急いでも三日かかるそうです。つまり三日間この悪戯変態鬼畜殿下……ではなく王子殿下と一緒にいるということですね。できるだけエレナやヨハンネスと一緒にいるようにしましょう。王子には常に猫をかぶってもらう環境を作るしかありません。

 私たちはサロンで向かい合いながら座っています。これくらいの距離があったとしても、二人きりであれば、いつ何をされるかわかりません。これでは、心臓がドキドキしてしまいます。こんな状況いつまでも耐えられませんわ。とっとと退室してしまいたいです。良いですよね。大丈夫ですよね。王子を置いていく公爵令嬢くらい何万も……公爵令嬢はそんなにいませんね。

「とりあえず今日は午後からデートだからとびっきり可愛い君を見せてね」

「え? 嫌です」

 何故わざわざグレイ様の為に頑張って可愛い服を着なければならないのですか。それに頑張って着飾っても、ついこの間ヨハンネス相手にやって失敗したばかりですわ。デートは良いでしょう。約束してしまいましたし、早く終わらせておくことに越したことはありませんわ。

「もし、可愛くなかったら……僕が納得いくまで着替え手伝ってあげるね」

「最高に可愛い衣装で臨ませていただきますわ」

 この変態鬼畜王子殿下ぁぁああ。あとで覚えておくといいです。そのような態度をし続けたことで私のような女性をみすみす逃すはめになるのですから。

「楽しみだよ」

 その楽しみと言いますのは、ダメ出しできることが楽しみってことで宜しいのでしょうか。悪寒で体の震えが止まりませんわ。ああ、本当にこの王子は何を考えているのでしょうか。

 私が恐怖の表情を浮かべていると、私の顔を見てはにこやかにしていらっしゃるグレイ様に、また余計に喜ばせてしまった事実に気付き、すぐに顔を背けて差し上げましたわ。小さな声で残念と仰っていた声が聞こえましたわ。やはり楽しまれていたのですね。変態です。イサアークよりは軽い変態です。

 どうやらデートは昼食から始まるそうなのです。それでしたら今から最高に可愛い恰好にならなければいけません。しかし、あの変態が納得行く可愛い恰好とはどのような恰好なのでしょうか?

 いえ、こればっかりは悩んでも仕方ありません。エレナに頑張ってもらいましょう。

 エレナを呼出し、事情を説明しますと、大笑いされてしまいましたわ。屈辱ですわ屈辱ですわ。

 エレナにコーディネートしてもらい、私は白いブラウスに青い薄めのベスト。黒いロングスカートを穿きましたわ。さらに白い髪飾りをつけて貰いましたわ。

「どうかしら?」

 エレナに尋ねますと、エレナは二人きりの時の口調で返事をしてくれましたわ。

「似合っているぜ、ルクレシア。これなら王子もイチコロだ」

 本当にイチコロでしたら、どんなに良かったことでしょうか。とにかく、私にはどうしよもありません。エレナを信じましょう。それに、今の私は十分に可愛いですわ。大丈夫です。私は可愛い。私は可愛い。私は可愛い。さあ、ぎゃふんと言わせて差し上げますわ、グレイ様!

 ……何故でしょう、目的が変わっている気がしますわ。
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