ポンコツ公爵令嬢は変人たちから愛されている

大鳳葵生

文字の大きさ
46 / 102
第3章 ポンコツしかできないこと

2話 帰ってきた王都と新しい馬車

しおりを挟む
 ベッケンシュタイン領から王都までの間は、行きと違い特に障害なく到着することができましたわ。三日も費やしてしまうのがとてもネックなのですが、仕方ありませんね。

 王都にあるベッケンシュタイン家のお屋敷に到着しますと、お父様とお兄様とお義姉様が出迎えてくださりましたわ。
  
  お母様はいらっしゃいませんね。今日は来てくださらないのですね。どちらかと言えば現れる方が珍しい方ですので構いませんけど。

 最初に私に突進してきましたのは当然お義姉様でした。いえ、最初と言いますか、お義姉様以外は突進される方などいらっしゃいませんのですが。

「うわあ僕のルクレシアァ! また危険な目にあったんだってね! 僕が領地に謹慎させたばっかりに! ごめんよぉ!!」

「あ、はいお義姉様のルクレシアです。では、王都に滞在してお義姉様とご一緒でしたら安全なのでしょうか?」

「勿論さぁ! 行きたい場所はいつでも言ってね! 僕が必ず護るから!」

 ジェスカも加わって護衛が四人もいらっしゃいますが、お義姉様は果たしてお強いのでしょうか? いえ、お一人で放浪の旅をされる方ですし、無人島で家を建築される方ですし、むしろ他の方々より安心感を……。

 そのあとは屋敷にあるお部屋でゆっくりさせて頂きますが、ジェスカの部屋を用意する必要がありますね。

「ジェスカの部屋なのですが、使用人部屋に今空きはあるのかしら?」

「……新しい護衛の部屋……まだ……増築中」

 私の質問に屋敷内の様子を把握しているお兄様がお答えしましたわ。基本的にお父様は領地経営が主体になっており、家のことはほとんどお兄様に引き継がれています。

「ないのですね。ではヨハンネスの部屋としばらく相部屋でお願い」

「待ってください! お嬢様!」

 当然、ジェスカが嫌いなヨハンネスがすぐに反応致しましたわ。

「少しは仲良くしてください」

「うっ…………わかりました」

 ヨハンネスとジェスカは不満そうですが、仲良くできないのであれば、どちらかにやめて頂かなければいかないのですよね。一応グレイ様の紹介である以上、ヨハンネスを追い出すという選択肢はあまりありませんが、この二人の喧嘩の原因はほぼヨハンネスですわ。

「お嬢様、宜しければ私が未婚の男性と相部屋でも構いませんが?」

 澄ました表情で、控えめに挙手をするマリア。

「……それは未婚の男性の使用人が、退職に追い込まれかねないので却下しますわ」

 こういう時のマリアの積極性は早いのですよね。私が恋愛結婚一筋なのですが、彼女は結婚に何を求めているのか一度しっかりと話し合ってみたいですわ。

「とにかく! 増築が終わるまでヨハンネスとジェスカが相部屋! これは決定事項です。異論があるのであればすぐに申し出なさい! 即解雇しますわ!!」

 そういわれてしまい、ヨハンネスとジェスカとマリアは黙ってしまいましたわ。何故マリアあなたもこの混沌に加わってしまったのかしら。
  
  マルッティだけが人格者なのですよね。本当に私の周りの人間なのかしから? ……ジェスカも喧嘩を吹っ掛けられなければ性格はまともですけどね。…………最近まともな人間などいないのではと思う様になってしましましたわ。

「ああ、そういえば王子殿下から馬車を頂いたよ」

 お父様が思い出したかのようにぽつりと一言。失ったと報告を受けてから完成まで早すぎませんか? そしてグレイ様のことですからまた何か仕掛けがあるはずですわ。

「すぐ調べましょう」

 真新しい馬車は、座席も広くなっており、白くて美しい馬車でした。

「床下収納あり! 基本みたいにしないでください! いえ、これで生き延びましたのですけど。他には…………座席は案の定開きますのね。ここにも私入りそうですわね。反対側の座席も当然開きますのよね? ってうぎゃああああああああ!?」

「酷いなぁルー。令嬢が出すとは思えない声をあげるほど僕が変かい?」

 収納スペースにはグレイ様が横たわっていましたわ。何を考えていますの? 一国の王子ですよね? お暇ですの? 馬鹿ですの? 勿論、変ですわ。

「あ、そうだ。グレイ様にお会いしたかったのです」

「え? ルー、それはどういう……」

 グレイ様は珍しく驚かれた表情をしています。そこまで驚くことを申し上げましたでしょうか? まあ、良いですわ。

「グレイ様って私のこと異性としてお好きなのですか?」

「…………え?」

 再び驚かれてしまいましたわ。そこまで変なことを申し上げているつもりはないのですが、グレイ様には何を言っているんだといいたそうな雰囲気を感じます。

「こういう形は望んでいなかったんだけどね。君にはどうせ伝わらないと高を括っていたのが失敗したのかな。でもダメ。僕の口からいうタイミングじゃない」

 グレイ様は上体を起こし、私と目線の高さを合わせてきましたわ。顔の距離がとても近いです。近すぎますわ。

「…………そうですか。こちらも理解させて頂きましたわ。あなたのことですから生誕祭ギリギリに告げるのでしょう? それまで私に婚約者ができないと良いですね」

「さすがにバレちゃったかぁ。勿論僕と婚約してもいいんだよ?」

「ご自分から懇願なさりましたら考えてあげますわ」

「そう、じゃあまだ先になるかな」

 そうですか。やはり以前みたあの夢は、私が無意識に感じ取っている私への好意を持った殿方たちでしたのね。となるとあと一人いらっしゃるということなのでしょうか。それともあくまであれは夢。私の願望の具現化とでもいうのでしょうか。

「とにかく、私はこれからも私の好きなようにさせて頂きますわ。貴方も好きになさい。それでもし半年後私に婚約者が見つからなければ素直に従ってあげますわ。気付きましたの。私貴方のこと結婚できないほど嫌でないと思うのです」

「それでも僕をすぐに選ばない理由は?」

「…………迷っていますの。ほら、私自ら動きすぎて引っ掻き回した人たちって少なくないでしょう。その中で出会った人たちから向けられた行為も、決して嘘ではございません」

「そう。これはもっと早く君に手を伸ばすべきだったのは、僕だったのかもしれないね」

「過ぎたことを仰らないでくださいませ。あの時ああしていればという考えは間違っていますわ。その結果グレイ様の考えるその部分だけが変わるなんてことはありませんのよ。私もたまにすごく弱気になることがありました。後悔もしました。ですが、今は変わらないのです。あの時ああしていればなどではなく、これからこうすればを語ってくださいませ」

「驚いた。君はとても成長したようだね」

「……? 自分ではどう成長したかわかりかねますが、そうですね、エレナの次に私のことを良く分かっているあなたがいうのならそうなのでしょう」

 ここ最近は波乱万丈過ぎましたからね。私が知らない間に成長する機会もございましたのでしょう。特にルーツィアの件は私にとって大きな影響になったでしょう。ですが、私はこの道を進むだけ。後戻りできない道だからこそ、足踏みを踏めないのです。

「とりあえずその収納スペースから出てきたらどうですか?」

「それもそうだね。もう少しこの距離で君を見つめていたかったけど。精神面も強くなったのかな? この距離にお互いの顔があっても一切表情を変えなくなったね。せめて赤面してくれれば可愛かったのだけど。ああ、勿論その顔も美しくて好きだよ」

「なっ!? もういいです。馬車はありがたく頂きます。とっとと王宮におかえりくださいませ!」

「あ、赤面したね。さてと、今日はそうさせて貰うよ。また来るね」

「半年ほど顔を見なくても良いのですよ?」

「あいからわずひどいなぁ」

 グレイ様は愛馬に跨り、すぐに王宮に帰られてしまいましたわ。さて、頂いた馬車なのですが、まだ調べたら何か知らない機能でも隠しもっていないでしょうか? いえ、後日にしましょう。もうゆっくり休みたいですわ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた

鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。 幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。 焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。 このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。 エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。 「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」 「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」 「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」 ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。 ※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。 ※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

処理中です...