ポンコツ公爵令嬢は変人たちから愛されている

大鳳葵生

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第3章 ポンコツしかできないこと

17話 絶技闇鍾響狼拳 ~史上最強の義姉~

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===sideオルガ===

 僕とメルヒオール君は、現在ルバスラーク広場奥を拠点とする敵の補給休息所に向かう。都市の教会がそれを担っているようだ。
  
「馬移動で良かったのですか? そのルクレシア様は馬に乗れないし」

「ま! 僕の場合は見た目含めて似ているからね。一度でも僕のルクレシアの肖像画を見たことがある人なら見間違うさ」

 ただ、瞳の色で気付くものも現れるかもしれないけどね。だからなるべく遠目にいることに越したことはないよね。
  
 そろそろ頃合いだろう。ベッケンシュタイン家の紋章の記された布が周辺のデークルーガ兵に見えるようにして馬で周辺を走り回った。
  
「なんだあれは。アルデマグラ公国の人間か?」

「待てあれはベッケンシュタイン家の紋章。それにあの金髪の女。まさかルクレシア様じゃないか?」

 かかった!? ちょろいね。じゃあ作戦開始!
  
「逃げるよメルヒオール」

「はい! えっとルクレシア様!!」

「おい! 今ルクレシア様と呼んだぞ! 追え!!」

 デークルーガ兵ちょっとちょろすぎじゃないかな? まあいいや。

 数名のデークルーガ兵を引き付けることに
成功した僕らは、それらを別の味方の所と鉢合わせしないように逃げ出す。

 しばらく街中を走っていると、どうやら回り込まれてしまったようだ。さてと作戦第一段階終了。第二段階応戦開始。
  
「追ってきた連中を頼むよ」

「はい。ルクレシア様!」

 僕はメルヒオールに背中を預けながら、回り込んできた連中に向かって構える。ドレスのスカートを割いて動きやすくしたら完璧。
  
 デークルーガ兵が完全に困惑しているタイミングで、僕は一人の兵士に、渾身の掌底を打ち込んだ。
  
 鎧越しに打ち込まれたものの、衝撃が響き腹部に振動を送り込むことに成功したようだ。
  
 そのまま鎧内で反響し、男は絶え間なくダメージを受け続けながら、その場に膝から崩れ落ちた。
  
「な!? 何を?」

「ん? ああ、ケンポーさ」

「クェンプオ? ブゴォッ!?」

 次はその近くにいた男の腕を引っ張り、上体が前に倒れ込んだ所で鳩尾付近に膝。背中に肘を押し当て挟み込んだ。
  
 膝は鎧のプレートをへこませるまではいかなかったものの、背中から肘で押し込んだおかげか、何かしらの鎧パーツが腹部を押し込んだのだろう。
  
「こっちはドレスだぜ? 鎧なんか着こまないでくれよな?」

「はっ! あの女! 目が赤いぞ! ルクレシア様じゃない! と、いうことは無傷で捕縛する必要がないということだな」

 気付いたようだね。でも、もう遅いよ。
  
 後ろで戦っているメルヒオールの方は、はじめからターゲット外だったからか、既に何人も斬りかかっていたが、それらを上手い具合にかわしているようだ。
  
 彼あんまり強くないんだね。負けてはいないけど押せてもいない。
  
 早めに加勢に行った方がよさそうだ。その為には、こいつらを蹴散らそう。
  
 残り人数はあまり多くなさそうだ。けど、奥にいる一人は強そうだね。
  
「ねえねえ? 奥のお兄さん。君を倒したら引いてくれないかい?」

「ほう? 俺をか?」

 男は体格の割には小さい剣……いや、一般サイズの剣だなあれ。とにかくそれを抜き、僕に剣先を向けた。
  
「あんたが何者か知らねえが武器も防具もないってのに対した勇気だ。嫁に欲しい」

「おいおい。アルデマグラ公国と全面戦争を更に悪化させたいのかい? 僕は、タルヴェラ侯爵令嬢及び次期ベッケンシュタイン公爵夫人オルガ・カレビィ・タルヴェラだぞ?」

「そうか。そりゃ残念。俺はロドルフス。デークルーガで一番の固い防御を得意とする男だ」

 その剣で? いや、まあつまりこいつに攻撃が通れば、僕の攻撃は等しくデークルーガ兵に通用する。そういうことだろ?

「君の名前、覚えておくよ。この街にいる間はね」

「そうかよ」

 男は剣を大振りで振り下ろす。これで鉄壁自慢? 本気か? 隙だらけじゃないか。罠? それとも馬鹿?
  
 鈍い動きで振り上げた腕の下を潜り抜け、懐に潜り込んだ。打ち込む! そう思った瞬間だった。脳天に重い一撃。
  
「うっごぉ!? いったぁあああああ!?」

 どうやら振り上げた腕を、そのまま振り下ろすのではなく、肘で頭を強く打たれたらしい。
  
 痛い痛すぎる! なんだそれ! 僕は頭をさすりながら間合いを取ろうとすると、今度は剣が襲ってきた。
  
「体柔らかすぎかよ」

 こいつの防御力の正体は、筋肉質の体格の良さじゃない。その見た目に反する柔軟さによる変則的にすら感じるカウンター防御だ。
  
 剣が体相応の大きさじゃないのも納得。はじめからそれらで防御するのではない。肉体を相手にぶつけることで相手の攻撃を受けるのではなく、攻撃そのものをさせない。
  
 柔軟な動きについていくために大きい剣だとやりづらい。そういうことだね。
  
「けほっ。次は後れを取らないよ?」

「そう簡単に攻略できると思うな?」

 とっとと終わらせよう。僕がシショーから教わったケンポー。闇鐘響狼拳《あんしょうきょうろうけん》は、どんな盾をも砕く最強の牙がある。
  
 問題は今度の相手は攻撃を防ぐタイプじゃない所なんだけどね。
  
「まあいい。またこっちの打撃で終わりだ」

 えっと……名前出てこないや。大男は剣を突きの姿勢で構える。さっきとは別の構えで来たね。
  
 隙はあまり感じない。同じ戦法では来ないか。
  
 僕に突きを防ぐ手段は当然ない。丸腰にドレス。せめて鎖帷子でも着こんでくれば良かったかな?
  
 防げないならばかわす。問題は相手の体が柔らかいこと。軌道変更も想定しておかないとまずいよね。
  
 僕は踏み込んだ足の踵のすぐ後ろに、もう片方の足を寄せる。
  
「行くよ?」

「ああ、やってみろってんだ」

「それじゃ遠慮なく」

 私は寄せ足のまま大男に接近し、大男は突きを繰り出してきた。
  
 その時の踏み込みの足から左側の方に即座によけたが、予想通り腕を上手い具合に曲げて剣を薙ぎ払ってくる。
  
 想像より少し速いかな?
  
 私は剣先で斬られない場所。つまり大男の腕のあたる間合いまで接近すると、今度はそのまま太い腕で私を殴打しようとする。
  
 私はその殴打を甘んじて受けた。両掌でその腕を受けたのだ。
  
「うごっ……腕が痺れ……なんだこれ?」
  
「あーあ、肉体で僕の攻撃を受けちゃだめだよ? 本来なら盾にぶつけてその衝撃を人体に送り付ける技なんだから。さ!」

 僕はそのまま腕が完全に麻痺している大男の咽喉に掌底を叩きつけた。
  
「おんどりゃああああああああ!!」
  
 大男はまともな声を発することができずにその場に倒れ込む。
  
 ドサッという音を鳴らすと周りにいたデークルーガ兵たちは腰を抜かしてしまったようだ。
  
 逃げ出す奴らがいたら大変だったからよかったけどね。
  
  メルヒオールの様子をみると、向こうは特に強い人がいなかったようでなんとかその場に追ってきた兵士たちを拘束していたようだ。
  
「僕らの勝ちだね」

 僕とメルヒオールはハイタッチをする。

「はい! 敵兵の主力を仕留めるなんて……え? 騎士になりませんか?」

「エリオットが許してくれたらね。と言いたいけど僕も騎士になる気はないかな」

 騎士になったら放浪するのも一苦労だろうしね。でもそろそろ放浪は卒業しないとだよね。
  
 いい加減僕もベッケンシュタイン公爵夫人の自覚を持たないとか。
  
 なんにせよ。大切な妹の未来を護ってからだけどね。
  
 その場にいたデークルーガ兵を拘束し、用意し、用意していた馬車で連行。
  
 みんなは無事だろうか。特に僕のルクレシアの所は不安だ。
  
 一応現存戦力最強の第一騎士団副団長のマルッティだから大丈夫なはずだろうけど。
  
「とりあえず集合場所に戻ろうか」

 無事でいてくれ僕のルクレシア。
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