ポンコツ公爵令嬢は変人たちから愛されている

大鳳葵生

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第3章 ポンコツしかできないこと

34話 ポンコツにしかできないこと

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 だから決めました。誰がなんと言おうと、私のできることは変わりません。

 グレイ様が教えてくださった私が唯一できることは、チャンスは一度だけと言われています。

「確実な隙が生じるまで君は後ろにいて欲しい」

「わかりました」

 グレイ様が剣を構え、私を後ろに下げます。かなり危険なこの状況で、それでも私の前に立ってくださった自国の王子の背中は、子供の頃から追っていた少年の背中にはなかったものを感じます。

「外交問題でごぜぇますよ? ってとこが普通のリアクションでごぜぇますが。お前は他の奴より楽しめるでごぜぇますか!?」

 大剣を持ち上げたアンジェリカは、その勢いで周囲の大地が砂埃を上げる。私の立っているところまで砂埃にまみれ、一瞬だけ目を閉じてしまいました。

「ルー!!」

 私はグレイ様のお声に反応し、そちらを振り向こうとした瞬間に、金属の塊が視界いっぱいに広がっていました。

「ひぎゃああああああああ!?」

 もはや普段出すことのない奇声を上げますと、アンジェリカが一瞬だけ固まり、後ずさりました。

 あら?

「虫の知らせでしたが、杞憂でごぜぇましたね」

 何かを感じ取ったのでしょうか。アンジェリカは一度私に振り下ろそうとした剣をもう一度構え直し、もう一度こちらに突っ込んで来ようとするところ、グレイ様が間に入ります。

「骨、無事ですまねぇでごぜぇますよ?」

 アンジェリカは、グレイ様の剣を拳で殴りかかろうとします。よく見れば、握り拳にはチェーンが巻かれていて、剣を受けヒールの高いハイヒールでグレイ様の腹部を狙いに上段蹴りを繰り出しました。

 本当に六十九歳のおばあちゃん?

 人間離れした女王の動きに対し、グレイ様もギリギリで応戦。

 女王の足を掴み、そのまま女王の蹴りの勢いを利用し後方に投げ飛ばし、猿園の鉄柵にたたきつけようとしました。

 猿園の鉄柵にハイヒールをひっかけた女王はそのまま鉄柵の上で体制を立て直し、地面に大剣を刺し、鉄柵を蹴り、柄を軸にして回し蹴りをしてグレイ様の首の狙いました。

 グレイ様はそれをとっさに左腕でガードしましたが、そのまま吹っ飛ばされてしまいました。

 しかし、吹っ飛んだ先に赤い髪の少女が立ち上がりました。

「エミリアさん!」

 グレイ様と衝突したエミリアさんは、そのままグレイ様の下敷きになり、グレイ様はすぐに立ち上がり、間髪入れずに飛び込んできたアンジェリカの攻撃に備えます。

 私は倒れ込んだエミリアさんをグレイ様たちから引き離そうと引きずりますと、プルプルと震える足でエミリアさんも少しずつ進んでくださりました。

「どうしてあんな無茶を?」

「ハァ……ハァッお姉様が、……笑ってくださる未来は、この先にあるのですよね?」

「あなた、そういう似合わないことを言う人じゃないでしょう?」

 彼女をなるべく隅で寝かせてあげますと、もう一度グレイ様とアンジェリカの方を確認しました。

 お互い決定打を確実に防ぎ、少量のダメージを積み重ねている様子。

 しかし、グレイ様からアンジェリカに向けての攻撃はほぼ防がれ、対するアンジェリカからの攻撃は、防いでいるにも関わらず大ダメージ。

 致命傷にならないだけマシと考えるべきでしょうか。

 そうです! もう一人戦力が必要ですよね。私は近くでうずくまっているジェスカの頬をビンタします。

 目が覚めないジェスカ。一人でも多くの戦力を手に入れなけばならない時と言いますのに。

 そう思った時でした。吹いたそよ風が私の前髪を撫で、私は誰かが近づいてくることに気が付きました。

 金髪に紫紺の瞳。女性のような顔をした騎士と、赤毛に灰色の瞳をした騎士。

「全く、騎士たちが数人がかりでジバジデオ王国に向かうものですから。もしやと思い後をつけてきて正解でしたよお嬢様」

「一応俺はデークルーガ帝国行き賛成したっていうのに置いてけぼりなんてひどいですよルクレシア様」

「ヨハンネス、メルヒオール様」

 二人の騎士の登場をしてもうろたえる様子のないアンジェリカ。

 そうでした。アンジェリカの本当の目的はヨハン・フランスワの子孫を斬ること。ヨハンネスがフランスワ家の人間とばれる訳には行きません。

 声に出して教えることもできず、どうしましょうかと考えていますと、ヨハンネスがとんでもないことを口走りました。

「アンジェリカ・アウグスタ・ジバジデオ。我が名はユーハン・フランスワ。ヨハン・フランスワの孫だ」

 ご自分で名乗り上げてどうしますの!?

「いいでごぜぇますね。最高でごぜぇますよ
。その首を落として差し上げるでごぜぇます!」

 アンジェリカは、先ほどとは比べ物にならない速度でヨハンネスに飛び込む。ヨハンネスは獣のような突進に対し、突きの姿勢をとると、アンジェリカはそれに気付き大剣を大地に振り下ろし、砂埃を上げました。

 また砂埃?

 もしやまた自分の方に来るのではと思い警戒をしましたが、それも杞憂。視界とはまた別のどこかで金属による轟音。

 こんな音が出せるのはアンジェリカ他なりません。

 砂埃が消え、視界が元通りになりますと、ヨハンネスとメルヒオール様が二人がかりで大剣を受け止めていました。

「だが、これならどうでごぜぇますか?」

 受け止められた大剣に更に力をこめ、つばぜり合いなどさせるはずもなくヨハンネスとメルヒオール様を徐々に後ろに押し込む。

 しかし、現在真後ろには剣を構えたグレイ様がいらっしゃいました。

 これはもしや、私が何もしなくてもいけるのではないでしょうか。

 グレイ様が一瞬で間合いを詰めますと、アンジェリカはそれに気付き大剣を大振りに振り回しました。

 薙ぎ払いの範囲は広く、ヨハンネスはバックステップ。メルヒオール様は一瞬で屈み難を逃れましたが、グレイ様は突進している最中でした。あとには引けません。

 そうだ。今でしたら三人がかりになっていますね。私も準備しましょう。

 エミリアさんに持って貰っていた荷物の中から黒いケースを取り出しました。

 グレイ様達は三人がかりでアンジェリカと戦いつつも、防戦一方。先ほどまでの一対一が手加減だったということがわかります。

 本当に化け物の中の化け物。

「ルー! 今だ!」

 三人がかりの戦いで、アンジェリカが一瞬大きく振りかぶったタイミングを狙いました。

 私はひそかにスタンバイをしていたものを構えます。

「ええい! それではグレイ様! お望み通り恥をかかせて頂きます!」

 ギュオン! ギュイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!

 それは決してヴァイオリンから出てはいけない音。

 いつか誰かが言いました。その音は誰かの心を壊す。耳が弾ける。脳が沸騰する。散々言われた罵倒。

 私唯一の武器は、私が恥だと思っていたものでした。自らが何もできないと自覚してからは、できれば人前では一生封印するつもりでしたそれは、自らの恥と引き換えに私のワガママを通す力に変わってくださりますでしょうか。

 いいえ、自分の恥なぞどうでもいいです。私が大切だと思ったものを護る為に、泥を被ることをためらうような人間が、この状況から明日になって笑うことができるでしょうか。いいえ、できません!

 だから今だけ、へたくそを! 不器用を利用してでも乗り越えます!!

 ポンコツにしかできない私にしかできない!

 だからここまで来ました!

「ひびぃけぇええ!!」

「ぎゃあああああああああああああああああ!?」

 アンジェリカは両手で耳を塞ぎ、その場にしゃがみ込みました。想像以上のダメージに涙すら浮かべています。

 先ほど、令嬢とは思えない奇声を上げてしまった時も、やはり反応したのは高い音のようです。

「おまっ! おまえ! お前でごぜぇますか!?」

 アンジェリカは大剣を拾うことなくそのまま私に向かって突進をしに来ましたが、私はもう一度ヴァイオリンを弾きますと、アンジェリカは歯を食いしばりギリギリ耐えようとします。

 しかし、アンジェリカが私に襲い掛かる前にグレイ様とヨハンネス、メルヒオール様が彼女を押さえつけました。

「ぐぁっ……ごんのぉっ。ゆるさ、いや、ジバジデオ王国の掟でごぜぇます。くそがぁっ! 今は私の負けで、ごぜぇますよ」

 肩で息をするアンジェリカをそのままエレナがあらかじめ用意していた眠り薬で眠らせて時間稼ぎにしかなりませんが猿園の中に頬り込む。

「勝ちましたの?」

「多分そうだねルー」

「四人がかり。それもルクレシア様の想定外の参戦による不意打ちですか」

「これはとても騎士としてはよくない勝ち方ですね」

 三人の方々が笑いながら向かい合います。今更ですがここに並んだ三人。全員私の事好きだと仰った方々。修羅場になる前に縛り上げられた皆様を開放して差し上げましょう。

「痛い痛いですお嬢様!!」

「あ? あら?」

 手前にいたマリアから解放しようとしましたが、マリアのロープはよりきつく縛り上げられてしまいました。

 そんな瞬間でした。大きな轟音。一体何の音でしょうか?

 振り向けば、薬で眠らせたはずのアンジェリカが、猿園の鉄柵を破壊していました。

「そんなっ」

「こんなことをする必要はねぇでごぜぇますよ。私はお前に負けたでごぜぇます。本来なら王位を譲ることですが、王位継承権のないお前にはできねぇでごぜぇます」

 アンジェリカは壊した鉄柵を投げ捨てその場に座り込みます。

 え?

 私に負けた?

「好きにするといいでごぜぇます。ジバジデオ王国はしばらくアルデマグラ猿どもには手を出すつもりはないでごぜぇますよ」

 そういったアンジェリカは、ヨハンネスの方をチラッと見ますが、剣を構えることなどなく中庭を後にしようとしました。

 終わった?

「ちょっと待って! お兄様は!」

「ああ、そうでごぜぇましたね」

 そういってアンジェリカがこちらに振り向こうとした瞬間でした。ヒュンと言う音と同時に、一本の矢がアンジェリカの胸部を打ち抜きました。
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