ポンコツ公爵令嬢は変人たちから愛されている

大鳳葵生

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終章 有史以前から人々が紡いできたこと

6話 天啓返し

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 ユリエが勝負に乗ると聞き、私達は一度司祭様の家に戻ることが許されました。

 とうぜん、途中でエディータと合流し回収もしています。

「どうして僕らは兵たちに襲われたんだい? 普通に待ち構えているなら、兵たちを使って邪魔してくる必要はあったのかな?」

 城から出ていく最中、お義姉様が当然の疑問を口にします。

「簡単なことです。私達だけがくるとわかっていた風に、部屋にお茶を用意する為の時間稼ぎ。つまり、はじめから通すつもりで兵たちを配置していたのですよ」

 つまり兵たちはジバジデオ王国の姫に襲われて負けるためだけにいたのよね。可哀そうなこと。

「つまりお姉様、ここまで私たちが無事にこれたのも、そういう風に見せるためですか?」

「違うわ。ユリエは私達の行動を予測できなかったから、予測していたと見えるように、わざと城内に入れるようにしたのよ」

 エミリアさんはどういう意味といった表情をされていますが、エディータが付け足す様に喋り始めました。

「なるほど、王都に私達が到着して初めてデークルーガの姫は私達に気付いた。天啓で把握しているならその前に捕らえられた。捉えなかったと言うことは、あえて招き入れましたという形に見えるようにしたってことですね」

「あら? 頭の中まで筋肉かと思いました」

「これでも王族です。筋肉と知性は備えています」

「結局その頭の中は筋肉なのね」

「全身が筋肉ですよ?」

「エディータ。それが人よ」

 さて、それでは明日が楽しみですね。……お兄様、無口すぎない?

 お兄様は、お義姉様の隣りをぴったり歩いています。それはそれで見ていて素敵なのですが、やはり兄のコミュニケーション能力については少々心配になりますね。

 司祭様のおうちに戻りますと、既にグレイ様達は戻られていましたが、メルヒオール様が見当たりません。

「メルヒオール様はどちらに?」

「あー、彼なら趣味かな?」

「趣味?」

 何故でしょう。とてつもなく悪寒がするのですが、まあ関わらなければ大丈夫でしょう。まさか常識人枠私だけなのでしょうか。

 関わらないと決めた私は、さっとベッドに潜り込み、ユリエ教が崩壊する明日を願ってぐっすりと眠りにつきました。

 そして翌朝。グレイ様の生誕祭まで残り九十三日。刻々と迫るリミットなど気にせず、大いに時間を浪費しています。

 ですが、それも彼女との因縁を終わらせるために必要なこと。

 朝の日差しが、温かさと共に私に降り注ぎます。やはりこれしか考えられませんね。

 私とグレイ様とヨハンネスとメルヒオール様とマリア。今日はこのメンバーでユリエの待っている大広場に向かいました。

 あ、司祭様もいます。

「お待ちしておりました。ルーちゃん。ご一行の皆様《げかいじん》」

 広場にはユリエと、証人として集められた多くの帝国民たち。そしてユリエの隣りにたたずむメイド服を着た女性。オーロフ、もといヴィクトーリア。

「随分な挨拶ね。私も皆様に含んで欲しかったのですが」

「いえ、ルーちゃんは帝国民《てんし》たちより格上。皆様《げかいじん》に含めることはできません」

「そう」

「あら? ああ、そうですか。何やら無駄な準備の為に、エリオットさんや昨日の皆様《げかいじん》は別のところにいらっしゃるのですね」

 兄は一応下界人じゃないのですね。少し安心しました。私達ベッケンシュタイン家は下界人に含まれない。

 そう、もし我が天使ミシェーラのことを下界人呼ばわりした際は、泣いて謝っても許さないくらいビンタしてあげるつもりでした。

「それではどのような奇跡を見せてくださるのでしょうか?」

「構いませんよ。付いて来てください」

 ユリエについていきますと、そこには白く高い塔がありました。三階ほどある屋敷より高い位置に小窓があります。

「ここですか?」

「あの塔に登った神子《みこ》が、見事ここで呟いたルーちゃんの言葉を言い当てましょう。それだけで不満でしたら、皆様《げかいじん》の呟きも聞きますよ?」

「問題ないわ。やって頂戴」

 ユリエは塔に登り、塔の窓から顔をひょっこり出してきました。完全に登り切ったようです。

 塔にいる以上、私の声は聞こえないはずですが、さてどのように拾うのか。見せて頂きましょうか。

 さて、天啓《しょけい》開始です。

「私は高貴。私は高貴。私は高貴。私は高貴。私は高貴」

「ルーはポンコツ」

「お嬢様はその、えっと芯の強い方です」

「ルクレシア様は気高く美しい方です」

「私は結婚したいです」

 なにこの人たちの呟き。とりあえずグレイ様とマリアは本当に黙って。ヨハンネスとメルヒオール様は私を褒めたのでオッケーです。

 そしてユリエがしばらく塔の上で待機。まだ降りてこないのかしら?

 もし、まだ私たちの言葉を受信中というのでしたら、私の推測通りと考えてよさそうですね。

 しばらくしてユリエが塔から降りてきました。受信が終わったようです。

「おかえりなさい」

「ええ。ただいま戻りました」

「天啓の結果は?」

「私は高貴。私は高貴。私は高貴。私は高貴。私は高貴。ルーはポンコツ。お嬢様はその、えっと芯の強い方です。ルクレシア様は気高く美しい方です。私は結婚したいです」

 間違いなく正解。完璧な回答。

「さてこれでルーちゃんは神子《みこ》のことを信じてくださりましたね」

 ユリエが私に向かって手を差し伸べてきましたが、私はそれを振り払いました。状況が理解できていないユリエ。

「まだです。さきほどの行為が奇跡なのか。誰でもできるのことなのか証明すべきだと思います。だから今度は奇跡を起こせない私があなたの言う天啓を披露しましょう」

 さて、処刑執行《てんけいがえし》をさせて頂きます。

 早速塔を登り始める私。さて、休憩しても良いでしょうか。

 まだ途中のような気がしますが、もう登れる気がしません。息を切らして階段に座り込みました。すると、すぐ後ろに誰かがいらっしゃいました。

「ストーキングですか」

「いやぁ、ルーのことだから階段登れないよねって思ってね。一緒に登ろうか?」

「……そうですね。それでは早く抱っこしてください」

「やけに素直だね」

「自国の王子を拒む令嬢はいません」

 そういいますと、グレイ様は深くため息をはいてから私を横抱きに抱えました。

 今、ここでグレイ様に抱えられているのは、私がお父様に無理やりベッケンシュタイン家の令嬢にされたからなのですよね。

 この道は間違いだらけの道だから、複雑に絡み合ったから、私たちは今ここにいるのですよね。

 塔の小窓まで到着し、グレイ様に支えて貰いながら小窓から顔を出します。

 たっか! 怖い怖い怖い怖い怖い。人類は高い塔を作ってはいけません。高貴な人は既に高いので高い場所に行ってはいけません。

「準備完了です!!」

 一応大きめの声で下に伝えますと、ユリエはにっこり笑っています。

 そしてユリエの呟きが始まったようです。断続するような光が、私の視界に入り込みました。

 一瞬で呟きが完了。はじめてにしてはうまくできたと思います。

 それよりもユリエの呟き。想定していないことをつぶやかれてしまいましたね。ヨハンネスやメルヒオール様も驚いている様子。

 私はすぐ下に降りて……グレイ様にまた運んで頂き広場に戻りました。

「戻ったわ」

「答え合わせと行きましょうか」

 ユリエは私に少々の不信感を抱きながら、私の言葉を待ちました。

「東方人の村を焼いた犯人を知っている。これは本当の事かしら?」

「本当に天啓を扱えているみたいですね」

 私が天啓を使い、それをユリエが大衆の前で認めた。どよめきが生じましたがユリエはもうあきらめた表情をしています。

「トリックをばらされてしまえば、神子《みこ》は逆賊ですね」

 私とグレイ様にしか聞こえない距離で、ユリエは呟きました。

「まだ間に合うわ。天啓によって私たちは結ばれるべきではないと受信した。そういいなさい」

「念のため、ルーちゃん。天啓のトリックを別室で説明して貰っても良いですか。グレイ様も付いて来てください。もう大きな態度はできませんね。神子《みこ》、いえ私はあなたと対等な人間の王族ですから」

 ユリエが自らを私といい、グレイ様と対等と認めました。どうやら頭のおかしい子ではなく、天啓というものにすがったただのか弱い少女だったようです。

「ではこちらに」

 塔を指さし、ヨハンネスとメルヒオール様とマリアには塔の前にて護衛をお願いしました。

「話しましょうか。あなたの天啓の正体。光ですよね?」

「ええ、ルーちゃんの言う通り、光です」

 どんなに遠い距離でも、光なら見えます。真夜中に火の光が遠くまで見えるように、太陽や星々の光が地上に降り注ぐように。

「光のパターンで文字を形成し、それを遠方にいる諜報員となる兵士や帝国民。またはデークルーガ側の人間で連絡を取り合っているのですよね?」

「正解です」

 それに気付いた私は昨晩の間にグレイ様達に鏡などの用意や、光の文字のパターンを作成して頂きました。

 そしてエミリアさん達を遠方に配置し、ユリエの呟きに合わせ、マリアが光を発信。その光を遠方にいるエミリアさんたちが塔から首を出している私に光を届けました。

 これが私の使った天啓です。

「何故あのタイミングでヴィクトーリアをデークルーガ城に戻したのかしら?」

「それが、私の指示じゃないのです。ですがヴィクトーリアは光のサインを見たからといっており、どうやら私やルーちゃん以外にも天啓を利用している者がいるみたいです」

 つまり、ヴィクトーリアは何者かによってわざと私達から見て不審な動きをしたと言うことでしょうか。

 デークルーガ帝国以外にも、何者かが噛んでいる?

「それよりも、あなたの呟きです。話してくださりませんか?」

「すべては話せません。私も命を狙われているはずだからです。ただ、私は犯人を知っています」

「どういうこと?」

「ルーツィア・ダンマーク元男爵令嬢。彼女も命を狙われています」

 ルーツィアもですか。一体何を把握しており、何故命を狙われているとわかるのでしょうか。

「……いえ、決死の覚悟としましょう。愛するルーちゃんを手籠めにできなかった今、私はルーちゃんの為に語ります。ルーちゃんを狙う最悪の女のことを。人間をおかしくさせる女のことを」

 最悪の女?

 私はなぜか、何故か一瞬だけ。とある女性の名前が頭によぎりました。そんなことありませんよね。

 ジェスカの村を焼いた女性。私を狙う女性。東方に訪れたことのある女性。

 なんとなく繋がってしまったのです。

 ああ、イサアークも、エミリアさんも、ルーツィアもユリエもあの女とあってしばらくしてから本来おかしかった部分が、たがが外れたように、行動に出てきてしまったのだと。
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