ポンコツ公爵令嬢は変人たちから愛されている

大鳳葵生

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終章 有史以前から人々が紡いできたこと

7話 悪魔の草

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 思い返せば、イサアークはあの王城での夜会にて私の知人友人のところを回っていたとルイーセ様からお聞きしました。

 ルーツィアはそのすぐに彼女とお会いしています。私と一緒に。

 エミリアさんは夜会のタイミングなのでしょうか。確証はありませんが、あの日お二方が夜会に参加されていたことは覚えています。

 ユリエ様は間違いなく貴族会議後、私とヨハンネスが街をお忍びで散策している時に彼女とご一緒していました。

「ルーちゃん。東洋人の彼の故郷を焼き払った麻薬の育成を依頼した人間の名前は、オリヴィエロ・クラヴィウスです」

 オリヴィエロ・クラヴィウス。その名前は我が親友レティシア様の実父のお名前でした。

 諜報の結果、偶然知ってしまった事実のようです。

「しかし、それも手遅れ。私は以前にアルデマグラ公国に訪れた際に、娘のレティシアに薬を飲まされました。その時からです。嫉妬や憎悪の感情に囚われ、感情のコントロールが難しくなったのです」

 そして私とヨハンネスが仲よさそうにしていた際に暴走。ユリエ教を国教に塗り替えてしまったのですね。

「ルーツィアという少女と私が飲まされた薬は同じ薬。ルーちゃんが私に手を差し伸べたと感じた瞬間にすっと頭の中がクリアになり、罪悪感がこみ上げてきました」

 ルーツィアもそうでしたが、追い詰めた途端にすべてを打ち明けてきたのは、そういうことでしたのね。

「イサアークが飲まされた薬は、試作品。毒物だったのです。飲んで数日後に突如苦しみだし、最終的に彼は自決しました。苦しみに耐えきれずにね」

 イサアークの死は、私は初耳でしたがグレイ様に目線を合わせますと、静かにうなずかれました。

「あの時、イサアークの牢の監視はマリアにパトリーキイ。それからクラヴィウス嬢の婚約者であるオスカルだった」

 マリアとパトリーキイ様はともかく、オスカルは薬の結果を見るためにその場にいらっしゃったのではないでしょうか?

「その編成は?」

「牢番は三人が希望してね。マリアにとってイサアークは許せない相手でもあった」

「それは?」

 グレイ様はそれからマリアの過去を話してくださりました。

 マリアには過去、婚約者がいたこと。マリアの婚約者の妹が足以外原型をとどめていない形で発見されたこと。

 マリアの婚約者が部屋に引きこもってしまい、衰弱死してしまったこと。

 そして、妹さんを殺した人間が、イサアークであると判明したこと。

 マリアにとってイサアークは、因縁の相手だったのでしょう。そして彼女の異様なまでの結婚願望はもしかしたら、この事件がきっかけなのかもしれません。

 どうやらその薬こそ、ジェスカの村で栽培された麻薬に違いないみたいです。

「さらにルーちゃんの親友であるレティシアという女性は危険です。彼女こそ真正の変!?」

 その瞬間でした。塔の中にいつの間にか入ってきていたヴィクトーリアによって、ユリエは首をはねられました。

「ヴィクトーリア?」

「任務完了です。それではルクレシア様、グレイ様さようなら」

 彼女はその場で、自らの首を跳ね飛ばしました。

 床に転がるユリエとヴィクトーリアの頭部。私は声にならない叫び声をあげました。グレイ様は即座に塔の外の様子を確かめるために飛び出しました。

「何故ヴィクトーリアを塔に入れた!」

「え?」

 中で叫び声が聞こえ塔に入ってこようとしていたヨハンネス達が塔の中を覗くと、そこに転がる頭部を見て何が起きたか理解したようです。

「えと、姉上が天啓の光で緊急の連絡が来たから塔に入り、ユリエ様に報告すると仰られまして」

「そうか」

 私は気絶してしまい、そのまま数日眠ってしまったようです。

 それから目が覚めた私には、ショッキングな光景を思い出しては何度も吐き、食事も咽喉を通らず、うつろな瞳には、光すら感じないと言われていました。

 そしてそんな生活を続けているうちに、私はついにふわふわとしか考えられなくなってしまいました。

 ですが、関係ありません。空が青い。それだけです。青い。それだけ。

 雲が白い。もこもこしています。

 雲はどうやって浮いているのかしら。鳥と同じで上で羽ばたいていたりして。

 羽ばたけば飛べるのかしら?

 両手を大きく振り回してもちっとも体が浮き上がりません。嘘つき。

 周りのお世話係の皆様は、私をみて悲しそうな表情をしています。

 私はそっと近くにいたお世話係の方の頭の上に手を置き、頭をゆっくり撫でて差し上げました。

 ただただふわふわした感触で、その頭はころりと床に落ちてしまいました。

 よく見れば頭は白い皿の上に置いてありました。三つあったようで、残り二つになってしまいました。

 さわった感覚はふわふわ。何かを思い出させる感触でしたが、私はそれを頭と疑いませんでした。

 すると誰かが二つある頭のうち一つを手に取り、私の口に押し込みました。

「パンのような味なのね」

「これはパンですよお嬢様」

「これは、人の頭でしょ?」

 青い何かは私に何度も人の頭を食べさせようとしてきました。パンのような味のそれ。食べれなくありません。

 そしてふと空をみあげますと、空はどこかに行ってしまいました。空は動くのですね。

 瞼をゆっくりおろしますと、温かい何かに包まれたような感覚。

 懐かしい。私は温かいそれに顔をうずめますと、それは私を強く締めてきました。

「苦しい」

「ああ、ごめんよ」

 締める力が弱まり、楽になった私はそのまま身を委ねました。

「お父様……お母様……会いたかった」

 お父様とかお母様とかなんだかわからない単語が口からこぼれたような気がします。食べ物ではなかった気がします。けれど大好きです。

 空にも浮いていないものだったと思います。けれど空の上にいると感じます。

 お父様ってなあに?

 お母様ってなあに?

 ぐにゃりとゆがんだ視界。部屋の内装や家具は、輪郭線をゆがませながらうねり始める。頬が温かい。舌の上がしょっぱい。

 なみだ?

「え? あ、あ。ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 私を抱締めていた方は、私を強く抱きしめてくださりました。

 その胸をお借りし、思いっきり泣いてしまった私。全部繋がりました。

 親友が犯した罪。どうやら私は父と思っていた人以外に、生涯の親友だと思っていた方にも裏切られたようです。

 そして気付いてしまったのです。天啓でヴィクトーリアを最初から操っていたのは、ユリエではなくレティシアだったと。

 レティシアはきっと天啓の存在に気付いた際に、即座にのっとったのでしょう。ユリエが準備していた期間、彼女にも準備をする期間があった。

 レティシアを許してはいけない。彼女は私の周りで悪魔の草である麻薬を使い、周囲の方々を狂わせ続けた張本人。

 まずはオリヴィエロがジェスカの村に麻薬を育てさせ、そして回収。

 レティシアが夜会にて数名の方に麻薬を何らかの手段で与え、人々をおかしくしていった。

 その後も、レティシア様のお屋敷で開かれたお茶会にてルーツィアにも与えたのでしょう。

 最初に症状が出たのはイサアーク。そしてイサアークは、麻薬の毒で苦しみ自決。

 次に与えられたのはユリエ様。貴族会議後、私とヨハンネスは用事があると別行動した際、ユリエはその場にいたレティシアと二人きりになってしまいました。

 ユリエに何かあったとしたらこのタイミングでしょう。

 その後、私とヨハンネスの様子を見てユリエは発狂。準備をすると言い、帰国。

 そして次に発症したのはルーツィアでした。

 彼女にとっての理想であるグレイ様の幸せ。

 その幸せには私が隣りにいてもいいと考えていたところ、私がグレイ様以外の婚約者を探していると知ったこと。

 彼女は私がグレイ様に相応しくないと判断し、私を殺そうとしました。

 それを、私がメルヒオール様と一緒に夜会に参加したことで憎悪の感情に包まれたとお話していました。

 ルーツィアの件が片付いた後、デークルーガ帝国との戦争になり、今に至る。

 そう、今までのいざこざ全部あなたの仕業でしたのね。レティシア。

 私は、父と思っていた人に裏切られた時と同じくらいの悲しみに包まれました。

 誰も信用できない。誰を信用していいかわからない。

 次に信用する人は、信用できる人かわからない。

 今、私を抱締めている人は、もしかしたら抱締めたくて抱きしめていないのかもしれない。

 人間が怖い。誰も信じたくない。その夜、私の泣く声は止まなかった。
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