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終章 有史以前から人々が紡いできたこと
9話 北方の蛮族
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私達は現在、デークルーガ帝国にいらっしゃいますが、その前にレティシアが現在育てた麻薬を保管している場所を突き止めました。
正確には、ユリエの為に働いていた天啓を実現していた影の立役者のような方々が既に突き止めていました。
「北方の地ですか」
アルデマグラ公国より北方にある大地。あちらには国と言う概念がなく言葉の通じない蛮族たちが狩猟をしながら生活をしています。
「そんな所にあったんだね。とにかく北方に行って麻薬をすべて焼き払おう」
グレイ様の提案に皆が納得しましたが、私が精神崩壊している間にご懐妊したお義姉様とお義姉様と一緒にいることと、ヘロニモの同行の監視としてエリオットお兄様は帰国されることになりました。
デークルーガ帝国から馬車を借りることになり、内装を確かめています。座り午後地の良い椅子に満足していましたが、辺りを見渡しても仕掛けらしきものはなし。
残念ながら、ギミックはありません。いえ、期待する方がおかしいのよね。
「……そういえば何か忘れているような……?」
私が精神崩壊している間に、お義姉様がご懐妊?
待ってください。今何日ですか?
「ヨハンネス、今は何日かしら?」
「今日は十一月三日ですよ?」
「なんですって?」
つまり……つまり……あとえっと六十三日で生誕祭?
北方に行ってたら、私戻ってくる頃に婚約なんて無理なんじゃない?
いえ、大丈夫。問題ありません。なんとかします。今までもそうしてきましたし、私の幸せの為に行動するなら、戦った先の未来の方がよっぽど幸せだと思います。
「まあいいわ。間に会わなかったら間に合わなかっとよ」
「それは僕と結婚してくれるってことかな?」
すぐそばにいらっしゃるグレイ様が、にっこりとした表情で私にそう言いました。
「いいえ、逃げます!」
「あはは、それはひどい。けど楽しそうだ。追いかけるからね」
全然ひどいと思っていなさそうな表情は、上手く読み取れませんが、楽しそうだとさえ感じました。
「あなたというお方は……まあ、良いですわ。それがあなたのワガママなのでしょう」
「そうだよ」
そういったグレイ様は、私に一歩近づき、ぎゅっと抱きしめてきました。
抱きしめられた感触が、少しだけ心地よく感じてしまったことになぜか敗北感を感じ突き飛ばしてしまおうとしましたが、やはり私。全然動けません。
そしてグレイ様が耳元で呟きました。
「本当はね、とっとと婚約しなきゃいけないのは僕の方だったんだ。僕は君以外考えられなかった。でも、君には自分で選んだ人と結婚して欲しくて、そしてできれば僕を選んで欲しかったから。逃げるなんて言われて本当はすっごく傷ついたな」
「え!? えと、ごめんなさい」
私が困惑気味に返事をしますと、グレイ様と目があい、一瞬で蹴っ飛ばしてやろうかと思いました。ニヤついてるではありませんか。
「困り顔はどうでした?」
「最高だね」「最低ね」
そして私たちは北方に向かうことになりました。北方に向かうのに丸々十日もかかってしまい生誕祭まで残り五十三日となってしまいました。
北方では蛮族なだけあり、本当に言葉が通じない方々が、武器を持ってうろうろしています。
「ユリエさんの部下の方々曰く、この先の蛮族の族長が言葉が通じるそうですね。彼の所まで攻め入りましょう」
エディータが、大きめの剣を持って前に出ようとします。
「あの、蛮族の方ってもしかしたら悪い方々とは……」
しかし、私が引き留める前にエディータが突き進み、蛮族たちを次々と気絶させてしまいました。
「では私から行きましょう」
メルヒオール様がドアをノックしますと、内側からよくわからない言語が返ってきました。メルヒオール様はその後、何やら不思議な言葉を操り、今度は向こうから扉が開かれました。
「今のお言葉は?」
「クエンカ領は北方に近く、蛮族との戦いも経験済みです。ですので言語は軽くですが習得しています」
そして開かれた扉からはおじいちゃんらしき方が出てきました。
「アルデマグラ。タミ。イカヨウ」
その後、メルヒオール様が主体となり、族長の方とお話をすることになりました。
最初こそ、族長はだんまりを決め込もうとしていましたが、私達の後ろの光景。つまりエディータの暴れた後を見た族長は私達に対し抵抗せずにお話を聞いてくださいました。
「ルクレシア様。確かに北方の地には、食料品と引き換えに出入りを許可しているアルデマグラの人間と、倉庫を貸し出しているようです」
その倉庫に案内して頂くことになり、山を登った先には広い丘。その真ん中にある大きな木製の小屋。これが倉庫ね。
我々は倉庫の戸を開きました。
「なんて数だ」
グレイ様は一面の緑を目の当たりにして目を見開いています。他の方々も同様です。
すべてが麻薬。こんなにあるなんて思いもしませんでした。
「メルヒオール様、族長にこれの焼き払いの許可を」
「わかりました」
メルヒオール様が族長に対してそれを伝えますと、族長は怒り始めました。どうやら彼は今食糧難でもあり、たまにやってくるこの倉庫の維持をしている方の食料はとても重要なものらしいです。
だからといいましても、アルデマグラ公国側が彼らに食料を普及し続ける訳にも行きません。
「なんとかここを燃やす方法……」
そう考えていますと、突然エディータとエミリアさんが私を突き飛ばしました。
私が立っていた場所を見事通り抜ける一本の矢。
「不意打ちよエディータ! 汚いわね!」
「何の当てつけですか」
矢の先に立っていたのは蛮族の方々と公国の騎士服を着た男。どこかで見たことがあるかもしれません。
「レティシア様の婚約者。ベルトラーゾ侯爵」
「クヒヒィ。ご明察クヒヒヒヒ」
ああ、この人こういう濃い方なんですよね。この方がここにいらっしゃると言うことは、ユリエの言っていたことは真実で間違いないのでしょうね。
「何が目的ですか」
「さぁ? オリヴィエロもレティシアも自分が楽しいって思うことに尽力を尽くしているだけさ。私もねクヒヒヒヒ」
「麻薬ですよね?」
「さあ? 使ってみたらわかるんじゃないか?」
「最低」
ベルトラーゾは剣を抜くと、ヨハンネスとマリアとメルヒオール様が前に出ます。
「相手は賊とはいえ、第二騎士団騎士団長だ! 全力で行くぞ!」
「いいや、あいつは私の獲物です!」
三人が駆け出す前にエディータがとびかかる。不意打ちが気に入らなかったのかしら。
エディータの大剣をひらりと躱すベルトラーゾ。そしてカウンターの刺突をしかけるが、エディータもしゃがんで躱す。
三人は周囲に集まった蛮族たちの方に駆け出し、そこにエミリアさんも加わる。
周囲が激しい戦いに包まれる中、族長と私とグレイ様だけが残ります。
グレイ様は倉庫をチラッと確認し、火の用意を始めました。
「ホロビロ。アルデマグラ。ショクリョウ。ヨコサヌモノ。コノチニオイヤッタモノ」
以前、公国の歴史を学んだことがあります。北方の民族は昔、アルデマグラ建国前にはアルデマグラ公国の東部に住んでいたのですよね。
「確かに私たちの先祖のせいで今は苦しい生活を送っているのかもしれません。ですが、それは戦が起きた時点でお互い様。私達に恨みをぶつけても意味などありませんわ」
「??」
言葉通じていませんね。
族長が持っていた杖を振りかざしました。私はミセリコルデをとっさに手に取り、一歩前に足を出し、その足に自ら引っ掛かり杖の軌道から回避。
「!?」
族長は私の変則的な動きに驚いているうちに、足を思いっきり踏み込み転倒しない様にし、そのままミセリコルデを族長の手の甲に刺しました。
「これでもう握れませんね。言葉は通じていませんけど」
族長は痛がり悲鳴をあげています。その隙にグレイ様が大量に保管されていた麻薬に火をつけました。
「これでいいんだよねルー。ごめんごめん、まさか族長が襲い掛かるだなんて思ってなくてね」
周囲の争いは倉庫が燃えてもお構いなし。どうやら蛮族の方々はお怒りの様子。
そして私に向かってまた矢が飛んできました。いち早く動いたグレイ様は、私を突き飛ばしますが、私はそのままグレイ様の腕をとっさに掴んでしまいました。
そして私たちは丘から落ちてしまいました。幸い、そこには深い川がありましたが、その川は流れも速く私とグレイ様は、一気に下流まで流されてしまいました。
川を流されている私とグレイ様は、小さな舟を見つけ、そこにひとまず乗り込みましたが、それこそ失敗。
崖に引っかかっていた船は、グレイ様が乗り次に私が乗った拍子に、川の流れに乗って流されてしまいました。
流れの勢いは損なわれることなく、一気に進んで行ってしまいました。
「漕ぐ道具さえあれば何とかなったんだけどね」
「そうね」
手で漕いでも方向転換は難しそうです。流れに任せて安全に上陸できるまで待機しましょう。
「ねえグレイ様。ここはどこかしら?」
「見ての通り海の真ん中だね」
私とグレイ様は、遭難してしまいました。
正確には、ユリエの為に働いていた天啓を実現していた影の立役者のような方々が既に突き止めていました。
「北方の地ですか」
アルデマグラ公国より北方にある大地。あちらには国と言う概念がなく言葉の通じない蛮族たちが狩猟をしながら生活をしています。
「そんな所にあったんだね。とにかく北方に行って麻薬をすべて焼き払おう」
グレイ様の提案に皆が納得しましたが、私が精神崩壊している間にご懐妊したお義姉様とお義姉様と一緒にいることと、ヘロニモの同行の監視としてエリオットお兄様は帰国されることになりました。
デークルーガ帝国から馬車を借りることになり、内装を確かめています。座り午後地の良い椅子に満足していましたが、辺りを見渡しても仕掛けらしきものはなし。
残念ながら、ギミックはありません。いえ、期待する方がおかしいのよね。
「……そういえば何か忘れているような……?」
私が精神崩壊している間に、お義姉様がご懐妊?
待ってください。今何日ですか?
「ヨハンネス、今は何日かしら?」
「今日は十一月三日ですよ?」
「なんですって?」
つまり……つまり……あとえっと六十三日で生誕祭?
北方に行ってたら、私戻ってくる頃に婚約なんて無理なんじゃない?
いえ、大丈夫。問題ありません。なんとかします。今までもそうしてきましたし、私の幸せの為に行動するなら、戦った先の未来の方がよっぽど幸せだと思います。
「まあいいわ。間に会わなかったら間に合わなかっとよ」
「それは僕と結婚してくれるってことかな?」
すぐそばにいらっしゃるグレイ様が、にっこりとした表情で私にそう言いました。
「いいえ、逃げます!」
「あはは、それはひどい。けど楽しそうだ。追いかけるからね」
全然ひどいと思っていなさそうな表情は、上手く読み取れませんが、楽しそうだとさえ感じました。
「あなたというお方は……まあ、良いですわ。それがあなたのワガママなのでしょう」
「そうだよ」
そういったグレイ様は、私に一歩近づき、ぎゅっと抱きしめてきました。
抱きしめられた感触が、少しだけ心地よく感じてしまったことになぜか敗北感を感じ突き飛ばしてしまおうとしましたが、やはり私。全然動けません。
そしてグレイ様が耳元で呟きました。
「本当はね、とっとと婚約しなきゃいけないのは僕の方だったんだ。僕は君以外考えられなかった。でも、君には自分で選んだ人と結婚して欲しくて、そしてできれば僕を選んで欲しかったから。逃げるなんて言われて本当はすっごく傷ついたな」
「え!? えと、ごめんなさい」
私が困惑気味に返事をしますと、グレイ様と目があい、一瞬で蹴っ飛ばしてやろうかと思いました。ニヤついてるではありませんか。
「困り顔はどうでした?」
「最高だね」「最低ね」
そして私たちは北方に向かうことになりました。北方に向かうのに丸々十日もかかってしまい生誕祭まで残り五十三日となってしまいました。
北方では蛮族なだけあり、本当に言葉が通じない方々が、武器を持ってうろうろしています。
「ユリエさんの部下の方々曰く、この先の蛮族の族長が言葉が通じるそうですね。彼の所まで攻め入りましょう」
エディータが、大きめの剣を持って前に出ようとします。
「あの、蛮族の方ってもしかしたら悪い方々とは……」
しかし、私が引き留める前にエディータが突き進み、蛮族たちを次々と気絶させてしまいました。
「では私から行きましょう」
メルヒオール様がドアをノックしますと、内側からよくわからない言語が返ってきました。メルヒオール様はその後、何やら不思議な言葉を操り、今度は向こうから扉が開かれました。
「今のお言葉は?」
「クエンカ領は北方に近く、蛮族との戦いも経験済みです。ですので言語は軽くですが習得しています」
そして開かれた扉からはおじいちゃんらしき方が出てきました。
「アルデマグラ。タミ。イカヨウ」
その後、メルヒオール様が主体となり、族長の方とお話をすることになりました。
最初こそ、族長はだんまりを決め込もうとしていましたが、私達の後ろの光景。つまりエディータの暴れた後を見た族長は私達に対し抵抗せずにお話を聞いてくださいました。
「ルクレシア様。確かに北方の地には、食料品と引き換えに出入りを許可しているアルデマグラの人間と、倉庫を貸し出しているようです」
その倉庫に案内して頂くことになり、山を登った先には広い丘。その真ん中にある大きな木製の小屋。これが倉庫ね。
我々は倉庫の戸を開きました。
「なんて数だ」
グレイ様は一面の緑を目の当たりにして目を見開いています。他の方々も同様です。
すべてが麻薬。こんなにあるなんて思いもしませんでした。
「メルヒオール様、族長にこれの焼き払いの許可を」
「わかりました」
メルヒオール様が族長に対してそれを伝えますと、族長は怒り始めました。どうやら彼は今食糧難でもあり、たまにやってくるこの倉庫の維持をしている方の食料はとても重要なものらしいです。
だからといいましても、アルデマグラ公国側が彼らに食料を普及し続ける訳にも行きません。
「なんとかここを燃やす方法……」
そう考えていますと、突然エディータとエミリアさんが私を突き飛ばしました。
私が立っていた場所を見事通り抜ける一本の矢。
「不意打ちよエディータ! 汚いわね!」
「何の当てつけですか」
矢の先に立っていたのは蛮族の方々と公国の騎士服を着た男。どこかで見たことがあるかもしれません。
「レティシア様の婚約者。ベルトラーゾ侯爵」
「クヒヒィ。ご明察クヒヒヒヒ」
ああ、この人こういう濃い方なんですよね。この方がここにいらっしゃると言うことは、ユリエの言っていたことは真実で間違いないのでしょうね。
「何が目的ですか」
「さぁ? オリヴィエロもレティシアも自分が楽しいって思うことに尽力を尽くしているだけさ。私もねクヒヒヒヒ」
「麻薬ですよね?」
「さあ? 使ってみたらわかるんじゃないか?」
「最低」
ベルトラーゾは剣を抜くと、ヨハンネスとマリアとメルヒオール様が前に出ます。
「相手は賊とはいえ、第二騎士団騎士団長だ! 全力で行くぞ!」
「いいや、あいつは私の獲物です!」
三人が駆け出す前にエディータがとびかかる。不意打ちが気に入らなかったのかしら。
エディータの大剣をひらりと躱すベルトラーゾ。そしてカウンターの刺突をしかけるが、エディータもしゃがんで躱す。
三人は周囲に集まった蛮族たちの方に駆け出し、そこにエミリアさんも加わる。
周囲が激しい戦いに包まれる中、族長と私とグレイ様だけが残ります。
グレイ様は倉庫をチラッと確認し、火の用意を始めました。
「ホロビロ。アルデマグラ。ショクリョウ。ヨコサヌモノ。コノチニオイヤッタモノ」
以前、公国の歴史を学んだことがあります。北方の民族は昔、アルデマグラ建国前にはアルデマグラ公国の東部に住んでいたのですよね。
「確かに私たちの先祖のせいで今は苦しい生活を送っているのかもしれません。ですが、それは戦が起きた時点でお互い様。私達に恨みをぶつけても意味などありませんわ」
「??」
言葉通じていませんね。
族長が持っていた杖を振りかざしました。私はミセリコルデをとっさに手に取り、一歩前に足を出し、その足に自ら引っ掛かり杖の軌道から回避。
「!?」
族長は私の変則的な動きに驚いているうちに、足を思いっきり踏み込み転倒しない様にし、そのままミセリコルデを族長の手の甲に刺しました。
「これでもう握れませんね。言葉は通じていませんけど」
族長は痛がり悲鳴をあげています。その隙にグレイ様が大量に保管されていた麻薬に火をつけました。
「これでいいんだよねルー。ごめんごめん、まさか族長が襲い掛かるだなんて思ってなくてね」
周囲の争いは倉庫が燃えてもお構いなし。どうやら蛮族の方々はお怒りの様子。
そして私に向かってまた矢が飛んできました。いち早く動いたグレイ様は、私を突き飛ばしますが、私はそのままグレイ様の腕をとっさに掴んでしまいました。
そして私たちは丘から落ちてしまいました。幸い、そこには深い川がありましたが、その川は流れも速く私とグレイ様は、一気に下流まで流されてしまいました。
川を流されている私とグレイ様は、小さな舟を見つけ、そこにひとまず乗り込みましたが、それこそ失敗。
崖に引っかかっていた船は、グレイ様が乗り次に私が乗った拍子に、川の流れに乗って流されてしまいました。
流れの勢いは損なわれることなく、一気に進んで行ってしまいました。
「漕ぐ道具さえあれば何とかなったんだけどね」
「そうね」
手で漕いでも方向転換は難しそうです。流れに任せて安全に上陸できるまで待機しましょう。
「ねえグレイ様。ここはどこかしら?」
「見ての通り海の真ん中だね」
私とグレイ様は、遭難してしまいました。
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