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終章 有史以前から人々が紡いできたこと

13話 天啓ネットワーク

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 お兄様とお義姉様の結婚披露の夜会は無事終了した翌朝のことでした。

 ほとんどの来賓は我が家に一泊されており、帰れる方のみ帰った感じですね。

 部屋が足りずホテルに一泊している来賓もいらっしゃいましたがそれはそれ。

 ミシェーラ専属メイドのフリーデリケが私に用があるのか手招きしています。

「なにかしら?」

「いえ、やはりここはお嬢様にと思いまして」

「……?」

 そういったフリーデリケは、鏡を取り出しテラスの向こうに何度も光を反射させますと、向こうもチカチカと光りました。

「そう、あなたもユリエの手の内の一人でしたのね」

 フリーデリケはその光の反射を確認してからもう一度私に向き直りました。

「ユリエ様の遺言です。もし私が死ぬことがあれば、レティシアを討つその日まで、我ら天啓諜報隊はルクレシア様の為に働くことと。それでベルトラーゾ侯爵家で働いているユルシュルとシュザンヌという隊員からご連絡がありました」

 待って情報量過多。天啓諜報隊?

 まあ、いいわ。そいつらがなんですって?

「ベルトラーゾ家に動きありとのことです。王宮に幽閉されているルーツィアさんがいらっしゃいましたよね。彼女が誘拐されました」

 ルーツィア。何か秘密でも握っているのかしら?

 口封じの為に殺されるとしたら、このまま放置できないわよね。

 そもそも、彼女が死ぬだなんて私は望んでいない。

「何故ルーツィアが誘拐されたかわかるかしら?」

「どうやら薬を投与されて、未だに生きている検体として必要だそうです」

「本当に何でもわかるのね」

「連れ去られた場所は防衛都市グルヴィーラです」

 ジバジデオ王国との国境を護る為に作られた要塞のような形をした都市。

 以前、ジバジデオに向かった際に立ち寄った街で騎士ばかりの国でしたね。

 ベルトラーゾ領ということもあり、第二騎士団ばかりが集まっていますが、まさか第二騎士団の方々も買収済みなんてことはありませんよね。

「終わらせましょう。レティシアを、ベルトラーゾ侯爵を、クラヴィウス伯爵を討ちに行きます」

 私はフリーデリケに他の皆様を呼んでいただこうとしました。

「お兄様はダメね。結婚したばかりですし、正式に公爵になったばかりだもの。そうね、グレイ様、ヨハンネス、メルヒオール様、エレナ、マリア、ジェスカ、ハナちゃん、エミリアさん、アンジェリカとエディータ、バルトローメスとルイーセを呼んで頂戴」

「御意に」

 お義姉様、呼べなくてごめんなさい。絶対に参加したがったと思います。でも、おなかのお子さんの方を大事にしてください。

 そして収集されたメンバーにさりげなくいるお兄様とお義姉様。さすがにグルヴィーラには行きませんが、お話し合いくらいには混ぜろとのこと。

 あとは宰相のマックス様お久しぶりです。放蕩王子がぶらぶらしてて、王子の職務は全部回されているんですって?

 え? グレイ様は放蕩王子じゃないって? 私を追っかけまわして、数か月も国を空けた男は、放蕩王子に違いありませんよ。

 先ほどフリーデリケから受けた話を皆様にしますと、皆一度フリーデリケを注目しました。

 本当にベッケンシュタイン家にもユリエの手の内だった人間がいたことに驚いている様子です。

「これから我々はグルヴィーラに向かいます。目的はベルトラーゾ家とクラヴィウス家の首謀者を討つことと、ルーツィアの救出です。付いて来てくださる方はいらっしゃいますか?」

 そしてこの場にいるオルガお義姉様とマックス様を除く全員が手を上げました。

「お兄様はこれから忙しくなりますし、父の動向をですね」

「父の動向は彼女、フリーデリケに任せよう」

 フリーデリケは御意とだけ言いました。

「ですが、お兄様はお義姉様の傍にいるべきです」

「それは違うよルクレシア。僕は強い。それなのに君の為に戦えないんだ。エリオットまでここに縛って君を失う方がずっと怖いんだ。本当は傍にいて欲しいのにさ。やっぱり大事なものがたくさんできちゃったからね。これが僕のワガママさ。エリオットも君もおなかの子も大事。絶対護る。いいね?」

「そうですね。わかりました。少しの間だけお義姉様の最愛の人をお借りします。だって私の自慢のお兄様なのですから」

「それからルイーセ。あなたはルーツィアのことを報告するつもりで呼んだだけなのですが、本当についてくるつもりですか?」

 私がルイーセ様を呼んだのは、親友だったものの現状を教えることがメインであって、付いて来て欲しいから呼んだ訳じゃないんですよね。

「だってルーツィア様を助けに行くのでしょう。私がいかないでどうするんですか?」

 その瞳は、かつて何もできなかった私が無謀にも四方八方に飛び出しては前に出ていた時に似ていたような気がしました。

 今もできることが増えた訳じゃありませんけど。

「行きましょう! あのバカ娘。連れ戻したらもう一度ぶっ叩いてやるんだから!」

「お姉様それは私にも!?」

「しません」

 エミリアさんだけは、現地集合にしておけばよかった。どうせ来るんですし。謎の信頼感よね。

「ですがグルヴィーラ内部は要塞となっており、この人数でしたらまとまっていくよりも、要所要所を制圧していく作戦で行きたいと思います」

 グルヴィーラでも特に要所となる場所は研究棟と司令室にあたる屋敷。この二か所の他に大きめの貯蔵庫もあります。

 貯蔵庫、どうやらここにも麻薬があるそうですね。

 天啓諜報隊によりますと、指令室にはレティシア。研究棟にはクラヴィウス伯爵。貯蔵庫にはベルトラーゾ侯爵がいらっしゃるそうです。

「ではチーム編成をしましょう」

 指令室に向かうのは私、グレイ様、ヨハンネス、メルヒオール様、マリア。

 研究棟にはエレナ、ジェスカ、ハナちゃん、バルトローメス、ルイーセ様。

 貯蔵庫にはお兄様、アンジェリカ、エディータ、エミリアさん。

「貯蔵庫の方は兵も多く、一騎当千できるお二方がメインとなります。お願いしますね」

「まあ、私一人でも余裕だと思うでごぜぇますが、孫娘がどこまで強くなったか見といてやろうと思うでごぜぇますよ」

「あのベルトラーゾとかいう男。北方で戦った際に勝てなかった。今度こそぶった切ってやる。いいですか! これは私の戦いです! ルクレシアの為にここにいる訳じゃないわ!」

「そういうことにしておくわ」

 何よそのめんどくさい気迫。いいわよ誰の為だろうと、あなたのワガママはわかりにくいのよ。

 ジェスカが黙って窓の外を見ています。

「どうかしましたか?」

「いや、どんな男か知らないが、おそらく俺の故郷に麻薬を栽培させたのはこの男の指示なんだろうと考えると、ようやく決着をつけられるんだなと思って」

「ごめんなさいね。本当は私の問題とは別で解決するつもりでしたのに次いでみたいになってしまって」

「姫さん。あの時、あんたについていくと決めて良かった。パウルスにいるみんなも呼んでいいよな? 俺たちは故郷を燃やされ、国からも追い出されたんだ。クラヴィウス伯爵って言ったか? 絶対に俺が斬る」

 ジェスカは窓の外のずっと遠くを眺めながらそう言いました。同郷のハナちゃんも親分と姉御は私が護りますと仰っています。

 姉御ってエレナもうすこまで進んでいたのね。私も早くイチャイチャしたい。でもそういう状況になれないじゃない。

「面倒ごと全部片づけてやるって言って、どこかに行くたびに別の面倒ごとと鉢合わせ。でもこれで本当に最後よ。最終決戦です」

 思えば半年前、あの時から始まった悲劇の連続。誰も苦しまない物語なんてない。

 ですが、傷つくことになる誰かを減らす物語なら私も歩める。

 私達は総力を挙げて防衛都市グルヴィーラに向かいました。馬で向かえば一日か二日ほどでしょう。

 グレイ様の生誕祭まであと十六日。もう本当にギリギリじゃない!
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