ポンコツ公爵令嬢は変人たちから愛されている

大鳳葵生

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終章 有史以前から人々が紡いできたこと

14話 ルーツィア救出大作戦

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エレナside

 お嬢様の命令で防衛都市グルヴィーラの研究棟に向かうことになった私、ジェスカさん、ハナさん、ルイーセ様、バルトローメス様の五名。

 ジェスカさんは東方の剣。ハナさんも東方の武器なのでしょう。刃先のない棒を背負っています。

 バルトローメス様は剣と盾といった標準的な武装。ルイーセ様は一応ということで軽めの短剣をお渡ししました。

 私は大きめのものを麻布に巻いて背負って走っています。

 研究棟を一段一段登るにつれ、敵兵が脇からぞろぞろと湧き出てきます。

 ジェスカやハナさんは東方の武術を操り、変則的な動きで兵を圧倒し、バルトローメス様も決して後れを取ることはなく、第一騎士団所属の腕を見せてくださりました。

「ルイーセ様、私より前に出てはいけません」

「いえ、一応私よりもエレナ様の方が家格が高いのですが」

「私は今、ベッケンシュタイン家のメイドとしてここにきています」

「でしたらお気遣い無用です。私は今、罪人の親友としてここにきています」

 さすがというべきでしょう。彼女は間違いなくお嬢様のご友人です。

 でしたら私はやはり彼女を護るべきなのでしょう。だって、彼女はお嬢様に残された最後のまともなご友人なのですから。

 しばらくしますと、赤いツインテールのメイドが前に立ちはだかりました。

「お前は確かベルトラーゾ侯爵邸にいたメイドだな。何の用だ」

「用件? 私は天啓諜報隊のユルシュル! ルクレシア様たちご一行に情報をリークした者さ」

 フリーデリケさんから伺った特徴と一致しています。おそらく本人で間違いないのでしょう。

「そんなことよりルーツィアさんが幽閉されている部屋と伯爵様がいらっしゃる場所は階段の上ですよ」

「情報提供ありがとうございます」

「おいおいメイドちゃん。そんないきなり現れたやつを信用するのか?」

 ジェスカさんが私に問いかけてきました。ルイーセ様を除く他のメンバーも頷いています。

「罠でも行くしかありません。そもそも彼女たちの情報が偽物だったらここにくることから失敗ですから」

「それでは私とバルトローメスはルーツィア様の方を助けます。皆様は皆様のやるべきことをお願いします」

 そういって階段を先に駆け上がるルイーセ様と、先に行かせまいと前に出るバルトローメス様。お転婆な令嬢って大変ですよね。同情します。

 私たちもそれに続きました。大きな扉を開ける時、ハナさんが一番最初に前に出て扉を開けました。

「ここまでたどり着いたか」

 オリヴィエロ・クラディウス伯爵閣下。公国最高の頭脳の持ち主にして大陸の薬草学においても強く貢献した方とお聞きしています。

 普段はこの研究棟に籠って、薬草の研究をしているとお聞きしていましたが、その裏で麻薬の研究をしていたとは。

「ここまでですオリヴィエロ・クラディウス伯爵! お嬢様に代わりあなたを討ちに来ました!」

「騎士団総出で来なかったことは失敗ではないか?」

「時間がありませんでしたので」

「そうだとも、わざわざベッケンシュタイン家の夜会の直後にしたのだからな。君たちだけがここに来るようにね。まあ、必要なのはルクレシア君だけだったから他は死んでも良かったんだがね」

 お嬢様が必要?

「それはどういう意味でしょうか」

「いや、私もオスカルも令嬢には興味ないよ。ただレティシアがね。ルクレシア君はちゃんとレティシアのところに向かったかね?」

 まずいお嬢様は本当にレティシア様の所に向かっています。これは罠!?

「メイドちゃん下がってな」

 ジェスカさんとハナさんが東方の剣とロッドを持って前に出ます。その隙にルイーセ様方はルーツィアの閉じ込められている牢屋の方に向かって走っていきました。

 確かオリヴィエロ伯爵は武闘派ではありませんが、何やら余裕そうな雰囲気。

 バルトローメス様がルイーセ様の牢屋の鉄柵を壊そうとしたその瞬間でした。

 両端の壁が回転し、反対側からうじゃうじゃの兵が現れたのです。

「隠し扉か! 華《ハナ》! あっちに加勢しろ。こいつは俺がやる!」

 ジェスカさんがついてきた同郷のハナさんにそう言いますが、私は他に嫌な予感を感じました。

 例えジェスカさんと一対一になったとしても、オリヴィエロ伯爵の余裕が理解できません。

 そうなるべきではない。とっさにそう感じた私は、ハナさんの肩に手を置きました。

「あちらの加勢は私一人で充分です。だってそうでしょう。ハナさんも仇を討ちに来たのですから」

「エレナさん? いえ、ですがそれではバルトローメス様が大変なことに、二人も護るなんて」

「大丈夫です。最低限の護身術なら心得ていますし、私は一度あなた方にお嬢様を連れ去られてしまいました」

「……その節はすみません。ですが、今はそういう話ではなく!」

「もう二度と、あんな屈辱を味わう訳には行きません」

 それは数か月ほど前、ジェスカさん達がまだ野盗だった頃、私が気絶させられているうちに、一人だけ身代わりになって連れ去られたお嬢様。

 メイド失格。主に盾になってもらったこと。主を護れなかったこと。

 そして、その感情は私の中で静かに燃え滾りました。

 今度こそ、私が盾になる。お嬢様方がデークルーガ帝国に向かわれている間。何もしていなかった私じゃない。

「メイドちゃん……やるのか」

「ええ、見惚れてもいいんですよ?」

「あんたそういうこと言うタイプだったんだな。見てる余裕があればずっと見ていてやるよ」

 ありがとうございますジェスカさん。私初めて、お嬢様以外の人の為に前に出た気がします。

 私は背負っていた大きな麻布からやや大きめの盾を取り出しました。

 その盾を見たバルトローメス様が驚いています。

「マルッティ副団長の盾ですか?」

「ええ、お嬢様を守り抜いた盾です。これで少しでも多く攻撃を受けます。バルトローメス様は防御を意識せず戦ってください」

「了解!」

 私は盾で攻撃を受けつつ、バルトローメス様とルイーセ様のお傍までたどり着きました。

 完全に縮こまっているルイーセ様はそれでも持っていた短剣で鉄柵の錠前を壊そうと頑張っています。

 その時でした。金色の何かが私達の足元に投げ込まれたのです。

「牢屋の鍵です! 使ってください!」

 先ほど私たちの前に現れた天啓諜報隊のユルシュルさんが、鍵を投げ込んだのです。ここまでの誘導が罠であった今、これも罠なのではないだろうか。

「エレナさん、時間がありませんし、かけてみましょう?」

 ルイーセ様の表情は、やはりルクレシア様のご友人に相応しい度胸を感じました。そんな表情をされてしまいましたら、首を縦に振るしかありませんね。

 ルイーセ様が鍵を使用しますと、牢屋の開錠に成功。中で眠っているルーツィアを、ルイーセ様が起こしますと、状況を理解していない様子。

「え? 何が起きて? ルイーセ? エレナさん? え? は?」

「説明は後です。ここにいてはいけません。別の牢屋に護送しちゃいますねルーツィア様」

「はぁ?」

 私がなるべく多くの攻撃を受けつつ、バルトローメスさんに攻撃をお願いしています。

「ちょっと待ってください! これは一体。えっとルイーセだとポワポワした回答が来そうなのでエレナさん」

「ひどいですよルーツィア様」

「あなたは麻薬を摂取した上で狂気に落ちたにも関わらず命を落としていない大切なサンプルみたいですよ。ですから、王宮からここに運ばれました。私達はそれを良しとしない者です。もちろん、全てはルクレシア様の命令ですけどね」

 ルーツィアはなんとなく状況を理解した様子。ひとまず私達は脱出しましょう。ルーツィアさえ確保すればいいんですよね。

 兵たちがジェスカさん達の方に流れ込まない様に引き寄せつつ、けれど確実に処理して貰いながら二人を護送することになりました。

 オリヴィエロ伯爵のことは、ジェスカさんとハナさん。お二人に任せましたよ。

 私たちは二人を残して研究棟から脱出することになりました。
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