ポンコツ公爵令嬢は変人たちから愛されている

大鳳葵生

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終章 有史以前から人々が紡いできたこと

15話 因縁を断ち切る一太刀/誰かの真似じゃ強くなれない

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ジェスカside

 メイドちゃんたちが脱出する少し前までさかのぼるぜ。

 向こうがわちゃわちゃやり始めたぐらいだ。メイドちゃんが盾取り出した辺り。

 俺と伯爵のおっさん二人が対面にたつ。一応すぐ後ろに同郷の華《ハナ》もいる。

「おい、お前が俺たちの村で麻薬の育成と改良を依頼した首謀者か?」

 俺の問いに伯爵のおっさんは笑いながら答えやがった。

「そうだ。私だよ。私達の土地で栽培するにはばれたら終わりだったからね。だが、君たち東方の人間には認知されていないタイプの植物だからね。そちらに依頼するのが妥当だろう? 最も、すぐに情報は行き届いて、国外追放された奴らがいたみたいだがね」

 理解した。こいつが俺たちの故郷を焼き払った人間の依頼主だ。

 俺たちから故郷を奪ったのはこいつだ。国外追放になった俺たちは、なんとか西方に逃げたまではよかった。

 しかし、そこでも俺たちには肌の色の違いによる迫害が待っていた。野盗になるまでの過程で何人も村の仲間が死んだ。

 野盗になってからも上手くいかないこともあった。

 そして、ついに俺の目の前に仇がいる。

 腰にさした刀を強く握る。未だ余裕そうなこの男。こちらは華《ハナ》と俺の二人。その余裕はどこから湧いてくるのだろうか。

「華、俺が先に切りかかる。異変が感じたらお前の判断で動け」

「了解です親分!」

 俺が一歩踏み込もうとする所だった。床の踏み心地がおかしい。

 急に感じる垂直落下の感覚。落とし穴!?

 俺はすぐに抜刀し、落下する前に抜け落ちていない床に刀の刀身を乗せた。

 落とし穴の壁面を強く蹴り、刀身をたわませその勢いと蹴りの勢い二つを使い落とし穴から這い出る。

「罠だらけってか? 華! 床を片っ端から叩け!」

「了解です親分」

 そして華が、棍《こん》の先をなるべく自分から離れた位置の床を叩き付けると、天井が落下してきたり、床が抜け落ちたりと罠の宝庫。

「長物使いもいたか。ならば次のステップだ」

 伯爵のおっさんはロープのついた筒状の何かを懐から取り出した。

 なんだあれは?

 しかし、相手がやることだ。ろくなことではないはずだ。黙ってみているのもばかばかしい。

 俺は伯爵のおっさんが何かを仕掛ける前に刀を横薙ぎに振り払った。しかし、間合いに入ったつもりが、一瞬で伯爵は後ろにぐいっと移動した。

「うお!?」

「ほう、上手くいくものだな。だが初見殺しが限度だろう」

 移動する際にゴロゴロという音が聞こえたことと、足を動かさずにスライドして移動したあの様子。つま先も上げていた。

「かかとに車輪をつけているのか?」

「ああ、そうだとも。しかし、これも大発明とは呼べぬな」

 しかし、移動の軌道が読めないのは厄介だな。床のトラップは華が解除してってくれているみたいだが。まだあっちの方はわからないままだ。

「だがこれはどうだ?」

 先ほど手に持っていた筒。先端のロープを松明に近づけ着火。

 俺はすぐさま刀でロープと筒の間を切断した。

「ほお?」

「こういうのはロープが燃え尽きたら何かある奴だ」

 伯爵のおっさんが驚いているところ、後方の華がトラップの解除が終わったと声が聞こえ、並び立つようにこちらに来た。

「おっさん、他にもビックリさせてくれるのかい?」

「君の能力の高さには、こちらが驚かされたよ。だがこういうのはどうだろうか?」

 壁際に追い詰められた伯爵のおっさんが、壁を叩くと突如、壁が開いた。その奥には、大型の獣。虎だ。

「こいつの名前はガストーネ。おっと、名は関係なかったね。私の匂いは覚えており、けして噛みつかないが、他の人間は別だ」

 そしてその虎は俺たちに飛びついてきそうになったが、華の棒術により、虎の顔面に棍がクリーンヒット。

 一度はのけぞったが、威嚇をやめない。

「その虎も薬の被検体さ。肉を食べても食べても空腹を感じているかのように飛びついてくるぞ」

 華の棒術は、護身用程度。間違っても虎のような大型の猛獣相手に戦えるとは思えない。

「手を貸すぞ!」

「親分! 私のことは構わないでください! むしろ私達は、死んでもそこの男を斬るべきです! 奪われたものは本当に村と故郷だけですか!? 故郷を追われなければ失われなかった命もありました! それだけじゃないですよね! 今生きている私たちの時間を奪ったのもあいつなんです!」

「華……死ぬなよ」

 さてと、後方が虎ね。じゃあ正面は龍か何かか?

 俺は伯爵のおっさんに斬りかかり、伯爵のおっさんも、刀を腕に仕込んでいた鎧で受け止めようとする。

 博識のおっさんも東方の刀のことは無知らしい。そして、使い手によっては鎧すらも切断するということもあることを知らない。

「見誤ったな。西方の剣と東方の刀の違いを教えてやるよ」

 俺はそのまま伯爵のおっさんの腕を切り落とし、そのまま胴体ごと勢い任せて斬りかかった。

「あんたは余裕ぶりすぎだ。その程度の発想じゃ、俺には勝てねぇ。……いや、俺じゃない誰かが来ていても這いつくばっていたな」

 俺はまだ虎と相対している華の加勢をし、終わったら姫さんたちのとこに向かおうと考えていた。

 その前に、メイドちゃんたちがちゃんと逃げられたか確認しないとだな。



エミリアside



 暴君どもが蹂躙しています。私もお嬢様の為にこの貯蔵庫の制圧と処分をしたいのですが、化け物女王様はともかく、化け物の孫は化け物。

 私やエリオット様は完全に蚊帳の外となっています。いえ、エリオット様も一騎当千並みに働かれていますけど、ちょっと他二人がですね。

 せっせとロープでくくって足止め兵士たちを団子状に固めたりとしていますが、一人一人なのが大変ですね。

 スリングはもう少し離れていないと無理ですし、私には鎧を着た人間にダメージを与えられる格闘技はありません。

 そしてベルトラーゾ侯爵も化け物の孫と一騎打ち。これはエディータさん本人が望んだことですのでお止めしませんが、よくもまああんな奴と一騎打ちしたいと考えますよね。

 笑い方は不気味。持っている剣も性格の悪さを主張しています。波うつように揺らめく刃。

 あれは傷口が広がりやすく殺傷能力が高い剣です。鍛冶が名産の我がディートリヒ領。剣の知識は多少なりともといった感じですが、あれは初見で覚えました。

 お姉様に向けられる刃にもし、それを持つものがいたら、最優先で沈めなきゃいけないからです。

 エディータなら構いませんね。

 周囲はエリオット様と化け物が完全制圧しきったところですが、どうやらエディータはまだ苦戦している様子。

「あの男、そこまでつぇとおもぇねぇでごぜぇますが、何を苦戦しているんでごぜぇますかね」

「…………」

「エディータさんってそもそも剣がお得意ではないのでは?」

 私の問いに対し、エリオット様は無言。いつも通りですね。化け物はうーむと唸っています。

「私から見れば、みんな雑魚だからわからねぇでごぜぇます」

 あ、はい。

「まああの子は、無駄に私の真似をしたがったでごぜぇますからね。もしや、不得手な大剣をわざわざ振り回していたってことでごぜぇますかね」

 アンジェリカは、その辺に落ちていた武器の中から、打撃用の短い武器であるメイスを拾い上げ、声もかえずにエディータに投げつけました。

 エディータは、何かに気付き後方を見ると顔面の目の前にメイス。とっさに避けつつ、空中でキャッチ。

「おばあ様!?」

「剣じゃなくてそいつを使ってみたらどうでごぜぇますか? ジバジデオ王国最強になりたいでごぜぇますよね?」

 メイスを持ったエディータは、その短いリーチはお構いなし。力差任せに振り払い、ベルトラーゾ侯爵の剣を砕きました。

「くひぃ!?」

「キモイんですよ!!」

 メイスがベルトラーゾ侯爵の腹部を強打し、侯爵は貯蔵庫の扉までぶっ飛ばされました。

「あの子は強いでごぜぇます。ただ、私の真似をしてちゃ弱いでごぜぇます」

 アンジェリカは何かに満足したようにこの場を去ろうとしました。

 貯蔵庫を開き、中にある麻薬を焼却処分。その間にベルトラーゾ侯爵もエリオット様が捕縛。

 お姉様、こちらは終わりました。今助けに行きます。
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