ポンコツ公爵令嬢は変人たちから愛されている

大鳳葵生

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終章 有史以前から人々が紡いできたこと

16話 ネクロフィリア

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 皆様と分かれ、指令室となっている屋敷に向かいます。

 フリーデリケさんの事前情報から、中央にある赤レンガの建物だとお聞きし、最低限のみ。

 入り口は、別の建物にある地下通路を利用する必要があるそうです。

「では二手に分かれましょう」

「二手だと探しきれないよルー」

「確かにそうですね」

 しかし、片っ端から屋敷を漁るにも、通常の民家もあります。幸い今は街中。敵も仕掛けてくる様子はありません。

 ですが全員別々で探すとなりますと、はっきり言って私は捕まります。

「ルクレシア様、あちらを」

 何かを見つけたメルヒオール様が、とある民家の片隅に、青いサイドテールのメイド服を着た女性を指さしました。

「彼女、こちらをじっと見ていませんか?」

「あれは……ベルトラーゾ家のメイド?」

 そのメイドは鏡の光をチカチカとこちらに見せては、じーっと見つめてきています。

「お嬢様、彼女ってもしかしてフリーデリケさんのお仲間の方じゃないですか?」

 ヨハンネスがそう言い、言われてみれば特徴が一致します。彼女は一度ジバジデオ王国に向かう直前に出会ったメイドの一人。

 お名前は多分…………

「ユルシュルさん?」

「ユルシュルは私のパートナーです。私はシュザンヌです。ルクレシア様、ここからは私がご案内いたします。宜しいでしょうか」

「ええ、そうして頂けると嬉しいのですが」

 私が皆様の顔色をうかがいますと、グレイ様は私の判断がどうなるのかやや楽しそう。

 ヨハンネスは真剣みがありますが、それは信じても宜しいと言うことでしょうか?

 メルヒオール様。目を合わせたとたんに、嬉しそうにしないでくださいそういう意味ではありません。

 マリアは、深刻な表情ではなさそうですね。大丈夫ととらえましょうか。

「それではお願いします」

「え?」「本気ですか?」「いきなりの相手を信用しすぎですよ」「結婚したい」

「どさくさにまぎれれば願望言えると思わないで頂戴。あともっとみんなが喋っている最中に言った方が紛れ込みやすいですよ」

 他の方々の反応は、予想通りでしたのでスルーしました。

「まあ、私を信用しないのは構いませんが、でしたらどのようになさいますか? 皆様が私を信用しないことは理解しています。ヴィクトーリアの氾濫ですよね」

 そう、ヴィクトーリアは何者かの指示を受けてユリエを殺害していた。それは天啓の光を利用したもの。

 つまり、それを使えるものはオリヴィエロの手の内の人間である可能性もあるのです。

 経緯はわかりませんが、ユリエが信頼して傍に置いていたヴィクトーリアすら、オリヴィエロ側の人間になっていました。

 今、目の間にいる彼女《シュザンヌ》が、誰の味方かなんてわからない。

 そもそもヴィクトーリアは、オーロフと名乗っていた時から敵でした。

 私達の味方のふりをしつつ、ユリエに情報をリークしていた。その裏で、何かを掴んでいたユリエが喋る前にとどめを刺した。

 更には自分から情報が洩れる前に自害。ここまでくれば洗脳ね。

「信じましょう、グレイ様。味方じゃなかったらその時対処すればいいじゃない。罠なら罠で突破しましょう。私達ならそれができます」

「ユリエ様殺害後に、我々が調べたヴィクトーリアの同行はあります。彼女には彼女の目的がありました」

 どうやらヴィクトーリアの件については、天啓諜報隊の方々が独自に捜査をしていたそうです。

 八年前。ユリエ様の元で働くことになったヴィクトーリアは、当時のユリエの思想に乗っかり、世界を平和にする為、全ての情報を握る女王にユリエを選びました。

 情報を世界中に伝達する機関。そのシステムの考案者であるユリエ様。彼女の考えの元動けばすべてが平和になる。

 最初はそう信じ、ユリエ教という民衆を騙す行為まで加担。ここまではヴィクトーリアにとって何も問題ありませんでした。

 しかし、運命の日。ユリエ様が私を欲するという私利私欲の為にユリエ教を利用した時。ヴィクトーリアにとって、それは裏切りに感じたそうでした。

 そんな時、本当に世界を平和にするためには、天啓の力を他の者が取り仕切るべきと近づいた方がいらっしゃったそうです。

 そう。その方こそオリヴィエロ・クラヴィウス伯爵。

 ですが、ユリエの暴走も理性を失わせる麻薬によるもの。元をたどればすべてオリヴィエロの行い。この結果が伯爵の臨んだものかはわかりまんが、原因は伯爵にあります。

 問題は天啓というシステムを、伯爵がどこで知ったかです。ですが今日、彼を捕縛できれば関係ありません。すべてが終わります。

 その辺はジェスカたちにお任せし、私は私の為にレティシアにあいにいくのでした。

「こちらの屋敷の地下通路です。入り口まで案内します」

「ありがとうございます」

 シュザンヌさんとは地下通路の入り口でお別れし、私達は奥へ奥へと進んで行きました。

「出口ですね」

 最初にマリアが地下通路の外の様子を確かめ問題ないと判断してからみんなが上に上がることになりました。

「ちょっと男性陣?」

「良いのですお嬢様、ここにいる中で私だけが平民ですので」

「その倫理観は何とかなりませんか?」

「公爵令嬢のルーが言うことじゃないよね」

「だって私平民の娘ですから」

「そのフレーズ気にいられていますよね、お嬢様」

 元平民さんのヨハンネスに言われたくありません。

 ひとまず血筋や家格うんぬんは老いておきましょう。とにかく司令室となる屋敷に潜入成功。

 窓は小さく、外に対して攻撃できるように弓矢がセットされています。最終的にここに立てこもることも想定した造りなのでしょう。

 道が二手に分かれています。

「どう分かれましょうか」

「戦力を分散させるべきだ。僕とルー二人。君たち三人でいいんじゃないかな?」

「おい願望王子。まあ、変態の発言は聞かなかったことにしましょう。はっきりいいますが、私は戦力外です。あなた方で二組作って強そうな方についていきます!」

 私の発言に、ぼそっとマリアがお言葉がとかメルヒオール様もそのような発言をなさるのですねとかそういうのは、やめて頂戴。

 私だってスムーズにツッコムの疲れたのよ。

 と、いう訳で私を除いた全員でコイントス。グレイ様とヨハンネスが表。メルヒオール様とマリアが裏。

 私はグレイ様とヨハンネスのチームについてくことにしました。

 二手に分かれた道の左側の通路に進むこととなり、敵兵がたびたび襲ってきます。

 ですが問題ありません。グレイ様もヨハンネスもかなりの剣の使い手。一切の遅れをとることもなく進んで行きます。

 私って本当についていくだけで良さそうですね。

 そう思っていた瞬間でした。急に開いた真横の壁。伸びる手。掴まれる私。

 そして私の異変に気付いて、駆け出した二人。伸びる手。掴めない私。

 壁はしまり、どんどんと向こうから何度も叩かれる音。

 室内は何かの匂いが充満しているようです。強い刺激臭が私の鼻を襲いました。

 何かひんやりとしている部屋。この部屋から早く出ないといけない。

 そういえば私をこの部屋に引きずり込んだ人はどちらにいらっしゃるのでしょうか。

 私がふと、目線を下にしますととあるものが落ちていました。

 草?

「いらっしゃいませルクレシア様」

「……レティシア」

 すぐそばに立っていたのはレティシア。そしてレティシアのお隣りにある男性の彫像。

「あなた、それはどうやって作ったのかしら?」

「エンバーミングってご存じですか?」

「質問を質問で返さないで頂戴。死体に防腐加工や修復を行うことですよね?」

「そうです。そしてこの彫像が、ついこないだまで私の恋人だったものが、ダメになったのでレプリカを作ったものです」

 …………?

「あなた、何を言っているのかしら?」

 暗い部屋。男性と分かる彫像の顔がよく見えない中。何故かその顔をちゃんと見なければいけないと感じ、私は少しずつそれに近づいていきました。

 やっと暗い部屋に目が慣れ、少しずつ見えると感じました。そしてその彫像の顔を見た瞬間に、私は吐き気に襲われました。

「どういうつもりなのよ。レティシア」

「そのままの意味です。私の恋人が朽ちたから、完全に朽ちる前に型を取って彫像を作りました」

 私は腰にさしていたミセリコルデを握りました。

「それはヤーコフの顔です。もう一度お聞かせください。返答次第ではあなたを刺します。レティシア」

 私がそう聞きますと、レティシアは嬉しそうに笑い始めました。何が楽しいというのでしょうか。

 そして完全に目がなれますと、辺り一面にある男女の彫像たち。

「ヤーコフさん以外も見てくださいな、ルクレシア様。この部屋には私の恋人だった方の彫像がたくさん御座います。わかりますか? これ全部故人です。ヤーコフさんってずっと欲しいって思っていたのですよ。ご老体なのに老いを感じさせない背格好に、綺麗な立ち振る舞い。本当に素敵だと思っていたのですが、残り少ないお命の方です。彼の生命は永遠ではありません。ですが、私は肉体にしか興味がありません。ですので、死体で充分なのですよ。むしろ死体の方が良い。もうお分かりですよね。私、死体しか愛せないのです。その最も美しい状態を保存したいのです。まだ私の技術ではもって三十日弱。ヤーコフさんはかなり保存状態が良かったのですが、まだ研究不足ですね。そしてですね。私ってヤーコフさんよりもずっとずっとずーっとルクレシア様の死体が欲しかったんです。できれば一つの傷のないうちに、あなたを死体にさせてください。今度は五十日以上保管して見せますから」

 彼女の発言が理解できない。理解したくもない。こんな女を生涯の親友と思っていたのか私は。

 怒りで頭の中がパンクしそうです。嫌悪感で肌がピリピリします。吐き気で視界が揺らぎます。

 ですが、今目の前にいる女。この女はこれ以上自由にさせてはいけない。

 お父様の死体を弄んだこの女を私は一生許すことができない。
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