ポンコツ公爵令嬢は変人たちから愛されている

大鳳葵生

文字の大きさ
101 / 102
第後章 公爵令嬢をやめること

後日譚2話 生誕祭当日

しおりを挟む
 グレイ様の生誕祭まであと零日。…………それってつまり今日よね。

 私はたくさんの侍女たちに髪型のセットやドレスの用意をして頂いています。

 当然、仕切っているのは私専属メイドのエレナ。本日付けで王宮侍女に所属が変更されました。

 何故かそれは簡単な答えです。だって今日、私は公爵令嬢をやめるのですから。

 王宮仕えになった父と兄。それから親しい方々がお隣の部屋で待機している中、女性陣は当然のようにこちらに入ってきていました。

「いやぁ、ついに僕のルクレシアが手の届かない所に」

「公爵夫人で大切な義姉《あね》であるのですから。むしろぐいぐい里帰りするつもりですので覚悟してください」

 最初に傍に来たのは当然のようにお義姉様。足元のエミリアさんは、三回ほど追い出して諦めました。いないってことにしています。

 友好国となったジバジデオ王国から新たに女王に就任したエディータが窓の外を眺めています。

 ちゃっかりこの部屋まで訪れる辺り、私のことを友人として認識してくださっているのですね。

 彼女に微笑みますと、ムッとした表情だけしますが、すぐに顔を背けられてしまいました。

「お嬢様、準備が整いました」

 エレナに声をかけられ、鏡に映る自分の顔を見ますと、長い髪は後頭部に円状にまとめられていました。

「そういえば髪をアップにしたことってありませんでしたね」

 私がまとめて頂いた髪を撫でようとすると、お嬢様が触るとダメになりますと言われ、エレナに払いのけられてしまいました。泣きそう。

 エミリアさんを踏まない様に歩くことになれた私は、彼女の奇怪な動きで二度ほど転びそうになりました。

 私が転んでいないと言えば、三度までならなかったことになります。なりなさい。

 見かねたエディータが、エミリアさんの襟首を摘まみ上げ大人しくしてくださいました。

「そういえばルイーセ様は来ていないのかしら?」

「彼女は昇格した婚約者が忙しいからそのお手伝いといって生誕祭の為の守護警備の門付近にいるよ。まあ、お披露目には顔を出すと言っていたから」

「あら残念」

 マリアと、メルヒオール様も警備職で王都内を巡回。お兄様は本日、ベッケンシュタイン公爵として出席していらっしゃいますので騎士職はお休みですね。

 ついでにヨハンネス。いえ、もうフランスワ男爵とお呼びすべきですね。フランスワ男爵もお休みだそうです。

 ちなみにジェスカは騎士でありませんので普通にお休みです。彼らはみな、お隣の部屋で待機していらっしゃいますので、そろそろご挨拶に行きましょうか。

 私達は隣りの部屋に出向きますと、待機していた皆様からおめでとうとか綺麗ですとかお声がけされるのではなく。

「絶対に髪を触ってはいけませんよ」

「それは言われました」

「転ばない様に」

「助けて頂きます」

「姫さんヒール? ヒール!?」

「いつも履いてるじゃない! 転ばないわよ!!」

 転びました。この部屋に入る前に二度ほど。

 まあ、あれは奇怪な動きをする敷きエミリアがいたからであって、通常時でしたら私って転びませんし?

 そんな話で盛り上がっていますと、部屋の扉が開かれて、正装をしたグレイ様が登場致しました。

「あ、グレイ様」

「おはようルー。君が誕生日プレゼントかい?」

「そんな訳ないでしょう?」

「そう、まあ貰うけどね」

「何を仰いますか。既に! ……何を言わせようとしているのですか!」

 何か変なことを口走りそうになり、口を動かすのをやめましたが、周囲の皆様がニヤニヤしています。グレイ様も私の言葉を聞いて耳元で口を動かされました。

「最後まで言って」

「言いません!!」

 全く。これから貴方の生誕祭ですのよ。国中がお祭り状態。王子ってだけで凄い盛り上がりじゃないですか。

 ベッケンシュタイン領も私の誕生日こんな感じでしたね。規模は著しく小さくなりますが。

 王都内は露店が展開されておりまして、平民の方々もお祭り騒ぎ。それに乗じて色々食べまわりたいとか考えるようになったのは、旅生活が続いたせいでしょうか。

 巡回中のマリアにこっそり会うことはできないかしら? 難しいですよね。だって王都のどこにいらっしゃるかもわからないのですもの。

 ですが、私のこの姿。一緒に旅した皆様に見て頂くべきですよね。お父様とお母さまには日を改めてにしましょうか。

 ベッケンシュタイン領までこの格好でいる訳にはいきません。

 どうやら私とグレイ様は決められたルートを馬車に乗って巡回することになっているみたいです。

 馬車に乗り込みますと、御者の席にはジェスカが座り、その隣に私の世話役としてエレナが……私の世話いる!? いるのね。ドジやらかすタイミングがあるのね。わかった。私黙って従います。

 私がグレイ様の腕にしがみ付きますと、グレイ様はそれを振りほどいてしまいました。

 私は一瞬驚いてしまいグレイ様の方に顔を向けますと、私を振りほどいた腕で私のことを強く抱き寄せてきたのです。

「この方が好きかな。君にそうされるのも幸せだけど、やっぱり僕は君を幸せに驚かせたい」

「……私もこちらの方が好きです」

 顔が真っ赤になる感覚。周囲を見ることが一切できませんが、必死になって集まった民衆に手を振りました。

 周囲から先ほど聞けなかった。綺麗とかおめでとうございますとか。お姉様好きとか……しれっと混ざっているエミリアさん移動速度おかしいです。

 もしあの日。半年前。この人を即決で選んでいたら私は…………。

 いいえ、悪は悪。イサアークも以前からでしたし、ルーツィアだってそう。ジバジデオ王国は未だにアルデマグラ公国民を奴隷にしていたでしょうし、何より、ユリエも納得せず戦争は起きていたでしょう。

 そしてレティシアもお父様も、罪が暴かれることがなかったかもしれない。

 何より、こんな素敵な方々に囲まれることができたのは、歩んだ道がこの道だったからでしょう。

 決して百点満点じゃない道でしたが、きっと私は……私達は、罪のない誰かの涙を拭うことはできたと思います。

 だからいい加減私も幸せになります。

 グレイ様と二人で王都内を巡回していますと日が登り切った辺り。貴族街の中央広場にて立食パーティが開かれていました。

 まあ、私とグレイ様は思いっきり着席していますが。

 そこには貴族当主とその夫人程度しか招かれていませんでしたが、護衛騎士たちは皆貴族。

 その中には、メルヒオール様がいらっしゃいましたので、手を振りましたが、切なそうな表情でおめでとうございますと言われました。

 現宰相のマックス様や、公爵家当主のお兄様に夫人のお義姉様。その他にもお会いしたことある方々がご挨拶に来ました。

「ガルータ伯爵家。当主ミコラーシュ・ガルータです」

「ええ、今後もよろしく」

 最後の挨拶をちょうど終えたところで、食事会も終了。あまり食べることはできませんでしたが仕方ありませんね。

 午後からの巡回が始まりますと、またまた声援を頂きました。

「慣れてきた?」

「ええ!」

「それじゃあ、次はこれだね」

「え?」

 グレイ様にそう返事をしてしまったことが早計でした。だってこの人は、私の表情を見て楽しむ変態なのですから。

 王都の街中で彼は、集まってきた民衆に見せつけるように私にキスをしたのです。

 当然周囲からの声はエキサイトして行きますが、私の頭は一切の処理ができなくなり真っ白になってしまいました。

 王宮に戻るまでの道のり、私は彼からの突然のキスを忘れることができず、ずっと赤面して硬直してしまい、巡回の後半ではお疲れになられているということで何とか納得して頂きました。

 そして当然これから夜会が始まります。生誕祭はまだまだ続くのでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

処理中です...