BAD END STORY ~父はメインヒーローで母は悪役令嬢。そしてヒロインは最悪の魔女!?~

大鳳葵生

文字の大きさ
22 / 228

22話 目を閉じて思い浮かべる

しおりを挟む
 ある日の昼下がり、宮殿に遊びに来たミゲルと二人で騎士団の闘技場に見学に行っていました。この世界ではほとんどの人が魔法を使え、それは騎士達も例外ではありません。むしろ、他国も魔法を使うことから、最低限の魔法を使えないと、騎士になれても生存できないと言われています。

「ミゲルはご両親のことが好きですか?」

「はい、特に騎士団長をしている父は、僕の目標でもあります」

 意外なことに、ひどく臆病だったミゲルは、会うたびに強くなりたいとか騎士になるとかそういう話題を口にするようになりました。彼の中で、護りたいものができたのかもしれません。

「そういえば姫様はこないだ魔法を使われたのですよね」

「ええ、まあ」

 いつの間にかミゲルにまで知られていたみたいです。とくに黙っていた訳ではありませんが、やはりこの年で魔法を扱えるのは、魔術師だとを両親に持つ者たちくらいで、初級魔法を扱えるだけでも天才と言われるほどだそうです。

 そう、この年で初級魔法は天才。だから、誰が見ても少年にしか見えないような人間が、黒い霧になって消えたり、転移したり、自分や他人を一時的に成長させるなんておかしな魔法が使えるはずがない。

「ミゲルは何か魔法を使えるのかしら?」

「まだ試したこともありません。もう少し大きくなったら、父と少しずつ練習する約束をしたばかりです」

「そう、お父さんと一緒に魔法の研鑽をされるのですね」

「はい! そしていずれは立派な騎…………姫様?」

「ん? なあに?」

 キラキラした目をしながら、何かを話していたミゲルは、私の顔を見て急に暗い表情を作る。まるで今ミゲルが見ている人が、辛そうにしているみたいなリアクションだ。

 ミゲル、それは私の表情ということですか。

「今、姫様がどこか寂しそうに感じて…………ごめんなさい勘違いだったかもしれません」

 勘違いなものか。大当たりもいいところだ。ミゲルは貴族の家ながら、優しい父親がいて、母親はわかりませんが、彼が愛されて育っていることはよくわかる。アレクシスやビルジニがどうだかわかりませんが、ミゲルの父ガエルならきっと息子を可愛がるだろう。

「ミゲル、貴方は鋭いのね。貴方が見抜いたように私は今とても寂しいの。たとえ世界中のどこかに私より寂しい想いをしている人が、何千何万いようと、私が寂しいと感じている事実に変わりありません」

 ワンダーオーブを手に入れるために、打算で仲良くなろうとしていたミゲル達。だから無意識に彼らに心を開くことをためらっていた気がします。

 そして今も、自分の寂しさを埋めるために利用している。私は悪い子だ。アラサーまで生きているというのに、ミゲルの方がずっと立派なに見える。

「姫様が何を悩んでいるのか全然わからないけど、僕で良ければいつでも遊びに来ます。もし僕だけじゃ無理ならアレクシスやビルジニも来たりして、姫様を決して一人になんかしません」

 前言撤回、立派に見えるじゃなくて立派なのよね。それとも若さかしら。根拠のない青臭いことを、恥ずかしげもなく言える。五歳児って素敵ね。

「ミゲル、約束よ。魔法学園に通っても他人の視線を気にして私のことを避けたら、魔法でぶっ飛ばしてあげる」

「なんですかそれ。でもよく僕が魔法学園に通うと思いましたね」

「それは……なんとなくです!」

 そして彼を利用する為に、一つの約束をした。でもワンダーオーブを手に入れるということは、彼や彼らを護ることにも繋がるのだから、これくらいいいわよね?

 それにもうミゲルもアレクシスもビルジニも、私の護りたいと思える人の笑顔に加わっている。だって今目を閉じて、三人の顔を思い浮かべたら、一番最初に笑っている顔が思い浮かぶ。護ろうと思うには十分な理由だ。

 そして私は三人を思い浮かべた後に、ジェラールとエリザベートを思い浮かべる。二人の顔はまだ笑っていない。やっぱり時間を見つけて二人のところに会いに行こう。そしてもっと仲良くならないと。

 確かに二人の顔は笑っていませんでしたが、思い浮かべた顔はどこか寂しそうな表情で、さきほどそういった顔をしていた私を見つめるミゲルのような表情だと気付いたからです。

 王族だというのに、幸そうにしないなんてもったいないじゃない。

「ミゲル、ありがとうございます」

「僕は何もしていませんよ? でも、今の姫様は良い表情だと思います」
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

悪役令嬢と弟が相思相愛だったのでお邪魔虫は退場します!どうか末永くお幸せに!

ユウ
ファンタジー
乙女ゲームの王子に転生してしまったが断罪イベント三秒前。 婚約者を蔑ろにして酷い仕打ちをした最低王子に転生したと気づいたのですべての罪を被る事を決意したフィルベルトは公の前で。 「本日を持って私は廃嫡する!王座は弟に譲り、婚約者のマリアンナとは婚約解消とする!」 「「「は?」」」 「これまでの不始末の全ては私にある。責任を取って罪を償う…全て悪いのはこの私だ」 前代未聞の出来事。 王太子殿下自ら廃嫡を宣言し婚約者への謝罪をした後にフィルベルトは廃嫡となった。 これでハッピーエンド。 一代限りの辺境伯爵の地位を許され、二人の幸福を願ったのだった。 その潔さにフィルベルトはたちまち平民の心を掴んでしまった。 対する悪役令嬢と第二王子には不測の事態が起きてしまい、外交問題を起こしてしまうのだったが…。 タイトル変更しました。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「イザベラ、お前との婚約を破棄する!」「はい?」悪役令嬢のイザベラは、婚約者のエドワード王子から婚約の破棄を言い渡されてしまった。男爵家令嬢のアリシアとの真実の愛に目覚めたという理由でだ。さらには義弟のフレッド、騎士見習いのカイン、氷魔法士のオスカーまでもがエドワード王子に同調し、イザベラを責める。そして正義感が暴走した彼らにより、イザベラは殺害されてしまった。「……はっ! ここは……」イザベラが次に目覚めたとき、彼女は七歳に若返っていた。そして、この世界が乙女ゲームだということに気づく。予知夢で見た十年後のバッドエンドを回避するため、七歳の彼女は動き出すのであった。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...