BAD END STORY ~父はメインヒーローで母は悪役令嬢。そしてヒロインは最悪の魔女!?~

大鳳葵生

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66話 ろくに質問も答えてはくれない

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 私に近づいてくる大司教ミカエル。彼は普段と違い穏やかな雰囲気ではない。

「クリスティーン姫。君はいつから自分の周りにその靄があったと思う?」

 いつから? そんなもの生まれつきとかでしょうか。だって少なくとも五歳のころには憑いていたのでしょう。

 てゆうか、この話し方ですと、彼は元から見えていた上で、何も違和感を感じさせずに私に接してきていたと言うことで間違いなさそうですね。

 ジョアサンもミカエルの喋り方でそれを察した様子。

「わからないわ。少なくとも五歳のころにはあったはずですが、生まれつきかもとも思っています」

「君にその靄が見えるようになったのは、正しく五歳の時からさ。それまでは遠目で何度か見てきた君に、そんな禍々しい”モノ”はついていなかったよ」

 そんな禍々しい”物”ね。

「父上。ではなぜ王に進言しなかったのですか?」

 ミカエルの隣にいたジョアサンが、ミカエルの方に顔を向け声を上げます。

「いやぁ。禍々しくても害はない。そう判断しただけさ。むしろ下手なことをすれば機嫌を悪くさせてしまう。だからもう帰りなさいクリスティーン姫」

 機嫌を悪くさせるってまるで生物のように言うのね。それに今日はあくまでミカエルから見て黒い靄が見えるのか見えないのかを聞くだけでしたし、それが分かっただけでも良しとしましょう。

「わかりました。それではまた。失礼します」

 私が頭を下げて教会から出ていき、馬車で待機していたスザンヌが私に気付き、御者を起こします。

「お待たせ」

「いえ、姫様に待たされるのも仕事ですので。存分に申し訳なく思ってください」

「無感情になったわ。行きましょう」

 馬車が教会から離れていく。教会の方を見ると、ジョアサンがこちらをじーっと見ていた。いつの間に出てきていたのかしら。

 もうじき夕暮れ。魔法学園の授業は三時ごろに終わる為、ちょうど一時間と言ったところかしら。私とスザンヌの顔はオレンジ色に染まります。

「スザンヌ、ちょっと聞きたいのだけど」

「何でしょうか?」

「もし私に悪魔が憑いていたら、貴女はどうする?」

「この機会にたくさん殴ります」

「…………その時はお願い」

 私が彼女の顔を見ないで窓の外を眺めながらそういうと、私の肩に何かが乗りました。

「……容赦しません」

「そうして頂戴」

 私は無礼にも主人の肩に頭を乗せるメイドを抱き寄せ、手が少し震える。この揺れは馬車の揺れのせいね。だから、私はちっとも怖いだなんて思っていない。

 それにミカエルは害はないって言っていましたし、現に九年間何も起きなかった。ですが、これから何も起きないだなんて保証はない。まだ駄目。私はまだ生きる。生きていたい。生きなきゃいけない。この国を護る為には不安要素は撤廃しましょう。

 その日の夜。夕食も終わり、スザンヌも自室に下がった頃。私は自室のベランダから王都を眺めていました。しばらくしない内に後ろから人の気配を感じます。

 いいえ、人の気配だったらどれほど良かったのでしょうね。

「こんばんは」

「随分あっさり受け入れているな」

 後ろから聞こえる男の声。本来、夜な夜なひとりぼっちだった部屋から、異性の声が聞こえれば、こんなにすんなり受け入れるような挨拶はしないでしょう。ですが、彼はどうせそこにいるものだと思って、私は声をかけました。

「ブランク、貴方は何者なのかしら?」

「魔術師だ。それ以上でもそれ以下でもない」

 それ以上だから質問しているのよ。でもいいわ。本題はこちら。

「貴方って消えていても、聖職者には見えているのかしら?」

 私の質問に対して、ブランクは何も答えない。何故? それは聞かれたら困ることだというのでしょうか。

「見えるのは聖職者だけとは限らないけど、少なくとも昼間の親子には見えていたんだろうね」

 その言葉で確信した。確信せざるを得なかった。

「どうして私に付きまとうの?」

 私に憑いて回っていた黒い靄の正体。それはこいつ自身だ。たまに私から離れることもあるからこそ、見えない時もある。こないだ教会に行く時だってわざといなくなったんだ。そして今日もミカエルが機嫌が悪くなるとも言いました。

「どうして教会が嫌いなの?」

「…………今は関係ないだろ? それよりワンダーオーブを手に入れるんじゃなかったのか?」

「それには他人の協力が必要なのよ。今のターゲットはそうねジョアサン。さっきの男の子よ。だから貴方が正体を明かさないなら今はそれでいいわ。でもしばらく私に付きまとわないで」

「……わかった」

 そう言った彼は、いつも通り黒い靄となり、その場から一瞬で消え去ってしまいました。そういえば消える瞬間の黒い靄は私にも見えるのね。
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