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第一章 離島生活
16話 脳裏に映ったもの
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礼拝堂内のどこからでも、主祭壇の奥にある聖母の像に向けて礼拝を行えば大丈夫です。私とヴィーちゃんは並んで礼拝をします。
並んで礼拝を済ませると、赤い髪のステフお姉ちゃんが私達に近づいてきました。
「よぉお前ら仲いいな」
「そんなんじゃないわよ」
「夫婦なんですよ」
「そんなわけないでしょ」
「…………クリスチナが夫か」
「ヴィーちゃん可愛すぎて」
「嫌よこんな夫」
無駄話をしているとフランさんが私達を睨みつけます。それに気付いたステフお姉ちゃんが私を連れてキッチンに向かいました。
私達フランチェスカ班最後の朝食作り。今日の作業が終わると、私達は明日から別の作業を行うことになっています。
「それでは今日も朝食作り頑張りましょー!」
「なんでお前が仕切っているんだよ」
ステフお姉ちゃんと一緒にキッチンに入ると、既に作業をしていたサーシャさんとモニカお姉ちゃんに挨拶をして野菜の皮むきを始めました。
作業も三日を繰り返すとみんなも慣れてきたのか手際もいい。特に戸惑うことなくてきぱきと作業が進みました。
「そういえば明日は何をするんだ?」
ステフお姉ちゃんが疑問を口にしながら、フランさんの方に視線を向けると、フランさんは首を横に振りながら答えました。
「いいえ知りません。各班長に通達が来るのは本日の夜の予定ですので、私達の明日の作業は明日の朝の礼拝後に一度私の元に集まってください」
「へえ。まあ面倒じゃなければいいや」
「せっかく料理を覚えたのに…………」
ステフお姉ちゃんは聞いておいて特に興味がなさそう。特に用事がなくても、大して木になっていなくてもとりあえず疑問を口にするタイプのようです。
そしてモニカお姉ちゃんは昨日は結局野菜を切る作業が上手くいかずに今日は初日と同じパン焼き。彼女曰く、せっかく覚えた作業らしいです。
ただし、ここだけの話サーシャさんもステフお姉ちゃんも定期的にモニカお姉ちゃんの手元を気にしていた気がします。
モニカお姉ちゃんは箱入り娘のヴィーちゃんと違い正真正銘の貴族令嬢。フランさんも一番簡単な作業指示を出しましたが、それでも心配だったようです。
「クリスチナはなんだと思う?」
今まで雑談に加わってこなかったサーシャさんが喋り、モニカお姉ちゃんもステフお姉ちゃんも驚きます。
おそらくサーシャさんは、純粋に私なら知っていると思って声をかけたのでしょう。未来視の力を知っているからこそ、私に聞いたのでしょう。
「そぉですねぇ。多分料理関係ではないと思いますよ。連続ってことはないでしょう」
私はひとまずそれっぽいことを答えると、サーシャさんはなるほどと答えました。
モニカお姉ちゃんとステフお姉ちゃんは、私とサーシャさんの間に何かあったのかと聞いてきましたが、夜の水浴びの件は二人の秘密。私は黙っていることにしました。
朝食の時間がすぎて自由時間。私は一人のんびりと歩いていると、サーシャさんが私の元にやってきました。
「説教部屋でいいか?」
「そうですね。そうして頂けるとありがたいです」
説教部屋とは、一対一で説教する為に用意された部屋でして、情けの為に説教の内容が周囲に聞こえないようにできています。
そこで秘密の会話を行う者も少なくありません。
私の未来視の力のお話をするのであれば、説教部屋が丁度いい。サーシャさんはそう判断したのでしょう。
ドアのカギをかけると、サーシャさんが既に座っている椅子の対面の椅子に座ります。
「単刀直入に聞こう。未来は変わったか?」
「いいえ、変わっておりません。今日の夜は水浴びを控えてください」
「どう危険かも話せないのか? それともそこの部分は曖昧なのか?」
サーシャさんは鋭い人だ。まさかそこまで指摘されるとは思わなかった。確かに私はそこまで明確に読めていない。ただ、彼女を必死になって止める未来だけは読めていたのだ。
その結果、サーシャさんがどんな目にあって四日目から消息不明になってしまったか、私の未来視には記載されていなかった。
「私の未来視ではサーシャさんの姿が明日以降存在しません。私ではそこまでしか知ることができませんでした」
「そっか…………じゃあ水浴びが原因とは限らないんだな?」
「!? いえ、私が最後に貴女を見たのは水浴びに誘われた時であって! …………そっか私は別に帰りを待っていたわけでは…………でも! なるべく夜は宿舎から出ない方が良いと思います」
「…………そうだな。その方が安全なんだろうな」
サーシャさんがそう言って鍵を開けて説教部屋から出ていってしまいました。彼女は私の方を一瞥してすぐに正面を向いて歩いていきます。
しばらくそこで座りっぱなしだった私は少しだけ考えこみました。
サーシャさんは本当に私の言うことを聞くつもりはあるのでしょうか。普通に考えれば危険な行動は避ける。一日くらい水浴びをしなければ問題ないのだ。
それに明日は四日目。朝早くに雑な行水ではありますが、お湯に浸かれます。だからきっと今日くらい水浴びをしないかもしれない。
でも、彼女が最後に私を見たのは何か意味があるのかもしれない。そんな気がしてならなかった。
私は一人、説教部屋から出ることができないまま時間がただただ過ぎてゆく。
サーシャさんの件も気になりますが、そればかりを気にしてはいられない。でも…………直近に起きる時間はやはりサーシャさんの件で間違いないでしょう。
「…………私はあまり彼女のことを知りませんが…………」
私は左肩を触る。彼女の聖痕の位置。彼女が素直に忠告を聞くのかどうか…………聖女候補生ならではの行動を考えた。
わからない。それが現段階の私の答えでした。もう明日にかけるしかないのでしょう。いくら未来が視えたからといって、行動を起こせば書き換わる。
そして書き換えの分岐点は過ぎた。もう一つ前の分岐には戻れない。私は一方通行の道を進むだけなんだ。
説教部屋から一人だけで出る。周囲には誰もいない。さて、お昼まで何をして過ごしましょうか。
教会裏の花壇の様子を見に行っていましたが、そこにステフお姉ちゃんの姿はない。花壇の土が濡れているのが目視でもわかります。
さきほどまでいたのでしょうね。さて、本格的に行く場所がなくなってしまいました。
この共同生活は自由時間が多すぎて退屈です。それもこれも、貴族の親の戯言のせいで…………おっといけませんね。あまり変なことは考えない様にしなければ。
並んで礼拝を済ませると、赤い髪のステフお姉ちゃんが私達に近づいてきました。
「よぉお前ら仲いいな」
「そんなんじゃないわよ」
「夫婦なんですよ」
「そんなわけないでしょ」
「…………クリスチナが夫か」
「ヴィーちゃん可愛すぎて」
「嫌よこんな夫」
無駄話をしているとフランさんが私達を睨みつけます。それに気付いたステフお姉ちゃんが私を連れてキッチンに向かいました。
私達フランチェスカ班最後の朝食作り。今日の作業が終わると、私達は明日から別の作業を行うことになっています。
「それでは今日も朝食作り頑張りましょー!」
「なんでお前が仕切っているんだよ」
ステフお姉ちゃんと一緒にキッチンに入ると、既に作業をしていたサーシャさんとモニカお姉ちゃんに挨拶をして野菜の皮むきを始めました。
作業も三日を繰り返すとみんなも慣れてきたのか手際もいい。特に戸惑うことなくてきぱきと作業が進みました。
「そういえば明日は何をするんだ?」
ステフお姉ちゃんが疑問を口にしながら、フランさんの方に視線を向けると、フランさんは首を横に振りながら答えました。
「いいえ知りません。各班長に通達が来るのは本日の夜の予定ですので、私達の明日の作業は明日の朝の礼拝後に一度私の元に集まってください」
「へえ。まあ面倒じゃなければいいや」
「せっかく料理を覚えたのに…………」
ステフお姉ちゃんは聞いておいて特に興味がなさそう。特に用事がなくても、大して木になっていなくてもとりあえず疑問を口にするタイプのようです。
そしてモニカお姉ちゃんは昨日は結局野菜を切る作業が上手くいかずに今日は初日と同じパン焼き。彼女曰く、せっかく覚えた作業らしいです。
ただし、ここだけの話サーシャさんもステフお姉ちゃんも定期的にモニカお姉ちゃんの手元を気にしていた気がします。
モニカお姉ちゃんは箱入り娘のヴィーちゃんと違い正真正銘の貴族令嬢。フランさんも一番簡単な作業指示を出しましたが、それでも心配だったようです。
「クリスチナはなんだと思う?」
今まで雑談に加わってこなかったサーシャさんが喋り、モニカお姉ちゃんもステフお姉ちゃんも驚きます。
おそらくサーシャさんは、純粋に私なら知っていると思って声をかけたのでしょう。未来視の力を知っているからこそ、私に聞いたのでしょう。
「そぉですねぇ。多分料理関係ではないと思いますよ。連続ってことはないでしょう」
私はひとまずそれっぽいことを答えると、サーシャさんはなるほどと答えました。
モニカお姉ちゃんとステフお姉ちゃんは、私とサーシャさんの間に何かあったのかと聞いてきましたが、夜の水浴びの件は二人の秘密。私は黙っていることにしました。
朝食の時間がすぎて自由時間。私は一人のんびりと歩いていると、サーシャさんが私の元にやってきました。
「説教部屋でいいか?」
「そうですね。そうして頂けるとありがたいです」
説教部屋とは、一対一で説教する為に用意された部屋でして、情けの為に説教の内容が周囲に聞こえないようにできています。
そこで秘密の会話を行う者も少なくありません。
私の未来視の力のお話をするのであれば、説教部屋が丁度いい。サーシャさんはそう判断したのでしょう。
ドアのカギをかけると、サーシャさんが既に座っている椅子の対面の椅子に座ります。
「単刀直入に聞こう。未来は変わったか?」
「いいえ、変わっておりません。今日の夜は水浴びを控えてください」
「どう危険かも話せないのか? それともそこの部分は曖昧なのか?」
サーシャさんは鋭い人だ。まさかそこまで指摘されるとは思わなかった。確かに私はそこまで明確に読めていない。ただ、彼女を必死になって止める未来だけは読めていたのだ。
その結果、サーシャさんがどんな目にあって四日目から消息不明になってしまったか、私の未来視には記載されていなかった。
「私の未来視ではサーシャさんの姿が明日以降存在しません。私ではそこまでしか知ることができませんでした」
「そっか…………じゃあ水浴びが原因とは限らないんだな?」
「!? いえ、私が最後に貴女を見たのは水浴びに誘われた時であって! …………そっか私は別に帰りを待っていたわけでは…………でも! なるべく夜は宿舎から出ない方が良いと思います」
「…………そうだな。その方が安全なんだろうな」
サーシャさんがそう言って鍵を開けて説教部屋から出ていってしまいました。彼女は私の方を一瞥してすぐに正面を向いて歩いていきます。
しばらくそこで座りっぱなしだった私は少しだけ考えこみました。
サーシャさんは本当に私の言うことを聞くつもりはあるのでしょうか。普通に考えれば危険な行動は避ける。一日くらい水浴びをしなければ問題ないのだ。
それに明日は四日目。朝早くに雑な行水ではありますが、お湯に浸かれます。だからきっと今日くらい水浴びをしないかもしれない。
でも、彼女が最後に私を見たのは何か意味があるのかもしれない。そんな気がしてならなかった。
私は一人、説教部屋から出ることができないまま時間がただただ過ぎてゆく。
サーシャさんの件も気になりますが、そればかりを気にしてはいられない。でも…………直近に起きる時間はやはりサーシャさんの件で間違いないでしょう。
「…………私はあまり彼女のことを知りませんが…………」
私は左肩を触る。彼女の聖痕の位置。彼女が素直に忠告を聞くのかどうか…………聖女候補生ならではの行動を考えた。
わからない。それが現段階の私の答えでした。もう明日にかけるしかないのでしょう。いくら未来が視えたからといって、行動を起こせば書き換わる。
そして書き換えの分岐点は過ぎた。もう一つ前の分岐には戻れない。私は一方通行の道を進むだけなんだ。
説教部屋から一人だけで出る。周囲には誰もいない。さて、お昼まで何をして過ごしましょうか。
教会裏の花壇の様子を見に行っていましたが、そこにステフお姉ちゃんの姿はない。花壇の土が濡れているのが目視でもわかります。
さきほどまでいたのでしょうね。さて、本格的に行く場所がなくなってしまいました。
この共同生活は自由時間が多すぎて退屈です。それもこれも、貴族の親の戯言のせいで…………おっといけませんね。あまり変なことは考えない様にしなければ。
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