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第二章 腐る。
第五話 菅原①
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トークイベント、撮影、撮影、撮影、雑誌の取材、エッセイ執筆、撮影、撮影、他業種の若手との対談、撮影──仕事は幾らでもある。錆殻光臣は暇ではない。だが、今は仕事よりも依頼のことで頭がいっぱいになっている。水にいつまでも腐りきられていては困るのだ。生活がままならなくなる。
「菅原」
深夜。
甥と菅原と暮らすマンションに帰宅する。菅原はリビングにいた。
「おや。おかえりなさい」
「ただいま」
「……あっさりただいまを仰いますね? 具合が悪い?」
眉根を寄せる菅原を無視し、腐臭のする水で手を洗う。厭な気持ちだ。自分で自分を汚しているような気さえする。
具合が良いか悪いかでいうならば──完全に悪い。
「おまえに仕事を任せたい」
「菅原は坊っちゃんの秘書ですので、そういうのはちょっと……」
「おまえにアレの秘書になるよう命じたのは俺だ。厳密には俺が雇い主だ。それぐらい、考えなくても分かるだろう」
「光臣さん、今、菅原のことを愚かだと思いましたね? そんなことは分かっているのですよ! 菅原は、坊っちゃんの恋の応援以外のことは今はしたくなく……それに光臣さん、先日仰っていたじゃあないですか。菅原は坊っちゃんのお世話だけをしていれば良いと……」
「状況が変わった」
上着のポケットから銀色の鍵を取り出し、テーブルの上に叩き付ける。菅原が目をまん丸に見開くのが分かった。
「どなたのおうちの鍵です?」
「小燕。刑事だ」
「ああ、あの、お綺麗な顔の……」
「綺麗か? それは俺には分からん。とにかく俺は今、小燕と仕事をしている」
「刑事さんと?」
情報開示を──するべきか、否か。迷いはあった。だが。
「菅原おまえ、刑事のボディガードをやれ」
「いやですよ!」
即答だった。
「なんでだ!」
「菅原は今、坊っちゃんの恋を応援しているのです! 春なのです! 無理です!」
「訳のわからんことを言うな! この……刑事がくたばったら、俺が困る!」
「光臣さんが困っても菅原は困らないのです! いや、まあ、お綺麗な刑事さんが何か事件や事故に巻き込まれて命を落とされたらそれは……ちょっとは、いえ、結構可哀想だとは思いますけど……」
菅原は──『人間』が好きだ。光臣よりもよほど、『人間』に対して情を持っている。そこにつけ込むことに、躊躇はなかった。
「そうか。そうかよ。分かった。じゃあいい」
テーブルの上の鍵を回収し、光臣は吐き捨てた。
「小燕は、今俺が抱えている案件のせいで遠からずくたばるだろうな。おまえが俺の命令を聞かなかったから!」
「なっ……そ、それは、それは菅原が悪いのですか!? 光臣さんが小燕さんを巻き込んだのではないのですか!?」
「残念だが、先に仕事の話を持ち込んだのは小燕だ。あいつが自業自得でくたばる分には……まあ、俺の知ったこっちゃねえわな」
「なんと……!! なんと、なんと、人の心がない……!!!」
鍵をポケットに押し込む光臣、叫ぶ菅原──のあいだに、割って入った者がいた。
「ねえ、ふたりともうるさいんだけど……」
既に就寝していたはずの、甥だった。
「菅原」
深夜。
甥と菅原と暮らすマンションに帰宅する。菅原はリビングにいた。
「おや。おかえりなさい」
「ただいま」
「……あっさりただいまを仰いますね? 具合が悪い?」
眉根を寄せる菅原を無視し、腐臭のする水で手を洗う。厭な気持ちだ。自分で自分を汚しているような気さえする。
具合が良いか悪いかでいうならば──完全に悪い。
「おまえに仕事を任せたい」
「菅原は坊っちゃんの秘書ですので、そういうのはちょっと……」
「おまえにアレの秘書になるよう命じたのは俺だ。厳密には俺が雇い主だ。それぐらい、考えなくても分かるだろう」
「光臣さん、今、菅原のことを愚かだと思いましたね? そんなことは分かっているのですよ! 菅原は、坊っちゃんの恋の応援以外のことは今はしたくなく……それに光臣さん、先日仰っていたじゃあないですか。菅原は坊っちゃんのお世話だけをしていれば良いと……」
「状況が変わった」
上着のポケットから銀色の鍵を取り出し、テーブルの上に叩き付ける。菅原が目をまん丸に見開くのが分かった。
「どなたのおうちの鍵です?」
「小燕。刑事だ」
「ああ、あの、お綺麗な顔の……」
「綺麗か? それは俺には分からん。とにかく俺は今、小燕と仕事をしている」
「刑事さんと?」
情報開示を──するべきか、否か。迷いはあった。だが。
「菅原おまえ、刑事のボディガードをやれ」
「いやですよ!」
即答だった。
「なんでだ!」
「菅原は今、坊っちゃんの恋を応援しているのです! 春なのです! 無理です!」
「訳のわからんことを言うな! この……刑事がくたばったら、俺が困る!」
「光臣さんが困っても菅原は困らないのです! いや、まあ、お綺麗な刑事さんが何か事件や事故に巻き込まれて命を落とされたらそれは……ちょっとは、いえ、結構可哀想だとは思いますけど……」
菅原は──『人間』が好きだ。光臣よりもよほど、『人間』に対して情を持っている。そこにつけ込むことに、躊躇はなかった。
「そうか。そうかよ。分かった。じゃあいい」
テーブルの上の鍵を回収し、光臣は吐き捨てた。
「小燕は、今俺が抱えている案件のせいで遠からずくたばるだろうな。おまえが俺の命令を聞かなかったから!」
「なっ……そ、それは、それは菅原が悪いのですか!? 光臣さんが小燕さんを巻き込んだのではないのですか!?」
「残念だが、先に仕事の話を持ち込んだのは小燕だ。あいつが自業自得でくたばる分には……まあ、俺の知ったこっちゃねえわな」
「なんと……!! なんと、なんと、人の心がない……!!!」
鍵をポケットに押し込む光臣、叫ぶ菅原──のあいだに、割って入った者がいた。
「ねえ、ふたりともうるさいんだけど……」
既に就寝していたはずの、甥だった。
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