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第6章 どうやらフィツロイは八虐の不孝のようです。

別に幽霊なんて怖くないんだからね

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 手軽に持てるナイフやクナイを投げながら追いかけてくるフィツロイ。
それを必死に避けながら俺は階段を上がり、フィツロイの前に立ちはだかったのは英彦だった。
英彦は時間稼ぎをする。その間に俺がメガネを回収する。それが俺の考えた作戦。

「英彦さん退いていただけませんか? 
私の狙いはあくまでも明山さんです。
わざわざ手紙を届けてくださった方を殺す事になったのはとても残念です。
だから、これ以上あなた方には怪我を追わせたくないんですよ」

立ち止まり少し涙を流しながら答えるフィツロイ。
敵である英彦にさえも敬語で、しかも反戦的な態度で接している。
だが、英彦は退かない。

「フィツロイさん。あなたがどんな理由で幽霊になって、どんな理由で魔王軍幹部の八虐になったかは知りません。
そして何故鍵穴の形をしたシミのある人を狙っているのかも……。
ですが、どんな理由でも明山さんは殺させません」

英彦の目は真っ直ぐ向いていたが、フィツロイを通り越して何かを見ていた。

「何故ですか??
明山さんを殺せば、あなた方は助かる。
なのに何故戦おうとするんですか」

彼女には分からない。なぜ、他人のために自らを危険な目に晒そうというのか。英彦の選択が理解できていない。
そこでフィツロイの質問に英彦は答える。

「だって自分が助かるために犠牲者を出して、生き続けるなんて……。僕はそんな生活を送るなら死んだ方がマシだと思うんです。
一生を罪悪感に取りつかれる。それはもう呪いなんです。生きる楽しみが無くなる。
だから、自分が助かるからといって僕は人を見捨てない」

 だが、フィツロイは両手にナイフを握りしめる。

「良いんですか? 仮に弱くても私は八虐。勝てる見込みはあるんですか?」

「いいや、僕は足止めをするだけです。それが僕のできる明山さんへの敬意の現れですから。

『インフェルノ ランナウェー』」

いきなり英彦が放った技により激しい炎が廊下全体を駆け巡る。

「廊下ごと燃やすなんて、酷いですよォォォ!!!!!」

半泣き状態のフィツロイの悲痛な叫びも届かず、フィツロイは炎に呑み込まれる。
一階の廊下は既に火事。
このままではこの豪邸全体が炎に包まれ、全焼になるのは確実である。

「やっぱり一筋縄じゃ駄目か……」

英彦が指を鳴らすと炎は消え去った。炎がじゃまでフィツロイの姿が隠れてしまったからである。
しかし、この狭い廊下からは逃げ道がない。一方通行だ。部屋に逃げ込もうが窓から外へ出ようが、音がするはず。だが、音はしなかった。フィツロイはこの廊下から逃げてはいない。
それなのに、先程フィツロイがいた場所には誰もいない。
フィツロイが焼け焦げ灰になった訳ではない。
フィツロイは英彦のすぐ後ろで刃物を構えているのだ。

「駄目ですよ。火気厳禁です!!」

英彦の背中を完全にとらえている。いつから英彦の後ろに回り込めたのかは分からない。
この距離ならば恐らく少しでも動けば刺し殺されるだろう。
だが、先程から英彦は他のことが気になっていたようで、

「あの近すぎです。もう少し離れてくれませんか………………………?」

英彦の発言によりあることに気づいたフィツロイ。

「あっ………………」

近すぎたのだ。近づきすぎたのだ。もう背中のすぐそばにフィツロイがくっついていると思われても仕方がないほどに密着していたのだ。
そのため、二人は赤面して会話がうまくできていなかった。

「……………」

「……………………」
気まずい空気が2人の間を駆け巡る。
このままでは話が進まないと分かり、英彦はフィツロイに話しかけてみる。

「あの……?」

「はい……なんでしょうか?」

「───続けます?」

「あっ……分かりました」

二人の周りの空気がとても重く変化した。



 下の階からものすごい音が聞こえてくる。

「あいつ……八虐相手に大丈夫かな…? 
殺されてないといいけど」

その頃、俺は無事に二階にたどり着くと、廊下を反対側の階段を目指し走っていた。
先の見えない一本道。

しかし、こんな幽霊屋敷の廊下を1人で歩くって。

「怖いな。怖いな。チクショォォ!!
黒でも連れてくればよかったぜ」

暗い廊下を1人ボッチで歩く。
外からの風で窓が揺れる音とか、木がざわめいている音とか。
もう怖い。すごく帰りたい。今すぐにでも下の階で戦っている英彦の元に行きたい。

そもそもこんな夜遅くに出歩くのが間違ってるんだ。

「夜は小説とかゲームとかせずに寝る!!
今日が終わったら、そんな生活をきちんとするから。だから何も出てくるなよ?」

そう思いながら震えて廊下を歩く。

「──よし、しりとりでもしよう」

なぜこの時しりとりをしようと思い付いたのかは分からないが、とにかく俺は黙りたくなかったのだろう。怖さを紛らわすために音が必要だったのだ。

「よし、しりとり~」

返事が返ってくるはずもないしりとり。一人しりとり。ひとりとり。

『リンゴ~』

「ゴリラ~」

『ラッパ~』

「パン~。あっ、負けたな。アハハハハ!!!」

俺は1人で廊下で大笑いしている。
しかし、途中で聞こえてきた声はいったい誰のだろう。
いや、気にしないでおこう。

「よし、次は歌でも歌おうかな~」

さすがにしりとりは飽きたので、次は歌にしよう。

「それでは聞いてください。
『第8番目  付喪の唄』

ウサギがぴょんぴょん跳ねてるな~♪
2つの角はまた埋まり~♪
鬼は首取り、心臓抉れ~♪
世界平和は主人公の定め~♪
呪いの8は意味する新たな旅路~♪
魔か天かは己が決めよ~♪
アーアー付喪音頭~あっ、違う♪
付喪の唄ァァァァァァ~♪」

夜の闇から大勢の拍手が聞こえてくる。ありがとう、みんなアンコールをありがとう………?
おそらく幻聴であろう。

俺はもう何も言わず何も考えず廊下を走っていく。
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