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第9章 どうやらエルタは八虐の不義のようです。

マオによるヨーマと死神さんの救出劇

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 桟敷によって捕らえられてしまった死神さんとヨーマ。
桟敷は今度はマオに狙いを定めたようだ。

「次は君だ。さぁ、諦めるんだ」

桟敷はマオに向かって指を差し宣言する。

「いらねぇー。我は別に永遠なんていらねぇー」

だが、マオはその誘いを冗談混じりの言い方で断った。

「残念だなー。生きとし生けるモノ全てに休息が足りていないというのに……。君たち若者には成長する辛さがまだ分からないようだね。」

「そりゃ、我もヨーマも子供だもん」

桟敷は残念そうに呟くが、マオの心にはまったく響いてこない。
自分の経験していない事は人に言われても本心では理解していないのだから。
例えるなら、早めに勉強を始めた方がいいぞ…と言われる受験生前の生徒のような気持ちである。
でも、そんなことはなってからじゃないと分からないものである。
そう言われる事は桟敷にも分かっていた。



 「子供か。
君たちには分からないだろう。
僕は社会に壊され疲れ果てた父の姿を知っている。僕は習慣に捕らわれて束縛された母の姿を知っている。
互いにマウントを取り合い、欲望を選び、他者を利用し、ただの歯車として扱われる。
そんな社会から僕は人類を解放しに来たんだ。
僕は安らぎを与える正義の味方なんだよ!!」

桟敷は長々と自分の想いを口に出す。
彼が見てきたもの、体験してきた事などを込めて演説する。
だが、マオはそんな事は分からないし、理解しようとしない。

「……確かに社会ってのは辛そうに見えるよ。
責任とか義務とか役割とか…大変そうだし、休息は大事だ。
でも、その底にはきっと誰かの笑顔があって、誰かの喜びがあって、誰かの感謝があるんだ。
そう信じなきゃやってられないよ。
そりゃあなたの言いたい事も分かるよ?
でも、肝心のあなたにはその笑顔を与えたいっていう志がなさそうだ。
ただ他人に押し付けるだけの行為を正義と考える。
誰かに頼まれたか?
ヨーマが死神っちがお前に頼んだか?
お前の正義は押し付けだ。支配だ。自由がない。
我はそんな支配ってのを許すことができない。
支配なんて大嫌いだ。
現に牢屋の付喪人っていうのがその証拠だよ!!!」

桟敷はマオに論破されて言い返せない。
しかし、桟敷はここで退くわけにはいかないのだ。

「黙れ、黙れ、黙れ、糞野郎!!
人々を救いたいと行動して何が悪い!!
この能力の前では皆サルだ!!
サルを見捨てずに救ってあげてるんだぞ?
僕の正義が理解できないのか!?
僕が正義だ。エルタ様にも認められたんだ。
……お前はいらない救う価値もない。お前はこの牢屋に潰されてスクラップになれ!!!!」

桟敷は怒りを露にして、マオに向かって牢屋をぶつけようとする。
桟敷にとっては自身の正義の行いを侮辱されるような言動だった。
こんな何も知らないような子供に論破されたのだ。
自分の行いが正義だと信じきった男。
彼は自分を否定する存在に向かって、宙に小さな浮かせている小さな牢屋を流星のように降らせる。
だが、マオはその場から逃げる事もなく。
その場に立ったまま動くことがない。

「…………」

小さな牢屋と言う流星が降り注ぐ。



 しかし、桟敷がその瞬間に見たものは完全な勝利ではなかった。
桟敷の放った小さな牢屋は、マオにたどり着く事もなく地面に撃ち落とされる。
降り注ぐ小さな牢屋は何にも当たらず、マオの目の前でただ落ちていく。

「なぜ……?」

桟敷には理解できなかった。
もちろん、その様子を見ていた死神さんにも分かるはずがない。
マオとヨーマ、2人の兄妹にしか分からない事である。
地面に撃ち落とされた牢屋は、まるで電池の抜けた機械の玩具ように動かない。

「へへーん、分からないかー。まぁ…分からないんだったらお前の敗けだね。分かんないならヨーマにも絶対勝てないよ。じゃあ頼んでいい?   我の自慢の妹ヨーマよ」

マオは桟敷を軽くからかった後に、ヨーマのいる牢屋に向かって合図する。
しかし、ヨーマは既に捕らえられているため動けるはずがない。
それをマオは分かっているはずなのだが、彼はヨーマに頼み込んでいる。

「───は~い」

ヨーマはそう返事をすると、出られないはずの牢屋から楽々脱出してしまった。
まるで家の玄関から居間まで歩くかのごとく簡単に牢屋から脱け出したのだ。

「お芝居も疲れちゃった。ねぇ、桟敷っち、ちょっと見てほしいものがあるんだけど」

桟敷は理解が追い付いていない。
こんな事は初めて経験する。
彼の能力から許可もなく脱出できたのだ。
牢屋の能力が通じない男の子と、牢屋の能力から脱け出した女の子。
そんな女の子が発した言葉の意味も分からない。
彼にはこの2人の事が何も分からない。
どうすればいいか分からずに彼は頷く。
すると、ヨーマは彼に近づいていき、彼の頭に手を置く。
そして、その手から彼の脳へと何らかの魔法を使っているようだ。



 数秒後。
ヨーマは彼の頭から手を離し、桟敷から離れる。
彼女に触れられていた間、桟敷はたびたび痙攣を起こしていた。
何が起こっていたのか。
死神さんにはまったく分からなかったが、桟敷が意識を取り戻した後に見せた表情で少しだけ理解した。
意識を取り戻した彼の顔色は真っ青になっており、冷や汗を大量に流していた。

「あっ……うっ………うっ…………」

さらに口数も減ってしまい、喃語でやっと声を出すくらいだ。
そんな先程までとは違う桟敷にヨーマは声をかける。

「さぁ、これも初級魔法だと習わなかった?    大丈夫です。あと数分後には治りますから」

ヨーマはそう言って桟敷に笑顔を見せる。
その笑顔はまさに優しい天使のような子供らしい笑顔だった。
すると、マオはヨーマの横に並び、桟敷に命令する。

「これで分かっただろ?   我が妹に逆らうとどうなるか。わかったら早くウサギさんと死神っちを解放してここから去れ」

それを聞いた桟敷は静かにうなずくと、マオに言われた通り能力を解除して3人の目の前から消えていった。
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