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第15章 どうやら全面戦争が始まるようです。(開戦)
金曜日バイトパーティー その1
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夕方。
誰もいないはずの付喪カフェに立ち寄る1人の男性。
夕日が片目を隠すほどの白い髪を照らしている。
それは久しぶりに登場した英彦であった。
彼は閉まっているドアに手をかけて開こうと試みる。
「あっ、鍵が空いてる」
もし、鍵が閉まっていたなら、全てが終わるまで私物を持って帰るのはやめておこうと考えていた英彦であったが、空いているなら話は早い。
「よし、さっさと荷物を持って帰りますか!!」
そう独り言を呟いて無人のカフェ内に入る。
いつもならまだ営業している時刻なのだが、休業要請により付喪カフェは客も店員もいない……はずだった。
「おっ、遅いじゃん。何してたんだ?」
英彦の耳が謎の声を聞き、彼の目はその声の主を探す。
キリッと瞬時に声のする方に目を向けてきた英彦。
その目に映ったのはおそらく俺の姿。
厨房でメニューを手にのんびりと眺めている俺の姿であった。
一瞬、驚いたような素振りを見せるのだが、不審者ではない事を確認した英彦はホッと胸を撫でる。
「明山さん。久しぶりですね。
なんでメニュー見てんっすか?」
「ん? 何ってメニュー見てるの」
俺の目は英彦の顔をチラリとも見ることもなくメニューに向いている。
その事が英彦には理解できていないようで……。
「いや、メニュー見てるのは知ってます。
僕が聞きたいのはその理由です」
「理由~? 別に本来ならこの時期にどんな期間限定料理が出されてたのかな~って思っただけだよ」
「そうですか……」
それだけの事か……なんて顔をしているのがメニュー越しからでも見える。
だが、こうやって面と向かって会うのも久しぶりだ。
俺は病院を脱け出してからまったく付喪カフェにも寄っていなかったし、入院中でバイトを休んだのも久しぶりだ。
俺は英彦との良き再会を期待していたのだが、英彦には噂で聞いた気になっていることがあるらしく。
「それより、国の命令に叛いて国外追放を無視したって聞いたんですが………。ほんとうなんですか?」
一番聞かれたくなかった質問を英彦がなんの躊躇いもなく言ってきやがった。
現在の俺は国の命令を破って王レベルの追っ手を掻い潜っている犯罪者。
いや、犯罪者は言い過ぎだろうか。
とにかく、国は俺が魔王に狙われている鍵の獲得候補者の1人だということを知り、国外追放を命じてきた。
しかし、俺はその場にいた王レベルによる裏切りではなく恩返しによって病院を脱走。
……という俺の主人公像らしからぬ行動をとっている。
「しっかし、久しぶりだな。お前らこれまでなにしていたんだ?」
「誤魔化した…………。ハァ、僕は家ですね。最後の休みになるかもしれないので、のんびりと過ごしてましたよ。
あと、マオさんとヨーマさんは旅に出てしまったので見送りくらいですかね」
英彦の脳裏に映るのは、家の布団でゴロゴロゴロゴロとだらけきっている様子。
そして、涙を堪えながら再会を約束し、友情を確認しあった盟友との別れ。
「ん? お前らって?」
英彦が俺の言葉を不思議に思っている。
ただし、俺の発言は間違ってはいない!!……はずだ。
俺は静かにメニューに目を向けながら、指を指す。
英彦は俺が指を指した方向をジーッと見る。
「………ッ…………!?!?!?」
すると、厨房の奥でボーっと体育座りをしている女性の姿が……。
英彦には存在感が無さすぎて気づいてもらえなかったようだが、俺も最初に見たときは幽霊かと思って絶叫してしまったほどである。
「黒さん……!?
なにしてるんですか? こんなところで……」
英彦によって名前を呼ばれた黒は、小さな声でブツブツと何かを呟いている。
「私が………メインヒロインなのに。
こんな最終章まで活躍や成長や進化がなかった」
どうやら彼女の出番が少ないことにスッカリ落ち込んでしまっているようだ。
「諦めろ。それがチート持ちの運命だ。恨むなら家系と神と食欲を恨むんだな」
「ムカッ~!!
例えどんなことがあっても、神を恨むわけないじゃない。信者をバカにしないで!!」
「ふーん、それならお前……もし女神がメインヒロインだったらどうするんだ?」
「速効で堕天。地獄の軍団を連れて天界を滅ぼし魔界も滅ぼし、破壊神にでもなってやるわ」
「────ああ、神よ。あなたはこんな奴に『暴食・強欲・倉庫・馬鹿』のチートを与えるべきではなかった」
「ムカッ………そんなこと言うなら明山だって主人公像がどうとか言ってるけど。それっぽい事した? 手柄何回盗られたか数えたことある~?」
「ムカッ………してます。幹部も何体か倒してます。誰かのために生きていた者……それが俺の主人公像だ」
ここから俺と黒の言い争いはヒートアップする。
ギャイギャイギャーギャーと口喧嘩を行っている俺と黒。
そんな2人に対して、英彦が起こした行動とは……。
微笑。それは微笑であった。
彼はこの言い争いを止めることも、哀れむこともせず、懐かしんでいる。
「フッ、懐かしいですね。前まではこうして、何度も問題を起こす黒さんと毒舌を吐きまくる明山さんで楽しくやってました」
「「おいおい、そこまで改編して言わなくてもいいだろ?
こいつ、少しくらいはいい奴だぞ?」」
英彦の発言に対して、俺と黒は同時に訂正を求める。
「「……!?」」
お互いの顔を見つめる2人。
こいつ本心ではこんな風に思っていたのか……とそんなことを考えてしまった。
俺はもしかしたらこいつの事を少しだけ悪く見すぎていたのかもしれない。
とにかく、もうこの話題はやめておこう。
「───まぁ、久々にこうして集まれたんだ」
「───そうね。最終章前だとしても、まだチャンスはあるわ。今は集まれた事を喜びましょ」
素直に謝れない2人。
でも、このまま喧嘩別れして戦争に行くよりはまだマシな方であるはずだ。
さて、こうして口喧嘩を終了させた俺達である。
「いや~しかし魔王軍との戦争とは……。昔からしたら考えられませんよね~」
英彦が苦笑いをしながら、言った。
確かに英彦の言う通りだ。
バイオンと戦ったり、試験を受けていた時や初めての依頼をこなしていた時からは想像もつかない。
誰も、まさかここまで大事になるとは思ってもいなかっただろう。
「そうね~」
黒は既に先程までの体育座りをやめており、移動して椅子の背もたれに体をもたれさせながら、話を聞いていた。
一方、俺は背伸びをしてダルそうに愚痴を呟く。
「でも、この戦争が終わったらやっと俺も平穏な生活が味わえるぜ。
だって、鍵の獲得候補者にいつの間にか選ばれてて、命を狙われるんだぞ~。
俺はなにもしてないのに……」
こうやって俺がダルそうに愚痴を呟くのにもちゃんとした理由はある。
仮に普通の異世界物語の主人公なら、魔王軍と戦う理由が、身内の敵や女神からの願いや、お金のため。
立派な目的がちゃんと存在するのだ。
しかし、俺の場合は何にもない。
女神からは魔王退治は依頼されず、注意して生きるように言われただけ。
身内の敵なんてエルタや犯人くらいしかない。
お金のため……?
逆に敵が向こうから俺の命を目当てにやって来ている。
俺はほんとに平穏なバイト生活を過ごして、こいつらと面白おかしく暮らしていきたいだけなのに、運命がそうさせてくれないのだ。
なんだか、こうやって今までの事を振り返ってみるとムカついてくる。
俺は悪いことなどしていないのに、ここまでの仕打ちは許せない。
異世界に来た代償にしては大きすぎる。
俺の心は完璧に魔王への恨みに染まっていた。
「───魔王の野郎。もし会ったら絶対に今までの屈辱を利子つけて支払ってもらうぜ!!
俺という一般人を相手にしたことを後悔しながら地獄で泣きわめかせてやる!!」
戦いの前に敵への殺意を出すのは、決意が揺らぐことなく良い事なのだが、俺の台詞に対して英彦がツッコむ。
「明山さん、それ悪役が言う台詞ですからね……。最終決戦だからと言っても命の終わりにはならないでくださいよ」
その英彦のツッコミと同時に黒は意味ありげに思っていることがあるようで、
「でも、確かにそうね……。これでようやく終わるわ」
……と少し暗い表情を浮かべて呟いていた。
誰もいないはずの付喪カフェに立ち寄る1人の男性。
夕日が片目を隠すほどの白い髪を照らしている。
それは久しぶりに登場した英彦であった。
彼は閉まっているドアに手をかけて開こうと試みる。
「あっ、鍵が空いてる」
もし、鍵が閉まっていたなら、全てが終わるまで私物を持って帰るのはやめておこうと考えていた英彦であったが、空いているなら話は早い。
「よし、さっさと荷物を持って帰りますか!!」
そう独り言を呟いて無人のカフェ内に入る。
いつもならまだ営業している時刻なのだが、休業要請により付喪カフェは客も店員もいない……はずだった。
「おっ、遅いじゃん。何してたんだ?」
英彦の耳が謎の声を聞き、彼の目はその声の主を探す。
キリッと瞬時に声のする方に目を向けてきた英彦。
その目に映ったのはおそらく俺の姿。
厨房でメニューを手にのんびりと眺めている俺の姿であった。
一瞬、驚いたような素振りを見せるのだが、不審者ではない事を確認した英彦はホッと胸を撫でる。
「明山さん。久しぶりですね。
なんでメニュー見てんっすか?」
「ん? 何ってメニュー見てるの」
俺の目は英彦の顔をチラリとも見ることもなくメニューに向いている。
その事が英彦には理解できていないようで……。
「いや、メニュー見てるのは知ってます。
僕が聞きたいのはその理由です」
「理由~? 別に本来ならこの時期にどんな期間限定料理が出されてたのかな~って思っただけだよ」
「そうですか……」
それだけの事か……なんて顔をしているのがメニュー越しからでも見える。
だが、こうやって面と向かって会うのも久しぶりだ。
俺は病院を脱け出してからまったく付喪カフェにも寄っていなかったし、入院中でバイトを休んだのも久しぶりだ。
俺は英彦との良き再会を期待していたのだが、英彦には噂で聞いた気になっていることがあるらしく。
「それより、国の命令に叛いて国外追放を無視したって聞いたんですが………。ほんとうなんですか?」
一番聞かれたくなかった質問を英彦がなんの躊躇いもなく言ってきやがった。
現在の俺は国の命令を破って王レベルの追っ手を掻い潜っている犯罪者。
いや、犯罪者は言い過ぎだろうか。
とにかく、国は俺が魔王に狙われている鍵の獲得候補者の1人だということを知り、国外追放を命じてきた。
しかし、俺はその場にいた王レベルによる裏切りではなく恩返しによって病院を脱走。
……という俺の主人公像らしからぬ行動をとっている。
「しっかし、久しぶりだな。お前らこれまでなにしていたんだ?」
「誤魔化した…………。ハァ、僕は家ですね。最後の休みになるかもしれないので、のんびりと過ごしてましたよ。
あと、マオさんとヨーマさんは旅に出てしまったので見送りくらいですかね」
英彦の脳裏に映るのは、家の布団でゴロゴロゴロゴロとだらけきっている様子。
そして、涙を堪えながら再会を約束し、友情を確認しあった盟友との別れ。
「ん? お前らって?」
英彦が俺の言葉を不思議に思っている。
ただし、俺の発言は間違ってはいない!!……はずだ。
俺は静かにメニューに目を向けながら、指を指す。
英彦は俺が指を指した方向をジーッと見る。
「………ッ…………!?!?!?」
すると、厨房の奥でボーっと体育座りをしている女性の姿が……。
英彦には存在感が無さすぎて気づいてもらえなかったようだが、俺も最初に見たときは幽霊かと思って絶叫してしまったほどである。
「黒さん……!?
なにしてるんですか? こんなところで……」
英彦によって名前を呼ばれた黒は、小さな声でブツブツと何かを呟いている。
「私が………メインヒロインなのに。
こんな最終章まで活躍や成長や進化がなかった」
どうやら彼女の出番が少ないことにスッカリ落ち込んでしまっているようだ。
「諦めろ。それがチート持ちの運命だ。恨むなら家系と神と食欲を恨むんだな」
「ムカッ~!!
例えどんなことがあっても、神を恨むわけないじゃない。信者をバカにしないで!!」
「ふーん、それならお前……もし女神がメインヒロインだったらどうするんだ?」
「速効で堕天。地獄の軍団を連れて天界を滅ぼし魔界も滅ぼし、破壊神にでもなってやるわ」
「────ああ、神よ。あなたはこんな奴に『暴食・強欲・倉庫・馬鹿』のチートを与えるべきではなかった」
「ムカッ………そんなこと言うなら明山だって主人公像がどうとか言ってるけど。それっぽい事した? 手柄何回盗られたか数えたことある~?」
「ムカッ………してます。幹部も何体か倒してます。誰かのために生きていた者……それが俺の主人公像だ」
ここから俺と黒の言い争いはヒートアップする。
ギャイギャイギャーギャーと口喧嘩を行っている俺と黒。
そんな2人に対して、英彦が起こした行動とは……。
微笑。それは微笑であった。
彼はこの言い争いを止めることも、哀れむこともせず、懐かしんでいる。
「フッ、懐かしいですね。前まではこうして、何度も問題を起こす黒さんと毒舌を吐きまくる明山さんで楽しくやってました」
「「おいおい、そこまで改編して言わなくてもいいだろ?
こいつ、少しくらいはいい奴だぞ?」」
英彦の発言に対して、俺と黒は同時に訂正を求める。
「「……!?」」
お互いの顔を見つめる2人。
こいつ本心ではこんな風に思っていたのか……とそんなことを考えてしまった。
俺はもしかしたらこいつの事を少しだけ悪く見すぎていたのかもしれない。
とにかく、もうこの話題はやめておこう。
「───まぁ、久々にこうして集まれたんだ」
「───そうね。最終章前だとしても、まだチャンスはあるわ。今は集まれた事を喜びましょ」
素直に謝れない2人。
でも、このまま喧嘩別れして戦争に行くよりはまだマシな方であるはずだ。
さて、こうして口喧嘩を終了させた俺達である。
「いや~しかし魔王軍との戦争とは……。昔からしたら考えられませんよね~」
英彦が苦笑いをしながら、言った。
確かに英彦の言う通りだ。
バイオンと戦ったり、試験を受けていた時や初めての依頼をこなしていた時からは想像もつかない。
誰も、まさかここまで大事になるとは思ってもいなかっただろう。
「そうね~」
黒は既に先程までの体育座りをやめており、移動して椅子の背もたれに体をもたれさせながら、話を聞いていた。
一方、俺は背伸びをしてダルそうに愚痴を呟く。
「でも、この戦争が終わったらやっと俺も平穏な生活が味わえるぜ。
だって、鍵の獲得候補者にいつの間にか選ばれてて、命を狙われるんだぞ~。
俺はなにもしてないのに……」
こうやって俺がダルそうに愚痴を呟くのにもちゃんとした理由はある。
仮に普通の異世界物語の主人公なら、魔王軍と戦う理由が、身内の敵や女神からの願いや、お金のため。
立派な目的がちゃんと存在するのだ。
しかし、俺の場合は何にもない。
女神からは魔王退治は依頼されず、注意して生きるように言われただけ。
身内の敵なんてエルタや犯人くらいしかない。
お金のため……?
逆に敵が向こうから俺の命を目当てにやって来ている。
俺はほんとに平穏なバイト生活を過ごして、こいつらと面白おかしく暮らしていきたいだけなのに、運命がそうさせてくれないのだ。
なんだか、こうやって今までの事を振り返ってみるとムカついてくる。
俺は悪いことなどしていないのに、ここまでの仕打ちは許せない。
異世界に来た代償にしては大きすぎる。
俺の心は完璧に魔王への恨みに染まっていた。
「───魔王の野郎。もし会ったら絶対に今までの屈辱を利子つけて支払ってもらうぜ!!
俺という一般人を相手にしたことを後悔しながら地獄で泣きわめかせてやる!!」
戦いの前に敵への殺意を出すのは、決意が揺らぐことなく良い事なのだが、俺の台詞に対して英彦がツッコむ。
「明山さん、それ悪役が言う台詞ですからね……。最終決戦だからと言っても命の終わりにはならないでくださいよ」
その英彦のツッコミと同時に黒は意味ありげに思っていることがあるようで、
「でも、確かにそうね……。これでようやく終わるわ」
……と少し暗い表情を浮かべて呟いていた。
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