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最終章 どうやらヘレシーは【道徳否定】のようです。

お見送り

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 残された3人。
魔王城の天井は崩壊して筒抜けの状態になっており、そのはるか上空で真っ赤な炎のような球体が星のように輝いている。
それがこれからこの場所に落ちてくるという事を考えると、これがこの世界の最後であるという実感がわいてきた。
この平行世界は滅びる。これが運命なら、目を瞑って黙って運命を受け入れようかと思えるが、今の俺にはそんな運命なんて受け入れるつもりもない。
悔しい。その感情だけが心にしがみ付いたまま離れない。

「「おい・・・・ルイトボルト。いや、勇者とでも言っておこう」」

すると、城壁にもたれかかったまま、2人の兄妹が俺に声をかけてきた。
彼らの身体にできた刺し傷から血がドンドン流れ落ちていく。
このまま、小型太陽が落ちてくる前に命を終えそうな幼い兄弟。
俺はそんな2人の変貌が憐れだと思いながらも、彼らの話を聞くことにした。

「なんだよ」

「「君が奴を止めろ。我(妾)らは既に敗北した身。事の結末は勇者であるお前に任せてやるのだ」」

「いや、でも止めろって言われても・・・・」

移動手段がない。さすがの俺にもそんな平行世界を自らの力だけで移動できるような術を持ってはいない。他の仲間たちもおそらく敵将かエルタに殺されているだろうし、三原もここに来ていないという事は既に殺されているということだろう。

「「移動手段がない・・・・?
君は我(妾)らを誰と心得ているんだい?
魔王だよ? たしかに我だけでは苦労したが、今は妾がいる。兄妹の力を・・・・妖魔王の実力を侮ってもらいたくはないね」」

それはまるで移動手段を知っているかのような発言。その移動手段を実行してくれるのなら感謝はするが、今のその死に体で彼女たちに何かが出来るとは思えない。
しかし、それでも・・・・そんな自分たちの身体の状態を知っている彼らがこうして俺に伝えようとしてくれているのだ。
それを信じないわけにはいかない。

「ああ、分かった。教えてくれ。どうすればあいつをぶん殴りにいけるんだ?」

俺からのその返事に魔王は少しだけ口元を緩ませて笑っていた。



 「「簡単な話だ。我(妾)らがお前をエルタの所まで飛ばしてやる。まぁ、片道だけどね~」」

「飛ばす?」

「「妾の古代魔法を使えば、飛ばせるよ~。ただし、さっきも言ったようにそれは片道。もしもエルタにその平行世界から逃げられたらもう追うことはできない。まぁ、【異世界転移】のようなものさ。けれど君はその世界から出られない。それでもいいの?」」

たしかに、自由に平行世界を移動できるエルタとは違い、俺には一度しかない。
逃げられたらそこで終了。
しかし、あいつは絶対、俺を誘っている気がする。地道に他の平行世界の教えを崩壊し変換していくかもしれないが。魔王のように俺の持っている【鍵】を利用し、他の平行世界全てをひとまとめにして【1つの世界】と仮定することで、【エルタの思想が成立した平行世界群】と【エルタの思想が成立しない平行世界】の2つに分類される。あとはその【エルタの思想が成立しない平行世界】をエルタ自身が破壊することで真の変換が完成するのだ。
その方が手っ取り早いし、エルタなら完璧にそうする気がする。
だからこそ、エルタはその力で妖魔王に止めを刺すことなく見捨てたのだろう。
移動手段を知っている妖魔王を利用して、俺がエルタを追うように仕向けるために・・・・。

「ああ、分かってる。決着は俺がつける」

それにエルタを止めるにはこれ以外の方法がないのだ。

「「よろしい。その返事が聞きたかった」」

妖魔王は壁にもたれかかっていた背中を互いに支えながら俺の所へと歩き始める。
一歩、一歩、傷口から血を流しながら、彼らは肩を組みあってゆっくりと俺の所へと歩いてきた。
目の前に妖魔王の顔がある。戦っている時には集中して見れなかったが、ここまで側に来られるとやはり美少年美少女だ。妹や弟に欲しいくらいだが、この2人はこの2人だからこそこのかわいさがあるのである。

「「どうしたの? 我(妾)らの顔に何かついてる?」」

不思議そうに俺の表情を見上げる妖魔王。

「ああ、血がベッタリとついてやがるよ。お前らには似合わないくらいな。」

その顔を拭いてやりたいという気持ちもなかったわけではない。しかし、それ以上に時間が惜しいのと、敵として把握できなるかもしれない事がその気持ちを廃する。本来はこうして力を貸してもらう立場ではないのだ。妖魔王と俺には鍵を使って創造したい平行世界がある。ライバルで敵同士であるという関係なのだ。あいつの願望は正しいかもしれないし、正しくないかもしれない。それでも、俺はその願望を否定してここにいる。これ以上妖魔王としての彼らと慣れあう理由も資格も俺にはないのである。


「「それじゃあ、飛ばすよ。準備はいいかい?」」

「ああ、いつでも飛ばしてくれ」

もう上空では小型太陽が野球ボールくらいの大きさで落ちてきているのが見える。
あまり時間がないのは明らかだ。
すぐにでもエルタの後を追って奴を止めなければならない。
妖魔王の寿命もおそらくあと少ししかないはずだ。
俺達には時間がないのである。
しかし・・・・俺は最後に妖魔王に声をかけていた。

「───おい、妖魔王」

「「なんだい?」」

俺からの指名を妖魔王は静かに聞いている。

「俺はお前らの信じる未来を壊した。別に許さなくてもいいからな。お前らの考える人類にとって俺は敵で悪役だからな」

そう言って俺はもう妖魔王の方を見ることはなかった。
その後は無言で転移の準備を待っている。
光が俺の足元から射し始めて、その光は俺を宙に浮かばせる。
懐かしい感覚だ。あの時は異世界転生のようなことになったが、今度は異世界転移ときた。
こんな2つを経験したことがある人間はきっと俺だけな気がする。まぁ、両方味わうことになるなんてもう二度とごめんだが。
こうして、もう転移する寸前まで至った時。妖魔王はやっとその口を開いてくれた。

「「───ああ、許さないとも。もちろん、君を恨む。これで人類の神を超える時は先送りにされてしまったからね。神からの支配の開放・全人類平等は先送りだ。でもね、それでもこれが運命なら従う。我(妾)らの行動は速すぎたんだから」」

妖魔王は最後の最後であっても恨み辛みを俺にぶつけてはこなかった。

「「それではお別れだ。君の活躍を願っているよ。じゃあな、明山っち」」

そこ送迎の言葉に俺は返事をすることはなかった。そのまま、彼らの言葉を無言で聞いたのちにこの世界から旅立ったのだから。まぁ、ここでありがとうとか、またなとか、言ってしまうのも簡単ではある。妖魔王に会うことはできないから、言ってしまってもよかったのかもしれない。でも、そう言ってしまえば逆に妖魔王と再会してしまいそうだ。そして、また鍵を巡って争うことになるなんてごめんである。次だったら絶対に勝てない。このまま、勝ち逃げしておきたい。それでも、「どうせどこかでひょっこりと会ってしまうんだろうな」と考えながらも、俺は勝ち逃げをあきらめて彼らとの再会を夢見るのである。
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