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最終章 どうやらヘレシーは【道徳否定】のようです。

神化

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 元の世界にある町。
その大きな鉄橋の上で俺たちは立っている。
その橋の端で俺は片膝だけを地面につけて、鍵の先を指の間から出す。
もちろん、握りしめるのは忘れない。
ふとした拍子にエルタに鍵を奪われるわけにはいかない。
エルタの神速移動ではふとした瞬間に鍵を奪われる可能性はあり得る話なのである。
だからこそ、俺は今度こそエルタから目を背けない。
移動したと思った瞬間に、俺は一生をかけるほどの速さで鍵を使う。
さすがのエルタも鍵も俺の命も奪うなんて同時にはできないはずだ。 
そんな作戦を考えながら、エルタから目を離さないようにする。

「…………」

「おいおい、そんなに見つめるなよ」

一瞬、エルタの姿が視界から消えた。
俺は何が起こったのか驚く暇もなく、鍵穴のシミに向かって鍵を突き刺そうとする。
覚悟は先程決めておいた。方法もだいたい予想はできる。鍵の獲得候補者から鍵の獲得者になって、変わったことと言えば、不死身になったことだ。
つまり、獲得者からルイトボルトになるための儀式の素材はすでにあると言うこと。
最も怪しいのは候補者全員にある鍵穴の形のシミ。
そこに鍵を突き刺して開けば、鍵が解錠されるかのように解放されると考えたわけだ。
今から俺は人間を捨てる。ルイトボルトになる。
そこに後悔はない。俺がすべて背負う。俺がすべて変える。
俺が……あの日々に戻す。



 判断する前に行動に移す。「消えたッ!?」なんて驚く暇はない。視界から薄れた瞬間に俺の腕は動き出していた。
体を丸めるようにエルタから鍵を隠し、背中を向けたまま、俺は視界に映るエルタの手を見る。
エルタは片手を俺の顔に向かって伸ばした状態で現れたのだ。
竜のような形の大きな爪が俺の目と鼻の先にある。

「……終わりだ!!!くらえ!!!」

エルタの手のひらが俺の顔に当たる。
俺が突き刺すのが速いか。エルタが俺の頭蓋骨を握りつぶすのが速いか。
その勝敗は一瞬の時間の差で決められる。



 グサッ……!!
神速で移動したエルタが地面に足をつけたとき、その摩擦によってアスファルトが少しだけ砕ける。

「フッ……ハッ……フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!」

エルタは笑った。静かに笑っていた。
この速度……この神速にはかなわない。
確実に殺った。呆気なかった。
今、エルタが下に目を向ければ、そこには頭のない死体があるはずだ。
少しでも下を向けば、その目を動かせばエルタの目にも映るはずだ。
後は死体から鍵を回収すればいい。
不死身の肉体である男が復活する前に、鍵を奪い取ればいい。
頭が握りつぶされたのだ。
再生速度も少しは遅くなるはずである。
2秒でもあってくれれば、鍵を奪い取れる。
そうして、エルタは死体を確認するように眼球を下方向へと向けた。



 「………………下じゃない。上だぜ?」

エルタの視界に地面が映る前に、彼の頭上から声が聞こえる。
下に向けた眼球を上にあげようとしたエルタは、そのまま顎に向かって強い蹴りをいれられた。
その蹴りをいれてきた人物を目で追う前にエルタは地面に激しく激突してしまった。
今度は逆に地面に飛ばされてしまったエルタ。
彼はパッパと足についた砂利を払い、攻撃者に目線を合わせる。
宙には全身が白い男がいた。彼は白き炎に身をまとっている。全身を黒い鱗に覆われた龍人のエルタとは違い、全身を白い炎に覆われた人間。
エルタのように人を真似ている生き物のようだ。
体には緑色の線が入り、胸には大きな鍵穴が空いている。その視線は冷たい。
服は上半身だけ炎に燃やされており、ズボンは燃えてはいない。人間態であった頃よりも筋肉質になっているが身長は変わっていない。
戦闘形態といったところであろうか。人間態ではなく神態状態。

「チッ……」

これはエルタにとっては予想外の展開だったわけではない。前回もそうだった。ルイトボルトと戦うはめになることくらいは理解していた。
だが、自分と相手の差が圧倒的だったのに対し、今では同率というのがエルタにとってはムカつくことなのである。

「……なんだか嫌な感じだな。神ってのは」

気分が悪い。まだ慣れていないからだろうか。人間では理解できない気持ち悪さだ。これに慣れていく自分を想像するのが怖い。それでもとにかく実感はできる。
俺はルイトボルトになっている。ルイトボルト戦闘形態になれている。
その変化を見て、エルタは「仕方がない……」と一言呟くとそのまま口を開いた。

「ようやく、我らの次元に達したか。まずはおめでとう。そして死ね」

エルタは再び俺の視界から消える。
しかし、この状態のお陰で理解できた。
意識が途切れる。ほんの一瞬だけ意識が気絶したように途切れる。それは誰にも気づかれないほどの一瞬だけ。
その間にエルタは移動していたのだ。
瞬間移動に更に意識操作。
そして回し蹴り。
エルタの蹴りが俺の腹に向かって放たれる。
だが、それがどうした?
ガッシリとエルタの足を掴む。
エルタの回し蹴りは俺の腹に届くことができなかったのである。そして、俺は彼の足を掴んだまま、おもいっきり投げ飛ばす。
エルタの体は橋の鉄骨の部分に衝突。鉄骨は凹み、エルタはその場から数秒で離れた。
そうして、再び橋の上で向かい合う。
お互いに怪我をしている様子などない。完全にベストコンディションである。

「……さぁ、始めようぜエルタ。最終ラウンドだ!!」

宙に浮かんでいた体を地面に足つける。俺の最終決戦が今始まろうとしていた。
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