付喪ライダー:付喪神の力と共に闘う轢過非日常生活

満部凸張(まんぶ凸ぱ)(谷瓜丸

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第3台目:価値価値村

珠子+竜虎

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旅館の大浴場。
それは誰もが憧れる理想的なお風呂の一種である。

「さすがに男子風呂と女子風呂は離れてたかーー」

ここに今、大浴場でのお風呂を満喫して部屋に戻ろうとする男が1人。
その名は長与。
長与は1人で入浴を済ませて部屋に戻ろうと廊下を歩いていた。
すると、前の方からエビルよりも1つ年上くらいの小さな女の子が歩いてくる。
下を向きながらトコトコと歩いてくる。

「(人見ねぇのに客いるじゃん)」

自分達以外の客を見たのが初めてだった長与は女の子の方を見ながらふと思い出した。
この先は男子風呂なので女子風呂とは方向が違うはずだ。
女の子は大浴場の場所を間違えて向かっているのかもしれない。

「なぁ。そこの女の子」

「おや?  私のことですか?」

「そうそう君だ。そっちは男子風呂だから方向は逆だぜ?」

長与は立て掛け看板を指差しながら女の子に教えてあげる。
すると、女の子は目を見開いてびっくりという表現そのものを顔で表して驚く。

「ワッ!!  本当です。いつの間に場所が入れ替わったのでしょう」

「いやいや、最初から男子風呂だ。女子風呂は女性側の……西側の建物だったぜ。絶対に」

「西はここですよ?」

方角を外した。しかし、それでめげる長与ではない。長与は自分の記憶力の無さを祟りながらも、名誉挽回のために女の子に提案する。

「…………ゴホンッ。どうだろう。東側の建物に案内しようか?」

「嫌です。知らない人に着いていっちゃダメです。一般的な人間なら誰もが知っている常識でしょ?」

善意で接したのに正論を返されてしまった。
「たぶん3日立ち直れねぇわ」と長与は思ってしまったが、それでも女の子が無事に大浴場にたどり着けるのかが不安になってきていた。

「そうか……でもよ。本当に大丈夫か?
“良い”のか?  また迷うぞ?」

「えっ?  良いのか……ですって?」

「……???
そりゃお前のことが心配だから聞いてるんだぜ?」

「おっと失礼。自意識過剰でした。名前を呼ばれたのかと」

変な女の子だ。
急に何を言ってるのかさっぱりになってしまう。
長与は首をかしげながら、ふと「飯居先輩に似てるな」と思った。
おっちょこちょいな性格といい、見た目といい。
まるで飯居先輩の妹か娘みたいに似ている。

「なぁ、もしかしてお前の名前って飯居だったりする?」

「ええ、井伊ですよ。あっでも………………私の名前は『井伊珠子(いい たまこ)』です」

どうやら読みは似ていても漢字が違っていたらしい。
つまり、飯居先輩とも無関係の他人である。

「そっか。知り合いに似てたんだけどな。引き留めて悪かった」

「いいえ。それでは知らない人。私は行きますね」

そう言ってお互いに分かれる。長与たちはそれぞれ歩き出す。
その途中で女の子はふと長与に向かって尋ねた。

「あの……この旅館に私くらいの女の子があなたといたんですけど。
いずれお部屋に遊びに行ってもいいですか?」

どうやら長与とエビルが一緒にいたところを見られていたようだ。
「もしかしたら最初からエビルに会うことが狙いで男子風呂前で待ち伏せしていたのか?」と長与は考えたが、さすがにそれは考えすぎだろうと思い直す。
そして、長与は顔だけ女の子の方を向いて答えた。

「ああ、いつでも良いぞ」

それで会話は終了。
女の子と長与はそこで分かれる。
ちなみに結局、女の子は男子風呂の前までたどり着いてしまっていたようだ。





長与は部屋に戻ってみると、ちょうどエビルも大浴場から帰ってきていた。
見張るなんて言っておいて我慢できなくなったのだろう。
さいわい、盗まれるような物を持っていなかったので別に問題はなかった。

「そういえばエビルちゃんくらいの歳の女の子が会いたがってたぜ」
「…………そう」

エビルからは無関心。まぁそりゃそうだ。
エビルにとっては女の子なんて知らない人も同然。
同年代の女の子を偶然見かけたからといって遊びに行こうと考える行動力はあの女の子特有のものだろう。

「それじゃあそろそろ眠たいし寝るか?」
「……うん」

エビルは布団を敷き、長与はその隙に本日の出来事を日記にまとめておく。
日記は空白の2年間以前から書き始めていた長与にとっては毎日の日課のようなものであった。

「……寝よ」

「おっ、そうだな。なんだかいつも以上に眠たいしな」

長与が布団に入って明かりを消す。
今考えると、こうして2人側で寝るのは初めての経験だったが。
2人は意外と疲れていたのか、すぐに寝入ってしまった。



深夜0時頃。
長与が眠気眼の状態で一瞬だけ起きる。
すると、何かがエビルの側にいる気がした。

「ッッ…………」

子供くらいの人間のような何か。それはエビルにまたがってエビルの寝顔を見ている。

「(なんだあれ。噂の座敷わらし?)」

何かがエビルを押し倒したような展開を長与が見ているようである。エビルは最初から横になって寝ているのに……。
しかし、エビルは熟睡しているようで乗られていることも気づいていないらしい。

「ううん……?」

長与はその光景は夢なのか現実なのか分からずに、それよりも睡魔の方が強くて意識がなかなか目覚めない。
だが、長与の発した小さな声に子供くらいの何かは気づいたのだろう。
長与が一瞬目を瞑って開けると、そこには何もいなかった。

「(夢か……)」
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