私の可愛い悪役令嬢様

雨野

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幼少期

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 ついに来た。この時が。

 私とアシュレイは全ての課題を終了し、伯爵家での研修は終了した。
 そして今。旦那様の執務室で私達の階級が告げられる。


 さあ…結果は…!?







「2人共、よく頑張ったね。評価はハロルド、ヴァニラ、セイドウ、ジュリアからつけられる。」

「「はい。」」

 ちなみにセイドウとは、騎士団長の名前だぞ。




「その結果…アシュリィ、アシュレイ。君達は執事見習いに認められた。——おめでとう!」


 ……!!!

「「ありがとうございます!!!」」



 やっっったあああ~~~!!!見習いとはいえ執事!執事!!
 本当なら飛び上がって喜びたい所だが、我慢だ!家に帰るまでが研修だぞ!まあ帰ってからが本番だけど。




「おめでとう。君達はまだまだ成長途中だ。次に会う時には、胸を張って執事です、と言って欲しいな。」

「よく頑張りましたね。まだマナーには心配な所もありますが…他の仕事ぶりに問題はありません。
 貴方達なら、侯爵家でも大丈夫でしょう。」


 ハロルドさん、ヴァニラさん…。いつも注意されてばっかりだけど、たまに褒められると嬉しくて、お嬢様の為にも頑張ろう!って思えた…。
 あなた方に教授していただいた事、必ず使いこなしてみせます!!


「坊主、やっぱり騎士にならんか?ってのは野暮ってもんだな。お前はセンスがいい。その剣でお嬢様をお護りしろよ!」

「はい!ありがとうございました!」

「あと嬢ちゃん…お前さんはなるべく剣を握るな…。多分素手でいいと思うぞ。」

「お前…何した?」

「別に?…練習用の剣を、3本へし折っただけだし…。」

「…そうか。」

 やめてくんないかなあ、その反応!?アシュリィならしょうがない、みたいなやつ!私だって傷付くぞ!?


「アタシからは、うん、アシュレイくんは元々の目標の結界魔法と治癒、低級だけど時間稼ぎには十分に通用するわよお。それと身体能力強化魔法も覚えるといいわあ。低級でも結構違うからね。
 で、アシュリィちゃん。魔法に関しては言う事ないわあ!ただ暴走には要注意よ。遊びに行くから、また魔法一緒に勉強しましょうねえ。」

「「はい!」」




「では、これが紹介状だ。手紙は先に侯爵邸に出しておいたから、話は通ってる筈だ。
 君達にとっては、これからが本番だろう。…気を引き締めて、リリーナラリス嬢を支えなさい。」

「「はい!お世話になりました、旦那様!!」」


 当初の目的だった紹介状を手に入れた!…こんなにも達成感があるなんて、思いもしなかったなあ。
 …もうお別れか。あっという間に時間は過ぎちゃうなあ。…この屋敷に来れてよかっ「まだ終わってないわよ!?」




 …へっ?奥様?


「やっておしまい!!」

 奥様がそんな悪役っぽいセリフと共に指を鳴らすと、どこからかメイド軍団が現れた!

「え、え、え?」

 そして私をロックオン!どこかへ運ばれてった。


「何事ーーー!?」










 状況が掴めない私は、困惑するしかないのだった。
 気付くと鏡台の前、椅子に座らされている?


「執事たるもの、己の身なりにも気を配らなくてはいけません。そして貴女のその目は珍しいものですが、別段隠す必要性もありません。
 今後は起床したらまず、就業前に自身の身嗜みを完璧になさい!年頃になったら化粧もお忘れなく!
 さあメイド軍団、アシュリィを完璧に仕上げるのです!!」

「「「お任せを!!!」」」

 ヴァニラさん!!結構ノリ良いですね!?
 うぎゃあああああ!!身嗜みのプロに仕上げられちゃうううう!!


「やーん、お肌もちもちのすべすべ~!」
「はあ、このサラサラの髪は惜しいけど…。」
「ってやだあ、可愛いいー!!」
「ちょっとお、こーんなプリティーなお顔隠してたのお!?」
「腕が鳴るわね…!」



 ひいいいいいえええぇぇぇ…!!!









 


「…アシュリィ遅いですね。」

「女性の身支度には時間が掛かるものさ。それよりアシュレイ、とても似合っているぞ。」

「えへへ…ありがとうございます。」

 アシュレイは現在、燕尾服に身を包んでいる。身体の傷跡も消えたアシュレイは、その表情も見違えるようだ。
 彼がただ微笑むだけで、沢山の女の子が寄って来るだろう。ハロルドも大満足。




 と、その時ドアがノックされた。許可を得て入ってきたのはヴァニラだ。


「お待たせ致しました、アシュリィの準備が完了しました。どうぞご覧ください。」











 ふい~、やあっと解放された…。しかしお高そうな燕尾服。いくらすんの…?
 いや、考えるのはやめよう。お祝いで旦那様からのプレゼントって話だしね!

 にしても…よく考えたらこの家で顔面晒した事なかったな。いやあ、やっぱ前髪無いと視界がスッキリしてて気分も晴れるね!皆可愛いって言ってくれたけど…流石にお世辞が上手いね。
 そりゃあ私だってあの母の娘ですし?多少は良いと思うけど…ねえ。


 さーて、お披露目だ。アシュレイもお揃いの服だって言うし…並んでみよーっと!

「アシュリィ、入りなさい。」

「はい。」


 そして執務室に戻ると…
 
 感心したように「ほう…」と呟く旦那様。
 目をキラキラさせてる奥様。
 目を細めて、孫の成長に喜ぶおじいちゃんのようなハロルドさん。
 ヒュウっと口笛を吹く団長。
 うっとりしてるジュリアさん。

 そして…

「………。」

「いや、アシュレイ?あんた、私の顔見慣れてるでしょうよ。」

「おう…。」


 コイツ…女子に耐性が無さすぎる…!
 

「こらっ、これから私達は執事になるんだよ?あんた…いや君だって、貴族の御令嬢方に囲まれるかもしれないんだから!
 その都度そんなに顔真っ赤にして固まってたらどうするの!ポーカーフェイスよ、鉄仮面よ!」

「うん…。」


 うん、じゃねーわ!!!

「はあ…それよりも君、燕尾服似合ってるね!今のセットした髪型も良いけど、髪の毛伸ばしてさあ、三つ編みなんかにすると格好いいかも!
 それにやっぱり、綺麗な目をしてるね!私はどう?似合うかな?」


「似合ってる…ぜ…。超かわいい…。」






 彼はそう言い残し…倒れましたとさ。手の形を…グッドにしたまま…。



「アシュレイーーー!!!?」


 頭を抱える男性陣。目を輝かせる女性陣。私はどーすりゃいーのー!!?



「男装の麗人…ってとこかしらね…?」

「わかりますう、奥様。その辺の男よりも男前で、それでいて可愛さは損ねてないって感じですかね?」











 その後アシュレイが復活し、今度こそお別れだ。
 服を着替え、貰った燕尾服と紹介状を大事に大事に仕舞う。
 そして玄関ホールに向かうと、なんとお見送りに皆様勢揃いしてるじゃないですか。…自分涙いいすか?

 冗談抜きで泣きそう。…そして考えてしまう。
 私達はこれから戦場に向かう訳だが…もしもリリー様がこの家のお嬢様だったら。そして私とアシュレイが揃ってお仕え出来るならば。…それはとても、幸せなんだろうな…なんて。

 そんな夢を見るくらい、いいでしょう?



「本当に、お世話になりました。このご恩は必ず、何かの形で返させていただきます。またいつか、今度はお嬢様と一緒にお邪魔させてください!」

「大変だったけど、このお屋敷で過ごした1ヶ月はボク達の宝物です。これからも頑張ります!」



「君達なら上手くやれる。アシュリィ、暴走には気を付けて。アシュレイ、もうちょっと積極的に頑張れ!」

「…はい。」

「は、はい?」

 最後の最後に感動をぶち壊してくれてありがとう旦那様!お陰様で軽やかに出発できます!!


 本当に、ありがとうございました!!







「行っちゃったー…。」

「はあ、寂しくなるなあ。」

「でも一番悲しがってるのは…。」


「皆さん…今日から通常業務ですよ…ほらそこ、サボってないで…くぅ…。」

「「「ヴァニラさんだねえ…。」」」




 こうしてベンガルド家は台風も去り、いつもの日常に戻る。

 











 別れを惜しみつつも伯爵邸を後にした私達は歩き出す。また馬車の旅…ではない!


「アシュレイ、今日は空から移動だよ!」

「え?どうやって!?」


 ふふふふふ。もちろん、召喚さ!!


 そういえばジュリアさんが言ってたが…精霊に形は無いらしい。召喚した人間によって姿形が変化する。そして契約解除すればまた無形に戻る。
 ジュリアさんは狐が好きだから、どんな精霊を召喚してもみんな狐になるらしい。

 そして私のラッシュ、今は子猫サイズに縮んでるが…多分私の強そうイメージがパンダになったんだろうね。
 守護=頑丈そう→熊。そこに可愛さ+でパンダ。多分攻撃特化ならライオンが来るかもしれない。

 そして!移動用に新たに精霊さんと契約したのだ!地上なら馬もいいかもだけど、今回目指したのはズバリ、ドラゴン!!!



 …という事で召喚してみれば…。




『アシュリィちゃん…このコ…蛇?』

『いえ…ドラゴンです…。』




 西洋のドラゴンじゃなくて、和風のドラゴンが来てしまったよ。
 まあこれはこれでよし!!


「おおおお…?初めて見る動物だけど…かっけえな!?」


 うんうん、男の子だねえ。彼の格好良さが伝わって嬉しいよ。名前はリュウオウ。そのまんますぎて運命感じるね!


主人あるじ殿、早う乗れ。アシュレイ殿もか?—

「うん!お願いね、リュウオウ。さあ、後ろに乗って、アシュレイ!」

「おう!」



 …どこ掴めば良いのかな?あ、この小さい角ですか。よっしゃ!
 アシュレイ、しっかり掴まらないと落ちるぞ?バイクのタンデムだと思えばいいのに。って伝わらないか…。


「行っくぞーーー!!」

「おーーー!!」


—しっかり掴まっておれよ!—



 そうして私達は、シュタンの街に帰還するのだった。



 今行きます、お嬢様!!

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