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幼少期
過去編
しおりを挟むだが結果から言ってしまえば…私は失敗した。し続けた。お父様は必ず王国に行く。魔王として、責務を果たすため。何度も、何度も…
その度時間を巻き戻し、同じことを繰り返す。
…侯爵が禁術を使う前に、殺したこともある。お父様は死ななかったが…私に笑顔を見せてくれることは2度と無かった。それじゃ駄目だ、また繰り返す。
せめて禁書さえ無ければと、侯爵にありかを問い詰めたが…彼は吐くことなく、むしろ所持がバレて焦ったのか禁術を使われてしまった。
そもそも侯爵が禁術を使ったのは、この事件の数日前にザイン子爵が投獄されたから。子爵は数多くの犯罪に手を染めており、他にも税金を巻き上げたり若い娘を無理やり自分の妾にして飽きたら捨てたり、と繰り返していた。耐え切れなくなった領民が暴動を起こし、ついに子爵の行いが王宮にまで届いた。
そこから闇オークションまで捜査の手が届き、国内の悪徳貴族が一斉に粛正されることとなる。侯爵も1度だがオークションに参加した履歴が残されていたため、捜査対象になる。残しとくなよ、そんなもん。と思ったものだ。
そうして屋敷が荒らされる前に凶行に走った、というところだろう。
私は色々行動を起こした。だけど禁術発動→月光の雫覚醒→お父様死ぬ。この流れは中々変わらなかった…
(そういえば、月光の雫に選ばれたのって…ランス様とミーナ様が多かったけど彼ら以外にもいたよね。基準を満たしていれば誰でもいいんだろうけど、その基準ってなんだろう…?)
繰り返す時間の中、ほぼお父様は死ぬ。リンベルドに乗っ取られた以上は、必ずそうなる。
でもその中で…1度だけ、お父様を救おうとしてくれた人間がいた。それがアルバート・ベイラーとリリーナラリス・アミエル。私は繰り返す時間の中、幾度となく彼らと接触した。特に、リリーナラリス。
お父様を助けるヒントを探すため、私は寄宿学校に通うこともあった。そんな時、彼女に出会った。彼女は周囲の人間から恐れられ、ミーナ・シャリオンと衝突していることが多かったように思える。ただし取り巻きは沢山いたが、誰にも心を開いていないようだった。
彼女は侯爵の娘。何か禁書について知らないか探りを入れてみたりして…結果は惨敗。それでも少し、少しずつ。彼女との距離は縮んでいった。多分彼女にとっても、自分を恐れない私は新鮮だったんだろうな。
お父様は乗っ取られたあと、すぐに殺される訳ではない。月光の雫に選ばれた者が、すぐにそれを使いこなせないのだ。
(ランス様もミーナ様も他の人も。剣を振るったことが無い人を何故選んだんだろう?普段から慣れている騎士なんかは選ばれず、大体少年少女が選ばれていたな。そのおかげで時間稼ぎにもなっていたけど)
それは、いつのことだったかな。またお父様は自分を失ってしまって、私はどうにかしてそこからお父様を救いたくて。…一度だけ、リリーナラリスに弱音を吐いた。
「お父様が、このままじゃ死んじゃう…シャリオンさんに、殺されちゃう…。どうしよう、アミエルさん…。何度も、何度繰り返しても助けられない…!!わたし、は、もう失いたくない…!!」
それはリリーナラリスと、友人…と言ってもいいのかもしれない関係性の時。いや知人以上友人未満だったか。お父様を救う手掛かりを探して憔悴しきっていた私に、彼女が大丈夫かと声をかけてくれたのだ。
(彼女にしてみれば、私が何言ってんのか理解出来なかっただろうな。でも私はあの時本当に追い詰められていて…誰かに言いたかった。あの4人組は私を魔国に帰そうとするから頼れないし。
でも…彼女は…お父様がリンベルドに操られていると知って、その時会話を偶然聞いていた殿下と協力して、お父様を助けようとしてくれた。侯爵の死後禁書を見つけ、そこに記されていた魔法を用いて…)
「ねえアシュリィさん。私…散々酷い行いを繰り返してきたわ。もうやめたいって思っても、後に引けなくなってしまったの。だけど、だから…最期に、1度だけでいいから…誰かにありがとうって言われたかった。…さようなら、私のお友達…になってくれたかもしれない貴女」
そう書かれた手紙が、私の寄宿舎の部屋に置いてあった。意味が分からなかったけど…次の日全てを知った。
(彼女は殿下と協力して、お父様からリンベルドを引き剥がし自分達に移した。そしてそのままミーナ様に討たれることを望んだ…
お父様は助かったけど、自分の代わりに彼らが犠牲になってしまったことに心を痛めていた。私も…彼女と、もっと話したかった。友達に、なりたかった…!禁書を私にくれれば、私は自分に移せたのに!…って、だから渡してくれなかったんだろうな…
とにかく、あの2人は死にお父様もまた元気を無くしてしまった。私も、他の誰が死んでもいいけど…あの2人だけは失いたくないと思ってしまった)
そしてまた繰り返す。ただそれ以来、あの2人に接触するのは控えた。それどころか…最初はお父様と魔族のみんなだけ生きていればいいと思っていたけど。リリーナラリスをはじめ、失いたくない人がだんだんと増えてきてしまった。全員助かる道なんて、無いのに…
「ねえ、なんで!?何度やり直してもなんで助けられないの!?これが運命とでも言うつもりか、ふざけるな!!!」
何度繰り返しただろうか。何十回何百回…最初の人生から、何千年経ったのだろうか。どうしてもお父様は死ぬか、私を避けるようになる。私はそろそろ、限界だった…。もう、諦めるしかないのだろうか、と…。そうだ、お父様の後を追えばいい、とも思った。…いや!!
「何度でも何度でも繰り返してやる、絶対に諦めない!!!」
(どうして私はこんなにも、お父様に執着していたのだろう。大切で大好きな家族だけど…私を見てくれている人は他にもいたのに。私は彼らを一切見ていなかったんだな…)
いつだったか、夢を見た。
私は見知らぬ場所にいて、そこに立っていたのは…誰だったんだろう。その長い髪も肌も真っ白、目だけ血のように赤かった。そんな男性か女性かも分からないような美しい人。
そうして容姿に見合う美しい声で私に語りかけてきた。愛おしい子供に対するような、優しい心地よい声だ…
【もうやめなさい。お前の行為は地上に生きる者に許されている範疇を超えている。最早神の領域を侵し、これ以上続けるならば神々に対する冒涜として神罰が下される】
「神への冒涜?知ったことか!!お父様の生を許さない神など認めない、いらない!」
【…あと、1度。お前に許されるのはあと1度だけ。それ以上時間を戻したら…お前はもう。地上にはいられないよ】
そうしてその人は消え、私は目を覚ました。あれは神様だったのだろうか。警告、だったのだろうか。
「でも、どうすればいいの…?何か、きっかけさえあれば…!」
私は思いついた。
いつも私は…侯爵が禁術を使う数日前ほどに戻っていた。それ以上時間を戻す必要はないと思っていたから。
もう少し、戻してみよう。何か掴めるかもしれない。意味は無いかもしれないが…可能性はある…!!神様(仮)の言うことが確かなら、これがラスト。絶対に、お父様もみんなも死なせない!!
そうして私は最後の遡行をした。いつもより長めに…長めに…長め……
………戻しすぎた…
「…………………おん?」
目の前に広がるのは…見知らぬ部屋。魔国にも王国にもこんな造りの家は無い。
私は…前世、異世界まで遡ってしまったのだった…
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