私の可愛い悪役令嬢様

雨野

文字の大きさ
117 / 164
学園

30

しおりを挟む


「ランス大丈夫かなー…」
「ご安心を!いくらなんでも危害を加える事はありませんです!」

 不安しかねえ。
 てくてくお屋敷を探索中。ところで、なんで今日私らも呼んだの?


「えっと…お父様が名指しで皆さんを招くようにって言ったんです」

 は~ん…成る程ね。本命はランス、私とアシュレイはカモフラージュ要員か。
 アシュレイは何も気付かずキョロキョロ。お子様よの~。


「……っ。皆様、そろそろ応接間に戻りましょうか」

 え?まだ見終わってないけど…?
 まあ屋敷にゃそこまで興味無いし、大人しく戻ったら…。



「「「………………」」」

「あの、伯爵様…」
「はは、義父上と呼びなさい。これからも娘を頼んだぞ」
「いやあ~…感慨深いですなあ。あんなに小さかったお嬢様が、もう嫁入りをされるとは…」
「さあさあ呑みましょう!ランス様、お酒はイケるクチですか?」
「いえ…すぐ赤くなってしまうので…」
「これは失敬!」
「「「はっはっはっ!!」」」


 ……何があった?
 酒盛りを始める影の皆さん。そこにジェーンも加わった。
 ソファーにちょこんと座るランス。その隣でニコニコとワイングラスを傾けるシャリオン伯。そして…


「な…みんなっ、何してるの!?よよ嫁入りって…何ー!?」
「おおミーナ、こっちにおいで」

 ミーナが顔を真っ赤にして伯爵に詰め寄った。アシュレイはまだ首を傾げている。


「お頭様、ここは若い者同士にしてあげませんと!」
「おっと、解さ…じゃなくて。総員、扉から出なさい」
「「「はーい!!」」」


 皆さんはゾロゾロと、わざとらしく退室する。じゃあ私達も…直前で閉められた!!!ちょっ…!

「あの、ランス様!何があったのですか…!?それと、嫁入りとは…?」

 え、ミーナさん?あの、扉に張り付くアシュシュお見えでない?今まさに出て行こうとしたのですが?

「…ミーナ。大事な話があるんだ」
「え…」

 ランスさあん?アナタ達、何頬染めて見つめ合って、手を取り合ってらっしゃるの?


「(おいアシュリィ、これ…オレ達いていいのか!?)」
「(いい訳ないでしょ!でも…タイミング逃したんだよおおお!今音立てたら雰囲気ぶち壊しじゃん!!)」
「(遮音の魔法掛けてくれよ!)」
「(あっ、そうね!よーし…)」
「ミーナ。順序が逆になっちまったけど…
 俺、君の事が好きだ!何年も前から、ずっと…!」
「え……本当、ですか…?」
「「…………………」」


 そろ~…と同時に振り向く。
 いやあの、私らも年頃ですけん。こういうの…バリバリ興味あんねん。


「嘘なんてつくもんか!あの日…俺は君の言葉に救われた。大嫌いになりかけていた自分を認めて、前を向くきっかけをくれた。
 そしてこれから先も…君の隣に立っていたい。そう願っている」
「ランス様…。嬉しい…!」


 あわわわわ。やだランス、男らしい…!
 アシュレイは「オレは空気オレは壁オレは埃…!」とか呟いてる!!


「どうか、俺と結婚して…ベンガルド家に来てくれるか…?」
「はい…はい!わたしをあなたのお嫁さんにしてください!」
「ミーナ…!」

 ひょえーーー!!!なんてこった、こうしてまた世界に新たなカップルが誕生してしまった!!
 2人は熱い抱擁を交わし…ええ話や。


 ……こうしてる場合じゃねーーーっ!!!


「(来いアシュレイ!)」
「(……はっ!?)」

 遮音してついでに透明化して、惚けているアシュレイの首根っこ掴んで脱出!!


「「はあ、はあ…!」」

 とりあえず玄関まで来てしまった。ふう…いいもん見た。

「あの2人、相思相愛だったんだな…」
「みたいだね。いや~おめでたい」

 あはは~、と笑うのは私だけ。あれ、アシュレイ?


「………オレ、格好悪いな…」

 は?どこが…?

「ランスは…あんなにはっきりと言葉にしたのに。オレなんて…勢いだけでガキみたいに喚いて…」

 アシュレイは右手で顔を覆った。ああ…あのブチギレ告白気にしてんのね。でも…


「……私はさ。不器用で勢いのある告白…いいと思うけど」
「へ」
「あくまで私は、だけどね」
「あの…それって…」

 うるせえ言わせんなこの野郎。自分の発言忘れたんかコンチクショウ。


「あんたが…待ってろって言ったんじゃん」


 だから、待つよ。あんたが私に相応しくない…なんて微塵も思っちゃいないけど。今のままでも充分…好きだけど。

 踵を返せば、すぐにアシュレイが隣を歩く。そして…指を絡めて手を繋いだ。今は…この距離感が心地良い…






 応接間に戻れば、「婚約しました!」と報告してくるランス&ミーナ。おめでとー!と拍手すれば、2人は照れたように笑った。
 シャリオン邸の人達も全員戻って来て、改めて宴会が始まる。まあ影の皆さんが盛り上がってんだけどね。


「そういえば…シャリオン伯爵はどなたが継ぐのですか?」

 ふと気になり訊ねた。女性のミーナじゃ最初から無理だけど…ベンガルドみたいに養子を迎えるのかな?

「ああ、それは大丈夫だ。息子がいるからな」
「へー…ってそうなんですか!?」

 てっきりミーナは1人娘なのかと!
 伯爵は酒が入って気分がいいのか、娘の嫁入りが決まって嬉しいのか、普段より朗らかで饒舌だ。

「息子は今、後継の勉強というか…武者修行として世界を飛び回っている。先日来た手紙では、『そろそろ帰るわ。嫁さん連れてくわー』などと書いてあってな」

 へえ…フットワークの軽い息子さんですこと。ミーナも義姉の存在は初耳だったそうで、楽しみ~!と胸を弾ませている。


「そうそう、妻も息子と一緒に行動しているんだ」
「ああ…それでどこにいるか分からないって…」
「今度帰って来たら、ランスを紹介しないとな。寄宿学校を卒業して、その日のうちに家を飛び出してもう10年経つなあ…」

 そう笑う伯爵だが…。今、なんつった?
 学校を卒業するのは17歳。つまり…息子さんは27歳?


「……伯爵様は、おいくつなんですか…?」
「確か…今年で…51だったかな」

 ごっ……!?


「「「ごじゅういちぃ~~~!!?」」」


 私とアシュレイ、ランスの絶叫は屋敷中に響いた…

 初対面の時だってまだ30手前だと思ったのに、40代だった訳でしょ!?それから全然老けてねえな~って感心してたのに!!
 顎外れんじゃねえかってくらいポカンとしていたら、皆さん「その反応、何回見てもいいねえ~!」と大爆笑。


 そんな風に次々と、シャリオン家に関する衝撃的事実が明らかになった。
 ランス達も上手くいったみたいだし…今日来てよかったな。




 さて、そろそろ帰るか~となった時。伯爵様が耳打ちしてきた。

「君は…デメトリアス・グラウム様をどう思う?」
「えっ」

 伯爵様からその名を聞くと思わず、一瞬答えに詰まった。デメトリアス…彼は…

「……友達。うん、友達です」
「…そうか。
 彼はこれまで…苦難の道を歩んで来た。まだまだ先は見えず、手探りで足掻いている。」
「……?」
「どうしようもなくなる日も近いかもしれない。その時…きっと君の存在は助けになるだろう」

 それは、どういう意味なの…?疑問が顔に出ていたのか、伯爵様は苦笑した。


「残念ながらここから先は有料だ。
 だがヒントを1つ。グラウム帝国は我が国と同じく、長子が帝位を継ぐのが習わしだ。ベイラーと違うのは、女性にも継承権が存在するところだが…
 彼は第1皇子であり、上に姉もいない。なのに…何故皇太子でない?」
「そ、れは…」
「通常ならば、どれだけ遅くとも成人…15歳の時点で立太子の儀が行われる。
 彼には…それが出来ない理由がある」
「……………」
「…柄にも無く少し喋りすぎたかな。
 さあ、そろそろ帰りなさい。王都に着くのが遅くなってしまう」


 伯爵様は背を向けて、ミーナ達に挨拶をする。
 どうしてその話を私にするの。デメトリアスは…何者なの。


「どうした、アシュリィ?」

 アシュレイが、ひょいっと顔を覗き込んでくる。なんでもな……い…

「…………後で、話すよ」
「……おう」

 駄目だ。彼にだけは、誤魔化したくない。




 ねえ、デメトリアス。貴方は…最初はくっっっそムカつく男だと思ってたけど。
 段々と…思ったよりいい人かも?って変化して。
 今はね。アルやディードと同じくらい…大事な友人だと思ってる。

 だからさ。もしも苦しみを抱えているのなら…どうか。
 少しでいい。寄り掛かってくれると…嬉しいな。
しおりを挟む
感想 172

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

処理中です...