私の可愛い悪役令嬢様

雨野

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学園

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 ある日のこと。放課後…鳳凰会でお茶会をしよう、という話になった。ここには部外者は絶対入れないからね!

「私も…?」
「一応参加資格あるんだし、いいんじゃん?」

 そこにはパメラも呼んだ。彼女はこれまでの汚名を雪ぐ為、色々苦労していたらしい。その甲斐あってか…


「ほらパメラ。こっちのクッキー食べなよ」
「いやいや、僕と一緒にタルト食べるんだよ?」
「あの、私は…えっと」
「ほらエイベル、彼女が困ってるじゃん」
「いやリオネル。どう見ても君のせいじゃん?」
「あうぅ…」

 ニヤニヤ。パメラはアギラール双子にモッテモテ。双子はアル以上に彼女を嫌っていたらしいが、何があったのか今はベタベタ。いーんじゃない?年下の彼氏も~。
 あ、そうだ。

「「わわっ!ちょっと、アシュリィ様~!」」
「ちょいっとごめんよ兄弟。パメラ、これお父様から貴女に手紙」
「え。アシュリィのお父様…魔王陛下から!?」
「実はさ、お父様含めて数人は私の前世知ってるの。んで…同じ過去を持つ子がいるって手紙に書いたら、その子に渡して欲しいって。私も中は見てないんだ」
「へえ…?」

 という会話をボソボソする。パメラはその場で開封、訝しげに読み始め…


「…あ~!あははっ、なるほど」
「「「?」」」

 パメラは段々と笑顔になり、最後は吹き出した。そんな面白い…?思わず双子と3人で顔を見合わせた。

「今夜お返事書いとくから、送ってくれる?」
「ん?そりゃいーけど…
 何よ、教えてよ~?」
「うふふ、だーめ。すぐに分かるわよ」

 何よう。
 …ん?手紙を大事そうに胸に抱くパメラの笑顔に、双子が頬を染めている。そういうとこだぞ、パメ公。

 そして3日後に渡された返事は。便箋10枚分だった…なんなの、本当に。






 すっかり肌寒くなってきた今日この頃。やっぱ寒いと起きるの辛い、ふわ~ぁ。

「おはようございます、アシュリィ様」
「おはよぉ…」
「洗顔のお手伝い致します」
「あんがと…」
「ではお着替えを…」
「んー…」
「「「こらこらこらーーーっ!!!」」」

 ………はっ!!?私を脱がすコイツは、ラリーじゃねえか!!!

「ちょっと!朝のお世話はララとパリスの仕事って言ってんじゃん!!」
「チッ…」

 聞こえてんぞ、おい。
 ラリーを雇って1ヶ月経つけど。彼も大分、打ち解けてくれたと思う。
 それでも…やっぱりその、ご奉仕的な?したがる。隙あらば私を脱がそうとするんだ、この変態。

 5人で食堂に向かい朝食。リリー、マルガレーテ、パメラも大体一緒。従者4人は隣のテーブルで…で、最近気付いたんだけど。

「おい…ラリー。貴方、リリーとパメラの胸見てるよな?」
「………はて…?」

 無垢な瞳で誤魔化すなオイ。こいつ…巨乳好きだ!!
 リリーは言わずもがな、パメラも結構大きい。マルガレーテとララとミーナはまあ、平均?そして私とパリスはゲフンゲフン。

「すいませんねぇ~?ご主人様は貧乳でぇ~?」
「「「(貧乳って言っちゃうんだ…)」」」
「誤解ですよ~?僕は、ご主人様に拾われて幸せです♡」

 とまあ、こんな軽口も叩けるようになった。いい変化だよな、とこっそり微笑んでいたら、隣から黒い翼で突つかれる。食べにくい、こら。


「…………」
「ん?どうしたのパリスちゃん」
「ん~獣憑きってね?この耳とか尻尾とか…獣要素の部分って、あんま他人に触れて欲しくないの。
 ぼくの場合、アシュリィ様やララちゃんアイルちゃん、仲良しの人はいいんだけど…
 でもラリーくんって、しょっ中アシュリィ様の事翼で包んでるじゃない?あれ…本気で好きなんじゃ、ないかな…って」
「「…………」」


「アシュリィ様、僕が食べさせてあげましょうか?」
「いやいい。…いいっての!」
「はい、美味しいキュウリです。あーん♡」
「それ自分が嫌いなだけじゃんっ!?仕方ないなぁ…ほら、こっちの皿に乗っけんさい」

 こういった攻防もお約束。ん?従者達がご飯進んでない。時間無くなるよ?





「ねえデム。なんかさ、タンブルの弱点無いの~?」
「……弱点、か。そうだな…素行は悪いな」

 むーん。劇の練習の最中、2人で並んで座り壁にもたれる。
 今頃獣憑きの3人はどうしてるかな…もう寒いのに、まだ薄着させられてるのかな…

「実はさ、タンブルから何度か手紙が届いてんだわ。それがどうも…私に好意を寄せてるようで…」

 愛を囁く挨拶が多かったり。またお会いしたいです…とか。ロマンチックで吐き気がする言葉がいくつか。

「ああ…あいつは悪い噂が絶えないからな。金目当ての女くらいしか、あいつには近寄らん」
「ふうん…だから価値観を共有する私とは、恋愛できると思ってる?」
「多分な」

 キッショ。……今一瞬、アイツと結婚して家を乗っ取る案も浮かんだが。やだやだ、私にはアシュレイがいるもーんだ。


「…………」

 そのアシュレイは今、私の横にピタッと張り付いている。こやつ、劇ではなんの役割も無くて…ひたすら私達の練習を見学していやがる。

「……実は、タンブルを失墜させる方法はある」
「「えっ?」」

 あんのかよ!?と突っ込みたい気持ちを抑えて、デムに続きを促す。

「ただ、それは…国を巻き込みかねない。更に確実とは言えない方法だから…出来れば避けたい」

 はあ~…と大きく息を吐きながら、彼は髪をくしゃっと握る。一応…詳しい話を聞いてもいい?

「……ここでは言えん」



 はい、では移動!
 デム、私、アシュレイの3人で、鳳凰会のサロンを乗っ取った!

「で、どんな案?」
「…まず、俺が本当は皇子でない事、タンブルは知っている貴族の1人だ」
「「ふむふむ」」
「だから…それを公にする」
「「ふむ…???」」

 え、ど、つまり?公表する…って事?

「いや…漏洩させる。それをタンブルの仕業にしたい」
「………ああ!なーるほど」

 そりゃ簡単だが大変だ!ポンっと手を叩き納得していたら、アシュレイが「どゆこと!?」と私の腕を引っ張った。だーかーらー…




 グラウム帝国は、デメトリアスを消したいと思っている。
 知っている者は少なからずいるが、少なくとも平民と近隣諸国には知れ渡っていない。

 知られたくない=後ろめたい事実がある。だから…漏洩させた者がいれば、帝国はそいつを厳罰に処すだろう。



「それこそお家取り潰し…なんてね?」
「なるほどー…。殿下はそれでいいんですか…?」
「ふん、俺は魔国に逃げる予定だからな。最後に爆弾を落としてからでもいいだろう。
 ……だが」

 だが?

「……帝国がどうなろうと、知ったこっちゃないが。ステファニーは…逃げ道を用意してくれ…」
「「…………」」
「あいつは…あの娘は。何も知らない…から」

 …そっか。分かった、もしもの時はステファニー殿下は私が保護するよ。
 魔王の娘として誓う!と宣言したら、デムは小さく「ありがとう」と言った。



 で、だ。作戦はシンプルだけど、故に難しい。タンブルが『漏洩させた』事実は必須だ。

「つまり、オレが言い触らして「タンブル令息に聞いた」って言っても駄目?」
「アシュレイは公子だから、影響力はあるけど…やっぱ証拠が無いとねえ」
「「「ん~~~…」」」

 理想的なのは。夜会とか…人の多い場所で挑発して。「偽物の皇子のくせに!!」とか言わせる事。

「デムが傷付くかもしれないけど…」
「いや?俺はもう国を見限っている、全く気にしない。ステファニーと、ティモの安全さえ確保してくれればいいさ」

 …オッケー!派手に暴れてやんぜ!!
 今はこれ以上話し合っても無駄だと判断して、帰り支度をする。けど、その前に…



「…あの、デム」
「なんだ?」
「不快だったら、答えなくてもいいんだけど」
「…なんだ?」

 ごくりと喉を鳴らし…覚悟を決めた。


「貴方は、どうして。皇子様になってしまったの?」
「……………」


 デムは扉に手を掛けた状態で固まり、こっちを向いてくれない。やっぱ…まずかったか?



「……16年前。グラウム帝国には…確かに皇子が生まれたんだ」
「「!!!」」
「だが…殿下は生まれて間もなく、事故で亡くなった。…乳母による不手際で、赤ん坊によくある窒息死だった」

 ああ…聞いた事ある。誤飲や柔らかい枕で顔を…とか、赤ちゃんの事故で有名だよね。

「帝国の第1皇子、延いては皇太子殿下を殺したんだ。乳母は家族諸共処刑…それが妥当だ。
 だから。乳母は事態の発覚を恐れて…偽物を用意した。それが俺だ」
「「…!!」」

 思わず息を呑んだ。彼はなんでもないように言うが、その事実を知った時。どれほど…苦しかったのだろうか。
 自分の信じていた世界が…他人のものだったなんて。


「……それだけだ。じゃあな、作戦は各々考えておこう」
「あ…っ」


 かける言葉が見つからず、沈黙が落ちていたが…デムは足早に出て行ってしまった。

「…必ず。彼を自由にする」
「ああ。オレも協力する」


 私とアシュレイはそう決意して、頷き合った。

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