【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野

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学園1年生編

10

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 おー。ここに服屋あったんだ!僕は何度も町に来ているとはいえ、同じルートしか通らない。
 なのでちょっと別の路地に入ったりすると、景色が全然違って面白いな~。


「セリさ…セリ。どこに行きた、い?」

「ん~~~…」

 子供でも雇ってもらえる場所。と言っていいものか?まず自分の足で見て回り、雇用状況とか知ろう。
 この国は、法律で子供は働けないとかないからね。僕くらいの歳でも店番なら出来るかな?

 子供の労働といえば。バジルはお使いとかでよく町に来るよね、顔知られてるんじゃない?顔見知りに隣の子供は誰?とか言われたらどうしよう。

「大丈夫ですよ、僕の個人情報までは知らないんですから。
 今日は休みで、弟と一緒と言えば誰も不審に思いません。…あ」

 こら、敬語!!彼の頬をぐぐーっと引っ張りお仕置きだ。よく伸びるわ、癖になりそう。


「とりあえず、色んな店を回りたい。片っ端から行こう!」

「わかった…」


 まずはそこ、本屋からだ!!!



「お、エロ本だ」
「セリ!!きっ君にはまだ早いっ!!」
「兄さんにも早いよ…」

「ここは…傘屋さん?」
「そうだよ。僕もよくお使いで来るんだ」
「へえ~…」

「あ、いい匂い~」
「そこのパン屋だね。入ってみる?」
「うん!…あ、あのレジの子。僕らと同じくらいだね」
「個人経営の店だから、多分娘さんじゃないかな」
「なるほど…」


 
 ※※※



 ふう。結構な数のお店を回り、ちょい休憩。
 広場にあるベンチに座り、さっき買ったパンを食べる。その間も道行く人々の観察をしているのだが…。


「……どうだった?町は」

「うん…格差が、すごいね」

 いつものルートは、綺麗な場所しか見てなかった。綺麗な町並み、人々の笑顔、豊かな生活…。でもそれは、ほんの一部だったんだな。
 あちこちに浮浪者と思われる人が物乞いをしていて、昼間から露出の激しい女性が道行く男性に声をかける。
 笑顔で働く人もいれば、奴隷のように扱き使われている人もいた。
 格差ってのは、どうしようもない。だが…

「…うん。セリ、あれ見て」

 バジルがこっそり指差す先には…子供が2人。まだ10にも満たない頃だろう、僕達の…恐らくパンをじっと見ている。
 だが僕と目が合うと、ぴゃーっと逃げて行った。


「ストリートチルドレンだ。僕も昔…ああだった。
 父親は最初からいなくて、母親は僕を奴隷のように扱った。最終的には家から追い出されて…数ヶ月彷徨った。
 結果的には今の生活に満足しているけど、あの時は本当に…いっそ死んでしまおうかと思っていたんだ」

「そっか…ねえ、兄さん。この町…もしかして孤児院が無いの…?」

「………うん。そうなんだ」

 だからストリートチルドレンがいるんじゃないか。なんで…?そういえば父上は、僕にそういった資料は見せようとしなかったな…。

 孤児院だって…以前ああいった浮浪児を見かけた時。父上はロッティに「彼らはちゃんと帰る場所がある」って教えてた。
 僕はそれが孤児院の事だと思ってたし、里親制度があるのは資料で見た。ただ…制度が適用されているかは、知らなかったな…。

 領主の勉強だ。なんて言っておいて…僕は何を学んでいた?税とか重要なものは、一切触らせてもらえなかったし。
 というか、「これはこの者に任せるように」「お前はこれには触れるな、〇〇に渡せ」「全て彼の意見を通すように」ばっかりじゃなかった?

 どうせ自分は駒なんだからって、以前の僕は諦めて…言いなりになってたよな。


 でも父上って、領民から慕われてるって。理想的な領主だって聞いてたけど。


 …誰から聞いた?僕。



『いやあ、本当に素晴らしい御父上でいらっしゃる!』


『貴方のお父様の行いは、全て正しくあらせられる。どうぞセレスタン様も、立派に後を継いでいただきたい』


『領民は皆、御父上を慕っているのですよ』



 どいつもこいつも…厭らしい笑みを浮かべる大人達じゃなかったか?
 幼い僕に刷り込むように。父上は素晴らしい、同じように統治すれば間違いないと。

 何度も何度も…商会長やら、役場のトップ、そういう奴らの意見しか…僕は知らなかったな…?

 つまり、僕は洗脳されてた?それが優花とセレスタンが混ざって人格が新たになった事で、リセットされた?確かに僕の、周囲を見る目は変わったと思うけど。



 もしも…今僕が考えている通り、父上が本当はクソ領主で。僕を操り人形にしようと考えているなら……随分と……


「舐めた真似をしてくれる……」



「…セリ?大丈夫か?」

「……!ごめん、ちょっと考え事してた」

「そうか…(なんだか今…坊ちゃんからお嬢様に似た気配を感じたけど…いやまさか、この天使の坊ちゃんが殺気など…)」


 今は考えても仕方ない。
 僕は自分の為に、職場を探し…………。



 ………………………。




「…………兄さん。今日見たお店、何人か子供も働いてたよね?」

「うん」

「……皆、そこの家の子だよね?」

「…うん」

「そうじゃない子は…雇ってもらえないのかなあ…?」

「……同じ条件、時給なら…子供より大人を雇うからね」


 …つまり。高校生の時給みたいに、子供は少し時給少な目にすればいいんじゃん?
 でも…僕にそんな権限は無い。


「……坊ちゃんは、この状況を憂いてくださっているのですよね。貴方が領主となられれば…きっと、ラサーニュ領は豊かとなるでしょう。
 ですからあと数年…数年の辛抱です」


 バジルが僕に期待してくれているのが分かる。でも…その期待に応え…られ…。


 
 なんで僕、家を出たいんだっけ?
 いずれ追い出されるから?なんで?
 ロッティに辛く当たって、恐らくロッティ大好きな父上に勘当される?
 僕がそれでいいと思っていた理由は、平民として自由に暮らしたいから。



 ……ハッ…!




「ははっ、僕って、ほんと自分勝手で嫌んなる」

「…セリ?」


 僕は、ゆっくりと立ち上がる。バジルはそんな僕を不思議そうに見つめている。


 ああ、やってやろうじゃないか領地改善!!

 僕はそんなに頭も良くないし、足りない物ばかり。だが今の立場で、全てを改善出来ると断言するほど愚かでもない。

 僕は、自分に出来る事をする。
 エリゼが人には向き不向きがあると教えてくれた。
 出来ない事は人に頼る。それを恥とは思わない。


 自分の手のひらを見つめる。

 どうして僕は忘れていたんだろう。
 遠くまで見渡せる目がある。
 人々の声が聞こえる耳がある。
 僕の身体のどこにも管はなく、縛るものは何も無い。
 歩行器や車椅子に頼らずとも、自由に動く手足がある。

 手をぎゅっと握り締め、前を向く。



「行くよ、バジル。まずは情報収集及び孤児院の設立。そこをスタート地点とする!」

「…!!はい、坊ちゃん…!」


 ごめんね、バジル。きっと君は今まで堪えてきたんだろう。
 領地の実態を知りながらも、彼は口出し出来る立場にないし。
 だからこそ、僕が成長する事を望んでいたんだろう。

 僕は、その期待を踏み躙ろうとしていたが。

 もしかしたらいずれ強制力が働いて、僕が勘当される未来が変わらずやってくるかもしれない。
 …それでもいい、それまで僕は自分の責務を果たすのみ。



 あーあ。何も知らずに過ごして、平民になってとっとと他の領地に逃げれば良かった。
 そういう思考に至るから、僕って卑怯者なんだろな。


 でも今は、知っちゃったから。
 無知だった頃には戻れない。





 さて、と。腕を組み考える。
 僕が動かせる人員はいない。バジルだけでは通常業務もあるから、情報収集は捗らない。なら…。


「ふむ…先に孤児院の問題から取り掛かろうか」

「それなのですが坊ちゃん。…来ていただきたい場所があります」

 え?
 バジルは僕の手を握り、歩き始めた。流れる景色を眺めつつ、バジルに連れられるがままにどんどん歩く。
 細い路地裏をすいすい進み、建物の隙間を縫い着いた場所は…


「何、ここ?教会…?」

「ここは…以前孤児院だった場所です。先代伯爵が閉鎖したと聞いていますが」


 なんか…ここだけ世界が違うような気がする。こんな所知らなかった…。

 ぽっかりと大きく開けた空間。陽当たりもよく、風が穏やかに流れている。
 そこには建物が1つ、教会が端のほうにポツンと建っている。あれが孤児院…?


「先代…お祖父様か。その頃から腐ってたって事かな…」

「恐らくは…。今あそこは朽ちてしまっていますが、先程のような子供達が住み着いているのです。
 僕も一時期身を置いていたのですが、ひもじさに耐え切れず飛び出したのです…」

 ふうん…。……意を決して、足を踏み入れた。
 ガラスが床に散乱し、素足だと怪我をしてしまう。だが至る所に血の痕がある、見ると新しそうなのまで…確かに、人がいるな。
 バジルは僕の側にぴたっと張り付き警戒している。

 もっと中を探索したいけれど、いつ床が抜けて天井が落ちてくるか分からない。
 その前に…

「さて、ご挨拶したいな。ねえ、出て来てくれる?」


「……………」


 僕の声に応じ、現れたのは4人の子供。子供と言っても…多分僕よりは上。ただしガリガリに痩せ細っているから、正確な年齢は分からない。
 男3人に女1人か、きっと子供達のリーダーなんだろう。まだまだ隠れているはず。
 4人は一様に、木の棒など武器を持っている。


「………なんだ、お前ら。新入りじゃねえよな」

 一番背の高い少年が、掠れた声で問いかけてきた。さて、なんと答えるべきか。
 今すぐ彼らを助けるのは不可能だから。

「……下見かな。ここには何人いるの?」


「………………」


 警戒するよね、そりゃ。
 彼らからの返答は諦め、一旦引こうと踵を返したら…


「…なんか、食いもん置いていけ」

 …おお、速いじゃん。小柄な少年が、素早く近付き僕にガラス片を突きつける。

「ほいっ」

「えっ?」

 ビシっと手を叩き、ガラス片を落とした。
 これでも鍛えていますから。ヒョロヒョロの君達に負けないよーだ。
 少年は仲間の元に急いで下がり、僕達を睨み付ける。
 そして「お前らは人攫いか?」ですって。失礼しちゃうわ。

「違うわい。もう一度聞く、今何人いるの?今すぐ…衰弱しきっている子はいる?赤ん坊は?」


 なるべく優しく問いかけているけど、やっぱ返事は無い。
 仲間意識は強いみたいだね、それはよし!


 今度こそ外に出ようとしたが、流石に止められはしなかった。
 これだけ収穫があれば十分だ、急いで帰ろう。

 
 まず建物の確保。人員。援助。課題は山積みだ。
 僕の権力なんて微々たるものだけど、片っ端から試していこう。

 あの広い空間、畑に出来ないかな。枯れてるけど井戸もあったし、水源が近くにあるはず。
 それに生活用品だって欲しい。…本当に山積みだ!!!



「坊ちゃん」

「んー?」

 歩きながらあーだこーだ考えていたら、バジルが急に立ち止まった。


「……ありがとうございます…」

「…うん。でも僕だけじゃ何も出来ないの。…一緒に、頑張ってくれる?」

「はい!」


 彼は泣きそうな笑顔で返事をした。
 その返事に恥じぬよう、僕も頑張ろう!

 そだ、明日エリゼと遊ぶ約束だったな。申し訳ないけど断…いや、ちょっと彼の意見も聞かせてもらおうっと。
 それに、僕はもう父上の元で学ぶことなど何も無い。どうせ嘘ばっかり教えられるんだから、そんなもんバックれてやるわ!!
 空いた時間分を孤児院問題に費やそう。


 それに…もしかしたらいずれ、孤児院の院長に就職出来るかも?
 キツいだろうけどやり甲斐もありそうだし、よし!!


「よし!!僕は将来…院長になる!!」

「後継ぎは!?」


 あ、やべ。声に出しちゃってたわ。

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