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学園1年生編

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「「おはようございます」」

「……貴様ら…昨日の今日で…」


 あの後急に大人しくなった殿下は、学園に戻り馬車で帰ってしまった。彼は皇宮から通ってるからね。
 なので今日、エリゼと2人門で待ち構えていた。なんか逃げられそうな気がするので。

 だが殿下は僕達の横を通り抜け、教室とは逆方向に足を向ける。させるか!!
 先回りをして道を塞ぐ。素早さには自信のある僕です。

「殿下、どちらへ行かれるのですか?」

「うお!?…貴様らには関係ない!!」

 ありますよう、友人ではありませんか~。今は表面上だけね…。


「まあそう言わずに。まさか授業をサボるおつもりで?」

 エリゼも口を挟む。



 昨日僕達はルネちゃんも交えて3人で話し合い…殿下相手に遠慮しない事に決めた。
 いや気は使うけど。駄目なもんは駄目と言うべきだ、というルネちゃんの願いのもとに。


『…昔は陛下もルキウス様方も、ルシアン様を多少は窘めておられたのですわ。
 ですが年々反抗するようになり…今では殿下の素行に口を出すのは私だけなのです。
 正確に言えば、先程のルキウス様のように…口を出されると逃げるようになっだけですが』

『『ふうん…』』


 しかし陛下のお言葉にも耳を貸さないような彼が…僕達の話を聞いてくれるのかなあ?

『まあそこは、同い年のど…同性なのですから、少しは柔らかくなるかと思いますわ。
 彼は「女は黙って男の言う事を聞いていればいい」と言っちゃう人なので。女性の私が言うより効果はあると思いますわよ?』

 さいですか。
 とりあえず…出来るとこまでやってみよう、と心に決めたのであった。





「私がどこで何をしようと自由だ」

 あくまでも僕達を無視しようとする殿下。また通り抜け…られると思ったか!!

「は!?おい、離せ!!」

「「お断りします」」


 昨日同様、両側から腕を掴み教室まで連行する。ほらあれ、捕まった宇宙人みたいにしたいのだが…いかんせん殿下のほうが僕達より背が高い。
 なので側から見ると、男3人でキャッキャウフフしているように見えて…生徒達の視線が痛い…。

「離さんか!!私が学業を疎かにしようと、貴様らには関係無いだろうが!!」

「まあ…その通りですが」

「殿下の成績が悪くなり、全教科落第点を取ろうと…ボク達には関係ありませんね」

「そうだろう!?…いや流石に落第点なぞ取らんが。あんなもん、授業を聞かずともギリギリ回避でき…」

「ボク達の友人で、毎回授業にちゃんと出ても落第点取るヤツがいるんですよ」

「未だに輸入と輸出の違いを理解していないヤツが」

「は…?」

 殿下は信じられないようなものを見る目で僕達を見比べる。
 だが事実だ。この前…

『輸出とは、受け取る側から見れば輸入だろう?なら同じ事ではないのか?』

『いやそうなんだけど。そうするとキリがないから、どちらかに視点を置かないと…』

『纏めて貿易でいいではないか!?』

『そ…そう、かも?』

『お兄様流されちゃ駄目よ!?』



 …なーんてコトもあったなあ…。僕って流されやすいかも、気を付けよう…。


「……分かったから、せめて自分で歩く」

 分かってくれましたか、そいつあよかった。という訳で手を離したら…。


「ははははは!!馬鹿共め!!」

「「あ"ーーー!!!?」」

 に、に、逃げやがったあんちくしょーーー!!!
 手を離した瞬間に、後方にピューっと走り出した!!逃がさ…意外と足速っ!?だが行ける、僕なら追いつける!!
 待たんかーーーい!!!


 ダダダダダダダ!!!!



 あとちょっと…!指先が殿下の服に触れようとしたその時…


「廊下を走んじゃねーーー!!!」

「「うわあ!?」」

 いきなり怒鳴られ足を止める。…ああっ!逃げられた!!

「先生、殿下逃げちゃったじゃんかー!?」

「あ?殿下?」

 怒鳴り声の主は、お馴染みのゲルシェ先生だった。なんてタイミングの悪い…!

「……ラサーニュ兄、顔隠さなくていいのか?」

 え?ああ。一応殿下に言われた通り、前髪は上げている。正直すんごい邪魔だったし、顔だけ隠しても意味ないって分かったから…いいかなって。
 だからそんな心配そうな顔しないでよ、先生。


 結局完全に逃げられ…殿下が教室に現れたのは、3時限からだった…。






「殿下、お昼ご一緒しませんか?」

「…断る。見れば分かるだろう、先約がいる」

 ルネちゃんの話によると、殿下はいつも違う人と昼食を食べるらしい。お昼近くなると、殿下とお近付きになりたい生徒が群がるのだ。
 今もすでに3人程女生徒が集まっていて、皆僕達のことを睨みつけている。うーん、あんまりしつこいとまた逃げられるかな?

「そうですか…残念です。では明日、ご一緒してくださいますか?」

「…………」

 殿下は返事もせず、完全に無視を決め込む。なので挨拶して離れた。この場は退くが、明日は逃がさん。

 しかし今のお友達お試し期間中は、ロッティ達とは食事を別にするつもりだから…今日はエリゼと2人で食べるかー。
 次はルネちゃんも誘おうっと。



 ※



 セレスタン達が教室を出た後。


「殿下、ラサーニュ様とラブレー様とご友人なのですか?」

「そんな訳あるまい。あいつらは、兄上の指示で私に付き纏っているだけだ」

「まあ、そうでしたのね。ですわよね、あの2人では殿下のご友人には釣り合いませんもの」

「そうだろう?」


 ルシアンはいつも、自分を肯定して持ち上げてくれる者としか付き合わない。理由はもちろん、気分が良いから。
 今まで兄の指示で近付いて来た者は、皆家柄も成績も素行も良い者ばかりだったが…すぐに耐え切れず離れて行く。

「(今回だってそうだ。どうせ兄上に言われて嫌々動いているんだからな…。私に皇子という地位が無ければ、近付こうとも思うまい)」


 この男。自分は一切の努力をしないくせに、本当の自分を見てくれる人はいないものか…と思っている。
 それはまさに、白馬の王子様を待ち続ける乙女のように。
 ありのままの自分を受け入れてくれる誰か。ただし美人に限る。今のところ、現れていないが。


「それに、ねえ?あのお2人…悪い噂も多いですし」

「おや、そうなのか?」

 彼らは食堂へ移動中、先程声を掛けてきた2人の話題で盛り上がる。悪い方向へだが。

「ええ。ラブレー様は己を過信しすぎて以前の授業でフェニックスをお喚びになったでしょう?
 そのせいで沢山の人を危険に晒したのですから!」

 それは、ルシアン的には忘れたい出来事だった。何せ自分は…無様にも気絶していたのだから…。

「…その話はよしてくれ。他には無いのか?」

「そうですわね…ラブレー様に関しては、魔術と学業で良い成績を収めていらっしゃいますし。どちらかと言うと、ラサーニュ様のほうが問題でしょうか」

「ま、まあお顔は…素敵でしたけど…」


 セレスタンは以前から根暗だの地味だの凡才だの言われていた。それでもフェニックス事件などを経て、大分周囲の印象は変わっているのだが…。

 妹の腰巾着。才能の全てを妹に吸われた兄。妹の騎士ナイト気取りのお邪魔虫など…シャルロットに関する悪評は後を絶たない。


「…妹?ああ、あの美しいご令嬢か。確かに同じ顔をしていたな」

「もう殿下ったら、私達がいますのにっ」

「ははは、すまない。それで、妹がなんだって?」

「悔しいですが、シャルロット様は完璧なお方ですの。ですからセレスタン様はよく、「妹が爵位を継げればいいのに」と言われていますね」

「……何?」


 いくら努力を重ねても、セレスタンはシャルロットに敵わない…というのが世間の評価。
 妹のほうが後継に相応しい。
 あの才能のほんの少しでも兄にあれば…。
 無様に足掻く姿はいっそ滑稽だ。
 自分は何も持っていないから、持っている者に守ってもらう弱者。

 令嬢達は、そういった事を口々に言った。
 すると次第に…ルシアンの顔が険しくなる。


「…すまないが、やはり今日は1人で食べる」

「…え?で、殿下…」

「触れないでくれ」


 呆然とする令嬢達などお構いなしに、食堂に着いた途端にそう言い放った。そして楽しそうに笑うセレスタンの姿を見て…

「……チッ…」


 舌打ちをしたかと思えば踵を返し…1人で売店で適当にパン類を買い、秘密のサボり場で食事を済ませた。

 その移動中何人も彼に声を掛けてきたが…取り付く島もなく拒絶するのであった。




 ※※※




 さて放課後です。殿下の席まで近付き、声を掛ける。

「殿下、この後はどうされるのですか?」


 正直僕は、殿下にどこまで踏み込んでいいのか分かんない。
 普通の友達だったら「今日どうするー?」「ちょっと予定が」「一緒にここ行かない?」「今日は真っ直ぐ帰るか」など…気軽に話せるのになあ。

 毎回「今日のご予定は?」「ではお供します」なーんて言ってたら、まるで付き人みたい。……もしや皇族王族の学友って、付き人も兼ねてんのかな…?


「……今日はもう帰る」

「え。あ、ではお見送りします…」


 どういう事?ルキウス殿下が言うには…ルシアン殿下は毎日遊び歩いているって…。
 だが彼は、本当に馬車に乗って帰ってしまった…。あらま?予定が…。


「…この後どうしよっか」

「どうするか…」

 急に暇になった…あ、そうだ。

「ねえ、ジスランのとこ行かない?」

「ジスラン?あいつは剣の鍛錬中だろう?」

「そう。稽古つけてもらおうよ」



 近いうちに、学園で剣術大会があるのだ。
 各学年トーナメント式で、男子の1~3年生は希望者のみ、4・5年生は全員参加だ。
 剣術の授業が本格的に始まるのが4年生になってからだからね!


「1年生の優勝者は十中八九ジスランだろうけど…僕も参加するつもり」

「…正気か?ボクは剣術大会、不参加だ。という訳で、今日は解散だな」

 む。逃げた。僕は今まですんごいジスランにしごかれてきたから、自分の実力を試したいのだ。


 でもまあ…無理強いする事じゃないよね。
 僕は練習用の木剣を手に、ジスランのいるであろうグラウンドを目指すのだった。



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