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学園1年生編

sideエリゼ

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「おはよう」

「……おはよう」


 なんでこの精霊王(笑)は、朝っぱらからボクんちにいるんだ?
 時計を確認するが、何度見ても朝7時。人んちのダイニングで優雅に茶を飲んでやがる。


「パスカル君、おかわりいかが?」

「いただきます」

「いただくな!!!」

 全く!!話があるとは聞いていたが、こんな早くに来るとは聞いていないぞ!母上もなんでここにいる!!
 …しかも、気になる事が。ボクは席に座り朝食を用意するよう言ってから問うてみた。


「…おい。なんだその顔は?」

「………昨日、お祖父様に殴られた」

 パスカルは、左の頬を青く腫れさせていた。
 殴られたって…セレネが止めなかったのか?

「俺がセレネに手を出さないように言ったんだ。
 まあ…結局我慢できなくて、俺が殴られた瞬間にお祖父様も吹っ飛ばされたが。死なないよう加減はしてくれた」

「そうか…」


 ボクはあまり、痛々しいのは好きじゃない。
 面倒だが治してやる。すると奴は「…ありがとう」と呟いた。


 しかし、昨日か…確実にあの令嬢が絡んでるな…。

「お前、昨日首都にいただろ?」

「…やっぱりあれはエリゼだったか」

 ボクはさっさと朝食を済ませる。コイツには言いたい事聞きたい事、山程あるんでな。


「エリゼ、お友達に失礼な事言っては駄目よ?」

「こいつも中々失礼だけどな!?
 ほら、ボクの部屋行くぞ!」

「いや、出掛ける支度をしてくれ」

「は?どこ行くんだ」

「皇宮」


 ………なんで!!?




 ※※※




 結局セレネに乗せられ、皇宮に来てしまった。


「なんなんだお前は一体?今年末で忙しいのだが。
 急に『話があるんで明日行きます』なんて送って来て…」


 そして当然、向かうはルシアンの部屋。
 どうやらルシアンもコイツの奇行に困惑しているようだ。

「殿下は以前、俺を応援すると言ったでしょうが。
 早速ですが、相談があります。エリゼも聞いてくれ」


 パスカルはそう言って、ルシアンより先にソファーに座り神妙な顔をする。
 何か、重大な事態が…!?少し怖くなったボク達は、それ以上何も言わずにパスカルの向かい側に並んで座った。

 そしてパスカルは口を開いた。


「………エリゼ」

「…なんだ…?」

 ボクはごくりと喉を鳴らし、続きを待つ。



「………昨日、一緒にいた女性。あれは誰だ?」


「「…………は???」」


 昨日…って、エレナセレスの事、だよな?
 誰って…なんで?


「セレネもその時、お前と一緒にいただろ。だがセレネは、「エリゼはいたが、同行者は分からん」としか言わない。
 だからもう、直接聞く事にした」

 セレネ…そういや、ボクの事は口止めしなかったもんな…。セレネはパスカルの肩に乗っている。ボクと目が合うと…すいっと逸らしやがった。


「おい、なんの話だ…?」

 ルシアンが小声で聞いてくる。そりゃ訳分からんだろうよ。


「昨日の夜、ボクはエレナと2人で歩いていた。その現場をコイツに見られた。詳細は後で話す」

「はあ…」


 今はこれで納得しろ。それよりも、何故エレナを気にする?
 まさか…惚れたか?顔はセレスのままだもんな…コイツはセレスの顔が好きなのか?
 いやでも、それならシャルロットの事も好きなのか?…まっさかー。


「で、誰なんだ?」

「…名前はエレナ・デュラン。それ以上は…お前の用件によって教える」

「…………」


 パスカルは何も言わない。
 暫く沈黙が続いていたが…ぐいっと紅茶を煽って、観念したのか言葉を続けた。


「…以前セレスタンが、あの女性の写真を大事に持ち歩いていたんだ」

「「ブファッ!!!」」

「つまり…デュラン嬢は、セレスタンの想い人なんだろう!?失恋したばかりだという…!なのに何故お前と一緒に、しかも手を繋いで歩いていた!?
 まさか…お前は、デュラン嬢を奪ったのか…!?」

「待て待て待て待てっ!!!」

 なんつー勘違いを!!?しかもボクが間男みたいな言い方やめろ!!
 ああもう、ルシアンは笑いを堪えちゃってるじゃんか!!なんて答えればいいんだ…!

「彼女は、その、だな」

「エリゼにしては歯切れが悪いな。やはり、大声で言えないような関係なのか…!?」


「違っ、だ、そっ………エレナはボクの婚約者だ!!!!」

「「えええーーーーー!!!??」」



 …やってしまった…もう引き返せねえ…。


「あの、えっと…ボク達は親が決めた許嫁同士で。
 婚約者なんだから、クリスマスを一緒に過ごしても問題ないだろう?」

「それは、そうだが…婚約者、いたのか…」

「………うん」


「(おいエリゼ…そんな適当言っていいのか…!?)」

「(他にどうしろってんだ!?ボクに兄しかいないのは知ってるんだよコイツ!!)」

 頼むからもう、これ以上突っ込まないでくれ。だがそのボクの願いは届かない。


「じゃあ…お前はセレスタンには友情以上何も無いな?デュラン嬢一筋なんだな?」

「おう…ボクは男には興味無いから…。
 婚約者しか見てないから…安心しろ…」

「よし…だがセレスタンが彼女を慕っているのは確かだろう?忘れられずに写真を持っているなんて…俺は、傷心につけ込むような真似はしたくない…」


「「…………」」


 パスカルが男らしいのは結構だが。
 えーと…どういう状況?



   エリゼ♡エレナ
        ♡⇅?
 パスカル♡→セレスタン


「こういう事だろ」

「なんつー四角関係!!!」

 ルシアンが紙に書き出した。ボクを巻き込むな!実際はこうだ!!


 セレスタン♡?←←←♡♡♡パスカル


「どうだ!!!」

「え、セレスも♡なのか?」

「ああ、まだ気になる程度だが」

「セレスタン…君はやはり、女性のほうがいいのか…?俺だって君以外の男なんざ死んでも嫌だが…ブツブツ」

「あー…人間って…ほんっっっとうに面倒くさいぞ……」







 数十分後。脱線しまくっていたがなんとか話題を戻す。


「エレナとセレスタンはなんでもない!!面識はあるが、セレスには最初からボクの婚約者だと紹介してある!!!
 嘘だと思うのならセレスに聞いてみろ、お前はセレスの言葉も疑うのか!!?」

「い、いや…お前がそこまで言うのならそうなんだろう。分かった、信じる。
 だがそうなると…彼の失恋相手とは…?」

「知らん!!!」

 知ってるけどな。
 はー…疲れた。後でセレスに口裏合わせるよう言っておこう。

 ボクはお茶を飲み、さっきから怒鳴ってばかりで痛い喉を潤す。
 さて、エレナは片付いた。次はパスカルの番だ。


「パスカル。お前こそ…昨日一緒に歩いていた女は誰だ?」

「ああ…あれはお祖父様が、俺の婚約者にしようとしている侯爵令嬢だ。
 だが当然受ける気は無い。昨日は無理矢理ああなったが…ちゃんと彼女本人にも、お祖父様にも婚約する気は無いと伝えた。
 まあ…その所為で殴られた訳だが」

「殴られた?どういう事だ?」

「コイツ今朝、顔面腫らしてウチに来たんだよ」

 ボクの言葉に、ルシアンは顔を顰めた。気持ちは分かる、ボクだって同じだ。

「それで…「言う事を聞けぬのであれば、廃嫡も視野に入れる」と言われた」

「「はあ!!?」」

「まあ、俺はそれでもいいけど。でもなあ…」

 良いのかよ。自由だな…平民になるって事だぞ?

「俺は別に、構わん。だが…セレスタンに苦労はかけたくない…」

 おおっとぉ?コイツの中ではセレスとの明るい未来が展開されているな?一度コイツの頭ん中を覗いてみたい。


「もしもそうなった場合、侯爵家の後継はどうなる?他に男児はいなかっただろう」

「あー…実は俺、下に弟か妹が生まれるんです。その子が男だったら…お祖父様は本当に、俺を追い出すかもしれませんね」

「へー、おめでとう。
 ……でだ、お前はその侯爵令嬢は、まっっったく好きじゃないんだな?」

「断言する」

「ちょっと録音するから、もっかい」

「なんで!?」

 セレスに聞かせるんだよ!あーもう、なんでボクがこんな面倒な事を!


『クリスマスの夜一緒に歩いていた女性は、祖父の命令でエスコートしていただけ。恋愛感情は全く無いと断言する』


 …よし。これでいいか。
 今度セレスに会ったら聞かせよう。年末で忙しいから、暫く会えないんだよな。



「それで…結局なんで私は巻き込まれたんだ?今の会話、私要らなかったよな?」

 そういやそうだ。なんでルシアンも?
 相談って言ってたよな。


「……さっき廃嫡の話をしましたけど。俺は本当に構わないと思っている。
 お祖父様は家の為と言って縁談をいくつも持って来るが…その実、自分の思い通りに家族を支配したいだけだから。
 まあ貴族である以上、政略結婚も必要だとは思ってるさ。でも…それでも、足掻きたいんだ…。
 …俺はセレスタンと結婚したくて、同性婚の法案が可決出来るよう調べていた」

「「ボフォア!!?」」

 ボクとルシアンはまたも同時に吹き出した。
 コイツは!一々スケールがデカい!!!


「だが、今の立場では…何十年掛かるか分からない。
 俺が侯爵なら…もしくは父上が全面協力してくれれば、なんとかなりそうなんだ。
 実際他国では同性婚が普通のとこもあるし。でも…父上はお祖父様に頭が上がらない。俺が男に惚れ込んでいるなど…言えるはずもない。
 長い時間を掛けて…その間に彼が、誰かと結ばれてしまったらと考えると…!」


 …なんかもう、コイツにはセレスが女だって言っていいんじゃないか?って思う。
 そうすれば…全員幸せになれるのに。全部伯爵のせいだ…!


「だから、もう…駆け落ちするしかねえ、と思って」

「「飛躍しすぎだ!!!」」

 なんでだよ!!?結婚に拘らなくても、ただ一緒にいたいって思わないのか!?


「俺は…誰よりもセレスタンの近くにいたいんだ!妹のロッティよりも、兄(貴分)のナハト様よりも!
 彼の隣は俺のものだと、誰に憚る事なく宣言したいんだ!」

「……お前、独占欲強かったのか…」

 ルシアンの言葉にボクも頷く。
 はー、恋愛って大変だな。


「そうですか?好きな人の一番でありたい、側にいたい。触れ合いたい、俺だけを見て欲しい…そう願うのは、普通だと思ってましたが…」

 そう言われると、そうなのかな?
 これで他の男とは会話もさせねえ、家から出さねえだったら異常だが。

 うーん…それで、相談って?



「だから…そろそろ…特別な関係になりたいんです!!
 でも俺、女性も口説いた事も無いのに…男相手に何をすればいいんですか!?
 強引な人が好き、ぐいぐい引っ張ってくれる人が好きって言ってたけど…どこまで踏み込んでいいのか、ラインが分からん!!!」


「「………………」」


 パスカルは頭を抱えながら言った。
 それを…ボク達に相談してどうすんの?力になれると思ってるのか?


「………あー。その、セレスは…女性を口説く感じでいいと思うぞ…?」

「何を言ってるんですか、彼だって立派な男性でしょう。
 殿下もエリゼも、もしも俺に口説かれたら…どう思います?俺だったら俺をぶん殴る」




 想像してみた。

 セレスの部屋にあった本を参考に…。


 パスカルに愛を囁かれるボク。
 手を繋いで、額をこつんとされるボク。
 ちょっとした拍子に事故で口付けをしてしまい、気まずい雰囲気になるボク達。
 後ろからパスカルに抱き締められるボク。


 ……殺意が湧くわ。


「そうだな…ボクだったら…パスカルを亡き者にし、悲恋として終わらせる」

「俺が何をしたって言うんだ!?
 …で、最悪駆け落ちするにも彼の同意が必要だし…無理矢理連れ去るのは嫌だし…そんな事したら俺、ロッティに殺されるし…」

「………前から思っていたが。どうしてお前はラサーニュ嬢はロッティで、セレスはセレスタンと呼ぶ?」

 あ、ボクもそれ気になってた。
 ルシアンに訊ねられたパスカルは、もじもじと頬を赤らめた。きしょい。



「その…愛称は…特別な関係になった時に、呼びたいっていうか…」



 めん どく せえ!!!


 今ボクとルシアンの心は1つだ。



「なあ、もうたらふく酒飲ませて突撃させるか」

「そうだな、また兄上の部屋から拝借するか」

「セレスは素面にさせとけよ、ややこしい事になるから」

「それとこの男が暴走した時止めるよう、私達も待機していなくてはな」

「本当はシャーリィと呼びたいんだが…彼が困るし。ならいっそ2人の時だけならいいかな?と思うけど、今は2人きりになるのは自重してるし…」

「というかコイツ、フェンリルと契約してるんだから…祖父さんより立場上じゃないか?」

「その通りだがな。マクロン本人が精霊様の威光を借りたくないって考えなんだろう」

「ふーん…ボクだったら借りまくるのにな」

「其方が契約者じゃなくて良かったわ」

「ああ…昨日の夜も、シャーリィと過ごせたらどれだけ幸福だったか。
 でもそうしたら、俺は彼を家に帰したくない、ずっと一緒にいたいと願う。あわよくば………はっっっ!!?俺は何を……!?」




「あー…めんど。シャーリィに会いに行こうかな…」



 こうしてボク達は、年末というクソ忙しい時期を…1日パスカルに付き合わされる事となったのだった。


 
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