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学園4年生編

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「重ね重ね申し訳ございません…!!」

「いや…先生、顔上げてね…」

 
 3人で仲良し小好しぐるぐる回り、僕はすっかり目を回してしまった。今はお父様の膝の上で支えられています。

 それで冷静になった先生は深々と土下座する。もういいから…!
 テオファはこの状況に右往左往。自分のせいで兄が頭を下げている…!と自責の念に駆られているんだろう。
 でもお父様も僕も、誰も怒ってないから。だから…と言ったら、ようやく2人はソファーに座ってくれた。

 僕もお父様の膝から降り、彼らと向かい合う。で、話をする前に…ちょっと気になったんだけど。


「……ねえ先生、ちょっと目を開けてくれません?」

「開けてますけど?」

「いや、さっきみたいにカッ!と。極限まで開いてください」

「えぇ…?こうですか?」


 先生がスッと目を開くと…つり目が特徴的なキツネ顔のイケメンに早変わり。
 そして隣に座るテオファと比べると………くりそつやんけ!!!
 
 
「そっくり兄弟だね!!?テオファは最初つり目気味の美少女だと思ったけど、並んでみると超似てるじゃん!」

「それはつまり…此方も美少女という事ですか?照れますねえ」

「そうは言ってないわ!?」

 冗談ですよ、と先生は笑った。どこまで本気なのか分からん…!
 


 ま、おふざけはこの辺にして…タオフィ先生は今度こそ真剣な表情(多分)になり、お父様に向き直った。


「それで…此方はテオファがラウルスペード公爵家で保護されていると報せを頂き飛んできた訳ですが…どういった経緯でこうなったのでしょう…?」

 それは僕も知りたい。テオファが僕を頼った理由は分かったけど、なんで逃げて来たのかは聞いてない。多分バティストはそこまで調べてると思うけど…。

「調べはついてる…が、詳細は本人にしかわからん。無理にとは言わんが…話せるか?」

 お父様は優しくテオファに語り掛ける。だが彼は泣きそうな顔で俯いてしまった。
 先生はそんな彼の様子を見て、腕や顔に触りながら顔を顰めさせた。

「…テオファ、痩せすぎじゃないか…?前は平均的だっただろう、ちゃんと食べていないのか?
 もしかして兄ちゃんの仕送り、使ってないのか?貯めるのもいいが、健康を害する程切り詰めるな。お前だって給料貰ってるんだから」

「………それが…その…」


 おお…「兄ちゃん」ですって!普段の様子と違うタオフィ先生は新鮮ですな。ただの変人だと思ってたけど…弟想いの優しいお兄ちゃんなんだなあ…。
 ただテオファは苦しそうな顔をして口を閉ざす。その様子に、先生は彼の頭を優しく撫でて微笑んだ。
 そこにお父様の指示のもと、バティストが紙の束を先生に差し出す。調査書かな?彼は躊躇いながらも受け取り、お父様に視線を向けてから目を通し始めた。

 部屋の中に、紙を捲る音のみ響く。その度に…徐々に先生の顔が強張ってきた…!!



 最終的には無表情になり開眼し、額に青筋を浮かべて…怖いわ!?
 しかも先生を中心に静かに風が立ち、なんか部屋全体カタカタ震えてない?地震ですか!?
 

「この風は体から溢れ出た魔力だね。どうやら感情のコントロールが利かなくなってるみたい。魔力が多い人間によくある事だね」

 ヨミ…つまり、先生は今ブチギレてらっしゃる?

 段々と風は強くなり、最早プチ台風状態。テーブルの上は散乱し、カーテンはバッサバサになびいている。
 危険と判断したのかバティストはお父様を守るように前に立った。僕はヨミが、テオファはジェイルが保護してくれている。


「兄ちゃん、落ち着いて!?」

「……テオファ…安心しなさい、落ち着いてるから…」

 いやどう見ても爆発寸前なんですが。それでも弟の言葉に少し冷静になったのか、魔力の風は収まった…ほっ。
 先生はゆっくりと立ち上がり…窓を開けた。


「どこに行くつもりだ?いや…何をするつもりだ?」

 お父様の問い掛けに、先生は口角をわずかに上げた。

「ご安心を、殿下。貴方の考えているような真似は致しませんとも。
 ええ…ここは穏便に…ただ正当な報復をしに行く冷静に話し合いをするだけですよ?」

「そうか…ん?今なんかおかしくなかったか?」

 僕もそう思います。先生の顔はどう見てもお話で済むとは思えん。
 彼は「もう少しだけ、弟をお願いします」と言い残し、窓枠に足をかけあっという間に飛び去って行った…。

 

 
 先生が消えた後、暫く呆然としていたが…バティストとジェイルが部屋の片付けを始め、僕とお父様とテオファは座り直した。


「えーと、調査書はタオフィ先生が持って行っちまったが…。
 この子にお前が今までどんな扱いを受けてきたか、教えてやってくれ。シャーリィにはお前を保護した者として、聞く権利と責務がある」

 というお父様の言葉に、テオファは一度目を閉じて…ゆっくりと開き僕と目を合わせた。



「…ボクは去年の春、13歳で学校を卒業し中位貴族であるキッサン様のお屋敷で下働きをさせていただいておりました。
 仕事は大変だしお給料もそれほど多くなかったけど…なんとか自活はしていました。

 それと言うのも今から約2年半前…兄が興奮した状態でこう言ったんです。
「グランツで最上級精霊の姿が確認されたんだ!しかもなんと幻とさえ言われていた闇の最上級精霊様もいるんだ!!いいなあ…会ってみたいなあ…!!どうにかしてお近付きになりたいなあ…!!」と…。
 普段ボク優先で、自分の事は二の次な兄がそこまで切望する最上級精霊様…ボクは「グランツに行ってもいいんだよ?」と言いました。
 兄は「……今はいいや。いつかチャンスはやって来るさ」と一度は諦めたんです。その時はまだ、ボクも学生だったから。

 でも数ヶ月後、アカデミーに魔術教師の枠が空くと知って…兄はまたソワソワしてたんです。
 兄は天才的な魔術の腕を認められ、宮廷魔術師として働けるほどでしたから資格は充分ありました。後は教師の免許を取るだけで。
 多分こんなチャンス、もう二度と無い。そう思って…「ボクは大丈夫。1人でも暮らせる。だからグランツに行ってきて」と言いました。
 
 すると兄が…自分の人脈を駆使して、卒業後に貴族の使用人としての仕事を持って来てくれたんです。
「兄ちゃんが皇国の国籍を貰ったら、必ず迎えに来るから。それまで…少しだけ、辛抱してくれ」と…。いつまでも、過保護なんだから…」

 
 そう語るテオファは、目に涙を浮かべている。

 平民は大体どの国も、10歳から3年間学校に通う。お金があって、もっと学びたい事がある人はその後専門学校に行くのだ。
 そんで卒業したら、国にもよるけどグランツでは親の仕事を手伝う。他の仕事には成人後じゃないと就けないからね。まあ貴族の使用人とか例外はあるけど。
 ちなみにうちの孤児院でも、成人して院を卒業するまでの間は年少者の世話を積極的にする。

 それに国籍は、その国の貴族の推薦があればすぐゲットできる。先生め…言ってくれればよかったのに。


 で、話を戻すと…タオフィ先生はテオファの願いもあって、2年前この国に来た。
 本当は最初から一緒に連れて来たかったらしいけど、先生は今職員寮に住んでるし…グランツではコネも何も無い。だから3年間だけ離れる事に。
 
 テオファはその間に学校を卒業、働き始める。どうやら問題はその貴族のお屋敷にあるらしいな…。


「……最初は、普通だったんです。旦那様はいい人だし、同僚も意地悪な人はいたけど…問題はありませんでした。
 それが今から半年前。新しくトクサという男が雇われました。
 トクサは兄の同級生で、学生時代全ての成績で兄に負けていた事を根に持っていました。それで…腹いせに弟であるボクに悪意を向けてきたんです。

 暴力を振るったり、ボクの私物を盗んだり、食事を奪ったり。誰かに訴えても…彼は他の人に対しては有能で優しい好青年を演じていました。
 だから…みんなボクの勘違いだって言うんです。暴力は痕が残らないようにされていたし、物が盗まれたっていう証拠も無かったから…。
 旦那様に直接訴えようにも、下働きのボクにはお会いする資格もありませんでした」


 
 彼がそこまで語ったところで、僕は無意識に拳を握り締めていた。



「元々ボクは…屋敷で味方が少なかったんです。顔が可愛いからと女性陣には甘やかされて、男性陣からは恨まれてたし。その女性陣も、結局はトクサに付きましたけどね。

 それと頑張って働いていたつもりだけど…ボクはよく食べるほうだから、いつも馬鹿にされてました。食費と仕事量がつり合ってないとか、食費分給料減らせとか。
 それも相まって、ボクは段々孤立していきました。でもそれを、兄ちゃんには言えませんでした…。心配を掛けたくなくて…。

 でも…ついにお金も盗まれるようになって。貯めていた分も、引き落とされていました…。多分もうその時点で、兄ちゃんとか関係なくボク自身を嫌っていたと思うんです。

 それで…ボクがお屋敷を飛び出したきっかけは…そのトクサに、夜…寝室に連れ込まれて…!
 彼は相当酔っ払っていたんですけど、ベッドに押さえつけられて服を脱がされそうになり、咄嗟に兄ちゃんから護身用に渡されていたスタンガンで気絶させました。
 ボクは怖くなって…貴重品だけ持ってお屋敷を飛び出しました。「テオファがトクサの部屋に盗みに入った」とか言われるのは目に見えてましたし。

 そうして行く当てのないボクは、このグランツ皇国に来ました…。その後は、さっき語った通りです。
 キッサン家より格上の公爵家に保護してもらおうと…ごめんなさい…。
 ………あの、お嬢様…?」


 ん?何?
 話を聞き終えた僕は…さっきの先生同様窓枠に足をかけていた。あらやだ、無意識に。


「待て待てっ!!バティストの調べからもコイツの話は真実だ。必ず俺が金も私物も全部取り返すから、今は堪え」
 
「いやいやお父様、僕はタオフィ先生に加勢するを連れ戻すだけだよ?
 あ、そうだ。盗まれた私物って何?」

「へっ!?あ、と…兄ちゃんに貰ったブレスレット以外は、ただの消耗品です。その他の大事な物は持ち出しました」

「おっけい、じゃあそれだけ取り返してくるね!行くぞヘルクリス!!」

「行くなってのーーー!!!」


 そいつは聞けない相談ですね。トクサ絶対許さん他の使用人も許せんキッサン様とやらも見逃せん。
 窓の外に思いっきり飛び出すと、ヘルクリスが巨大サイズになりその上に着地した。


「ヘルクリス、先生の後を追って!!!」

「任せろ」


 先生がいくら速かろうと、ヘルクリスのほうが断然速いはずだ!テオファを苦しめた野郎…首洗って待ってろや…!!




 ※




「…………行っちまった…」

「まあいいんじゃない?証拠は持って行ったし、なんとかなるっしょ」

「大丈夫なんですか…!?」

 部屋に残された彼らは呆然と窓の外を眺める。ヘルクリスが速すぎて一瞬で消えてしまったのだ。
 だがオーバンとバティストは慣れた風で、部屋の片付けを再開した。


「テオファ君も苦労してきてんねぇ…。でもまあ大丈夫、シャルティエラお嬢様が味方になった以上、もう怖いもんねーから」

「そうだな。あの子は自分の懐に入った人間は殊更大事にする。今までよく頑張ったな。
 今回は完全に向こうに非があるからな、大事にはならないから心配すんな」

 2人はそう言って苦笑した。その様子にテオファも苦笑いするしかない。
 恐らくキッサンの屋敷に向かったであろう兄と、出会ったばかりのお嬢様。どうか無茶しませんように…と心の中で祈る。


 すると部屋の外から複数の足音が聞こえてきた。姿を現したのは、シャルロット、バジル、デニスだ。


「お父様っ!今お姉様と精霊様が飛んで行かなかった!?」

「おう、行ったぞ。まあ夕飯までには戻んだろ」

「あらそう?にしても酷い有様ねえ」

「いやお嬢様軽すぎません?旦那様、シャルティエラお嬢様はどちらへ向かわれたのですか?」

「テオファに酷い事した奴がいる家に、タオフィ先生と一緒に乗り込んでったぞ」

「あらまあ、それじゃあ仕方ありませんね。あ、僕が片付けますから、どうぞ旦那様はお仕事に戻ってください」

「(それだけ!!?もっと言う事無いの!?)」

 公爵家のお嬢様が他国の貴族に殴り込みに行ったというのに、誰も心配しちゃいない。テオファは「自分がおかしいのか?」と思うようになった。
 ただまあ、彼らも自然とテオファを仲間と認識しているので「いいぞもっとやれ」と思っているのであった。



「(……ジェルマンもいない、が…誰も気付いてなさそうだな。しかしお嬢様、どっちかっていうと魔術師気質なんだなー。
 魔術師ってのはとりあえず特攻!な奴らだし。後の事は後で考える、ってな。悪く言えば考え無し、良く言えば判断力に長けている)」


 デニスだけ冷静に現状を把握しているが、「まあいっか」と片付けを手伝うのであった。




 ※




「…おいいいいぃ!お嬢様、何考えてんだ!!?」

「ん?あれ、ジェイル。来てたの?」

「私の尾にしがみついていたぞ」

 真っ直ぐ前を見ていたら後方から声を掛けられた。誰かと思えばジェイル、一緒に飛び出したらしい。
 尾からよじ登ってきて、僕の後ろに落ち着いた。

「オレは、護衛なんだからな…!ったく!」

「えへへ、ありがとう!でもこれでタオフィ先生も入れてお兄ちゃんズの完成だね!」

「(…お前は姉だし、オレには兄も姉もいるんだが…黙っとくか)」

 そんな会話をしていたら、前方に人影発見!!


「おーい、タオフィせんせーーーい!!!僕らも一緒に行くよー!!」

「っ姫!来てくださったのですか…」

「うん!さ、後ろに乗って。飛ばすよー!」

「………はい!!」


 無事先生も拾えたのでスピードアップ!



「姫…申し訳ございません。全て此方の招いた種です…」

 なんだか先生は気落ちしている。いや…先生に嫉妬して、無関係なテオファを傷付けた奴が悪いに決まってるじゃん。
 先生はただの、弟想いの優しいお兄ちゃんじゃないの。僕は巻き込まれたなんて思ってないよ、むしろ力になれたら嬉しいよ!

 そう告げれば、先生は嬉しそうに笑ってくれた。



 
 それから約10分空を飛び目的地に到着!この屋敷だね?


「はい。行きます!!」

「よっしゃ!」

 ヘルクリスは屋根の上で待機。デカいままのほうが威圧にもなるし!
 僕らは飛び降り、先生が魔術で着地を手伝ってくれた。すると当然…屋敷から警備やら使用人が出て来た。
 警備員が剣をこちらに向けて取り囲む。こっちはジェイルとヨミが前に出た。
 


『何者だ!!!』

「おっと。ごめん先生、僕テノー語わかんない!」

「グランツ語も通じるとは思いますが…お任せを。
『私はテオファの兄、タオフィだ!!!トクサに用がある、出て来い!!!』

『テオファ…?トクサを襲って逃げた子供じゃないか!!』

 先生が声を荒げた後、警備はますます警戒を強めた。やんのかコラァ?こっちゃ最強の精霊付きだぞおおん?
 
『無礼者、どなたに剣を向けているのか理解しているのか!?こちらはグランツ皇国ラウルスペード公爵家が長子、セレスタン様だ!!』

 おっとお、僕の名前が聞こえたぞ?なんかわからんが、偉そうに胸を張っておこう。すると向こうが騒つき始めた。


「今タオフィが君の紹介をしたんだよ。向こうはそれが本当か分からなくて狼狽えてるんだ。
 偽物扱いして本物だったら、この家は取り潰しだーってね」

 ほほう。ヨミの解説ほんと助かる。
 ていうか今僕が着ている服の襟の刺繍、公爵家の紋章なんだけど。今現在、お父様と僕ら姉妹しか使用を許されていないんだけど…テノーじゃ通じないか。

 とりあえず警備員は剣を下ろした。ジェイルとヨミもいつでも動けるように構えつつ下がる。
 
 その時、屋敷から中年の男女が現れた。あれがキッサン様と…夫人かな?


「これはこれは…ラウルスペード様、ようこそいらっしゃいました。そしてタオフィ殿…まず中へお入りください」

「いえ、ここで結構。それよりキッサン殿にお聞きしたい事があります」

「……はい?もしや、テオファの話でしょうか」

「話が早くて助かります。まずは貴殿はテオファをどのように認識しておりますか?」

「…同じく使用人であるトクサの部屋に盗みに入り、金品を奪い逃走しました。大食らいの能無し、虚言癖のある子供と報告を受けております」

 ふーーーん?また先生は青筋を浮かべている。多分…僕も。


「へえ…そうですか。では当然通報したんですよね?」

「いいえ。トクサ本人が許すと言っておりましたし、他に被害はありませんでしたから」


 ふん。調べられたら真実が明るみになるからでしょうよ。それにこの人からも、面倒事は御免だって感じするわ~。

「分かりました、もう結構です。そのトクサという男を連れて来ていただけますか?」

「…少々お待ちを」

 キッサン殿は近くの使用人に指示をし、数分後1人の男が姿を見せた。強張った表情の若い男、こいつが…!
 今屋敷の玄関先で、僕と先生の前にキッサン殿とトクサが並んで立つ。手早く終わらせないと、夕飯に間に合わん。


『…皇国の公子様が、俺になんの用ですか…?』

「僕は君に口を開く許可を与えた覚えは無いけど?まあいい…では先生、資料を」

「はい公子」

 タオフィ先生はトクサに関する部分だけ読み上げた。
 彼がテオファに何をしたのか。もちろん証拠も添えて。進むにつれて、トクサの顔色が悪くなってきた。


『……例えばトクサは私が弟に贈ったブレスレットと同じ物を友人に自慢していたようですね。
 しかしあれはただ今上空に御坐す、風の最上級精霊エンシェントドラゴン様の鱗を譲って頂き作った、この世に1つしか無い物。どこで手に入れたか…説明を求めます』

『…エンシェントドラゴン?なんだそれは…うわあっ!!?』

 トクサが口を開くと、彼の頭の上から風の刃が降ってきた。刃は彼の頬や服を滑り切り裂く。大丈夫、致命傷じゃないから。
 てかヘルクリス、そこまで先生を気に入ってたんだ…。鱗をあげるのは親愛の証って言って、僕も1枚貰ったのだ。そんで加工して髪飾りにした。


「無礼者めが!!この私を知らぬと申すか、卑しい盗人の分際で!!!」

『う、うわあああっっ!?』

『きゃああああ!!』

 げええっ!?ヘルクリスがバサッと翼を広げただけで…周囲に突風が吹き遊び窓が割れた!!ステイ、ステイ!!!


『言葉に気を付けろ。彼以外の最上級精霊殿であれば、今頃お前は八つ裂きだ。
 話を戻すが、今ちょうど身に付けているそれ…どこで手に入れた?』

『こ…これ、は、友人から貰ったんだ!!』

『ではその友人をここへ。今すぐにだ』

『……!!い、いや。実はそいつ、先月事故で死んじまって…』

『ではその者の情報を。こちらで調査する』

『死者を悼む心は無いのかっ!?』

『もちろんある。だが私はそれ以上に弟を大切に思っている、それだけだ。
 それからお前がテオファの口座から現金を引き落としている事実も確認済みだ。そして弟はお前にそんな事を頼んでいない。

 キッサン様、こちらが全ての証拠です。この男は私の弟を虐げ、あまつさえ寝所に連れ込もうとした。そして弟に罪人というレッテルを貼った…ご確認ください』


 うむ。彼らが何を言っているのかサッパリだが…とりあえず偉そうにしておこう。全部分かってんだぜ?という風に。
 上空からヘルクリスも威嚇してくれているので、彼らには相当な恐怖を与えられているはずだ。
 特に女性陣は顔を真っ青にしているが…テオファを信じなかった他の使用人も同罪だもん、精々怖がれ!!!


「……確かに、信じるに値する資料だ。そしてそちらが2体の最上級精霊を使役するという、ラウルスペード家の公子である事も疑いようのない事実。
 ご無礼をお許しくださいませ、公子、精霊殿…」

 その場でキッサン殿が僕に向かって頭を下げる。それに倣い隣の夫人も、使用人も全員。


「では、テオファが罪人であるというのは取り消して頂く。彼は僕の敬愛するタオフィ先生の弟であり、大切な友人です。
 本来であれば相応の罰を受けていただきたいところだが…その男に盗まれた物を全て返して貰えれば手打ちにしましょう。
 無論、その男は牢に放り込むが。ジェルマン卿」

「はい」

 ジェイルは素早く回り込み、トクサを拘束した。そこに先生がゆっくりと近付き…


『ブレスレット…手首を斬り落とされるのと、大人しく返すの…どっちがいい?』

『ひ…!今すぐ返す、返します!!』


 トクサは急いでブレスレットを外し、先生に返した。彼は大事そうにポケットに仕舞った後…渾身の一撃をトクサの顔面に叩き込む。ナイス!


「現金は今すぐ返していただく。あれはタオフィ先生の仕送りと、テオファが働いて貯めたお金なので。
 足りなければトクサの私物を全て売り払い、それでも不足していたら家族に請求に行きます。ああ、もちろん慰謝料も。
 そしてテオファは二度とこの屋敷には戻りません。お分かりですね?」

「…はい。彼には退職金もお支払い致します。ですので、その…」

「ええ、その条件でしたら公には致しません。ただしトクサには厳罰を望みます」


 なんでも金で解決すんのは好きじゃないけど、今はこれが最善だ。僕の頭じゃこれが限界だよ…。


 ふう…これで終わり、かな?さあ、帰って報告しなきゃ。それに、テオファの今後も考えないとね。まだまだ忙しいぞ。

 とか考えていたら、キッサン殿が最後にと挨拶をしに来た。


「この度は大変申し訳ございませんでした。全て私の監督行き不届きでございます。
 しかし…まさか生きているうちに最上級精霊殿にお目通りが叶うとは、恐悦至極に存じます。
 上空の精霊殿も、後方の精霊殿もただならぬ空気を纏っていらっしゃる」

 おん?今更煽ててご機嫌取り?遅いって………の。

 後方の、精霊?ヨミは僕の横に立ってるし…外見はただの青年だ、精霊には見えまい。
 え。じゃあ今…僕らの後ろに…なんか、いる…?

 恐る恐る、ゆっくりと振り向くと…そこに、は……!



「「「……………!!!??」」」


「…………………」



 な、な、なんか…恐竜みたいのがいるんですけど!!!?


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