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学園4年生編

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 パーティーも終盤に差し掛かる頃。ようやく少那と木華登場だ。
 

「遅くなってごめん!パスカル殿、誕生日おめでとう」

「おめでとうございます。貴方にとってこの1年が、より良いものでありますように」

「ありがとうございます。スクナ殿下、コハナ殿下。どうぞパーティーを楽しんでいってください」


 彼らが来たので、ロッティとルネちゃんはさり気なく距離を取った。
 でも折角なので、木華は女子2人と一緒にお茶にしていた。そこに姉様達も加わって…僕もそっち行きたいぃ…!
 女6人、女子会したいいい!!という欲を抑え…男子チームで過ごすのだ…。


「ねえ少那、今日はなんの予定だったの?」

「この国最大の歴史博物館に連れて行ってもらったんだ。そうだ、ラウルスペード領にあるっていう教会にもいずれお邪魔したいな」

「うん!僕が案内するよ」

 こんな風に少那の予定みっちりも今だけ。夏期休暇頃からは自由行動出来るって言うし、いっぱい遊びたいな~。




「本格的に夏になったら、海水浴に行きたいな。皆一緒に、どう…?」

「良い案です、是非行きましょう。皆で!!」

 うぉい。少那が提案すると、パスカルが食い気味に反応した。こっちを見るな、コラ。
 でも大丈夫、僕は体に火傷の痕がある設定だから。僕だけ服を着てビーチで過ごしていても文句言われまい。悲しいけど…。

「洋服タイプの水着なら、セレスも着られるんじゃない?」

「………そ、ね…」

 逃げ道は塞がれた。どうしよう…!?
 盛り上がる少那とパスカル。そして悩む僕の横に、ルシアンとエリゼがススス…と移動して来た。

「どうする…?防水の布を胸に巻いて、シャツ着ればいけるか?」

「うーん…水に濡れて、透けないタイプなら…?」

「難しいな…しかしスクナのあの顔を見ると、断れないな…」


 そうである。初めて友人と海水浴!とにっこにこの彼を見ると…僕だけ留守番とは言えないのである…。


「この国に来てから、初めての事がいっぱいなんだ。皆、ありがとう」


 あ゛ーーー!!!パアア…と輝く笑顔で言われちゃあ、なんでも願いを叶えたくなるってもんよ!!
 水着の件は後でどうにかするとして…今は歓談を楽しむのであった。




 ※※※




「パスカル、楽しんでいるようだね」

「父上、母上。はい、皆のお陰です」

 あ。ご両親に挨拶忘れとった!
 僕は手に持っていたグラスを置き、ご両親に近付いた。


「お久しぶりです、本日はお招きいただきありがとうございます」

「いらっしゃい、楽しんでいただけているようで何よりだ。
 だがもうそろそろ終わりの時間だから…迎えの連絡をしたほうがいいのでは?」

 あらまっ。始まったのは昼頃だったが、すでに日が沈み始めている。まだ少那達が来てから30分くらいしか経ってないよ、楽しい時間はあっという間か…。
 
 パスカルが締めの挨拶をして、解散する事に。僕らは迎えが来るまで…パスカルの部屋にお邪魔する。


「俺はルネ嬢を見送ってくる。勝手に入ってていいから」

 
 明日は平日なので、寮暮らしの3人は後で一緒に学園に向かうとか。そんで皇宮暮らしの3人は、少那達が来たのが遅かったので、もう少しおしゃべりする事に。
 という訳でやって来ましたパスカルの部屋。


「ありゃ…相変わらずだな~」

 何度か入った事があるが、実は彼の部屋は少し散らかっている。
 なんというか…ちょっとしたものを出しっぱなしというか。今も布団の上にいくつか服が。今日何を着ようか、と迷った痕跡を感じさせるわ。

 そういえば、お父様も服を並べる派らしい。
 迷う時はベッドやら床やらに全部出すとか。そんでバティストが「誰が片付けると思ってんだ?」と珍しくおかんむりなのである。
 ただまあ最近は、テオファがお父様の世話をする事が増えている。特に毎日のコーディネートは任せきり、お陰でバティストは「他の仕事に手が回せるわ~」と喜んでいるぞ。


 とか考えながら、僕は散らかってる服をクローゼットに仕舞う。
 パスカルはあれだな、「靴下を裏っ返したまま洗濯に出さないでっていつも言ってるでしょ!!」と怒られるタイプだろう。
 彼は貴族に生まれて良かったと思うよ…洗濯は使用人がやってくれるから。…いや、お坊ちゃんに生まれたからこうなった可能性も?深いわ~。


「…セレスはいつも片付けてるの?」

「ん?いや、目についた時だけね。クローゼットとか、開けていい許可はもらってるし」

「そ、そうなんだ…?」

 他にも読みっぱなしの本に栞を挟んで本棚に戻す。少那は目を丸くしてるが…ああ、貴族の令息が片付けとか普通しないもんね。
 でもまあ、僕は昔から自分の事は自分でやってきたので…習慣になってるだけさ。よし、片付いた!


「(すでに夫婦かコイツらは…)ん?なんだコレ」

 僕以外のメンバーも、勝手にソファーや椅子、ベッドの上で寛いでいる。その時…エリゼが何かに気付いた。

「こんな絵、前来た時あったか?」

 ん?彼が指し示す場所に…確かに、見覚えのない大きな絵画がある?
 でもまあ、単に壁が寂しかったから飾っただけだろう。僕らが気にする事でもあるまい。

 メイドさんがお茶の準備をしてくれたので、バジルに淹れてもらってソファーに座る。
 なんか男性陣は話をしているので、ロッティと木華と3人でお茶にしながら雑談をするのである。



 ※



「なあ、この絵…安っぽくないか?」

「確かに。部屋に飾るにはちょっと…」

 どうしても絵が気になるエリゼと、少々芸術に詳しいルシアンは絵画の前で立ち話をしていた。
 そこへ少那が近付き、ある事に気付く。

「あれ…この絵、固定されてないね。上から吊るしてるだけ?」

「本当だ…」

 不審に思ったルシアンが、額に触れると…


「……ん?なんか違和感…」

 そう。裏側にも額が付いているのである。それを皆に告げると、エリゼが「ひっくり返してみるか」と提案した。
 その言葉を受けてルシアンが絵を回転させると…腕を組んで並ぶ、男女の写真が現れたのである。


「へっ!?パスカルと、ロッティ…じゃないな?これ、セレスでは?」

 ジスランの発言に、全員そろ~…っと後ろを振り向く。
 そこには、シャルロットと木華と笑い合うセレスタン。そして写真と見比べる…ドレスを着てはいるが、確かにそこに写っているのはセレスタンである。

 訳が分からない少年達は、こっそりバジルを手招きして呼び寄せた。


「どうかなさいましたか?」

「なあ、コレ何か知ってるか?」

「……ああ、建国祭のお写真ですね!そちらのドレスは、パスカル様がセレスタン様に贈られた品です」

「なんで?…って、あの約束か!」

 建国祭、という単語にエリゼ、ルシアン、ジスランは納得したようだ。ただ少那だけは話に付いていけず、眉を下げて混乱するのみ。


「え、え、どういう事?何故建国祭で、セレスが女装するの?」

「えーと…話せば長くなるんだが…かくかくしかじか…」

「なるほど…そんな事が…」

「お待たせ……って、何してるんですか!?」

 ルシアンとエリゼが説明していたら、丁度パスカルが部屋に入って来た。
 それを確認したエリゼ達は…壁から写真を取り、パスカルの腕を引っ張って部屋の外に出た。




「…それでね、先日ルキウス様がお寝坊してしまったらしくて。すっごい寝癖を付けたまま朝食の席に現れたの!」

「あはは、何それかーわいーい!どんだけ寝相悪いんだろうね?」

「それか、ちゃんと髪を乾かさないで寝てしまったのかしら?」

「あー、やりそう!………ん?皆どこ行った…?」

「「え?」」

 話に夢中になっていた少女達は、部屋の中に自分達しかいない事に気付いた。


「いつの間にか、バジルもいなくなってるね…?」

「皆様、お部屋の外に出て行かれました」

「…………なんで?」

「……なんででしょう…?」


 側に立つ薪名も、少年達が慌てて出て行くところしか見ていなかったので…セレスタン達と一緒になって首を傾げているのであった。
 




「ちょ、何いじってるんですか!」

「いや…なんでこんな細工を?堂々と飾っておけばいいじゃないか…」

「………家族に見られたら、厄介な事になるので…」

 パスカルはルシアンの手から写真を奪い取り、大事そうに抱えた。
 そして隠していた理由として…家族に見つかったら「これは誰だ、好い人なのか?」と聞かれるのは目に見えている。なので細工した…と説明する。

 

「確かに…ちょっともう一度、見せてもらえないかな?」

「ぐ…………どうぞ……」

 少那のお願いに、パスカルは曇った顔をして写真を手渡す。
 他の男に見せたくない…しかしパスカルは少那に弱い。というより、遠慮があるので強く出れないのである。
 これで相手が少那以外なら、「やだ!!!」と言って拒否しただろう。


「へえ……か、可愛い…ね」

「どれどれ…」

 少那の後ろには、ルシアン、エリゼ、ジスランが遠慮なく覗き込んでいる。しかもさり気なく、バジルと咫岐も見ているようだ。
 パスカルはその様子を心配そうに眺めている。こんな可愛い姿を見てしまったら、セレスタンに惚れてしまうんじゃないか…!?と、気が気でないのだ。

 そこへ…廊下の向こうから、メイドが1人歩いて来た。彼女は廊下に集まる少年達を疑問に思いながらも、ラウルスペード家の迎えが来たと告げた。


「!分かった。さあ解散しましょうか!バジル、セレスタン達に声を掛けてくれ」

 これ幸いとパスカルは、少那から写真を取り返し全員に帰宅を促す。
 全員それ以上写真に触れる事なく、それぞれ帰路に着く。が…



「………?(あれ…?ま、まさか…!!)」


 別れの挨拶をしながら解散するその時。少那の頬が赤く染まっている事を…咫岐だけが気付いているのであった。




 ※※※




 そんな誕生日パーティーから数日後、やって来ました魔術祭!!優勝するぞー!と意気込んでいる僕ですが。


「少那、頑張ろうね!」

「……あ、うん!頑張ろう」


 なんか最近、少那の様子がおかしい気がする。今だってぼけっと僕の顔を見ていた。声を掛けると元に戻るが…なんだ一体…?
 近付いても大丈夫な辺り、女性恐怖症が発動した感じではなさそう。じゃあなんだ?

 …そうだ、女性!参加者の中に、女性はロッティ以外に2人いる。彼女らと接触しないよう、気をつけなきゃ。



 ちなみに今日の僕…和服を着ております。何故かって?目で観客を楽しませる為だよ!!
 そして僕は女装だよ!!?木華の着物を借りたよ!!汚れてもいいやつをな!
 それをちょちょいといじり…テーマははいからさん!少那はバンカラ!いいねー、大正ロマン!!
 そう。色々言いたい事はあれど、諦めて受け入れた。今日の僕らはタレントだからね。

 生徒会で話し合った通り、多数の屋台なんかが出ており学園はお祭りモード。お父様達も見に来てるし…頑張ろう!


 他にも例年より時間を短縮して、制限時間は2時間。ダラダラやってると飽きちゃうからね。
 で、参加者は皆僕らのように着飾っている。エリゼは魔術師スタイルでローブを羽織り、ロッティは騎士だ。ただし武器はバズーカ。
 ルシアンは正統派王子様。パスカルは賢者…集合場所は最早コスプレ会場と化している。

 

 皆と今日はよろしくね~、と挨拶を交わしていたらタオフィ先生が現れた。

「それでは各ペア1名ずつ集まってくださーい。スタート地点を決めるくじを引いてもらいますよ」

 おっと!スタート地点による有利不利はあまり無いが…全員同じ場所からじゃつまらないからね。
 僕らのスタート地点は裏庭。よーし…いっぱい宝見つけるぞ!!





『それでは観客の皆様、お待たせ致しましたー!魔術祭、いよいよ開始です!!
 実況は此方、魔術科教師のタオフィが務めさせていただきまーす』

『解説は俺、養護教諭のランドール・ナハトです。
 さて、選手達のスタンバイまでもう少し時間がありますね。タオフィ先生は、どのチームが優勝すると思いますか?』

『そうですね。やはりエリゼ君・シャルロットさんの最恐ペアでしょうか?エリゼ君は言わずもがな、シャルロットさんのバズーカも強力です。宝探しには向きませんが…。
 それともう1組、スクナ殿下・セレスタン君の癒し系ペアも注目です!セレスタン君は精霊様よりアイテムを授かっていますし、何より…殿下の能力は未知数です。楽しみですね』

『まあ俺は、セレスが優勝すると思っていますがね!』

『ランドール先生、私情を挟まないでくださーい』



「何やってんのあの2人…」

 少し離れた所から、歓声と実況解説の声が聞こえる。今僕らの姿は、モニターに映ってるかな?
 中継用魔生物に向かって笑顔でピースをしてみたら…黄色い悲鳴が聞こえて来た。ばっちりだね!


「さて。見渡す限り、宝は無いねえ」

「そうだね。宝の特徴ってなんだっけ?」

「デカイ卵だよ。見ればすぐ分かるけど…敷地広いからなあ」

 多分エリゼ辺りは、探索の魔術であっさり見つけるだろう。僕も…似たような魔法は使える。
 しっかし建物内はエリア外だけど、敷地は山とか含んでるから超広い。どこから探すか…。


「とりあえず始まったらすぐに飛ぼうか。いける?」

「うん。もう始まるかな…」

 少那と2人待機しているが…まだ始まんないのかな?



『それではここで、スペシャルゲストの登場でーす!!』

「「ゲスト?」」

 僕達は顔を見合わせた。ゲストって、聞いてないけど…?
 ここからじゃ会場であるグラウンドが見えない。タオフィ先生とラディ兄様の中継が頼りなんだが…突然、向こうからドワアアアア!!と大歓声が聞こえて来た。



『卒業生であり、我が国の皇太子殿下、第二皇子殿下であるお2人でーす!!どうぞ!!』

「「ええええええっ!!?」」

 ルキウス様にルクトル様!?何やってんのあの人達!!


『この度はご参加ありがとうございます。ささ、後輩と保護者の皆さんに一言ずつどーぞ』

『皆久しぶりだな。幼馴染に「部屋をイカまみれにするぞ」と脅されて参加したルキウスだ』

『同じく「婚約者に僕の名義で超痛いポエムを贈るぞ」と脅されたルクトルです』


 公務で忙しいだろうに、よく参加してくれたなあと思いきや…何やってんだ兄様…!観客の歓声を聞くに、きっと今ルキウス様はいい笑顔をしている事だろう。
 

 と、とにかくまた1組ライバル登場か。
 他の皆はどこからスタートか知らないけど、皇子コンビは恐らくグラウンドからだろう。


「挨拶がてら、ちょっと妨害しに行く?」

「やる気満々だねセレス!よーし、足止めするぞ!」

 確か…大王イカを召喚する魔法があったはず。纏めてぬるぬるにしてやるぜ!!

 魔本をパラパラと捲る。使い慣れてくると魔法を思い浮かべるだけで、そのページが自動的に開かれるらしいけど、まだまだそこまで行ってないんだよなあ。

 イカ…イカ…どこだっけ~?
 と探していたら、カウントダウンが始まった!!わわ、イカはいいから準備しなきゃ!!


『…………6、5、4』

 ごくり…!僕は翼をイメージ、少那は飛行用のボード(サーフボードの小さい版みたいなやつ)に乗り、準備オッケー!


『3、2、1…スタート!!!』


 よおし…!!僕達はスタートと同時に飛び立った!!
 目指すはグラウンド、先手必勝!!



 と思っていたのだが。



 前方から…ヒュンヒュンヒュン!!となんかいっぱい飛んで来た!!?


「「ぎゃーーー!!!?」」


 何、トラップ!?いや違う、誰かの妨害か!!咄嗟に避ける事も叶わず、真正面から受けてしまった!


「何これ、すっごいベタベタするよ!?」

「わわわ、うわー!!」


『おー、早速癒し系ペアが攻撃を喰らっておりますね』

『あれは…糊の塊ですね。発射したのは…』


「あれ、今の声…セレス?」

「ちょっとエリゼ!!お兄様に何してんのよ!!?」

「スタートと同時に一番近い奴に特攻仕掛けるって言ったのお前だろうが!!!」


「ひいいいい、取れないよう!!」

「わー、手がくっ付いた!!」


 犯人は最恐ペアかよ!!ロッティがエリゼの胸ぐらを掴んでいるのが見えるが…気にしてる場合じゃねえ!!なんとか、飛行だけは維持してるけど…!

 わーん!!!確か僕、ヘルクリスのお陰で魔術耐性があるってヨミが言ってたのに!!「じゃあ魔術効かないんじゃない?僕凄い!!」って思ってたのにい!!!


「取りなさいエリゼ、今すぐ!!」

「お前イベントの趣旨理解してんのか!?5分で消えるから、今のうちに卵探しに行くぞ!!」

「あの状態のお兄様を放って置ける訳ないでしょうが!?私はここに残るわ、エリゼ1人で探しに行きなさい!!」

「ペアは5m以上離れちゃいけないってルール、忘れてんのか!?」

「じゃあ糊を解除しなさい!!」

「時間制限掛けてるから、強制解除は面倒なんだよ!!」



『あーあー。狙う相手を間違えましたね』

『そうですね、これで4人共足止めです』



 僕らは全身糊まみれ。前途多難だよチクショウ!!


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