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学園4年生編
sideパスカル
しおりを挟む昨日シャーリィは俺の家族に挨拶に来てくれた。彼女が帰った後、母上は上機嫌だった。
「あまりお話出来なくて残念だったわ。いい?絶対幸せにするのよ!」
と何度も言う。言われなくても分かってるさ。それより自分も結婚式をした~いと大騒ぎ。後は父上に任せた!
しかし…ドレスを震える手で持ち首まで真っ赤になり、涙目で俺を睨む彼女は…可愛かった。他にも衣装はあるんだけど…結婚したら着てもらおう!楽しみがまた増えた。
さて。今日は俺が公爵家に挨拶に行く日だ!が、シャーリィが出迎えてくれるはずなんだが…いない?代わりにファロ殿が超笑顔で玄関に立っていた。
「おー来た来た!それでは説明を開始しまーす!」
なんの?彼は俺に1枚の紙とペンを手渡す。そこには…枠線が引かれているのみ。だが下のほうに『ハンス・オランジュ』『レベッカ・オランジュ』…タウンハウスの管理人の名が書かれている。これは…?
「旦那様からの伝言です。『シャーリィと結婚をしたければ、屋敷の者全てに認められて来い!!』
です。その紙に、シャルティエラお嬢様と精霊以外の全員からサインを貰ってきてくださーい。ちなみにオランジュ夫妻はすでに貰っています。よかったね!
で、私もちょちょいと…オッケー!騎士は人数が多いから、副団長とジェルマン卿とデニス卿だけでいいよ。カスリ君とカリエ先生も忘れないでね!シグニの肉球も。
それと申し訳ないんだけど、光の精霊殿は不参加で。使用人を見つけるのも課題なので、匂いで探されては困りますから」
「へ?え?」
「む、そうか。じゃあセレネはシャーリィのトコにいるんだぞ」
「では健闘を祈る!旦那様以外全員の署名を貰ったら、執務室に来てちょーだい。ラスボスが控えているから!」
えー?紙に『ジャン=バティスト・ファロ』が追加され…彼はセレネを頭に乗せ、スキップで屋敷に入って行く。
………とにかく、使用人含め全員に認められればいいんだな!!?やってやる!!
戸惑いから切り替えて、まず誰から?居場所が確実に分かる人物…あそこだ!!
「たのもーう!!俺とシャーリィの結婚を認めてくれ!!」
「お、来ましたね!」
「……………」
だだだだっと屋敷を走り、厨房にやって来た!!料理人の2人からだ!!
「まあ俺は反対する理由は無いなあ。ラッセルは?」
「自分は…(昔から繰り返し、アイシャにお嬢様の話は聞いてきた。実際にお会いした彼女は本当に優しくて穏やかで、時には厳しくて。
モニクにも親切にしてくださるし…俺に対しても「いつも美味しいご飯ありがとう!」と言ってくださる方。
彼女がマクロン様の話をする時は…すごく幸せそうなんだ。きっと彼なら、お嬢様を大事にしてくれるだろう…)……認めます」
おう…?随分悩んだみたいだが…難なくクリア!『ロイ・シモン』『ラッセル・リオ』ゲット!!
「ありがとう!これからも美味しい料理を作ってあげてくれ!」
手を振る2人に礼を言い厨房を出る。次は…騎士団だ!!
*
「こんにちはパスカルです!!」
「来た!来ましたよ姐御!!」
ん?練武場に足を踏み入れると、皆笑顔でこっちを見た。あ、デニス卿もカスリ卿もいる!!
「結婚のサインくれ!!」
「んー…ほいっ」
へ?デニス卿に練習用の剣を手渡された…?
「姐さんに勝てたら、俺達もサインあげる」
「副団長と呼びなさいよ」
と…騎士達のヤジを受けながらハリエット卿が姿を現した。彼女も剣を手に持ち…俺に向かって構える。
「私も倒せないような軟弱な男に、大切なお嬢様はやれないね。掛かってきな!!」
「……!」
彼女は本気だ。ならば俺も…覚悟を決めて!!
剣を握り締め、ハリエット卿に斬り掛かる!
「はあっ!!」
「…っ!やるじゃないか、ただのお坊ちゃんかと思ったよ!!」
「俺だって…守られてばかりじゃない!!鍛錬は欠かさずやってきた、いつでも彼女を守れるように!!」
相手は女性だが、油断しては負ける!!
…こうして剣を打つけ合うと、彼女も本気でシャーリィを慕い、心配しているのが伝わってくる…。
俺は…俺は!!
「貴女方の大事なお嬢様は…俺が守る!!俺が騎士団の意志を引き継ぐ!!そして──
一緒に、幸せになる!!!」
「……っ!!」
長く剣戟を続けていたが、一瞬動きを止めた彼女の剣を弾き飛ばした。互いに肩で息をして…ハリエット卿に手を差し出す。
「どうか…俺を認めてくれ」
「……仕方ないね。ほら、貸しな」
彼女も俺の手を取り、握手を交わす。その顔はとても晴れやかで、穏やかで。そしてサインをくれた、3人もな。
「ほら。決意を違えるんじゃないよ」
「ああ…感謝する」
「お嬢様を泣かせるなよ」
「何はともあれ、イチャつく時は周囲を気にしやがれ」
「頑張ってくださいね」
デニス卿に頭をぐしゃぐしゃにされ、ジェルマン卿にはデコピンされ(いたの気付かなかった)、カスリ卿と握手を交わす。
他の騎士達にも散々ど突かれ「頑張れよ!」と檄を貰って…俺は練武場を後にする。『ハリエット・テーヌ』『ジェルマン・ブラジリエ』『デニス・ミュール』『飛白』ゲット!
ふう…かなり消耗したが、休んでいる暇は無い!
「…ふふ。うちのハーヴもあんくらい男を見せて欲しいねえ。
さああんた達!!お嬢様がいつか家を出るその日まで、完璧にお守りすんだよ!!!」
「「「おおおっ!!!」」」
*
思っていたよりダメージを受けていたみたいで、俺の足はヘロヘロだ。次のターゲットは…
「そんな足取りで何処に向かう気ですかな?」
「カリエ医師!丁度…え、うええっ!!?」
正面玄関から屋敷に入ると、カリエ医師が待ち構えていた。彼は腰の曲がった老人であるというのに、俺を片腕でヒョイっと持ち上げた!?俺78kgあるんだけど!
そして階段に座らされ…立ち上がろうとすれば凄まじい力で頭を押さえられる…諦めて休むか…。
彼も隣に腰を下ろし、静かに口を開いた。
「…シャルティエラお嬢様は儂の事を、何か話しておりましたかな?」
「ん…昔から守ってくれていた、大好きなおじいちゃんだと笑っていた」
「ほっほ…左様ですか」
彼は皺だらけの顔を更にしわくちゃにして笑った。そして前を見て、何かを懐かしむような顔をする。
「…休憩に、年寄りの昔語りに付き合ってもらいましょうかねえ。
儂は幼い頃、セレスティア様とお会いした事がございます」
「へ…貴方は今、幾つなんだ…?」
「さて…?80か、90でしょうかねえ。当時は8歳でしたな。
あの日、戦禍に巻き込まれたラサーニュ領で。儂は教会に避難していたのですが…。
そこで…エデルトルート様と肩を並べて、緋色の髪を靡かせ剣を振るうセレスティア様に目を奪われました。
敵の返り血を浴び、髪を真紅に染めて戦い続けた女傑。ただしその表情はとても苦しそうで…これ以上殺したくないと、叫んでいるようでした」
「…………」
彼は、何故俺にそんな話をするのだろう…。
「最期まで気高く、美しい方でした…。
彼女は平和な世界を心の底から願っていたのです。儂は…その遺志を継ぎたいと願い、暗殺者として戦争の残火を消して回っておりました」
「ごふっ」
突然の衝撃的事実に思わず咽せた。あ、暗殺者…!?嘘を言っているようには見えないが…!
「ほっほ、驚かれたでしょう。誰にも言ってはなりませんよ?
…戦後20年程は動乱の時代でした。儂は膝を負傷してしまい、手当も遅れ…前線を退く事となりました。
ルシュフォード陛下には有り難くも勲章を授けたいと言って頂きましたが…辞退致しました。平和な世に、儂のような者がいたという事実は必要無い。
そっと…生まれ故郷であるこの土地で。医者として人々を癒そう…と思ったのです。そして縁あってラサーニュ家の専属医師となったのです」
俺はいつの間にか、彼の話を前のめりに聞いていた。彼は壮絶な人生を歩んでいたんだな…。
「そして今から十数年前のあの日。お嬢様方がお生まれになって…シャルティエラお嬢様に、セレスティア様の影を見ました。
成長するにつれて、益々セレスティア様に似て…同時に、あの子から笑顔が消えていきました。儂はお2人を重ねて見ていたので…それが腹立たしく、許せませんでした。
敬愛するセレスティア様の家系だからと、伯爵家にお仕えしていたのです。あの男に従っていたのは、腐っても当主だったから。だがお嬢様に対する仕打ちに、儂はあの男を嫌うようになりました。
本音を申し上げますと。儂はラサーニュ伯爵を暗殺し…シャルティエラ様を連れ去ろうとしたのです」
「………!!」
「現役を退いて長いとはいえ、素人を証拠も残さず消すなど容易ですからな。ですが…出来ませんでした。
あれは…お嬢様が5歳でしたかな。伯爵に頭を殴られて…数時間意識不明となった事があったのです。
無事に目を覚まされて、後遺症等も無い事を確認し…お嬢様の診察を終えたその足で殺しに向かおうとしました。しかし…」
『…坊ちゃん、手をお離しください』
『…………』
『………儂は大事な用事がありまして。寂しければ、アイシャ殿をお呼びしましょう』
『………………』
「お嬢様は何もおっしゃらず、無言で儂の白衣を掴んでいました。白衣を脱ぐと今度は手を握られ…ひたすらに儂の目を見つめていました。そして…ゆっくりと微笑まれたのです」
『……おじいちゃん。いやなことはしなくていいよ。ぼくのために…なにをするの?』
『…それは…』
『ほら、ねんねしよう。つかれてるんでしょう?』
「そうしてご自分のベッドを叩き、儂を横たわらせました。
暗殺者とは言え…人殺しが好きな訳ではありません。いくら憎い敵であろうと…いえ憎いからこそ。この手で始末した後は、虚しさが募るのです。
お嬢様は小さな手でこの老人の額を撫でて、歌ってくださいました。特別なものではない、一般的な子守唄」
『…~♪』
『ああ…お嬢様は、本当に美しい歌声をお持ちだ。儂のような者の心まで、溶かしてしまうのだから…』
『…?ぼっちゃん、だよ?』
『いいえ…お嬢様。そうだ…貴女はセレスティア様ではない…お嬢様だ』
『セレスタンだよ?へんなおじいちゃん。~♫』
「気付けば儂は、涙を流しておりまして。あの日から儂の主人は、伯爵ではなくお嬢様だったのですよ。
彼女こそがラサーニュだ。そう思い…今日までお側におりました。いつか…お嬢様が傷付く事なく、伯爵を始末出来るその時まで。
…パスカル様」
「な…なんだ?」
カリエ医師は俺に向き直り…座ったまま深々と頭を下げた。
「どうかあの子をお願い致します。お嬢様は儂に、ひ孫を抱っこしてあげてねと笑うのですよ。その時を、楽しみにしております」
「…ああ、任せてくれ……いつの間に!?」
「ほっほ。鍛錬が足りませんなあ」
彼は立ち上がり屋敷を出た。俺の手には『マイニオ・カリエ』と追加された紙が。懐に入れておいたはずなのに、抜かれたのも握らされたのも気付かなかった…!!
カリエ先生…か。シャーリィを誰よりも長く、近くで守ってくれた人。…ありがとうございました。
しっかりと紙を仕舞い、大分良くなった足で歩く。俺もカリエ先生のような老人になれるだろうか…?
*
お?庭に…モニク、テオファ、ネイが!!シーツを干している、よし!
「おーい!頼みが…」
「あらパスカル様!ふふ、サインですか?」
「話が早い!俺を認めてくれるなら、サインくれ!」
「ええもちろん。はいどうぞ!」
よっしゃモニク完了!2人は…
「ん~…パスカル様。聞いてもいいっすか?」
「なんでもどうぞ」
ネイと視線を合わせて、彼女の言葉を待つ。真っ直ぐに俺の目を見て、率直な質問をしてきた。
「お嬢様を、幸せにしてくれますか?」
「する。じゃなくて…彼女と一緒に、俺も幸せになるんだ」
それが俺の願い。その答えにネイはにっこり笑って…「じゃあいいっすよ!はい!」とサインをくれた。頭を撫でてテオファを見ると…
「……ボクも、質問いいですか?」
「どうぞ」
「…人を好きになるのって、どんな気持ちですか…?」
「ん…?」
彼は兄同様朗らかな人間なのだが…今は悲しげな顔をしている。
好き、か…俺は一般的な答えしか言えない。いつもその人を考えてしまうとか、触れ合ったり目が合うだけで胸が高鳴るとか。
それは恐らく、彼の望む答えではないだろう。すると今度は質問を変えてきた。
「えっと…もしもですよ?いつか愛情が冷めてしまったら。そう考えた事はありませんか…?」
「……うーん。考えた事もないなあ。倦怠期も来る気がしないな!でも…温度差があるんじゃないかって怯えてる…」
「……ふはっ、なんですかそれ!」
こちとら真剣だ。俺ばっかり好きなんじゃないかって不安なんだ!だがテオファは笑顔になり、教えてくれた。
父親が死に、母親は兄弟を孤児院に捨てて失踪したと。旦那がいなくなって生活に不安が出来たか…最初から他に男がいたのか。理由は分からないが、自分の意思で逃げたのは間違いないらしい。
「いつかボクに恋人が出来たとして。すぐに捨られてしまうんじゃないかって、不安なんです。
女性と結婚して子が生まれたとしても、愛せるのか…。愛情って…簡単に冷めるんでしょうか」
「……俺には分からない。だが…冷める事もあるんだろう。
それでも確かに、紡いだ情はあったはずだ。それを「無駄だった」と断じるか「掛け替えのない時間だった」と笑うか人それぞれだ。
迎えてもいない未来を恐れては何も出来ないぞ。少なくとも俺は、シャーリィに嫌われる未来など見えてない!!まあ…そうならない努力を怠らない事だ!」
「…強い人ですね、あなたは。参考になります!いやあ、似た者カップルですね~」
「ん?どういう…」
「はいサイン。ほらほら、早く次に行ってください!」
背中を押されてしまっては仕方ない…次を探すか。『モニク・リオ』『ネイ・ナイル』『テオファ』クリア!ありがとう!
「…面白いな~。お嬢様のお話って、半分以上パスカル様の事なのに。温度差感じちゃってるのか」
「どっちも「自分のほうが好きだ!」って言う謎の張り合いしてるっす」
「お嬢様もパスカル様の隣に相応しい自分でありたいって、常に努力していらっしゃるもんね」
*
次~…次…おっと、シャーリィの部屋だ。いるかな…?ノックしてみる。すると返事が…これはアイシャの声?掃除中のようだ、よっしゃ!
「パスカルだが!」
「あらあら、お嬢様は不在ですよ?」
「いや、貴女に用がある」
彼女はシャーリィにとって、母のような存在だと聞いている。ここは、きっちりと…!
「アイシャ殿。俺はシャルティエラを愛している。どうか…結婚を認めてくれ!」
背筋を伸ばして頭を下げる。するとアイシャは、ふふっと笑った。
「どうかお顔を上げてくださいな、パスカル様。…こちらの籠、見覚えはありませんか?」
籠?彼女は棚から籐の籠を取り出した。そこにはシャーリィの私物が入っているが…ん?どこかで…?
「ふふ。こちらは…幼い貴方が沢山のお花を入れてくださった籠ですよ。あの日からずっと、お嬢様は大事に使ってきたんです」
「…あ、あの時の…!こんな小さかったっけ…」
「ええ。本当に…大きくなられましたね」
籠を手に持つと、昔は両腕いっぱいで抱えたなあ…と懐かしさが込み上げてくる。そうか…ずっと、大切にしてくれたのか…。
アイシャは次に、1つの宝石箱を取り出した。ん、オルゴール…?
「こちらは…昔私がお嬢様とお別れした時に、プレゼントしたものです。開けてみてください」
「…これは…」
中には…婚約指輪。更にネックレス…これまで俺が贈った宝石が入っている。
「お嬢様はたまに、宝石を見つめて幸せそうに微笑まれるのです。彼女は高価な宝石は好みませんが…いつかこの宝石箱を。
愛する人から貰ったキラキラな宝物でいっぱいにしたいと、笑っていました。もっと言えば、これ以上は要らないとも」
シャーリィ…。俺は…君が望むなら、溢れるほどの宝物を贈りたいのに。だがあまり装飾を好まない君も愛おしい。
「どうか…お嬢様をよろしくお願いします」
「必ず彼女の笑顔を守ります」
俺達は互いに頭を下げて、握手をした。『アイシャ・リオ』、シャーリィのお母さん。ありがとう…。
*
ここまで来たら、ロッティの部屋に行ってみよう。ノックをすると返事が。うし!
「ロッティ、バジルもいたか」
「はいはい、挨拶はいいから紙寄越しなさい」
「ムード無いな!?」
彼女はほれほれと手を振る。そしてあっさり書いてくれた、バジルもな。
「今更私が言う事は無いもの。お姉様を頼んだわよ」
「僕もですよ。貴方の覚悟は充分伝わっておりますから」
「2人共…ありがとう!新居に遊びに来てくれよ!」
「「はいはい」」
一番の難関だと思っていたロッティに認められて、俺は嬉しさが隠せなかった。同時に…義父上は俺を認めていないのか?と少し悲しくなる。こんな手の込んだ事をして…。
いや、だからこそ今頑張るんだ!部屋を出て、次を探しに行こうとしたら…
「いたーーーっ!!!」
「うおあっ!!?ビビったぁ~…!」
目の前に、掃除道具を持ったフェイテ発見!!!サイン、サイン!と紙を手に詰め寄った。
「だーーー!!書きますよ、書くっての!全く…!」
彼は紙をぶんどり、サインをくれた。やったー!
「…はあ、子供みたいにはしゃいじゃって。ま、結婚後もお世話になりますし」
「おう、任せろ!」
「……言っておきますけど。別に旦那様、パスカル様を認めていない訳じゃありませんよ?」
………フェイテは心が読めるのだろうか。紙を差し出しながら、愉快そうに笑った。
「むしろね、旦那様が一番結婚を喜んでるんですから。結婚式に着る服とか、挨拶とか今から悩んでますし」
「…じゃあ、なんでこんな回りくどい事を?」
「あはは、シャルティエラお嬢様の提案です」
「え…えええっ!?」
詳しく聞くと…元々数年前、ロッティとジスランが正式に婚約をした時が始まりだったと。フェイテはその時はここにはいなかったから、又聞きになるけれど…
シャーリィがふざけて、姫が欲しくば我々を認めさせてみよ!と言ったらしい。ジスランは考えた結果…1人1人の元に足を運び、結婚させてくれと言って回ったとか。
騎士相手には片っ端から勝負を挑んだらしい。だがどうしてもジェルマン卿とデニス卿には勝てず…その2人に勝利してから結婚するとかなんとか。
ジスランもメキメキ腕を上げているので、きっとその日も近いだろう。
「で、今回こうなりました。旦那様も思いの外ノリノリで…今後公爵家の伝統になりそうですね」
「なんつー伝統…」
だが…そっか。よかった…俺が嫌われている訳じゃなかったんだな…ほっ。
フェイテは再び道具を手に取り、仕事に行くと言う。邪魔して悪かったな、ありがとう!
「どういたしまして。
…長い人生、立ち止まる時もあるでしょうよ」
ん?急に何を…
「死ぬまで歩き続けるのは難しい。時には立ち止まって、迷う事もあるでしょう。後ろを振り向いたっていい。
でも…引き返してはいけません。それだけは、しちゃ駄目っすよ」
彼はそれだけ言い、歩き出す。…なんだったんだ?だがこれで『シャルロット・ラウルスペード』『バジル・リオ』『フェイテ・ナイル』ゲット!!
……後ろ、か。ふと振り向くと…
「「あっ」」
廊下の角に…こっちを覗いているグラス見っけえーーー!!
「チッ!!」
「待ちやがれええーーー!!!」
俺は全力で追い掛けた!!だが…あっさりと撒かれた…!ちくしょう!
やはり奴が問題か…!絶対に認めさせてやる!!何せ残りは…
…ぎぃ~……
あ。どこからかシグニの声が…外?窓を開けると、上から声が聞こえる。呼ばれている気がして、屋根に上がった。
そこには…丸くなっているシグニが。俺をチラッと見上げて、尻尾をたしたし振る。隣に腰掛け…黒猫を撫でた。
シグニは気持ちよさそうに目を細める。こいつも、不思議な猫だよな。どうやって肉球を押させるか…考えながら紙を取り出すと。
「あっ!」
突風が吹き、紙が飛ばされた…!しまった!と慌てて手を伸ばしたら。
シグニの尻尾がビュンッ!と紙を掴んだ!?い、今1mくらい伸びたよな!?呆然とする俺の手に紙が運ばれる。
「お前…精霊か?」
「………………」ふるふる
「違うのか…。まあ、なんでもいい。お前、シャーリィ好きか?」
「ぎっ」こくん
「そうか、俺もだ。だから…」
そこまで言うと…シグニが前足で俺を突いた。紙を差し出すと…ぐりぐりと肉球を押し付ける。そこにはハッキリ……どうやって色付けた?
彼?は伸びをしながら立ち上がる。
「………スタンピードは8ヶ月後だ。留意せよ」
「そうなのか!?分かった、陛下に伝えておこ…………は?」
今の…渋い声、誰?シグニの声に似ていたような…?いや、まさか?黒猫はのんびり顔を洗い…飛び降りた。慌てて下を覗き込むも、そこには何もいなかった。
「………まあ…いっか…?」
白昼夢を見ていた気分だが…俺も立ち上がった。『シグニ』もゲットした今、残りは1人。
グラス・オリエント。絶対にお前に、俺を認めさせてやる…!!
応援ありがとうございます!
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