慚愧のリフレイン

雨野

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1章

不思議な出会い

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「みんな、もう帰りましょう」

 あの人ちょっと怖いので…
 外見はそこそこ格好いい年上のお兄さんなのに。挙動不審すぎて関わりたくないわ。

「あ…えーと。う、ん。帰ろう…か」

 ?なんだか歯切れが悪いわね。そんなカロンの腕を取り、男性から離れようとしたら。


「……っ!こ、あっいやっ、お…お嬢さん!」

 ……私の事、じゃないわよね?

「美しい金の髪のお嬢さん!」

 私だったか…
 男性のどこか切羽詰まったような叫びに、仕方なく振り返る。

「……なんでしょうか?」
「あ…ありがとうございます。この毛糸は妻に頼まれた物でして…危うく怒られてしまうところでした。
 是非、お礼をさせていただけませんか?」
「いえ、お言葉だけで充分です。では私達は」
「あ!あー!!あっと、すぐそこに、とっても美味しいケーキのお店があるのですが!!」
「……………」

 なんで…そこまで必死に?たかがと言ってはなんだけど、毛糸のお礼だけで。
 まさか。私達が誰なのか知っている?誘拐する気…!?

 ちら…とカロンを見上げると。彼も顎に手を当てて考え込んでいる。ここは貴方か、騎士様が毅然とした態度でお断りしてちょうだい!

「(どうしよう…公子様に、何もするなと言われてしまった…)」

 なのに騎士様はどこか、困ったように体を揺らしているだけ。お仕事ですよ?
 するとカロンが私と手を繋ぎ直し、1歩前に出て男性に声を掛けた。


「(僕はこの人を知らない、初対面。…その体でいないといけない。更に今の僕達は、お忍びで平民を装っている。だとすると、正解は…)
 お兄さん、悪いけど。知らない人について行ってはいけないって、母さんにも散々言われてるからね」
「……!」

 おお、彼の演技も中々ね。これなら男性も諦めるでしょう…やれやれ。

「…カロン・グリースロー公爵令息とお見受けします。自分は皇国より参りました使節団の1人、ラウル・ティーガと申します」
「…これは失礼致しました」

 ?男性は小声で何か言っている。それに返すカロン…聞こえないけど、何か2人でやり取りしている?


 ぼそぼそ こそこそ ふむ…

「姉さん、みんな。ちょっとケーキ屋さんに寄って行こうか」
「「「なんでっ!!?」」」

 カロンの答えに、男性は満面の笑みを披露した。





「はあ。皇国よりいらした方なのですね」
「はい!事前に皆様の情報は聞き及んでおりますので、つい声を掛けてしまい…」

 そういう事なら納得。私達は結局ケーキ屋さんに入り、2つのテーブルに分かれて座った。
 男性とカロン、私。隣にリーナさんと騎士様。男性が全員にケーキセットを奢ってくださり…まあ美味しい。リーナさんも夢中で食べているわ。
 そこで男性…ラウル様の正体を聞かされた。それでも、わざわざお礼なんて…

「いえいえっ!妻はとても手芸を好んでおりまして、この毛糸は場合によっては金塊と同等の価値があるのですよ」

 金塊落っことすんじゃないわよ…
 ラウル様、失礼ながら尻に敷かれてる、っていうやつなのかしら?
 そんな私の疑問が顔に出ていたのか、彼は後頭部を掻きながら朗らかに笑った。

「妻はこう…男勝りといいますか。腕っ節も口喧嘩も、そこらの男じゃ歯が立たない女性でして。背も俺のほうが低いんですよ。
 自分でも「女らしくない」「性別は肥溜めに捨てた」とか常々言ってますし。なので…女性らしい趣味は隠したがるのですよ。そんなとこも可愛いんです~」
「まあ…」

 ラウル様は、頬を染めて幸せそうに語る。ふふっ、惚気かしら。…こんな風に真っ直ぐに愛されて。奥様が少し、羨ましい…かも。

「なので毛糸なんかの道具は、俺が買い出し担当でして。店に入ったら、皇国ではあまり見ない色があって…ついつい沢山買ってしまいました」
「ふふ、奥様の事を愛していらっしゃるのですね」
「はい!怒らせると「アンタとそこの石像の首をすげ替えてやろうか」なんて、頭を鷲掴みにしながら言われますけど。
 とっても強くて可愛い、俺の大好きな奥さんです。それを本人に言うと、照れ隠しで吹っ飛ばされて、肋骨にヒビが入るんですけどね!」
「あらあら…」

 惚気…かし、ら?まあ、夫婦の形はそれぞれよね。本人達が幸せならいいのよね!
 にしても…皇国にはクローディア殿下といい、強い女性が多いのね~。

「(この人…クローディア殿下の旦那だからな…)」

 なんでか黙りこくっているカロン。なので自然と、私とラウル様で会話が弾む。この人は話が上手で、私もつられて笑ってしまう…


 そうだ、この流れなら。さっきの奇行について教えてもらえるかな。

「あの…それで先程、何故泣いていらしたのですか?」
「!!」ガシャッ!

 へっ?ラウル様は肩を跳ねさせて、持っていたティーカップをソーサーに落としてしまった。店内にいる人達が、一瞬こちらに注目したけど…すぐに戻った。

「あ……す、すみません…」
「い、いえ。こちらこそ失礼致しました」

 互いに頭を下げて謝罪する。そうよね、男性なら泣いていたなんて事、触れないで欲しかったわよね!これは私が迂闊だったわ。
 はい、この話題はこれで終わり!!若干空気も重くなってしまったので、カロンが解散を促した。



「では!俺も明後日のパーティーには参加します。その時またお会いしましょう!」
「はい。その時を心待ちにしています」

 ラウル様は小走りで去って行った。なんだか…楽しい人だったなー…
 それに私の事を、とっても優しい目で見ていた。なんでかな…奥様に似てるとか?

「…僕らも帰ろっか、姉さん」
「ええ」

 差し伸べられた手を取り、夕暮れの街を歩く。
 思い付きで外出したけど…とっても楽しかったわ。


 でも…ふっ。本来の目的も忘れてはいないわ!
 そう。ラウル様とお話して…少し何かが掴めた。今の私に必要なもの、それはずばり!!



 腕力!!!
 強い女になるのよ、エディット!!



「(姉上…なんか変な事考えてそう…)」

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