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第1章

秋の紅葉

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ふわぁ~あ。朝晩はすっかり冷えるようになったなあ。
洞窟の中は暖炉もあって暖かいけど、一歩出ると寒い。

「今年は早めに町に行こうかな…でも冬の間、何をしていよう?」

というか、シオウさんと2人暮らしになるんだけど…。



シオウさんに家を貸して1ヶ月が経った。彼はうちを拠点に活動している…いいのそれで?

傭兵は仕事さえあれば、国中どころか世界中駆け回る人達なのに。
まあ…うちにいれば自分の食費しか掛からない、って喜んでたな。
私も家の掃除なんかしてもらって助かってるし…これぞWin-Winだね。


私が家にいる日は、ほぼエルム様達が夕飯を食べに来る。
そして昨日、シャルル卿が興味深い事を教えてくれた。

「ここから馬車で半日程度の場所に…紅葉が見頃の山がある!」

それは行くっきゃないでしょう!綺麗な景色をギャラリーに収めるんだ!
ルンルンで支度をし、洞窟を出ると。誰か…結界を叩いている。何故…。


「シオウさん~?」

「おはよーね。昨日言ってた山行くんでしょ?俺も行く~」

はあ…行動を読まれている。
一緒に行くのは構わないけど、どうして?疑問が顔に出ていたのか、彼は先に答えた。

「護衛よ、護衛!もちろんタダでいいよ~」

タダ…?タダ働き大嫌いな彼が、無料で?仕事モードなのは確かで、武具を身に付けている。
…裏を疑ってしまうな。


「…(まあ…1人より楽しいかも…)それじゃお願いしようかな」

「ほいきた!ところで…俺はいつになったら洞窟とやらに入れてもらえるの?」

「……それは、だめ」

経済的に余裕があり、確かな立場が存在する公爵家と違って。
その日暮らしの傭兵さんは…私を誰かに売る可能性が無いと断言できない。
例えばクソ親父とか…ね。


「…そっかあ。じゃあまた今度ね」

シオウさんは一瞬だけ、悲しげに目を伏せて…私の頭を撫でた。
……信じられなくて、ごめんね。




彼を後ろに乗せて、ホウキで空を飛ぶ。

「ねーねー、なんでホウキ?」

「ん~…魔法使いっぽいから?」

「疑問系なの?」

「あはは、私もよく分かってないからだよ」

眞凛のこだわりで、私自身はホウキに思い入れは無いし。
ただタンデムする場合、こうして距離が近いのが難点だな。
シオウさんは私の頭に顎を乗せて、腰に腕を回している。
3人の時はもっとぎゅうぎゅうだし…やっぱ小舟買っておこう。



「この辺かな~…」

『地図』にはシャルル卿に貰った地図を照らし合わせて、目的地をマッピングしてある。
私の現在地は…うん、近付いてる!

シオウさんは私が空中を見て声を上げても、「何かをしている」と理解しているようだ。
この辺の距離感は…とても助かる。



お?地上の景色が…鮮やかになってきた…!

「わああ…!」

人気の無い場所に降り立ち、感嘆の声を漏らしてしまう。
綺麗…赤だけでなく、黄色やオレンジ…風に舞う姿に目を奪われる。

「(紅葉…ねえ。葉っぱの色が変わるだけで、そんなに楽しい?ってのは野暮かね~)」


すごい…観光地として整備された道じゃないけど、その分間近に木があって楽しい。
少し山を登れば、違った種類の木が現れて。
あ、滝!滝と紅葉のコントラスト…絵になる。


「すごい…やっぱり来てよかった…」

「……ねえセレストちゃん?この国の最北端にさ…冬になると樹氷が見れる場所があるんだよ」

「樹氷!あの、木が凍るやつ!?」

「そうそれ。……連れてってあげよっか?移動はきみにお任せだろうから、お安くしとくよ~」

シオウさんは指でマルを作り、にこやかに笑った。
ははあ…タダだと私が警戒するって、分かってるんだ。本当、生きるのが上手いね。

少しだけ、からかっちゃおうかな?


「場所さえ教えてくれれば、1人で行けるよ?」

「いやいや、マジで遠いから。空飛んでっても、休み入れたら丸1日は掛かると思うよ?」

「ぬ…。観光案内とか出来る?」

「まあね。近くの安い宿とか、質のいい土産物店とか知ってるし。もちろん美味しい食事処もね」

「…じゃ、一緒に行こうか」

「はーい!」

全く…シオウさんは私よりもはしゃいでいるように見える。
どっちが子供なんだか、と思いつつも樹氷に胸を弾ませる私がいる。



とにかく今は紅葉だ!もうちょっと登ろうかな~と歩きを再開したら。
シオウさんがスッと腕を伸ばし、進行を妨害した。

「なに…」

「シッ!……嘘だろ、ロイヤルナイトがいる…」

なんだって…ロイヤルナイトだと…!?


「……って、何?」


本気で分からない。シオウさんはがくっと脱力したのち解説してくれた。


「ロイヤルナイトは国王直属の騎士さ。
実力、家柄、知性…様々な要素を兼ね揃えた者のみが選ばれる。
彼らが動くのは、陛下直々に命を下された時のみ。なんでこんな、片田舎の山に…?」

つまり超エリート集団か。
どれ…折角だし見ておこう。


ふむ…輝く白銀の鎧…ミスリルかな、青いマントも格好いい。
10メートル以上離れた山中に、視認できるのは5人。
偉そうな人が指示を出して、何かを探している?


…あ?1人がこっちに気付き…。
仲間といくつか言葉を交わし…。
なんか…歩いて来る!?


「失礼。こちらは立ち入り禁止だ、戻ってもらおう」

まだ年若い騎士様は、言い方はアレだが困り顔だ。
私がシオウさんの背中からひょこっと顔を覗かせると、騎士様は軽く目を見開いた。

「かしこまりました。それでは我々は失礼致します」

「…お前は傭兵か?そちらの少女とはどういった関係だ」

「こちらは私が現在お世話になっているお屋敷のお嬢様です。
本日は紅葉をご覧になりたいと仰いましたので、護衛として同行しております」

おお、嘘は言っていない!
顔には出さないが、彼の咄嗟の対応に感心してしまう。
騎士様が私に視線を寄越すので、コクコク頷き肯定する。

「そうか。では行きなさい」

「はい。行きましょう、お嬢様」

「あ、うん…」

シオウさんが私の背中を軽く押し歩き出す。
チラッと振り向くと騎士様と目が合い…微笑んで手を振ってくれた。
私も小さく振り返し、その場を後にした。




「隊長、彼らは紅葉を見に来た一般人です」

「失礼します、こちらには何もありませんでした」

「そうか…探索範囲を広げよう。この近辺なのは確実だ、なんとしても見つけ出せ!」

「はいっ!!」





なんだったんだろう。
王室に関わる事件でも起きたのかな…私には関係ないけど。

「いやあ、お近付きになりたくない迫力あったわ」

「え、そうなの?ロイヤルナイトなんて…公子様にも並ぶ、ご令嬢憧れの存在だよ?
普通こういう時、率先して家名と自身のアピールするんだけど」

「私平民だし。素敵な騎士様より、一緒に森暮らししてくれる素朴な男性がいい」

「へえ…変わってんねえ」

ほっとけ。
近くの町でちょっと休憩。屋台で買い食いをして、観光を存分に楽しんだ。
キャトルの町とはまた違った賑わい。平和だなあ…。

あ、温泉がある!入りたいけど、もう夕方だ。
忙しい旅は嫌なので、急遽予定変更で泊まりにしようかな?
シオウさんは仕事平気?

「平気だよ。基本的に予定で動く仕事でもないし」

「そっか。じゃあ私がお金出すから、温泉宿探そう!」

「おー!」

足取り軽く、硫黄の匂いがする町を歩く。
いくつか回り…やや町の外れにある宿に泊まる事にした。



私とシオウさんは隣の部屋。では早速大浴場に行きますか!

「あれ、全然お客さんいない。貸し切りだー!」

館内には私達と従業員さん以外見かけなかったけど、お客さん少ないのかな?
宿の経営状況に若干の不安を抱きつつ、手足を贅沢に伸ばして堪能する。

「ふわあ~…夕焼けに紅葉、温泉…生き返るう」

温泉の熱さが全身を駆け巡り、細胞を活性化させている…気がする。
次は雪が降ったら来ようかな?湯気と合わさって…言葉では言い表せない程、美しい光景になるんだろうな。



ふへえ。浸かりすぎたかな、これ以上は逆上せちゃう。
そろそろ上がろう…と立ち上がった瞬間。



 ヒュウゥ…


…?何かが耳を掠めた。
これは…胸騒ぎがして、肌がピリピリする。
まずい。すぐにシオウさんと合流しないと…っ!!?


「きゃああっ!?」


 ばしゃんっ!!


私の上に、何かが降ってき…いや転移してきた!?
それはどしん!と覆い被さり、とても耐え切れずお湯の中に倒れてしまった。

まずい、溺れる…!早くどかさなきゃ…!
深くはないけれど、パニックになり無意味にもがいてしまう。

「ごぼっ!………!」


あれ…髪の毛?これ、人間…?
白濁のお湯の中でゆらゆらと、茶色…いや赤茶色の髪の毛が視界に映った。


「セレストっ!!」


っ!!もの凄い力で腕を引っ張られ、私と誰かは空気にありつけた。

「げほっ!う…おえ…っ」

「大丈夫か!?こっちのは…っ!」

な、なに。やばい、頭がクラクラする…。
助けてくれたのは、シオウさん…?腰にタオルを巻いた姿で、膝を突いて私の背中に腕を回す。
あ、私何も着てない…。でも、恥じらう余裕もない。

石床の上に助け出され、すぐにタオルを掛けてくれた。


「……けほっ。も、だいじょぶ…。
それより、この人誰…?」

隣に横たわる見知らぬ…男の人?
少々破けている部分もあるが、上等な衣服を纏っている。
なんで女湯に。とか考えていたら、ふと視界に何かが入った。

え。温泉に…赤いものが広がっている。
まさか。まさか…!!


「セレストちゃん。こいつは…もう…」

シオウさんが眉間に皺を寄せ、悔しそうに唇を噛んだ。

こいつと呼ばれた男性の口元に手を当てると。
呼吸を…していない。
力を失くした四肢は投げ出されピクリとも動かず、顔は土気色。

それだけじゃない。私からは見えづらいけど、男性の背中に…何かが刺さっている。
この、長さは。クロスボウの矢…!?


「ひっ…!」

「セレストちゃん!ここは俺に任せて、きみは…」

「ボックス!!!」

シオウさんが何か言い切る前に、私は。
もう手遅れかもしれない、そんな事も考えられず。

ただただ目の前の、死に行く人を見捨てられなくて。
考えた訳ではないけれど。


ボックスから…エリクサーを取り出していた。


「それ、何…?ポーションにしては、瓶が違う?」

説明している暇は無い!!
キュキュッと蓋を開けて、男性の口元に当てた。
でも反応が無い、このままでは全部溢すだけだ。こうなったら…!

「お願いシオウさん、手伝って!!この人を座らせて、早く!!」

「…!分かった!」

私の必死な様子が伝わったのだろう、矢に触れないよう気を付けながら、上体を起こして支えてくれた。
これなら…!

「矢を抜いて!!」

「えっ!?お、おう…!」

シオウさんが顔を歪めながら抜いた瞬間、私はエリクサーを口に含み。


男性と唇を重ねて…口移しで全て飲ませた。

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