捨てられた中ボス令嬢だけど、私が死んだら大陸が滅ぶらしいです。

雨野

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第1章

秋の紅葉

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 ふわぁ~あ。朝晩はすっかり冷えるようになったなあ。
 洞窟の中は暖炉もあって暖かいけど、一歩出ると寒い。

「今年は早めに町に行こうかな…でも冬の間、何をしていよう?」

 というか、シオウさんと2人暮らしになるんだけど…



 シオウさんに家を貸して1ヶ月が経った。彼はうちを拠点に活動している…いいのそれで?

 傭兵は仕事さえあれば、国中どころか世界中駆け回る人達なのに。
 まあ…うちにいれば自分の食費しか掛からない、って喜んでたな。
 私も家の掃除なんかしてもらって助かってるし…これぞWin-Winだね。

 たまに家で会うが、彼は結構おしゃべりな人だと知った。ゲームではどちらかというと、寡黙なほうだったような…?

 内容は、これは銀貨2枚だったけど、まけてもらって銀貨1枚と銅貨40枚になった!とか。
 食材はこの店で買うと、他より若干安いとか。
 服はあの店に行くと、安くて状態のいい古着がたくさんある、とか。お金の話題が多いんだ、ちょっと主夫っぽいなあの人。

 まあ…そんな雑談、眞凛以外としたことないし…実は楽しかったりするんだよね。




 私が家にいる日は、ほぼエルム様達が夕飯を食べに来る。
 そして昨日、シャルル卿が興味深い事を教えてくれた。

「ここから馬車で半日程度の場所に…紅葉が見頃の山がある!」

 それは行くっきゃないでしょう!綺麗な景色をギャラリーに収めるんだ!
 ルンルンで支度をし、洞窟を出ると。誰か…結界を叩いている。何故…


「シオウさん~?」

「おはよーね。昨日言ってた山行くんでしょ?俺も行く~」

 はあ…行動を読まれている。
 一緒に行くのは構わないけど、どうして?疑問が顔に出ていたのか、彼は先に答えた。

「護衛よ、護衛!もちろんタダでいいよ~」

 タダ…?タダ働き大嫌いな彼が、無料で?仕事モードなのは確かで、武具を身に付けている。
 …裏を疑ってしまうな。シオウさんは私の視線に気付いたのか、慌てて続ける。

「ほら、アレよ!家賃の代わり、ね?」

「…(まあ…1人より楽しいかも…)それじゃお願いしようかな」

「ほいきた!ところで…俺はいつになったら洞窟とやらに入れてもらえるの?」

「……それは、だめ」

 経済的に余裕があり、確かな立場が存在する公爵家と違って。
 その日暮らしの傭兵さんは…私を誰かに売る可能性が無いと断言できない。
 例えばクソ親父とか…ね。


「…そっかあ。じゃあまた今度ね」

 シオウさんは一瞬だけ、悲しげに目を伏せて…私の頭を撫でた。
 ……信じられなくて、ごめんね。




 彼を後ろに乗せて、ホウキで空を飛ぶ。

「ねーねー、なんでホウキ?」

「ん~…魔法使いっぽいから?」

「疑問系なの?」

「あはは、私もよく分かってないからだよ」

 これは眞凛のこだわりで、私自身はホウキに思い入れは無いし。向こうの世界じゃなぜか、魔女・魔法使い=ホウキで空を飛ぶ、てのが基本認識っぽいね。

 ただタンデムする場合、こうして距離が近いのが難点だな。
 シオウさんは私の頭に顎を乗せて、腰に腕を回している。
 3人の時はもっとぎゅうぎゅうだし…やっぱ小舟買っておこう。



「この辺かな~…」

『地図』にはシャルル卿に貰った地図を照らし合わせて、目的地をマッピングしてある。
 私の現在地は…うん、近付いてる!

 シオウさんは私が空中を見て声を上げても、「何かをしている」と理解しているようだ。
 この辺の距離感は…とても助かる。



 お?地上の景色が…鮮やかになってきた…!

「わああ…!」

 人気の無い場所に降り立ち、感嘆の声を漏らしてしまう。
 綺麗…赤だけでなく、黄色やオレンジ…風に舞う姿に目を奪われる。

「(紅葉…ねえ。葉っぱの色が変わるだけで、そんなに楽しい?ってのは野暮かね~)」


 すごい…観光地として整備された道じゃないけど、その分間近に木があって楽しい。
 少し山を登れば、違った種類の木が現れて。
 あ、滝!滝と紅葉のコントラスト…絵になる。


「すごい…やっぱり来てよかった…」

「……ねえセレストちゃん?この国の最北端にさ…冬になると樹氷が見れる場所があるんだよ」

「樹氷!あの、木が凍るやつ!?」

「そうそれ。……連れてってあげよっか?移動はきみにお任せだろうから、お安くしとくよ~」

 シオウさんは指でマルを作り、にこやかに笑った。
 ははあ…タダだと私が警戒するって、分かってるんだ。本当、生きるのが上手いね。

 少しだけ、からかっちゃおうかな?


「場所さえ教えてくれれば、1人で行けるよ?」

「いやいや、マジで遠いから。空飛んでっても、休み入れたら丸1日は掛かると思うよ?」

「ぬ…。観光案内とか出来る?」

「まあね。近くの安い宿とか、質のいい土産物店とか知ってるし。もちろん美味しい食事処もね」

「…じゃ、一緒に行こうか」

「はーい!」

 全く…シオウさんは私よりもはしゃいでいるように見える。
 どっちが子供なんだか、と思いつつも樹氷に胸を弾ませる私がいる。



 とにかく今は紅葉だ!もうちょっと登ろうかな~と歩きを再開したら。
 シオウさんがスッと腕を伸ばし、進行を妨害した。

「なに…」

「シッ!……嘘だろ、ロイヤルナイトがいる…」

 なんだって…ロイヤルナイトだと…!?


「……って、何?」


 本気で分からない。シオウさんはがくっと脱力したのち解説してくれた。


「ロイヤルナイトは国王直属の騎士さ。
 実力、家柄、知性…様々な要素を兼ね揃えた者のみが選ばれる。
 彼らが動くのは、陛下直々に命を下された時のみ。なんでこんな、片田舎の山に…?」

 つまり超エリート集団か。
 どれ…折角だし見ておこう。


 ふむ…輝く白銀の鎧…ミスリルかな、青いマントも格好いい。
 10メートル以上離れた山中に、視認できるのは5人。
 偉そうな人が指示を出して、何かを探している?


 …あ?1人がこっちに気付き…
 仲間といくつか言葉を交わし…
 なんか…歩いて来る!?


「失礼。こちらは立ち入り禁止だ、戻ってもらおう」

 まだ年若い騎士様は、言い方はアレだが困り顔だ。
 私がシオウさんの背中からひょこっと顔を覗かせると、騎士様は軽く目を見開いた。

「かしこまりました。それでは我々は失礼致します」

「…お前は傭兵か?そちらの少女とはどういった関係だ」

「こちらは私が現在お世話になっているお屋敷のお嬢様です。
 本日は紅葉をご覧になりたいと仰いましたので、護衛として同行しております」

 おお、嘘は言っていない!
 顔には出さないが、彼の咄嗟の対応に感心してしまう。
 騎士様が私に視線を寄越すので、コクコク頷き肯定する。

「そうか。では行きなさい」

「はい。行きましょう、お嬢様」

「あ、うん…」

 シオウさんが私の背中を軽く押し歩き出す。
 チラッと振り向くと騎士様と目が合い…微笑んで手を振ってくれた。
 私も小さく振り返し、その場を後にした。




「隊長、彼らは紅葉を見に来た一般人です」

「失礼します、こちらには何もありませんでした」

「そうか…探索範囲を広げよう。この近辺なのは確実だ、なんとしても見つけ出せ!」

「はいっ!!」





 なんだったんだろう。
 王室に関わる事件でも起きたのかな…私には関係ないけど。

「いやあ、お近付きになりたくない迫力あったわ」

「え、そうなの?ロイヤルナイトなんて…公子様にも並ぶ、ご令嬢憧れの存在だよ?
 普通こういう時、率先して家名と自身のアピールするんだけど」

「私平民だし。素敵な騎士様より、一緒に森暮らししてくれる素朴な男性がいい」

「へえ…変わってんねえ」

 ほっとけ。
 近くの町でちょっと休憩。屋台で買い食いをして、観光を存分に楽しんだ。
 キャトルの町とはまた違った賑わい。平和だなあ…

 あ、温泉がある!入りたいけど、もう夕方だ。
 忙しい旅は嫌なので、急遽予定変更で泊まりにしようかな?
 シオウさんは仕事平気?

「平気だよ。基本的に予定で動く仕事でもないし」

「そっか。じゃあ私がお金出すから、温泉宿探そう!」

「おー!」

 足取り軽く、硫黄の匂いがする町を歩く。
 いくつか回り…やや町の外れにある宿に泊まる事にした。



 私とシオウさんは隣の部屋。では早速大浴場に行きますか!

「あれ、全然お客さんいない。貸し切りだー!」

 館内には私達と従業員さん以外見かけなかったけど、お客さん少ないのかな?
 宿の経営状況に若干の不安を抱きつつ、手足を贅沢に伸ばして堪能する。

「ふわあ~…夕焼けに紅葉、温泉…生き返るう」

 温泉の熱さが全身を駆け巡り、細胞を活性化させている…気がする。
 次は雪が降ったら来ようかな?湯気と合わさって…言葉では言い表せない程、美しい光景になるんだろうな。



 ふへえ。浸かりすぎたかな、これ以上は逆上せちゃう。
 そろそろ上がろう…と立ち上がった瞬間。



 ヒュウゥ…


 …?何かが耳を掠めた。
 これは…胸騒ぎがして、肌がピリピリする。
 まずい。すぐにシオウさんと合流しないと…っ!!?


「きゃああっ!?」


 ばしゃんっ!!


 私の上に、何かが降ってき…いや転移してきた!?
 それはどしん!と覆い被さり、とても耐え切れずお湯の中に倒れてしまった。

 まずい、溺れる…!早くどかさなきゃ…!
 深くはないけれど、パニックになり無意味にもがいてしまう。

「ごぼっ!………!」


 あれ…髪の毛?これ、人間…?
 白濁のお湯の中でゆらゆらと、茶色…いや赤茶色の髪の毛が視界に映った。


「セレストっ!!」


 っ!!もの凄い力で腕を引っ張られ、私と誰かは空気にありつけた。

「げほっ!う…おえ…っ」

「大丈夫か!?こっちのは…っ!」

 な、なに。やばい、頭がクラクラする…
 助けてくれたのは、シオウさん…?腰にタオルを巻いた姿で、膝を突いて私の背中に腕を回す。
 あ、私何も着てない…。でも、恥じらう余裕もない。

 石床の上に助け出され、すぐにタオルを掛けてくれた。


「……けほっ。も、だいじょぶ…
 それより、この人誰…?」

 隣に横たわる見知らぬ…男の人?
 少々破けている部分もあるが、上等な衣服を纏っている。
 なんで女湯に。とか考えていたら、ふと視界に何かが入った。


 え。温泉に…赤いものが広がっている。
 まさか。まさか…!!


「セレストちゃん。こいつは…もう…」

 シオウさんが眉間に皺を寄せ、悔しそうに唇を噛んだ。

 こいつと呼ばれた男性の口元に手を当てると。
 呼吸を…していない。
 力を失くした四肢は投げ出されピクリとも動かず、顔は土気色。

 それだけじゃない。私からは見えづらいけど、男性の背中に…何かが刺さっている。
 この、長さは。クロスボウの矢…!?


「ひっ…!」

「セレストちゃん!ここは俺に任せて、きみは…」

「ボックス!!!」

 シオウさんが何か言い切る前に、私は。
 もう手遅れかもしれない、そんな事も考えられず。

 ただただ目の前の、死に行く人を見捨てられなくて。
 考えた訳ではないけれど。


 ボックスから…エリクサーを取り出していた。


「それ、何…?ポーションにしては、瓶が違う?」

 説明している暇は無い!!
 キュキュッと蓋を開けて、男性の口元に当てた。
 でも反応が無い、このままでは全部溢すだけだ。こうなったら…!

「お願いシオウさん、手伝って!!この人を座らせて、早く!!」

「…!分かった!」

 私の必死な様子が伝わったのだろう、矢に触れないよう気を付けながら、上体を起こして支えてくれた。
 これなら…!

「矢を抜いて!!」

「えっ!?お、おう…!」

 シオウさんが顔を歪めながら抜いた瞬間、私はエリクサーを口に含み。


 男性と唇を重ねて…口移しで全て飲ませた。

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