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第1章
騎士 グレンヴィル・マチス
しおりを挟む私達は、夜会に招待される年齢じゃない。社交界デビューは15歳からだし。
だから…今回はグレンヴィル卿のついでに呼んでもらった感じだ。
「ご協力いただきありがとうございます」
「いえ、貴女様のお力になれるのでしたら幸いです」
かーっ、お堅いね。他にデビューしている知り合いは、アガット様なんだが。私が第1王子派とか思われたら大変だから、グレンヴィル卿に頼んだのだ。
「グレンヴィル・マチス様。及びエルム・ブロウラン様、セレスト・レインブルー様の入場です」
司会の言葉と同時に扉が開き。グレンヴィル卿、エルムと私、カルジェナイト様の順で入場。シオウ&シャルル卿は外で待機。
ざわざわ。好奇の視線と言葉が突き刺さる…ええい勢いだ!!
「む?このドレスは我が娘に似合う。おい小娘、こいつを寄越せ」
「え。」
「すみませんすみません申し訳ございません!!!」
何してんだこのトカゲ!!!見ず知らずの令嬢を脱がそうとすんな!?速攻で回収して、尻尾を掴んで行動を制限する。
会場中が私に興味を持っているが、話し掛ける事はせず。そうしている間に王族も入場し、陛下の挨拶によりパーティーが始まった。
「さて…すでに知っている者もいるだろうが。我が国にて、ドラゴン様の存在が確認され…同時に心を通わす巫女も現れた。
さあ、どうぞこちらに」
きた…予定通り。陛下のお言葉に、私達は王族のいる2階へと上がる。
「このお方が霊峰にて休まれていたドラゴン様。そして巫女であるセレスト・レインブルー嬢。
彼女はこちらのエルム・ブロウラン公子の婚約者だ」
ざわっ… ひそひそ…
ふう…大丈夫、私なら出来る!!!いくぞ、令嬢スマイルレベル100!!
「ただいまご紹介に与りました、セレスト・レインブルーと申します。皆様との出会いに喜びを…」
ここで、私の魔法をお披露目!
両手を広げ、胸の高さに掲げる。ぶわっ!と私の足元から水が湧き、2体のドラゴンの形となってみんなの頭上を舞う。
「きゃあっ!?」
「あれ…魔法?」
「綺麗…」
掴みはばっちし、お次はドラゴンがパァンッ!と弾け、霧のように漂う。天井には虹が掛かり、幻想的な風景に皆目が釘付けだ。
パチンッ
最後に私が指を鳴らせば、全ての現象が無に帰す。
「それでは皆々様、楽しいひと時をお過ごしくださいませ」
ドレスをつまみ、優雅に一礼。一拍置いて…わああああぁっ!!と歓声が上がる。勝った…(?)
「いやー、やったった」
「(たったった?)やっぱりお前の魔法は凄いな…俺には無理だ」
「そうなのですか?」
「ああ。あれだけの水を出し、自在に操り、消滅させる…俺には技術が足りん。
だがこれで、お前を見下す輩はいないだろう」
ならいいんだけど。ただ…この会場に、伯爵もいるはず。
私の姿を見てあの男は、何を思ったのだろうか。
1階に降りて少し休憩していたけど、エルムはやるべき事があるらしい。
「俺は一応公爵家の代表でもあるしな…必要なところに挨拶をしてくる。お前はここで、グレンヴィル卿と待っていてくれ」
「わかりました、頑張ってくださいね」
まだ子供なのに大変だなあ。レモネードを飲みながら送り出す。
にしてもグレンヴィル卿の安心感半端ないわ。体格もいいから壁みたい、並んでると落ち着く。でも…
「グレンヴィル卿…あなたもどこか、ご友人とか挨拶に行かなくてよろしいのですか?」
「いえ、自分はアガット殿下よりお嬢様をお守りするよう命じられてございます!」
「…私には頼もしいドラゴンもいますし…」
「いいえ、お側にいます!」
さいですか。よし、諦めよう!
にしても、グレンヴィル卿にあっつい視線を送る令嬢多いな。今は鎧じゃないのに、ロイヤルナイトだって知られてんのかな?
「赤いマントは王族、青いマントはロイヤルナイトのみ着用が許されているのです」
「ありゃ、そうだったんですね」
成る程、確かに礼服の上に青マント。…業務外でも、気を休める事は出来ないんだね。
令嬢にはジロジロ見られるわ、同性には羨望やら嫉妬の視線を向けられるわ。
「少し…窮屈そうですね」ぽそっ
「え…?」
…あ!?いけない、今の口にしてた!?
「す、すみません!決して貶している訳では!!」
「いえ…そう言われたのは、初めてですので…
皆、このマントは誇りだと」
へえ…?私の考えがおかしいのは、眞凛の知識のせいかな?
だってさー、例えば芸能人とかプライベートもきちんとしてないと、どこでスッパ抜かれるか分からんし。華やかな世界だけど、その辺常に気を張ってなきゃダメってしんどそう。
「すっごい努力してロイヤルナイトの地位を手に入れて。そしたら誇りを盾に、完璧な立ち振る舞いを強要されて。
誰もグレンヴィル様っていう個人じゃなく、地位しか見てくれなくて。そりゃ息も詰まりますよねって話です。
まあ、貴族ってそういうもんでしょうけど…」
「────」
あれ、絶句してる?やば、非常識だったかな…!これ以上ボロが出ないよう、ちと黙るか。
ていうか…さっき私がエルムの婚約者だって宣言してなかったら、今頃嫉妬の嵐だったろうな。ロイヤルナイト様のお隣に…!なんてさ。
エルムが子供なのも幸いした。同年代が少ないから、余計に嫉妬も少なくて済むや。
この後どうすっかな~…と考えていたら。エルムが戻って来るのと同時に、音楽が変わった。
「ダンスの時間だ。では…お手をどうぞ、お嬢さん」
「ふふ…はい、喜んで」
私は持っていたグラスを近くのテーブルに置き、エルムと手を取り中央に踊り出る。グレンヴィル卿、留守番よろしく!
音楽に合わせて、私は軽やかに舞う。エルムのリードも上手で、とっても楽しい!
「セレスト…お前はもう、貴族社会に足を踏み入れた。怖くはないか?」
「ふふ、ぜーんぜん。最強のドラゴン様もいるし…あなたもいてくれますし」
「……ああ。もしも誰かに何かされたら…すぐに言うんだぞ」
「ええ、もちろん。私は健気な令嬢じゃないので、嫌がらせを無駄に耐えたりせず、さっさとチクりますとも。
あなたは…誰よりも私の言葉を信じてくれますか?」
「当然だ」
そっか。流石溺愛設定、頼りにしてますよ。
ちびっ子カップルのダンスも終わり、お兄さんお姉さんから拍手が上がる。どーもどーも。
そそくさーとグレンヴィル卿のとこに戻ると。おおっ、レディーが集まってる。
「グレンヴィル卿、ダンスの予定はございますか?」
「自分は護衛の仕事中ですので、踊りません」
「そうですか…よければ今度、我が家の夜会に来ていただけませんこと?」
「わたくしも!素晴らしい時間をお約束しますわ!」
「私は…」
「自慢の庭園が…」
「「……………………」」
すごいねえ、女の戦い。あの輪に入るの、ハードル高いよね?
なのでエルムとこっそり移動しようと…
「駄目だよ、グレンヴィル卿から離れちゃ。それとも…僕と踊ってくれますか?」
「わあっ!アガット様!?」
回れ右したら、目の前に顔が!この人、私を驚かすの趣味なの!?わざわざ中腰になって、私と視線合わせてるもん!!
ま、どっちにしても…グレンヴィル卿は私から目を離してないから、逃げられないけども。
それより、差し出された手を無視するのは失礼だよね…。エルムに声を掛けてからそっと手を重ねた。
王子様とのダンスなんて緊張するわ、注目度も高いし。足を踏まないよう…気を付けて、と。
「君は平民と聞いているが…とてもそうは見えないな」
「ありがとうございます。その辺は…秘密、という事でお願いしますね」
いつか、語るかもしれないけど。それまでは…謎の美少女(笑)って事でお願いします。
「…うん、確かにミステリアスな女性は魅力的だね。その正体を探りたくなるのは、男の性なのかな?」
「どうでしょうね?私には分かりませんから」
曖昧に笑ってやり過ごす。なんというか…この人の細い目で見つめられると、身動き取れなくなるんだよね。見透かされてる気がするってか?
曲が終わり、手を離して礼をする。
「それで、大変だろうけど…オースティンとも踊れるかい?」
「ですよね!」
ドラゴンの巫女は第1王子派…ってね!
苦笑するオースティン様の手を取って、もう1度ステップを踏む。
視界の端で、エルムとクリスティーナ様も踊っているのが見えた。よしよし、楽しんでるね。
「ごめんね、疲れているだろうに…。絶対に君を、派閥争いには巻き込まないようにするから」
「お気遣いありがとうございます。でも…私は大丈夫です。いざとなったら逃げますから」
「そうか、頼もしいね」
ええ。私はこの惑星の、どこでも生きていける自信があるでな。
「どうです、あの2人はお似合いだと思いませんか?」
「まあ…本当ですわ」
「確かお年も同じだとか」
「見てください、微笑み合う姿は絵になりますね…」
「「………………」」
聞こえるぞ、第2王子派。そこまで私を王妃にしたいか。
「どうします?私達、お似合いですって」
「それは光栄だ。だが…私はね、兄上と争いたくないんだ」
「ですよね」
私だって王妃様とかごめんだし。公爵夫人だって、森が近くなきゃ嫌だし。
「うーん、多分私と違う事考えてるな…」
「?」
何がですか?と聞いても答えてくれない。
っと、終わりだ。いやあ、3連荘はしんどい、足ふらふら~。
「娘よ。こっちにおいで」
わあい。カルジェナイト様、抱っこしてくれるの~?
「………………」
「休めているか?」
「ええ…まあ…」
同時に…何か大事なものを失っている気がする。
私はカルジェナイト様の、尻尾に座らされている…ここ安定するんだよね。
基本的に彼の尻尾は垂れているけど、力を入れれば上を向く。で、尻尾に跨って背中合わせ状態で座るの…私好きなんだよね。でもドレス姿でやるのは、恥ずかしいかな…?
せめて横向きに…令嬢が馬に乗るような…これでよし。足をぷーらぷら。
殿下達はまた2階に戻って行った。ふむ…私の仕事は終わったかな?
魔法の実力を見せつけて。ドラゴンのお披露目して。ついでにエルムとの婚約発表…あと王室と仲良いアピールもした。
「私達は子供だし、途中退場してもいいですよね」
「そうだな…それと。
さっき…ティアニー伯爵を見掛けた」
「……そう、ですか。何か話しました?」
「いいや、俺と目が合うと逃げた。…辛くはないか?」
つらい?うーん…いや、もう平気。エルムは優しいなあ…
ティアニー、という名を聞いても、私の心は穏やかだ。雑音となんら変わらないからかな。
カルジェナイト様の尻尾から降りて、帰る…か……?
「雨だ…」
「え?ああ…本当だ。気付かなかっ……」
窓の外を、ざあざあと雨が降る。
会場は賑やかで音が聞こえなかったし、色んな香りが混じっていて雨の匂いも隠されていた。
……どうしても…雨の先に、傘を差した眞凛がいる気がして。
絶対にないって分かっているのに…探してしまう。
─なんで雨って嫌われるのかねー。わたしは雨が傘を打つ音や感覚、水溜りを長靴でバシャバシャ歩くの楽しいんだよね。たまに車に水掛けられて、こんちくしょー!!とかなるけど。
子供の頃さ…虹の根元にはお宝が埋まってる!って本気にしてた事あって。もう虹を見た瞬間、ダッシュで探したよね。見つかるわけないけどさー!!─
「……こんな夜じゃ、虹も見れないわよね…おばかな眞凛」
今度…昼間に虹が掛かったら。私も、根元を探してみようかな?なーんて、ね。
***
窓の外を眺めるセレストを…エルムは熱の籠った目で見ていた。
彼だけではない、グレンヴィルも…周囲にいた令嬢令息もだ。
セレストの憂いを帯びた、どこか寂しげな表情に。それでいて子供のように、目を輝かせて。
年齢にそぐわない微笑みに、皆目を奪われていた。
「セレスト…?」
「……あっ、すみません、エルム。何か言いましたか?」
「いや…雨がどうかしたか?」
「…秘密です。エルム、知ってますか?」
「何を?」
「いい女ってのは、隠し事が多いんですよ。これ、師匠の直伝です」
セレストは人差し指を唇に当て、無邪気に笑う。
「(どれが…彼女の素顔なんだろう…)」
バクバクと、少年の心臓は鼓動する。今まで何度も彼女にときめきを覚えていたが。
最初は、好奇心。次に憧れ。そして…恋焦がれ。
「(好き…そうか。俺、セレストの事が好きなんだ…)」
「エルム?…ふふっ、なあに?」
エルムはセレストの頬に手を触れて、そっと撫でて。
セレストはくすぐったそうに身をよじり、彼の手に自分の手を重ねて頬擦りをする。
「……っ!!!帰るぞ!!」
「だあっ!?」
その甘える猫のような仕草に、初心な少年は撃ち抜かれた。
セレストの腕を取って、足早にパーティー会場を後にする。こんな…大好きな彼女の可愛い姿、他の男に見せたくない!!と。
慌ててグレンヴィルも追い、扉の外にいた騎士2人も合流して。騒がしい一行が遠ざかる姿を……
ティアニー伯爵が、血走った目で睨んでいた。
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