転生聖女は休まらない 〜スローライフがしたいのに弟2人が自重しない件〜

花月風流

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第37話 勇者とお姫様

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「ガキが何言ってやがる! 痛い目に遭いたく無けりゃその剣と姉ちゃんを置いてさっさと帰るんだな!」

 いつ間にか彼の欲しいものが増えていたようだ。
 剣まで欲しがるなんて欲望に素直過ぎると思う。

「お断りだよー。おっちゃんこそ女の子を置いて逃げるなら許してあげるよ」

 顔を赤くして威圧する男に向かって、プロイが笑顔のまま応える。
 その態度に腹が立ったのか、女の子を下ろした男が腰から幅広の剣を抜く。

 カッ! カカッ!

「もう後悔しても遅いん……あ? なんの音……」

 言い終わる間もなく、男の剣の先が飛び、半ばが折れ、根本が落ちる。

「ん~……思ったより綺麗に出来なかったなぁ」

「おま……俺の剣を斬ったのか!?」

「だけじゃ無いよ」

 ガッ

 頭に太い木の枝が当たり、男が崩れ落ちる。
 いつの間に木まで斬ったのか私には全く判らなかった。

「はい姉ちゃん、ありがとう」

「あ、うん。何かごめんね。役に立たなくて。プロイやニュクスに助けられてばかりだよね」

 剣を受け取って鞘に戻していると、急に腕を掴まれて前屈みにされてしまう。

「わっ! ちょっと、危ないよ……むぐ」

 抗議する私の頬を両手で挟み、プロイが真剣な顔をする。

「姉ちゃんは役に立つとか立たないとかじゃ無いし。俺やニュクスは自分が出来る事で姉ちゃんの手伝いしてるだけなんだから。いくら姉ちゃんでも自分の事を悪く言っちゃダメだよ」

「ん……」

「それに、姉ちゃんは格好良かったよ。悪い奴からお姫様を助ける勇者みたいだった!」

 本物の勇者の生まれ変わりに言われてしまうと何とも言えない気持ちになってしまう。
 誇らしいような、胸が痛いような。

「ありがとね、プロイ」

 私はプロイを抱きしめて思う。
 この子もまた、あの勇者のように苦しい旅や戦いに挑まなければならない日が来てしまうのだろうか。
 その時、私はこの子を助けてあげられるのだろうか。

「姉ちゃん、苦しいよ。そろそろその子を起こしてニュクスの所に戻らないと……」

「あ、そうだね」

 プロイを解放して、女の子の元へと向かう。
 女の子は地味だけど仕立ての良い服を着た、同性の私から見てもとても可愛い少女だった。

「うわぁ……凄く可愛い子ね……」
「そうかな? 姉ちゃんの方が可愛いんじゃない?」

 思わず膝をついてしまう。

 (誰か、弟の目に治癒魔法をかけてあげて欲しい……出来るだけ強めに)

「う……ん……」

 少女が身動ぎして微かに目を開ける。
 薄い青の瞳が私を見た。

「大丈夫?」

「は……はい……。あの……私は襲われて……」

「大丈夫だよ。悪い奴は姉ちゃんがやっつけたから」

「えっ」

 驚いた顔の少女が私とプロイを見る。
 違います。犯人は嘘を吐いています。

 (でも、プロイが目立つのは将来的にやっぱり心配だし……私が嘘を吐いておいた方が良いのかな……)

「ありがとうございます。貴方がたは命の恩人です」

 少女が体を起こして頭を下げる。
 どこと無く繊細な仕草になんとなく嫌な予感がした。

「私はヴォラス共和国代表エンデの娘、ローサと申します」

 ……やっぱり。お姫様では無いが似たような立場だった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「お嬢様、よくぞご無事で!」

 山を降りると先程戦っていた男性が慌てて駆け寄って来る。

「貴方もよく無事で……トッドは?」

 壮年の男性は首を振る。
 ……倒れていた男性は助からなかったようだ。

「姉さん、お怪我はありませんか?」

「ありがとうニュクス。シルバとハクも大丈夫?」

「何事もありませんでした。ならず者は全てプロイが倒してしまったので、僕は縛るだけでしたし……」

 皆の無事を確認する私の元へローサと壮年の男性が歩いて来た。

「お嬢様をお救い頂きありがとうございました。私はバース。お嬢様が幼少の頃よりお仕えしている者です」

「私はアイリスです。弟達はプロイとニュクスといいます」

 ニュクスが頭を下げてプロイが手を振る。
 バースさんが再び頭を下げるとローサが口を開いた。

「お願いがあります。もし出来る事なら……私と共に首都まで来て頂けませんか! お礼なら……私の出来る事ならなんでもしますから!」

「お嬢様! なんの為にここまで逃げて来たとお思いですか! ここで戻ったらトッドの無念が……」

「バースこそ、何の為に西の国へ向かって居たと思っているのですか。命惜しさに逃げて来た私達では無いでしょう。聖獣のためにも助力してくれる人を見つけねばと……」

 本来なら正直関わるべきでは無さそうな流れだけど……聖獣という言葉が出てきたなら関わらない訳には行かなそうだった。

 
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