転生聖女は休まらない 〜スローライフがしたいのに弟2人が自重しない件〜

花月風流

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第36話 本物

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「ん~、思ってたより……」

「簡単でしたね」

「うん。俺もっと暴れたりするのかと思ってた」

 私達は北の国との国境を越えて街道を歩いていた。
 家を出て国境まで野宿を2回。
 特に何事も無く国境へ辿り着き、身分証を見せるとあっさり通れてしまった。

「さて、そろそろ大丈夫かな?」

 果実の入った袋達の中から一つを取り出して口紐を緩める。
 国境を越える間だけ念の為にハクに隠れて貰っていたのだ。

「袋の中……悪く無いニャ……」

 早く出してあげないと可哀想だと思っていたのだけど、何だか幸せそうなのでそのままにしておく事にした。

 ヴォラス共和国の中で東の国と隣接したこの辺りは殆どが山岳で、この街道とその周囲だけが平地の……例えるならずっと谷底を歩いているような感じの土地だ。

「色の濃い雲が多いのが気になりますね。こんな場所で雨に降られたら雨宿りも出来そうに無いし……」

 ニュクスの言う通り、ここで雨に降られるのは嬉しく無い。
 大きく曲がる道の先に雨避けが出来そうな場所があればそこで余裕を持って野営の準備をするのも良いかも知れない。

 (最悪山を登って洞窟でも探すか、濡れたまま進み続けるか考えて置かないと……)


「キャア!」
「大人しくしやがれ!」
「な、何をする!」

 突然叫び声と怒声が聞こえて来た。
 場所は恐らく曲がった道の先……それ程遠くない!

「あ、姉さん!」
「ニュクス、俺が行くから馬車をよろしく!」

 駆け出した私の後をプロイが追ってくる。
 金属の打ち合わされる音がどんどん近くなって来る。

 道を曲がり切った私の目に飛び込んできたのは、血を流して倒れる男性が1人、如何にも野蛮そうな男達が馬車を囲んでいる光景だった。

 馬車を背に戦う壮年の男性と……女の子の悲鳴も聞こえたはずなのに……

「姉ちゃん!」

 プロイが指さしたのは山の方で、少女を肩に担いだ男が山へ入って行く所だった。

 (もう! 迷ってる時間も無いじゃない!)

「プロイはあの人と一緒に馬車を守ってあげて! 女の子は私が」

 そう伝えて山へと駆け出す。

「姉ちゃん無茶だよ! ねえってばもう!」

 文句を言いながらもプロイが走って行くのを感じる。
 私だって自分が何とか出来るとは思って無いけど、時間さえ稼げれば……何とかなる、と思いたい。

 腰に下げている借り物の剣を抜き、男の後を追って山に入る。
 女の子を担いでいるのだからそれ程遠くへは逃げられていない筈。

「見つけた……って足速い!」

 思ったより遠い背中を慌てて追い始める。

「待てー!」

 (生まれ変わってからはずっと農家の仕事をして来たんだし、それなりに体力だってあるんだからね!)

「あん?」

 暫く走った所で追いつき、振り返った男に対して剣を構える。
 鍬を構えるように、高く剣を掲げる。

「な、なんだお前? そんな真上から振り下ろしたらこの娘も斬れちまうぞ!」

 (あう、そっか。他に思いつくのは……)

 私は右足を一歩引いて、右手と剣を身体で隠すように構える。
 そのまま左手を少し前に出して相手に対して身体を横に向けると……私の一番良く知る構え……前世の勇者の真似が完成した。

「無茶苦茶な素人かと思えば今度はえらく実戦的な構えじゃねえか……ほんとに何なんだお前?」

「農家をしている平民よ。その女の子を離して」

 簡単に動けないよう全力で構える私の右手がつつかれる。
 驚いて振り返ると笑顔のプロイが立っていた。

「プロイ!?」

「姉ちゃんの格好良い所でごめんね……俺に貸して貰って良いかな?」

「う、うん」

 私が剣を渡すと感触を確かめるように剣の持ち手を握ったり離したりしている。

 (遊びで木の剣を振り回したりはしてたけど本物の剣なんて初めて持つ筈……なのに……)

 剣をしっかりと握り構えたその姿は、私の真似なんて話にならない程に見覚えのある姿だった。

「仲間は全部やっつけたよ。その女の子を大人しく返して降参しない?」

 前世の勇者、フォスと同じ構えをしながらプロイが笑った。
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