転生聖女は休まらない 〜スローライフがしたいのに弟2人が自重しない件〜

花月風流

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第56話 負荷の限界

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 静まり返ってしまった室内にヘルムスの咳払いが響いた。
 彼は何かを悩む様に、そして何かを悲しむ様に眼を伏せて言った。

「確信しました。やはりあなた方には聖女様の最期が正しく伝わっていないのですね?」

「聖女の最期、とは? 魔王と戦い命を落とされたのでは?」
「……私が幼少期に聞いた話では魔王討伐後に勇者と何処かへ旅立たれた、という形の物も聞いた事がありますね」

 レオ陛下の答えとエーゲルさんの答えが違うのは仕方ないかも知れない。
 誰も魔王との戦い以降を知らないのだ。
 200年程も前の事だから、だとは言い切れないと思う。
 その時代より前からある物語も文明も正しく受け継がれているのだから。
 だから……

「おいおい、違うぜそりゃ」
「ええ、どちらも間違っています」

 魔族の2人が首を振るのを見たレオ陛下とエーゲルさんは動揺していた。

 私は……動揺はしなかった。
 ただ……胸が痛い、苦しい。
 私が知らない、私の話。思い出せない、過去の。

「アイリス? 無理、しない、ね?」

 私の掌の上、小さいブーちゃんが声をかけてくれるけど顔が見えない。
 目が霞んで……

「正しい歴史をお伝えしたい所なのですが、これは口で語れぬ呪いのような物がかけられていまして……」

 ヘルムスの言葉がぼんやり聴こえる。
 ああ、ハクもそんな事を言ってたっけ……

「待て。アイリスちゃんの様子が……大じょ」

 バキン!

 レオ陛下の声を遮るかのように大きな音が響く。
沈みかけていた意識が少しだけ浮上して、目の前に迫って来る人物に焦点が合う。

 ブーちゃんの結界を無理矢理壊したのか、血を流す片腕をぶら下げたままのバイアンだった。
 気が逸れていたとは言え聖獣の結界を素手で壊すなんてただで済む訳ないのに。

「ヘルムスよお……ご本人は俺達よりしんどいのは想像してやるべきだろうよ。……軽いなぁ。こんな小さな娘っ子が聖女様だなんて、神の野郎は本物のク○ったれだなぁ」

 バイアンが動く方の腕で私を抱え上げて溜息を吐くのが解る。限界が来た私は重い目蓋を閉じて意識を手放した。

━━━━

「聖女様を休ませて差し上げたい。何処か部屋を提供してくれると助かるんだが?」

「あ、ああ。隣の部屋を使うと良いよ。弟君達も居るしアイリスちゃんも一人よりその方が良いだろう」

「うむ」

 陛下の言葉に頷いた後、魔族のバイアンはアイリスさんを抱えて出て行った。

「どう、思う?」

 珍しく……どれだけ振りか解らない程に困惑した顔で陛下に尋ねられた。

「そうですね……我々で聞ける範囲については聞いておくべきでしょう。ヘルムス、続きを」

 ヘルムスに視線を戻した私は陛下の次に動揺していたと思う。

「ああ……あああ……あああああ! 私は何という事を? 我が神に負担をかけ、それにも気付かないまま講釈を垂れ流し……神が倒れるまで続けてしまったなんてぇぇぇ」

 自らの首に長い爪を立て、白い肌から血が流れるままに掻き裂いている。
 戦場で流れる血は慣れているし覚悟もしているが、こういう自傷には動揺が隠せない。

 (おいおい、人間なら命に関わりかねないぞ)

「落ち着け。君が慕う彼女はそんな自傷を喜ぶ子じゃないだろう? あれで腹を立てる子でも無いだろう……少なくとも私はそう思うのだが」

 腕を押さえて言葉をかけるとようやく自傷を止める。
 そして驚く事に涙を流したのだ。魔族が、涙を。
 いや、感情があるのは見ていれば解るが衝撃だった。
 魔族が泣く事、それも人間を想って?

「全く、なんて日なんだろうな。今日は驚いてばかりだよ」

 陛下のお言葉は自分の感情と寸分のズレも無いものだった。

「私とした事が取り乱してしまいました。確かに我が神は御心の広いお方……きっと優しく罵ってから許して下さる事でしょう」

「いや、罵りはしないと思うんだけど」

「そうですね。それではご褒美になってしまいますから」

 受け答えが正常かは置いておくとして取り敢えず落ち着いたようで安心した。
 あのまま自死まで至っていたら後でアイリスさんに説明する言葉が浮かばない。

「それで、私も陛下も先程の続きを聞きたいのだが……口で語れぬ呪いだったかな? それがあるのではどうにもならないのでは……」

「はい。しかし方法はあります」

 そう言ったヘルムスは懐から小さな棒のような物を取り出す。

「それは棒……いや、杭のような形をしているが……」

「はい。これは、加工された聖女の骨です」

 凍りつく空気の中、私は目を閉じて天を仰ぐ。
 正直、もう勘弁して欲しい。
 自分のような凡人には、今日という日が心臓に悪すぎるから。
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