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第60話 希望を裂く狼煙
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私達は目の前の光景に言葉を失っていた。
いや、驚きに声が漏れてはいた筈だけど、弟としての声が出なかった。
ニュクスが私の手を軽く引いてから足元の小石を蹴ろうとする。
しかし、すり抜けたかのように足だけが動き石の位置は全く変わっていなかった。
「しっかしよ、これからどうするかなぁ」
剣を納めた勇者が頭を掻きながらしゃがみ込んだ。
私……過去のアリスもその様子を見て溜息を吐く。
これは私の記憶から消えてしまった光景、消えてしまった会話だ。
懐かしい顔で語り合う知らない関係性。
「重ねて言うが、我々は別に人に対して敵対する意思は無い。一部の魔物や魔人が正気を失って迷惑をかけているのは認めるが……そもそも我等の領域に踏み込んで来たのは人の方だぞ」
「あ~、それは解ったから。正確な情報も無しで全部信用できる訳じゃ無いけどさ、お前もお前も守ってる魔人も攻撃どころか抵抗さえして来なかったのは事実だし……な、アリス」
「ん。私も魔王の言葉は嘘じゃ無いと思う。……旅して来た中で見て来た光景は許せないけど、誰が責任を負うべきなのか、ちゃんと考えないといけないし間違っちゃダメだと思う」
勇者と私の言葉を聞いて、魔王にしがみ付くように怯えていた小さな魔人達が魔王の顔を見上げる。
それを見返す魔王は表情こそ硬いものの、目には温もりがあるように見える。
しゃがみ込んで頭を掻いていた勇者が立ち上がり、魔王へと歩み寄る。
「んじゃまあ、お互い停戦ってことで。真相はハッキリさせなきゃスッキリしねーしさ、そこは手伝ってくれよな。……チビ共、怖がらせて悪かったな」
小さな魔人達の目と自分の目の高さを合わせるように屈んだ勇者が魔人達の頭を撫でた。
アリスも魔人達に歩み寄り、その頭を抱く。
「皆が仲良くなれるように、私も勇者も……きっと魔王も頑張るから。皆が仲良くなったら魔王と一緒に私の家に遊びに来てね。美味しいお菓子を作ってあげるから」
美味しいお菓子という言葉に小さな魔人達が目を輝かせる。
魔王は鼻を鳴らし、外方を向いていた。
(あれ……?)
私の感じた既視感。あの魔人達の目には見覚えが……
疑問に視線を向けると、そのやり取りを見ていたであろうヘルムスとバイアンの目から涙が溢れていた。
そして、声にならない叫びを発するように手を伸ばす。
「っ! あぶねぇ!」
勇者が叫び、密接していたアリス達を肩で弾き飛ばす。
アリス達が大きく飛ばされて地面を転がって行く。
その直前まで立っていた場所に恐ろしい量の魔法が降り注いだ。
「フォス!」
ようやく止まって立ち上がったアリスが勇者を呼ぶ。
もうもうと上がった土煙の中、勇者の影が見える。
「チ……不意打ちたぁやってくれるじゃないか。それにコレだけの威力と密度の魔法とかよ……」
勇者は咄嗟に抜いた聖剣である程度の防御はしたらしいが、服の端などはボロボロに千切れ、身体の様々な箇所から血を流している。
そこに再び大規模な魔法が降り注いだ。
私は目の前の光景に息を飲む……
もう一度土煙が上がり、それが晴れた時には勇者の周りを花弁の結界が守っていた。
「ありがとよ、アリスとブー。あと、お前もな」
「ふん」
鼻を鳴らしたのは魔王で、その理由は勇者を守るように立つ長杖だった。
まるで雷避けのように立つその杖が魔法を幾分か逸らしたのだ。
「嘆かわしい。魔王に護られる勇者が真の勇者と呼べるでしょうか?」
愛らしさを感じる声音に侮蔑の感情を込めた響きが私の耳に聴こえて来る。
アリス達にも聴こえたようで、一斉に声の方へと視線が動く。
「魔族と馴れ合う汚れた聖女、自らの務めを果たさない勇者、人類の敵である魔王、全て纏めて消し去ったなら……」
そこに立っていたのは
「神も大層御喜びになるでしょうね」
高く上がって行く狼煙を背に、満面の笑みを浮かべたマリアだった。
いや、驚きに声が漏れてはいた筈だけど、弟としての声が出なかった。
ニュクスが私の手を軽く引いてから足元の小石を蹴ろうとする。
しかし、すり抜けたかのように足だけが動き石の位置は全く変わっていなかった。
「しっかしよ、これからどうするかなぁ」
剣を納めた勇者が頭を掻きながらしゃがみ込んだ。
私……過去のアリスもその様子を見て溜息を吐く。
これは私の記憶から消えてしまった光景、消えてしまった会話だ。
懐かしい顔で語り合う知らない関係性。
「重ねて言うが、我々は別に人に対して敵対する意思は無い。一部の魔物や魔人が正気を失って迷惑をかけているのは認めるが……そもそも我等の領域に踏み込んで来たのは人の方だぞ」
「あ~、それは解ったから。正確な情報も無しで全部信用できる訳じゃ無いけどさ、お前もお前も守ってる魔人も攻撃どころか抵抗さえして来なかったのは事実だし……な、アリス」
「ん。私も魔王の言葉は嘘じゃ無いと思う。……旅して来た中で見て来た光景は許せないけど、誰が責任を負うべきなのか、ちゃんと考えないといけないし間違っちゃダメだと思う」
勇者と私の言葉を聞いて、魔王にしがみ付くように怯えていた小さな魔人達が魔王の顔を見上げる。
それを見返す魔王は表情こそ硬いものの、目には温もりがあるように見える。
しゃがみ込んで頭を掻いていた勇者が立ち上がり、魔王へと歩み寄る。
「んじゃまあ、お互い停戦ってことで。真相はハッキリさせなきゃスッキリしねーしさ、そこは手伝ってくれよな。……チビ共、怖がらせて悪かったな」
小さな魔人達の目と自分の目の高さを合わせるように屈んだ勇者が魔人達の頭を撫でた。
アリスも魔人達に歩み寄り、その頭を抱く。
「皆が仲良くなれるように、私も勇者も……きっと魔王も頑張るから。皆が仲良くなったら魔王と一緒に私の家に遊びに来てね。美味しいお菓子を作ってあげるから」
美味しいお菓子という言葉に小さな魔人達が目を輝かせる。
魔王は鼻を鳴らし、外方を向いていた。
(あれ……?)
私の感じた既視感。あの魔人達の目には見覚えが……
疑問に視線を向けると、そのやり取りを見ていたであろうヘルムスとバイアンの目から涙が溢れていた。
そして、声にならない叫びを発するように手を伸ばす。
「っ! あぶねぇ!」
勇者が叫び、密接していたアリス達を肩で弾き飛ばす。
アリス達が大きく飛ばされて地面を転がって行く。
その直前まで立っていた場所に恐ろしい量の魔法が降り注いだ。
「フォス!」
ようやく止まって立ち上がったアリスが勇者を呼ぶ。
もうもうと上がった土煙の中、勇者の影が見える。
「チ……不意打ちたぁやってくれるじゃないか。それにコレだけの威力と密度の魔法とかよ……」
勇者は咄嗟に抜いた聖剣である程度の防御はしたらしいが、服の端などはボロボロに千切れ、身体の様々な箇所から血を流している。
そこに再び大規模な魔法が降り注いだ。
私は目の前の光景に息を飲む……
もう一度土煙が上がり、それが晴れた時には勇者の周りを花弁の結界が守っていた。
「ありがとよ、アリスとブー。あと、お前もな」
「ふん」
鼻を鳴らしたのは魔王で、その理由は勇者を守るように立つ長杖だった。
まるで雷避けのように立つその杖が魔法を幾分か逸らしたのだ。
「嘆かわしい。魔王に護られる勇者が真の勇者と呼べるでしょうか?」
愛らしさを感じる声音に侮蔑の感情を込めた響きが私の耳に聴こえて来る。
アリス達にも聴こえたようで、一斉に声の方へと視線が動く。
「魔族と馴れ合う汚れた聖女、自らの務めを果たさない勇者、人類の敵である魔王、全て纏めて消し去ったなら……」
そこに立っていたのは
「神も大層御喜びになるでしょうね」
高く上がって行く狼煙を背に、満面の笑みを浮かべたマリアだった。
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